答弁本文情報
平成十八年三月二十二日受領答弁第一四三号
内閣衆質一六四第一四三号
平成十八年三月二十二日
衆議院議長 河野洋平 殿
衆議院議員古本伸一郎君提出所得税法改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員古本伸一郎君提出所得税法改正に関する質問に対する答弁書
一について
お尋ねの「抜本的な見直し」とは、課税ベースや税率などの税制の基本的枠組みに関わる見直しが行われることを想定している。
定率減税は、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成十一年法律第八号。以下「負担軽減法」という。)において、著しく停滞した経済活動の回復に資するため、個人所得課税の抜本的な見直しを行うまでの間の暫定的措置として位置付けられている。
近年の税制改正においては、個人所得課税について、その基本的枠組みである税率構造や人的控除などの見直しを行ってきている。具体的には、平成十五年度及び平成十六年度税制改正において、経済社会の構造変化により生じている税負担の不公平を是正する観点から、配偶者特別控除の上乗せ部分の廃止や老年者控除・公的年金等控除の見直しを行ったところであり、また、平成十八年度税制改正においては、税源移譲に伴い、納税者の税負担を極力変動させないとの考え方のもと、個人住民税の標準税率を十パーセントに比例税率化し、所得税の税率をより累進的なものとすることを内容とする税率構造の見直しを行うこととしている。
このように、近年の税制改正において個人所得課税の抜本的な見直しが進められてきており、これらを踏まえ今般定率減税の廃止を行うことは、負担軽減法の趣旨に沿ったものと考えている。
なお、平成十八年度税制改正における、所得税の税率構造の改組による平年度の減収見込額は、三兆九百七十億円であり、個人住民税の税率構造の改組による平年度の増収見込額は、三兆百億円である。
平成十六年十二月十五日の与党政調会長間の合意(「平成十七年度予算・税制に係る合意」)において、「1.平成17年度税制改正における定率減税の見直しによる増収分については、(1)交付税率相当分は、地方交付税交付金として地方一般財源の充実に充てることとする。(2)特別障害者給付金支給法及び医療観察法により必要となる額に相当する額は、これに充てることとする。」とされ、「2.平成17年度予算においては、初年度増収額から上記1.(1)(2)を控除した金額を、現行法による基礎年金国庫負担額に加算するものとする。」こととされたところであり、平成十七年度における基礎年金国庫負担額への当該加算額は千百一億円である。
なお、平成十八年度予算に関しては、平成十七年十二月十五日の政府・与党合意(「児童手当・年金国庫負担について」)において、「基礎年金国庫負担割合については、現行の国庫負担割合(三分の一に千分の十一を加えた割合)に二千二百億円を加算し、三分の一に千分の二十五を加えた割合とするものとする。」こととされたところであり、平成十八年度以降の基礎年金の国庫負担割合を三分の一に千分の二十五を加えた割合に引き上げるための法律案を今通常国会に提出したところである。
税法上使途を特定していない税の収入額を特定の費目に充てることを予め約束する行為一般についての根拠となる法律はない。ただし、道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和三十三年法律第三十四号)により、揮発油税の収入額に相当する金額を道路整備費の財源に充てることとしている例など個別の法律によるものがある。
個別の法律によらない過去の事例としては、平成十五年十二月十七日の年金制度改革に関する政府・与党協議会で了承された年金制度改革の内容を踏まえ、平成十六年度税制改正における年金課税の見直しによる増収分のうち地方交付税分を除いた国分の収入額を基礎年金の国庫負担に充てることとしたものなどがある。
こうした措置は、一定の税収と一定の歳出を関連させることにより、納税者の理解が得られやすいなどの利点と財政の硬直化を招きかねないなどの問題点とを比較考量するなどの検討を行った上でその内容を予算に反映するものであり、その予算については、政府として閣議決定を行うとともに、国会の審議を受け議決が行われるなど適切な手続きを経ているものである。
定率減税は、平成十一年に景気対策として導入された暫定的な税負担の軽減措置であり、経済状況の改善等を踏まえ、今般廃止することとしているものである。
定率減税の廃止については、課税最低限以下の収入しかないような非納税者には税負担がないこと、また、課税最低限を超える収入を有する納税者について所得税及び個人住民税の税負担の増加が生じるとしても、例えば、年間の給与収入金額が五百万円までの世帯(夫婦子二人で、子のうち一人は特定扶養親族に該当するものとしている。)については、その税負担の増加額が年間で二万円以下にとどまるものであることから、国民年金保険料の収納を阻害するものではないと考えている。
なお、国民年金保険料の未納に対しては、保険料を納めやすい環境の整備や未納者の負担能力に応じたきめ細かな徴収対策など、的確な対策を強力に推進しているところである。
夫婦子二人(子のうち一人は特定扶養親族に該当するものとしている。)で年間の給与収入金額が七百万円の世帯における定率減税の縮減・廃止による所得税及び個人住民税の税負担の増加額及び可処分所得の減少額は、同世帯の給与収入金額が前年と同額であるなど一定の仮定を置いて算出すれば、その縮減・廃止の各々について、四万千円程度となる。
定率減税の縮減・廃止が個人消費や景気に与える影響を論じる際には、これによる負担増のみに着目すべきではなく、例えば、年金給付が毎年一兆円以上増加する見込みであること等も含めて総合的に考える必要がある。
また、現在、景気は、回復している。さらに、先行きについても、企業部門の好調さが雇用・所得環境の改善を通じて家計部門に波及しており、国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれる。
こうしたことを踏まえれば、我が国経済は、定率減税の縮減・廃止が個人消費や景気に与える影響を十分吸収できるものと考えられる。
定率減税廃止後の経済財政運営については、今後の景気動向を注視し、必要があれば、その時々の経済状況に応じた機動的・弾力的な対応に努めてまいりたい。
平成十八年度税制改正における定率減税の廃止による所得税の増収見込額は、平成十八年度千九百九十億円、平年度一兆三千六十億円である。
なお、平成十七年度税制改正における定率減税の縮減及び平成十八年度税制改正における定率減税の廃止による所得税及び個人住民税の増収見込額は、平年度三兆五千億円程度である。
平成十八年度予算における一般会計公債発行額については、同年度の歳出及び歳入全体の状況を踏まえて決定されたものであり、平成十八年度税制改正における定率減税の廃止による所得税の増収見込額のうち、平成十八年度予算において一般会計公債発行額の抑制に充てられた額をお示しすることは困難である。