答弁本文情報
平成二十七年七月二十八日受領答弁第三三三号
内閣衆質一八九第三三三号
平成二十七年七月二十八日
衆議院議長 大島理森 殿
衆議院議員長妻昭君提出集団的自衛権行使容認等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員長妻昭君提出集団的自衛権行使容認等に関する質問に対する答弁書
一について
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しした「武力の行使」の三要件(以下「新三要件」という。)は、憲法第九条の下で「武力の行使」が許容されるための要件であり、国際法上の要件をお示ししたものではなく、国際法上集団的自衛権の行使の要件とされる武力攻撃を受けた国(以下「被攻撃国」という。)の要請又は同意は明記されていないが、我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然であり、「武力の行使」の国際法上の根拠が集団的自衛権となる場合には、被攻撃国の要請又は同意が必要となる。
この被攻撃国の要請又は同意は、一般国際法上、集団的自衛権の行使の要件として必要であると考えられているものであり、御指摘の千九百八十六年六月二十七日のニカラグア事件に関する国際司法裁判所の判決は、集団的自衛権の行使の要件について、必要性及び均衡性の要件に加え、自らが武力攻撃の犠牲者であるとする国による要請が必要であるとしているが、これは、集団的自衛権を行使することについての被攻撃国の同意をその要件から排除するとの趣旨ではないと考えられている。この同意は、条約等の形式によるものを含むが、一般国際法上、その形式について具体的な定めがあるわけではない。また、被攻撃国による要請又は同意が行われるべき時期については、個別具体的な状況によるものであり、一概に申し上げることは困難であるが、条約等の形式により被攻撃国に対する武力攻撃が発生する前にあらかじめ同意を与えておくことも認められるものと考えている。
新三要件を満たす場合には、被攻撃国からの要請又は同意に基づき、国際法上の根拠が集団的自衛権となる「武力の行使」を行うことが認められるが、いかなる場合に我が国が「武力の行使」を行うことができるかについては、個別の状況に応じて判断すべきものであり、あらかじめ定型的類型的にお答えすることは困難である。
従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる「海外派兵」は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないが、他国の領域における武力行動でいわゆる自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考えてきており、この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によって既に明らかにされているところである。このような考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置としての「武力の行使」にもそのまま当てはまるものと考えられる。
なお、新三要件を満たす場合に例外的に外国の領域において行う「武力の行使」については、ホルムズ海峡での機雷掃海のほかに、現時点で個別具体的な活動を念頭には置いていない。
我が国に対する武力攻撃の発生、すなわち武力攻撃の着手については、国会で累次にわたりお答えしてきており、答弁を網羅的にお示しすることは困難であるが、御指摘の答弁のほかに、例えば、平成十五年五月七日の参議院決算委員会における石破防衛庁長官(当時)の「東京を火の海にするぞと言ってミサイルを屹立させ、燃料を注入し始め、それが不可逆的になった場合というようなのは、一種の着手であり不可逆的な状態なのだろう」との答弁がある。
いずれにせよ、政府として、これまで一貫して、どの時点で武力攻撃の着手があったと見るべきかについては、その時点の国際情勢、相手方の明示された意図、攻撃の手段、態様等によるものであり、個別具体的な状況に即して判断する必要があることから、一概にお答えすることは困難である旨お答えしているところであり、お尋ねの「国際情勢」、「相手方の明示された意図」、「攻撃の手段」及び「攻撃の態様等」のそれぞれについて、どのような内容が含まれるか、あらかじめ確定的にお答えすることは困難である。
平成二十七年七月三日の衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会における岸田外務大臣の「国連の議論においても、例えば、イミネント、切迫した状況において着手と認められることができるのではないか、こういった議論が行われました。しかし、結局は反対に遭って、これは成果文書に盛り込むことができなかった。国際的にも、こうした切迫した事態というのは、着手、武力攻撃の発生としては認められない、こういった議論が行われています」との答弁は、武力攻撃が発生していなくともそれが急迫していれば国際連合憲章(昭和三十一年条約第二十六号)第五十一条にいう個別的又は集団的自衛の固有の権利を行使できるとの考え方が国際的に確立されていないことを例を挙げて述べたものであり、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号。以下「事態対処法」という。)第二条第二号に規定する「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を念頭に置いて述べたものではない。
お尋ねの「部隊行動基準」については、個別の状況につきその存否や具体的な内容を明らかにすることにより、今後の自衛隊の運用に支障を及ぼすおそれがあることから、お答えすることを差し控えたいが、どの時点で武力攻撃の着手があったと見るべきかということは、その時点の国際情勢、相手方の明示された意図、攻撃の手段、態様等から政府が個別具体的な状況に即して判断するものであり、自衛隊の部隊が判断する事項ではないため、自衛隊の部隊等がとり得る対処行動の限度をあらかじめ当該部隊等に示すことを目的とした「部隊行動基準」により定められるものではない。
武力攻撃の発生時期については、各国は、個別具体的な事案に即して総合的に判断するものと理解している。
御指摘の米国の「SROE」については、政府としてコメントする立場にないが、我が国において、自衛隊による「武力の行使」及び武器の使用に関する一般的な考え方については、事態対処法及び自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)等の個々の法律の規定やそれらの規定に関する政府見解等により明らかにされているところである。
また、お尋ねの「標準的なROEを公表している国」の数については、政府として把握していない。
お尋ねの意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難である。いずれにせよ、安倍内閣としては、平成七年八月十五日及び平成十七年八月十五日の内閣総理大臣談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる。
御指摘の行政文書に関する行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号)に基づくこれまでの開示請求に対しては、当該行政文書に記録された情報のうち、個人に関する情報が同法第五条第一号に掲げる不開示情報に、部隊の編成、現員、行動、運用、教育訓練、情報、指揮系統等に関する情報及び他国部隊に関する情報が同条第三号に掲げる不開示情報にそれぞれ該当するものと判断し、当該不開示情報が記録されている部分については不開示としてきたところである。
その後、本年五月に行った当該行政文書の開示の際、当該部分に誤って黒塗りを施さずに開示請求者に開示した経緯を踏まえ、政府として一層の説明責任を果たしていくため、改めて検討を行った結果、これまで不開示としていた部分を含め当該行政文書の全てを開示することとしたものである。