答弁本文情報
令和七年六月二十七日受領答弁第三二八号
内閣衆質二一七第三二八号
令和七年六月二十七日
内閣総理大臣 石破 茂
衆議院議長 額賀福志郎 殿
衆議院議員八幡愛君提出生成AIで作成される商標の取扱い等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員八幡愛君提出生成AIで作成される商標の取扱い等に関する質問に対する答弁書
一及び六について
お尋ねの「商標法第三条第一項及び第二項が定める識別力の審査基準」及び「生成プロセスや学習データの出所及びいわゆる主要プロンプト等を出願人に開示させる制度」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、商標法(昭和三十四年法律第百二十七号。以下「法」という。)第一条において、法の目的として、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することが規定されており、法第十五条において、商標登録出願に係る商標が自然人により創作されたものであるか、「生成AIが作成」したものであるかにかかわらず、当該商標登録出願が同条各号のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について、審査官は拒絶をすべき旨の査定をしなければならないと規定されている。また、お尋ねのような「制度」を導入することは、現時点では検討していない。
二の1について
お尋ねの「商標を含むデータを無許可で学習に用いる行為」について、どのような行為が不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)に抵触するかについては、個別の事案ごとに判断されるため、一概にお答えすることは困難である。なお、内閣府知的財産戦略推進事務局が開催した「AI時代の知的財産権検討会」が令和六年五月に取りまとめた「中間とりまとめ」においては、「他人の商品等表示が含まれるデータをAIに学習させる行為については、AI学習用データとしての利用は、周知な商品等表示について「混同」を生じさせるものではなく、また、著名な商品等表示を自己の商品・営業の表示として使用する行為ともいえないため、不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号及び二号)に該当しないと考えられる。」と整理している一方、「学習段階における営業秘密や限定提供データの収集や使用が不正競争行為に該当するかどうかの判断は、一般的な不正競争行為の判断と同様と考えられる。」と整理している。
二の2について
お尋ねの「生成AIが既存の周知・著名商標の配色、語感、図形構成、使用分野等のパターンを模倣し、類似の標章を出力する場合」及び「意図なき模倣」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、法第四条第一項第十五号において、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」については、商標登録を受けることができないと規定されている。
三の1について
お尋ねの「海外では、代表的な生成AIモデルを提供する企業、Stability AI、Open AI、Midjourney等が著作権侵害等に関する訴訟で係争中」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、海外において「生成AIモデルを提供する企業」に対し、著作権侵害に関する訴訟が提起された例があることは承知している。
三の2及び3について
お尋ねの「著作権侵害等に関する訴訟で係争中」及び「各国で異なるAI規制や判決が並存する結果、日本企業が二重基準への適合を迫られ、訴訟費用の増大、ブランド価値の毀損、投資回収遅延等の経営リスクを負う可能性」の意味するところが必ずしも明らかではないが、一及び六についてで述べたとおり、法第十五条において、商標登録出願が同条各号のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について、審査官は拒絶をすべき旨の査定をしなければならないと規定されている。また、登録商標の使用については、法第二十九条において「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と規定されている。
四の1について
お尋ねの「商標の作成に用いられた生成AIモデルが、著作権侵害等の訴訟で敗訴確定した場合」及び「無効の遡及効」の意味するところが必ずしも明らかではないが、法第四十六条第一項第一号から第四号までのいずれかに該当し、商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、法第四十六条の二第一項に基づき、商標権は、初めから存在しなかったものとみなされる。また、法第四十六条第一項第五号から第七号までのいずれかに該当し、商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、法第四十六条の二第一項に基づき、商標権は、その商標登録が法第四十六条第一項第五号から第七号までに該当するに至った時から存在しなかったものとみなされる。
四の2について
お尋ねの「先使用権」及び「当該商標の生成に利用されたAIモデルが後日に侵害訴訟で敗訴した場合」の意味するところが必ずしも明らかではないが、法第三十二条第一項において、他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有すると規定されている。
五の1について
お尋ねの「商標の作成に用いられた生成AIモデルが著作権侵害等で敗訴確定した結果、当該モデル生成商標が無効又は侵害と判断され第三者に損害が生じた場合」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、一般に、国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)上の国の賠償責任の有無については、裁判所において、個別具体に判断されるものと考えられるため、政府としてお答えすることは差し控えたい。
五の2について
お尋ねの「生成AIによって作成された商標の急増に伴い、審査リソース不足による審査遅延や係争が増大するといった運用上のリスク」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、現時点において、商標登録に係る出願件数が急増しているとは認識していない。
七の1について
お尋ねの「生成AIによる商標出願・登録の在り方」の意味するところが必ずしも明らかではないが、令和七年六月十三日に開催した産業構造審議会知的財産分科会第十二回商標制度小委員会において、商標登録出願に係る商標が御指摘の「生成AI」を利用して作成されたものであるか否かにかかわらず、当該商標登録出願が法第十五条各号のいずれかに該当するときは、その商標登録出願について、審査官は拒絶をすべき旨の査定をしなければならず、また、登録商標が御指摘の「生成AI」を利用して作成されたものであるか否かによって当該商標権の効力に変わりはないことと解釈する考え方について、複数の企業、団体及び有識者に意見を聴取したところ、懸念は示されなかった。
七の2について
お尋ねの「本件」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねの「AIと著作権に関する関係者ネットワーク」は、「AIと著作権」に関することについて情報共有等を図る場であり、七の1でお尋ねの「生成AIによる商標出願・登録の在り方」についてお尋ねのように「議論ないしヒアリング」をすることを目的とする場ではない。