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平成十年八月二十八日受領
答弁第六八号

  内閣衆質一四二第六八号
    平成十年八月二十八日
内閣総理大臣 小渕恵三

         衆議院議長 伊(注)宗一郎 殿

衆議院議員山本孝史君提出死体腎移植の術前措置に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員山本孝史君提出死体腎移植の術前措置に関する質問に対する答弁書



一について

 臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号。以下「臓器移植法」という。)に基づいて行われる腎臓の摘出は、腎臓の機能に障害がある者に対しその機能の回復又は付与を目的とした移植術のために医師が礼意の保持等の義務の下で行うものであるが、同法附則第四条において、心停止後の摘出については、死亡した者の臓器提供に関する意思が不明な場合であっても、遺族が書面により承諾しているときは行うことができる旨規定されているところである。
 臓器移植法の規定又は臓器移植法による廃止前の角膜及び腎臓の移植に関する法律(昭和五十四年法律第六十三号。以下「旧角膜腎臓移植法」という。)の規定に基づき、これまでに心停止後の死体からの腎臓の摘出が多数行われてきたところであるが、御指摘のカテーテルの挿入その他の術前措置については、これらの臓器の摘出に際して医療現場において一般に行われてきたものと承知している。これらの措置は、移植術を受ける者の適正な選択及び移植術に使用する腎臓の状態の悪化の防止により腎臓の移植術を医学的に適正に実施する上で必要と認められるものであり、かつ、いずれの措置も身体に対する侵襲性が極めて軽微であることから、救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後においてこれらの措置を家族の承諾に基づいて行うことは、臓器移植法及び旧角膜腎臓移植法が予定している行為であると考えられる。
 なお、術前措置のうちカテーテルの挿入に関しては、平成八年度厚生科学研究「臓器移植の社会的問題に関する研究」において同様の趣旨の報告が行われているところである。

二の(一)について

 カテーテルの挿入及び留置(以下「カテーテルの挿入等」という。)は、頻回の動脈血採血、動脈圧測定、選択的血管造影等の検査及び薬剤の注入等の治療を目的として、救急医療分野を始めとして一般的に侵襲性が軽微な医療行為として広く行われているものと承知している。
 カテーテルの挿入等に伴う合併症については、品川長夫他著「カテーテル挿入に伴う合併症」(平成三年十一月「日本臨牀」第四十九巻・一九九一年特別号掲載)において、例えば、鎖骨下静脈穿刺時には、気胸、カテーテル先端位置異常等の合併症が起こり得るが、術者が各合併症について十分認識しており、操作前に患者の状態について正確な把握ができていれば、これらの合併症はすべて発生前に予防可能なものであることが示されている。
 また、高橋愛樹著「動脈穿刺、動脈カニュレーション」(平成八年九月「救急医学」第二十巻第十号掲載)においては、循環障害、塞栓症、感染症等の合併症が起こり得るが、いずれもカテーテルの挿入等そのものに起因するものではなく、造影剤の注入等の検査若しくは治療自体による合併症、カテーテルの抜去後の合併症又は長期間カテーテルを留置したことによる感染症であることが示されており、腎臓の移植術の術前措置として行われるカテーテルの挿入等においては、これらの合併症が問題となるおそれはないと考えられる。
 以上のことから、カテーテルの挿入等の侵襲性は極めて軽微であると考えている。

二の(二)について

 腎臓の移植術を医学的に適正に実施する上で、腎臓提供者が脳死状態と診断された後にカテーテルを挿入する措置を行うことが必要と考える文献上の根拠としては、例えば、小(注)正巳、玉置透共著「臓器の採取と保存」(平成元年六月「新外科学大系」第十二巻掲載)において、臓器の保存については、温阻血時間(心停止により血流が途絶した状態(以下「温阻血」という。)から臓器を摘出するまでの時間をいう。)が加わるか否かによって保存成績が大きく左右されること及び温阻血の影響を最小限に抑えるため、温阻血に弱い臓器では、腹部大動脈等にカテーテルを挿入し、冷却した電解質液を注入して灌流をする等の処置が適当であることが、小(注)正巳他著「Procurement of Kidney Grafts From Non ― Heart ― Beating Donors」(平成三年十月「Transplantation Proceedings」第二十三巻第五号掲載)において、心停止と同時に灌流を行う方法が有用であることが示されている。
 また、腎臓摘出に際し、心停止前にカテーテルを挿入する行為は、臓器移植法又は旧角膜腎臓移植法に基づいて行う腎臓の移植術を医学的に適正に実施する一環として行われる行為と考える。

三の(一)について

 御指摘のヘパリンは血液凝固阻止剤として一般に使用されている医薬品であり、血栓症、播種性血管内凝固症候群等の予防又は治療、人工心肺、人工腎臓等の体外循環時における血液の凝固防止等に用いられている。このヘパリンの投与による副作用については、財団法人日本医薬情報センター編「医療薬 日本医薬品集」(平成九年十月)及び上條一也他監訳「グッドマン・ギルマン薬理書 薬物治療の基礎と臨床」(第四版。昭和四十九年三月)において、ショック、出血、血小板減少、発熱、皮膚発疹、掻痒感等が示されている。

三の(二)について

 厚生省において社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「臓器ネットワーク」という。)に確認したところ、御指摘の平成七年四月一日から本年七月末日までの間に、腎臓の摘出に際し術前措置として行われたヘパリンの注入によって三の(一)についてで述べた副作用が起こった事例はないとの回答があったところである。

四について

 厚生省において臓器ネットワークに確認したところ、御指摘の平成七年四月一日から本年七月末日までの間に、腎臓の摘出に際し術前措置として心停止前に灌流液を注入する行為を行った事例は承知していないとの回答があったところである。

五について

 厚生省において臓器ネットワークに確認したところ、社団法人日本腎臓移植ネットワーク(以下「腎ネットワーク」という。)が発足した平成七年四月一日から平成九年一月三十一日までの間において腎臓摘出の術前措置としてカテーテルの挿入が行われた者は、腎ネットワークとして百五十名と承知しており、このうち腎ネットワークの臓器移植連絡調整者(コーディネーター)により腎臓摘出の承諾書が得られた事例については、いずれも臓器移植連絡調整者が家族に対し口頭でカテーテルの挿入に関する説明を行った上で承諾書が得られたが、臓器移植連絡調整者が十分に確保されていなかった腎ネットワーク設立当初において腎臓提供を行う医療機関の医師が自ら腎臓摘出について承諾を得ていた事例もあり、そのような事例については、カテーテルの挿入に関する説明が行われたか否かは確認できないとの回答があったところである。
 なお、腎ネットワークにおいては、御指摘の統一書式を定める以前は、各地域(ブロック)センターごとに定めた承諾書式を使用していたと承知している。





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