◎会議に付した案件
1.日本国憲法に関する件(日本国憲法の制定経緯)
上記の件について参考人北岡伸一君及び進藤榮一君から意見を聴取した後、両参考人に対し質疑を行った。
(参考人)
東京大学法学部教授 北岡 伸一君
筑波大学社会科学系教授 進藤 榮一君
(北岡伸一参考人に対する質疑者)
(進藤榮一参考人に対する質疑者)
2.「憲法調査会に望むもの」論文募集に関する報告
中山会長から、調査会設置後初めて迎える5月3日の憲法記念日に向けて、広く国民から論文を募集する旨報告があった。
◎北岡伸一参考人の意見陳述の要点
- 押しつけ論と改憲論
- 「よい憲法」と「定着した憲法」
- ポツダム宣言と初期対日政策(ハードピース=「峻厳なる平和」)
- マッカーサーが目指した効率的な占領と画期的な改革
- 当時の政治経済情勢
- マッカーサー草案とケーディス
- マッカーサー回想録の虚偽
- 日本政府側の憲法改正案の意味(条約締結交渉との類似性)
- 憲法と自然法、条約及び法律の関係
- 大日本帝国憲法と解釈改憲(美濃部憲法学と上杉憲法学)
- 不戦条約及び国連憲章と憲法第9条との関係
◎北岡伸一参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
自由民主党:船田 元君
- 現行憲法をどのように評価しているか。
- 現行憲法制定後、極東委員会及びGHQが認めた憲法の再検討が進展しなかった理由は何か。
- 講和条約締結後、現行憲法を再検討又は再度承認するべきではなかったのか。
- 当時は国連憲章が制定されていたため、国連中心の安全保障体制に信頼して第9条が作られたのではないか。
- 国連憲章と日本国憲法の関係を議論する必要がある。
- 第9条の下でも、我が国は集団的自衛権を有すると考えられるのか。また、有するとして、その行使はできるのか。
- 緊急事態に関する規定を憲法に盛り込む必要があるのではないか。
民主党:島 聡君
- 第9条に問題があるというが、どういう点が問題なのか。
- 我が国の精神的外交において第9条は大きな政治的価値を有しているが、同条の改正により、その価値を減殺してしまうのではないか。
- 憲法解釈の権限はどの機関にあるのか。また、度重なる解釈の変更は憲法の権威を損なうのではないか。
- 第96条の改正規定はどのような経緯で制定されたのか。
- 議院内閣制及び首相公選制についてどう思うか。
公明党・改革クラブ:倉田 栄喜君
- 現行憲法を「歴史の中」でとらえる理由は何か。
- 天皇主権の大日本帝国憲法から国民主権の日本国憲法への主権の移動に関しての政治過程で、どのような議論がなされたのか。
- 我が国は立憲君主制なのか共和制なのか、議論の整理が必要ではないか。また、象徴天皇制と大統領制が並立できると解するのか。
保守党:安倍 基雄君
- 独立回復後、憲法を改正しなかったのは一種の追認をしたということではないのか。
- 憲法改正の要件は非常に厳しい。これに加えて、日米安保条約の改定がうまくいったことが、憲法改正が遅れる原因となっているのではないか。
- イギリスのように成文憲法典のない国が、なぜ国家としてさしたる障害なく機能できるのか。
- 自然権は、もとから存在するのではなく、社会がそれを人権と認めることによって存在し、また、その内容も変わっていくのではないか。また、公共の福祉と基本的人権の関係をどう見るか。
日本共産党:佐々木 陸海君
- 象徴天皇制や第9条等の制定に関しては、GHQと日本政府の他に、国内世論や諸外国の意思も反映されているのではないか。
- 日本の戦争放棄を主導したアメリカが再軍備を要求した結果、自衛隊が設置されたと解するが、アメリカ政府の方針転換をどう見るか。
- 自衛隊は第9条第2項に違反する存在だと思うか。
- 日米安保条約と日本国憲法は矛盾していると思うが、憲法改正ではなく日米軍事同盟を廃棄する方向での矛盾解消が必要なのではないか。
- 日米安保条約により平和が守られてきたとは思わない。冷戦時代には憲法の解釈を変えたが、冷戦終了後の今こそ、むしろ元に戻すべきと解する。
社会民主党・市民連合:伊藤 茂君
- 憲法論議の座標軸を明確に設定する必要があるのではないか。
- 憲法条文に関する論議よりも、これからの諸外国、特にアジアに対する我が国のはっきりとしたビジョンを持つことが先決ではないか。
- 第2次世界大戦後、日本に平和が保たれてきたのは日米安保条約のためではなく、平和憲法のおかげである。大戦時の侵略行為に対する反省と憲法の関係は不可分であり、憲法制定時の考え方を重視しなければならない。
◎進藤榮一参考人の意見陳述の要点
1 日本国憲法の歴史的意義・位置づけ
- 日本国憲法の制定の三つの原則(「三つのD」)
(1) 民主化(democratization)
(2)脱軍事化(demilitarization)
(3) 脱植民地主義化(decolonization)
- 米国の新しい社会経済派(変革派)による「三つのD」の展開のシナリオ
(1)脱軍事化のシナリオ(ミニマムな自衛力の保持を想定した上でのシビリアン・コントロール)
(2) 民主化のシナリオ(労働組合等の民間組織の奨励、地方自治の強化)
2 日本国憲法の制定の経緯と視点
- 制定過程を改正草案作成に要した短期間のみに着目して議論することの問題
- 二つの視点
(1)「土着化」(民間憲法草案の内容の反映、帝国議会での修正による社会権等の追加)
(2) 「国際化」(極東委員会の影響力)
3 21世紀に向けた現行憲法の意義
- 芦田修正における脱軍事化の先見性
- 社会経済条項(第25条等)の先見性
- 戦後の諸改革(農地改革、教育改革等)との相互連動
4 結び
制度をいじくることの無意味さと憲法理念を実現するための政策を実行することの重要性
◎進藤榮一参考人に対する質疑者及び主な質疑事項等
自由民主党:横内 正明君
- 制定後50年の社会の動きに合わせて憲法を変えるべきではないか。
- 芦田修正は自衛戦力保持を認めると解してよいか。そうだとすれば自衛隊は合憲と解してよいか。また、芦田修正の意図を明確にするように第9条を改正すべきではないのか。
- アメリカの対日占領政策というものは我が国の台頭を抑えるためのものではなかったのか。
- 参考人の主張する「憲法の失われた諸命題」(未だ実現されていない憲法の理念)とは何か。
民主党:横路 孝弘君
- 憲法制定過程において日本とGHQとのせめぎ合いがあったと考えられるが、戦後の日本社会をいかにしていくのかについての大きな方向性について、両者に共通の認識があったのではないか。
- 官僚機構の改革及び地方分権の推進が今後の課題と考えるが、いかがか。
- 地方分権を憲法の改正により推進していくという意見についてどう考えるか。
- 衆議院憲法改正小委における主な議論は何か。
- 日本の将来を見据えた議論を行うに当たって、三つの原則(「三つのD」)が必要と主張されているが、将来においてそれ以外にどういった原則が必要となると考えるか。
公明党・改革クラブ:太田 昭宏君
- 「土着化」及び古関彰一教授が主張する「日本化」の意味するところは、西洋の「文明」を日本の「文化」の中にいかに受容していくかという葛藤の過程であると理解しているが、その葛藤が不十分なままに受容してしまったのではないか。
- 象徴天皇制について、これは国民主権と天皇主権を「中和」させた制度なのか、それとも「土着化」又は「日本化」が図られた制度なのか。
保守党:安倍 基雄君
- 参考人は衆議院憲法改正小委において質の高い議論が行われたと評価しているが、天皇制の維持が危うい状況で自由に議論できたのか。また、議論はすべてにわたっていたのか。
- 世界各国の憲法において、第9条のようにすべての戦力を保持しないと規定した国はあるのか。
- 憲法は与えられた環境の下、いなかる理念を掲げ、実現できるのかが重要ではないか。
- 憲法は社会の発展、環境に応じて変えていくべきではないか。
日本共産党:春名 直章君
- 憲法制定過程に関する「押しつけ」は、新憲法の主権者である国民に対するものではないと考えるべきではないか。また、ハーグ陸戦法規に違反することを理由とした憲法無効論が、現在蒸し返されることをどう思うか。
- 当時の国民の声、運動、憲法私案はどのように憲法に反映したのか。
- 日米安保体制は憲法と矛盾しているか。
- 第9条は先駆的であると考えるが、昨今の9条論争をどのように受け止めているか。
社会民主党・市民連合:伊藤 茂君
- 憲法を論ずる以前に、国民が抱えている将来の不安を取り除く必要があるが、今日の憲法論争の状況をどのように受け止めているか。
- 21世紀の国家観、世界観として何が必要と考えるか。