平成15年5月29日(木)(第7回)

◎会議に付した案件

日本国憲法に関する件

1.金沢地方公聴会(平成15年5月12日開催)の派遣報告を聴取した。

 報告者 仙谷 由人君(民主)
 

2.各小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。


◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪国際機関と憲法−安全保障・国際協力の分野における≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

中川 昭一小委員長

  • 国際協力の分野では国連やNGOが重要な役割を果たしているものの、イラク問題を契機に安全保障の分野での国連の在り方が問われているという点については、委員間でほぼ共通の認識が得られた。他方で、国連の安全保障に係る機能をどのように改善し、これに日本がどのような形で参画していくか、また、NGOをどのように日本の社会システムの中に位置付けていくかという点については、委員間で見解の違いが見られた。テロ対策の必要性、NGOの役割の重要性等にかんがみれば、これらの点に係る憲法上の問題について、早急に合意形成を図る必要がある。
  • 今後も、これらの議論を踏まえた上で、我が国の安全保障及び国際協力等の在り方について、更に議論を深めていくことが必要である。


●自由討議

金子 哲夫君(社民)

  • 国連に改革すべき課題があることは事実であるが、重要なことは、国連の果たす役割を国連憲章及び憲法に照らして検証することである。国連憲章は平和憲法と同じ精神に立つものであることから、日本は、国連を中心とした平和維持に尽力すべきである。
  • イラク攻撃は、国連決議を経たものでなく、また、先制攻撃であることから、国連憲章と相容れないものであった。イラクの戦後復興は、国連決議等に基づき行われるべきであり、その上で、日本は、戦後復興に何が求められているか、憲法の枠内で何ができるかを議論すべきである。イラクへの自衛隊派遣は、イラク国民が自国に他国の軍隊が入ることを歓迎していないことを踏まえるべきである。
  • NGOは、人道支援分野において、政府外交を補完するという大きな役割を果たしていると言える。NGOの独自性や自主性を保障しながら、NGOと政府の密接な連携を図りつつ外交を進めることが、憲法の平和主義に沿うと考える。


奥野 誠亮君(自民)

  • 安保理常任理事国が第二次世界大戦の戦勝国から構成されていること、国連予算の多くを負担している日本やドイツがいまだ「敵性国家」と位置付けられていること等にかんがみれば、日本は、国連中心主義ではなく国際協調主義の方向性を強調するとともに、新たな国際組織を創設する姿勢を打ち出すべきである。
  • 日本は、占領政策、極東軍事裁判等を通じ、侵略国家であるとの萎縮した意識を持たされているが、我が国に反省すべき点があった一方、国際社会にも問題があったという正しい事実が国民に理解されるよう、憲法調査会としても努力が必要であると考える。


中川 昭一君(自民)

<金子委員に対して>

  • 日本で抱かれている国連に対するイメージと実態とは異なること、安保理を戦勝国が牛耳っていること等の佐藤参考人からの指摘を踏まえれば、日本をはじめとする主要国は、国連が国際社会の期待にどのように応えることができるのか、見極めが迫られている時期に来ていると考える。
  • イラクの戦後復興について、金子委員からは、自衛隊を派遣することに対する疑問が呈されたが、危険が予想されるイラクの現状を踏まえた柔軟な対応が求められているのであり、有効な具体策を示すことなく議論すべきではない。


春名 直章君(共産)

  • 「国際機関と憲法」について考えるに当たっては、(a)イラク戦争の意味、(b)イラク問題をめぐる国連の動き、(c)イラク戦争を支持した日本の対応への評価の視点が重要である。
  • 米国等によるイラク戦争については、無法かつ違法なものであることをきちんと認識し、米国が選択肢とする先制攻撃を今後拡大させないことやイラクの石油資源等をめぐる新たな植民地主義を許さないことが重要である。
  • イラク問題をめぐり国連の機能不全が指摘されるが、これは、一面的な見方である。国連の場における外交交渉により半年間米国の軍事行動をくい止め、また、武力行使容認決議を得ようとする米国の圧力に屈しなかったという意味で、国連は、むしろ本来的機能を果たしたのであり、歴史的な意味を持つと考える。
  • 被爆国として戦争の悲惨さを知っているにもかかわらず米国等によるイラク攻撃を支持した日本政府の対応は、中東諸国にとっては理解できないものである。米英軍を支援するための自衛隊の派兵は、国連を中心とする復興を求めるイラク国民の意思に反するものであり、また、占領支配に参加することは、憲法が禁止する武力行使に当たると考える。


金子 哲夫君(社民)

<中川(昭)委員に対して>

  • イラクの現状を検証し、復興のために何が求められているか、また、そのために何ができるかという点では、中川(昭)委員と認識を同じくするが、その際、憲法の枠内で考えることが重要であると考える。与党は、連休明けから自衛隊の派遣を主張してきているが、いまだ戦闘が生じることも想定される状況において、外国からは軍隊と見られる自衛隊を派遣することは、中東諸国との関係からも問題であると考える。
  • 日本は、国連を中心とした国際秩序の維持を図る一方で、現在の国連に課題があることは佐藤参考人の意見陳述からも確かであり、安保理改革をはじめとする国連改革に尽力すべきである。


赤松 正雄君(公明)

  • 「自衛隊先にありき」の主張に与するものではないが、イラクの現状にかんがみれば、安保理決議を経ること及び後方支援に活動を限定することを条件として、あらゆる事態に的確に対応することのできる自衛隊を復興支援のために派遣することは妥当であると考える。
  • イラクの復興支援に自衛隊を派遣するに当たっては、警護任務やいわゆるBタイプの武器使用を認めるなど武器使用基準の緩和が必要であると考える。ただ、この点について、武器使用基準の緩和に係る立法措置を提言した「平和協力懇談会」の座長であった明石康氏は、昨日の公明党の会合で、中長期的には武器使用基準の緩和は必要であるが、イラクの復興支援に当たっては必要ないとの意見を述べていた。いずれにせよ、憲法上認められる武器使用や武力行使とは何か、その範囲はどこまでかといった議論をすべきである。


仙谷 由人君(民主)

  • 菅波参考人や金子委員から平和外交を推進すべきであるとの見解が示されたが、これらの見解には、自衛隊の憲法上の位置付け及び国連憲章に基づく軍事的貢献の在り方に係る観点が欠けていると考える。また、制度的な問題と現実問題への対応に係る政策とは分けて考えるべきであり、憲法上の議論がすべての安全保障政策を律するということでは、柔軟な対応ができず、国民の不安を解消することはできない。
  • 韓国の「太陽政策」が米軍や国連軍の活動に裏打ちされていることにかんがみれば、複雑なアジア地域において日本が生きていくためには、一方で、平和政策を推進するための外交努力が必要であるとともに、他方で、その基底に防衛のための備えを持つことが不可欠であると考える。


中野 寛成君(民主)

  • 国連以外に世界秩序を維持し、国際世論を集約する場は存在しないことにかんがみれば、日本は、敵国条項、安保理常任理事国の構成等の国連が抱える諸問題の改革に尽力すべきであるとともに、これに関連させる形で、憲法の在り方についても議論する必要がある。
  • 米英においては、国益に沿った形で政策が遂行され、その政策が法規範の範囲内であったか否かは事後的に議会等で判断されると言われている。他方、独仏においては、法の枠内で政策が決定されると言われている。日本は、米英と歩調を同じくしながら独仏と同じ方式で政策決定を行ってきており、今日、そのために生ずる矛盾が顕著になっている。このこととともに、硬性憲法たる日本国憲法のメリット・デメリットを踏まえた上で、時代の変化に対応し得る憲法を考えるべきである。


島 聡君(民主)

  • イラクの復興支援のために自衛隊を派遣することは、現状では、米英を中心とした多国籍軍に自衛隊を参加させることを意味する。政府が現実問題に対応するという意味で自衛隊を派遣することは理解できるが、これは、いわば「超憲法的行為」であると言える。立法府として、このような「超憲法的行為」を許してよいかは疑問である。この点について、小泉首相を憲法調査会において参考人として招致し、十分に議論すべきである。

◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪明治憲法と日本国憲法−明治憲法の制定経緯≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長

  • 日本国憲法の制定過程及び運用の実際についての調査と関連して、明治憲法がリベラルな解釈運用も可能であったにもかかわらず、なぜ、あのような戦争に突き進んでいってしまったのかを考えると、憲法のさまざまなテーマについての解釈に当たり、政治が果たす役割が重要であること、また、明治憲法体制の下での人権保障のあり方や統治機構の仕組み、そしてその運用の反省に立って、日本国憲法の制定過程や運用の実際を検証していく必要があることを再確認すべきである。
  • 明治憲法の成立過程は、従来のように「民権派」と「体制派」とに分けて考えるべきではなく、両者を統合して見ていく必要があるということ、また、明治憲法が天皇を「元首」と規定したのは、天皇に強大な権限を付与するためというより、むしろ、天皇の権限を拘束する意図からであったということについては、認識を新たにすべきである。


●自由討議

葉梨 信行君(自民)

  • 憲法の制定に当たっては、「新しい国家」の創出という視点を失ってはならず、また、自国の歴史や「国柄」といったものを十分に考慮することが重要である。
  • これに対し、現在の日本国憲法はGHQによって押し付けられたものであるため、その制定過程からは「新しい国家」の創出へ向けた決意や「国柄」についての議論がまったくと言ってよいほど感じられない。
  • 今日、明治憲法は「天皇制絶対主義」を掲げていたと理解され、その評価は甚だしく低いが、私は、むしろ、イギリス型の「立憲君主制」を採用した憲法であったと考える。
  • 憲法の制定はその時代の国民の叡智を結集するかたちでなされるべきであり、明治憲法の制定過程で官民挙げての「憲法創出」の時期があったように、新たな憲法の制定に向け、国民の中から、再びそのような動きが澎湃と沸き起こってくることを期待する。


山口 富男君(共産)

  • 日本国憲法の制定は明治憲法の改正という形をとったが、国民主権原理を謳い「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と規定するその前文からも明らかなように、日本国憲法は、明治憲法を否定する形で成立したものである。
  • 明治憲法から日本国憲法という流れを踏まえた上で、21世紀の憲法を考えていくに当たっては、(a)主権の問題に関しては、「主権在民」が世界の潮流となっていること、(b)基本的人権の保障に関しては、20世紀において世界中で人権の問題をめぐって大変な問題が起きたことにかんがみ、人権保障の在り方を憲法の中心的な問題として考えること、(c)平和主義に関しては、21世紀に、現行憲法の恒久平和主義を含めてどのような点を受け継いでいくべきかということ、以上の三点を認識すべきである。
  • なお、明治憲法体制の下で戦争に進んでいってしまった原因については、その制度にあったのか運用にあったのかという議論もあったが、私は、やはり「大権条項」を定めていた明治憲法自体にあったと考える。


北川 れん子君(社民)

  • 明治憲法制定以前の各種の私擬憲法案では、人権規定が充実し、死刑の禁止等現在の議論にも通じる規定を持つものもあったとの事実に、衝撃を受けた。また、現行憲法の基となったGHQ草案が、同時期に作成されていた民間の憲法草案(鈴木安蔵らによる「憲法草案要綱」)を参考にしたとされ、さらに、それは植木枝盛草案を参考にしていたという色川大吉・東京経済大学教授の指摘している事実等にかんがみると、明治憲法制定以前の時期から現行憲法に至るまで、その根底には「主体的市民意思」が脈々と受け継がれてきているとの印象を持った。
  • 坂野参考人の、「危機に直面した際に、どのような憲法を持っているかは重要である」「1931年にリベラルな方向で解釈改憲をしていれば、侵略にも反対できた」などの言葉が印象に残っているが、こう見てみると、私は、憲法というものが、時代の背景や諸外国に影響を受けているとの事実があると再確認した。
  • 坂野参考人は、憲法調査会の場で、明治時代の私擬憲法案に初めて光を当てたと考える。それらの私擬憲法案から脈々と受け継がれた考えが、現在の平和憲法の底流にあり、それを活かすことが我々に求められているのではないかとの思いを強くした。


遠藤 和良君(公明)

  • 明治憲法下において生じた軍部の独走の原因が憲法自体にあったのかそれを運用した政治にあったのかとの問いに対する「4対6で後者に問題があったのではないか」との坂野参考人の発言が、印象に残った。
  • 明治憲法は、その発布後に議会が設置されたが、これは制憲議会における審議を経ずに、憲法が制定されたということである。このため、明治憲法については、会議録も残されていなければ、その解釈も制定時から統一されておらず、それが後に問題を引き起こすこととなった。私は、憲法解釈は一つであるべきであるとの立場から、このような点について、今後の参考にすべきであると考える。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪知る権利・アクセス権とプライバシー権−情報公開法制・個人情報保護法制を含む≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

大出 彰小委員長

  • 知る権利・アクセス権又はプライバシー権などに係る規定を憲法に明記すべきか否かについては、これを憲法に明記すべきであるとの意見が出された一方、憲法13条及び21条にその根拠を求めることができることから、憲法にあえて明記する必要はなく、立法による具体化こそ大切であるとの意見が出された。
  • 個人情報の保護に関する問題については、情報の送り手として強い影響力を持つマスメディアにより、情報の受け手として弱い立場に置かれる市民のプライバシー権が侵害されることを防止すべきであるとの意見が出された一方、表現の自由を尊重し、マスメディアの規制は行うべきではないとの意見も出された。また、報道の自由とプライバシー権との調和を図る手段として、オンブズマン制度など、行政から独立した第三者機関によるチェックを期待する意見が出された。
  • 知る権利・アクセス権及びプライバシー権は、いわゆる「新しい人権」と呼ばれ、戦後になって活発に議論されるようになった権利であり、国民生活と密接に関連し、高い関心の下にあるため、今後も、憲法の理念を実現するという観点から、議論を深めていく必要があると感じた。


●自由討議

小林 憲司君(民主)

  • 先般成立した個人情報保護法は、民間部門を包括的に対象としている点で問題であり、分野ごとに個別法を制定すべきであったと考える。私は、ひとたび情報漏洩が起こると深刻なプライバシー侵害を招く金融・通信・医療の3分野には、特に厳しい内容の個別法を制定する必要があると考える。
  • 例えば、マスメディアによるプライバシー侵害が深刻な状況にあり、マスメディアの表現の自由を保障しつつも国民の人権を守るために、行政から独立した第三者機関によるチェックが必要であるとの意見等からも分かるように、個人情報保護関連法には数多くの課題が残っていると考える。
  • 今後、個人情報保護関連法の運用の中で生じる諸問題も勘案しつつ、3年以内の見直しを行うべきである。


伊藤 公介君(自民)

  • 21世紀の我が国は、科学技術立国であるだけでなく、環境先進国でもなければならず、そのためにも新しい憲法に、環境権を明確に位置付けるべきである。
  • 1960年代の高度経済成長の過程で公害の発生が問題となるに至って、憲法上の権利として13条・25条を根拠に環境権が提唱されるようになったが、最高裁判例では正面から承認されたことはない。
  • しかし、環境保全はすべての国家にとっての重要な課題の一つであり、諸外国においては環境に関する規定が憲法に明記されている例が多い。なお検討すべき論点もいくつかあるが、日本の将来を考える時、環境権を憲法に明記すべきであると考える。
     

春名 直章君(共産)

  • 私の「なぜ日本の情報公開等の制度作りが欧米に比べ20〜30年も遅れているのか」という質問に対する堀部参考人の「従来の手法を変えることへの行政の抵抗が強かったためである」との答弁は印象的であった。
  • 知る権利・アクセス権及びプライバシー権は、市民の運動、判例の積重ね、研究者の努力により、13条を根拠にした人権として確立されてきたのであり、これらの権利の立法化こそ必要な課題である。
  • 個人情報保護関連法は、「行政機関法制」では思想・信条等に係る情報収集の禁止が盛り込まれておらず、民間部門に係る「基本法制」では主務大臣制がとられているなど多くの欠点を抱えている。
  • 防衛庁による自衛官適齢者情報収集問題など情報を大量に抱える行政による国民の権利侵害が明らかになっている。しかし、一方で、今般の個人情報保護関連法審議では、野党が提案した「自己情報コントロール権」の明記が、「未だ生成中の権利である」との理由で拒否された。これを法律に明記することで国民の権利を侵害から守ろうという動きを阻害する政治の在り方にメスを入れることこそ、新しい人権を根付かせる上で重要である。


北川 れん子君(社民)

  • 堀部参考人は、参議院個人情報保護特別委員会での参考人質疑の際、個人情報保護のための第三者機関の設置、個人情報取扱事業者の定義の見直し等今回成立した個人情報保護関連法の将来的な検討が必要であるとの見解を示している。また、1999年に検討部会(堀部座長)が公表した「中間報告」には、緩やかな基本法と分野ごとの個別法という構想が示されており、この点でも今回の法制度は、堀部参考人の意見とは異なる内容のものとなってしまっている。
  • 個人情報保護関連法案の質疑に当たっては、根本的に違うものである「行政機関法制」と民間部門を対象とする「基本法制」を一括して審議したために、議論が深まらなかった。
  • 昨日、長野県の本人確認情報保護審議会が、個人情報保護法は十分なものとは言えないとして、住基ネットからの離脱を提言した。そもそも万全なプライバシー保護というものはなく、社民党は、市民及び労働者とともに個人情報保護の推進と住民基本台帳システムの凍結・廃止を訴えていく。


仙谷 由人君(民主)

  • プライバシー権や知る権利、あるいは地方への税源移譲については、これらが国民にとって大切な権利・原則であると主張しながら、これらを憲法上規定するか否かという議論になると、それは不要であり、基本法の制定で十分であるとの意見がある。しかし、最高法規である憲法から個別具体法まで抽象度のレベルには差があり、最高法規であるとともに最も抽象的な法規である憲法は、すべての分野をカバーするものであって、大切な事柄は書き込まれてしかるべきである。
  • 例えば環境問題やプライバシーなど、国民意識・政治状況・国際状況などにかんがみて21世紀の日本にとって大切と考えられる事柄については、議論を整理し、国の在り方を明確にするためにも、最高法規たる憲法に明記すべきであると考える。


葉梨 信行君(自民)

  • 「環境権」など、日本の在り方を考える上で大切なことについては、憲法に宣言すべきであると考える。
  • その一例として「都市計画権」を挙げたい。ドイツを視察した際、都市計画に住民や自治体が積極的に関わっているのを見て感銘を受けた。また、ある学者が、「今後の日本にとって「まちづくり」は重要であるから、「都市計画権」を憲法に明記してはどうか」との意見を述べており、今後、都市計画権についての議論も必要ではないかと考える。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • マスメディアは大きな権力を持ち、人権侵害は大変深刻になっている。活字メディアは、訴えられた際の損害賠償額を必要経費として織込み済みであるとも言われ、また、映像メディアは訴訟になってもその原因となった映像を提出する義務を負わないなど、報道される側が弱い立場に置かれている。こうした問題の解決のためには、報道機関の自主規制やメディアリテラシーの向上のみでは十分ではなく、懲罰的な損害賠償制度の導入が検討される必要がある。


倉田 雅年君(自民)

  • マスメディアによる市民のプライバシー侵害は深刻であり、これに対し自主規制を要請するという方法も正しいとは思うが、しかし、それだけでは十分ではないと考える。小委員会においてオンブズマン制度に注目すべきとの意見があったように、私は、行政から独立した第三者機関がマスメディアをチェックすることが有効ではないかと考えている。ただ、第三者機関を十分に機能させるためには、法律によって、謝罪を命じる権限やそれが守られない場合には裁判所へ訴える権限といった強力な権限を付与することが必要であると考える。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪司法制度及び憲法裁判所−憲法の有権解釈権の所在の観点から≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

杉浦 正健小委員長

  • 裁判所が政治問題について憲法判断をすることについては、積極的な意見、消極的な意見の両論があり、これに関連して、憲法の有権解釈権の所在や憲法裁判所の是非についても、質疑や意見表明があった。さらに、政府の憲法解釈変更の可否、内閣法制局や議院法制局の在り方等についても、質疑や意見表明があった。立法、行政、司法はそれぞれの立場で憲法の解釈を行っているが、その解釈相互の関係をどのように考えるべきかということは、まさに統治機構の在り方そのものにつながる重要な問題である。
  • 今後とも、さまざまな角度から、21世紀における統治機構の在り方、さらには、この国のありようというものを考えていきたい。


●自由討議

谷川 和穗君(自民)

  • 米ソの対立が解消し、国際テロリズムへの対処や日本の国際貢献が問題となる等、日本を取り巻く状況は、憲法制定時とは大きく異なっている。成文憲法を持つ以上、時代の変化に合わせて、常に憲法に手直しを加える必要がある。具体的には、9条の見直し、非常事態の憲法への明記、憲法第8章(地方自治)の拡充、改正手続の見直し等が必要である。
  • めまぐるしく変わる国際情勢等に対応するため、明確かつ迅速な憲法判断が必要であること等から、憲法裁判所を設置すべきである。違憲審査が議会の民主的な多数意思を否定する側面を持つという点については、裁判官の選出を議会が行うこと等によりクリアできる問題であると考える。
  • 特別裁判所の設置及び行政機関による終審裁判を禁止する76条2項は、戦前に司法権が行政権の一部であったという経験からきているものであり、時代に合わない。その是非について議論すべきである。


中野 寛成君(民主)

  • 「神学論争」を好む国民性等にかんがみ、有権解釈を確定するため、ドイツ型の憲法裁判所を設ける必要がある。
  • 仮に、(a)自衛隊は違憲であるとの解釈や、(b)集団的自衛権は保持しているが行使はできないとの解釈をとるのであれば、9条には単にあらゆる戦争を放棄すると規定すれば足りるはずである。
  • 憲法裁判所が確定した有権解釈に反対の立場をとる場合には、憲法改正を主張すべきである。憲法裁判所の有権解釈に何らかの不都合があるとか、国民の利益に反するといった問題があると考えられる場合に、最終的にどのような対応をとるのかは、あくまで国会が判断するというシステムをとるべきである。


杉浦 正健君(自民)

  • 国連憲章51条において、個別的自衛権及び集団的自衛権は、「固有の権利」として認められている。他方、9条は、素直に読めば自衛権を否定している。この9条について、自衛権はあると解釈しながら、「集団的自衛権は保持しているが行使できない」とする政府の解釈は理解できない。
  • 政府解釈が論理的追究の結果であり変更できないということなら、憲法を改正すべきであるが、憲法改正手続は厳格で改正が難しいため、解釈を変更することも考えるべきである。
  • 集団的自衛権の行使ができることを明確にし、日米同盟を経済的、文化的な面のみならず、軍事的な面についても強固なものとすべきである。米国が攻撃された場合、日本も共に戦うという気概を持つ必要がある。政府に対し、集団的自衛権行使についての解釈の変更を求めたい。


末松 義規君(民主)

  • 現在、内閣法制局は、実質的に憲法の有権解釈を担い、また、行政情報を活用しやすいという行政の中での解釈の最高権者という立場から、迅速に解釈を示している。その結果、内閣の政策が、内閣法制局により定められてしまっているという状況にある。
  • 国民の側から最高裁を通じて憲法解釈を求めることは、訴えの利益の問題、長期に裁判を継続することの困難さ等から、難しいものとなっている。また、裁判官が実際の国民生活に通じているのかということ、高度な政治判断を避ける傾向にあること等からすると、裁判所に最終的な解釈を求めることは厳しいと考える。
  • 内閣法制局の憲法判断が、時の政府に有利になりやすいため、憲法裁判所を設置して、抽象的違憲審査権を認めることにより、迅速な憲法解釈をさせるべきである。また、その憲法解釈に疑義があるとするならば、憲法改正を議論すべきであり、それが憲法の発展につながると考える。


奥野 誠亮君(自民)

  • 昭和30年に保守政党、革新政党がそれぞれ一つになって以来、護憲・改憲の議論がずっと続いているが、これは、今の憲法がそういう性格を持っているからである。国会が時代の変化を先取りしながら、柔軟に憲法を改正することができるよう、各議院の3分の2以上という改正に係る発議要件を緩和すべきである。
  • 現行憲法はGHQの占領の下さまざまな制約を受けた中で作られたものであること、宗教に係る憲法と教育基本法の規定が矛盾していること等の問題は、現行憲法を基礎にして憲法裁判所を設置するということではなく、憲法改正により解決されるものである。
  • 現在の司法制度においては、主として国民の権利義務の観点から判断がなされている。しかし、現代の行政事件では、国民の福祉や安全等さまざまな問題を勘案して判断する必要があり、行政裁判所を設けるかどうかについて重点的に論議すべきである。


中野 寛成君(民主)

<奥野委員に対して>

  • 末松委員と私は、憲法改正に反対する立場ではなく、新しい時代に対応するための憲法を創るという「創憲」の立場である。私が設置すべきであるとする憲法裁判所も、この新しい憲法に位置付けられることを前提としたものである。
  • この憲法裁判所での憲法解釈に不都合がある場合に、どのように対処するかは、最終的には国会が判断すべきであると考える。


山口 富男君(共産)

  • 私は、憲法裁判所の導入には消極的である。81条の規定する司法審査権を機能させるためには、制度が問題なのではなく、しっかりとした運用が必要であることを認識すべきである。
  • 内閣法制局の9条解釈を変えるべきとの意見には賛成であるが、この場合、現行憲法は集団的自衛権を認めるものではないこと等を踏まえた上で、正しい解釈に変えるべきと考える。また、立法府としては、9条の趣旨をいかに実現していくべきかについても考えるべきである。
  • 現行憲法の制定過程については、「押しつけ」論もあるが、草案こそGHQが用意したものの、その後の憲法制定議会において9条1項前段や14条の内容が追加されるなど価値ある変更がなされたこと、また、現行憲法はその後の五十数年間、国民の支持を受けつつ運用されてきたことを踏まえれば、「押しつけ」とは言えないと考える。


井上 喜一君(保守新党)

  • 違憲審査権を最高裁だけに担わせるのではなく、いわゆる「統治行為」に属する問題や政治情勢に関連した違憲立法の問題等、高度に政治的な問題については、憲法裁判所を国会に設置し、そこにおいて判断すればよいと考える。
  • 9条の解釈に関連して、自衛権には、個別的自衛権も集団的自衛権も含まれており、また、9条は侵略を禁止するものであって、自衛権について何ら定めるものではないと考える。この点、内閣法制局の9条解釈は、木に竹を接いだようで不自然であると考える。


金子 哲夫君(社民)

  • 山口参考人からは、現在の裁判官は、国民の選挙によって選ばれておらず、そのために違憲審査権が機能していないとの意見が述べられたが、仮にそうだとすると、憲法裁判所を作っても、その裁判官を国民の選挙で選ばないのであれば、同じ結果になるのではないか。むしろ、最高裁自身が、憲法上、三権分立の下で違憲審査権が与えられていることを踏まえ、その役割を十分に果たすことが求められているのであって、それによって違憲審査の消極性の問題は改善されると考える。
  • 憲法解釈は拡大される傾向にあるが、むしろ、憲法の条文に沿うように現在の憲法解釈や政治を変えていくべきであり、そのためには、当調査会も、憲法の条文に照らした議論を積極的に行っていくべきである。