平成16年2月5日(木) 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(第1回)

◎会議に付した案件

安全保障及び国際協力等に関する件(憲法第9条 特に、自衛隊のイラク派遣並びに集団的安全保障及び集団的自衛権)

上記の件について委員中谷元君及び松本剛明君から基調発言を聴取した後、質疑又は発言を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(基調発言者)

  中谷 元君(自民)

  松本 剛明君(民主)

(質疑又は発言を行った者)

  大村 秀章君(自民)

  武正 公一君(民主)

  福島 豊君(公明)

  山口 富男君(共産)

  土井 たか子君(社民)



◎ 中谷元委員の基調発言の要点

1.憲法9条の意義

  • 憲法9条は、日本の復興に大きな機能を果たした。

2.時代の変化

  • 国際情勢の変化により、9条と国際社会の現実とが乖離したため、国民に対する説得力を欠き、違和感を与えるものとなっている。
  • 現実を解釈の理念で取り繕う手法を重ねた結果、憲法の軽視と形骸化を生み出している。

3.憲法と自衛隊の問題点

  • 自衛隊が自衛のための必要最小限度の実力としてしか許されていないため、その性格が弱くなり、海外派遣された自衛隊の自己防衛は困難な状況になっている。
  • イラクに派遣された自衛隊は、イラクの人道復興支援を行うのであり、武力の行使を目的としているのではなく、また、活動範囲を非戦闘地域に限っていることから、他国の武力の行使と一体化するものではないので、9条1項に違反しない。
  • イラクの暫定統治機構は、安保理決議1483に基づくものである。また、自衛隊は、その指揮下に入っていないことから占領行政には参加していない。
  • 現行憲法下では、(a)外国の部隊等の警護等、(b)任務遂行のための武器使用、(c)米国軍への攻撃に対する応戦、(d)国連軍への参加ができず、また、(e)アジアの安全保障機構への参加の制約となり、(f)仮に日韓防衛条約を締結するとしても片務的なものとならざるを得ないため、憲法を改正して日本の安全保障上の環境整備をすべきである。
  • 我が国は、将来的に安保理常任理事国入りを目指し、国連のイニシアティブをとるべきである。また、停戦監視から治安、人道など複合的になっている安全保障政策に対応し、このような面に参加・協力できる国になるべきである。

4.結論

  • 政府見解を変えるのではなく、新憲法で、自衛権の存在、自衛隊の役割を明記すべきである。
  • 憲法に国際法、国際慣例に従った国際貢献のできる権限を明記すべきである。
  • 平和主義や国連中心主義は、日本の理念として、9条の中心にすべきである。

◎ 松本剛明委員の基調発言の要点

1.法治

  • 法治とは、国民の意思が国家権力を拘束することを意味する。時代の要請には応えるべきだが、法を飛び越えて行われるべきではない。

2.国際法から見たイラク戦争の大義

  • イラク戦争の大義が問題となるが、法治の観点から正当な手続を踏まえるべきである。
  • イラク戦争の根拠について、自衛権の発動又は安保理決議1441等の説が分かれており、国際的に認められているとはいえない。
  • 先制攻撃による自衛権の発動は、現在、国際法上認められないが、仮にテロ等の新しい事態に対処するためにこれが認められるとしても、厳しい要件が付けられるべきである。
  • 大量破壊兵器の査察は、継続すべきであった。その存否を含めてイラク戦争の大義を検証し、結果責任を問うべきである。

3.イラク自衛隊派遣

  • イラク特措法における非戦闘地域の概念、武器弾薬の輸送と武力行使の一体化等の論点については、その論理に無理がある。
  • イラク特措法の目的の一つである安全確保支援活動の憲法上の位置付け等について議論する必要がある。

4.集団安全保障

  • 国連の現実を直視しながら、国連憲章が規定する理想の姿に近づく道を選択すべきである。
  • 今までの自衛隊の海外活動を否定するものではないが、国連軍、多国籍軍、平和維持活動を含む集団安全保障活動に広く参加することは、現行憲法解釈では著しく困難であり、制度的な枠組みの改革が必要である。
  • 集団安全保障に積極的に参加する方法としては、法治の観点から、(a)集団安全保障活動を9条の枠外と考える解釈、(b)安全保障に関する基本法の制定、(c)憲法改正の三つが考えられる。

5.集団的自衛権

  • 日米安保条約の非対称性や負担の在り方について見直す必要がある。
  • 国連による集団安全保障を理想に近づけることを目指しつつも、太平洋、東アジアを中心に安全保障の網を設けていくことも政策の選択肢であると考える。その際、集団的自衛権が行使できないことが、我が国の外交上の足かせになるのではないかと考える。
  • 集団的自衛権を「我が国は国際法上有しているが、憲法上行使できない」とされるが、憲法上は有しているのか、また、憲法上有しているとしても行使できないとはいかなる論理的帰結なのか、確認すべきである。
  • 集団的自衛権は、主権国固有の権利である。

◎ 主な質疑事項又は発言

大村 秀章君(自民)

<松本委員に対して>

  • 冷戦構造崩壊後の日本を取り巻く国際情勢を認識した上で、日本の安全保障や国際協力についての基本理念を整理し、憲法上に位置付けるべきである。自衛隊の位置付け及び防衛の任務と国際平和協力業務の明記について、どのように考えるか。また、集団的自衛権の保持及び行使の明記について、どのように考えるか。

<中谷委員に対して>

  • 集団的自衛権の行使について、憲法改正論議と並行して、期限を定めて国会で議論した上で政府解釈の変更を行うという考えは、十分検討に値すると考えるが、いかがか。

>松本剛明君(民主)

  • 憲法上に、自衛権及び自衛隊を明記すること及び国際協力や集団安全保障への我が国の積極的な参加について明記することは、望ましい形であると考える。集団的自衛権の行使を認めることについては、アジア・太平洋地域の安全保障網を設ける上で、政治上の要請があると考えるが、その場合であっても、法に明記すべきと考える。

>中谷元君(自民)

  • 集団的自衛権の行使は国家の重要問題であることから、解釈変更ではなく、憲法改正によるべきである。


武正 公一君(民主)

<中谷委員に対して>

  • 我が国の外交・防衛は、国際協調の下に日米同盟・国連中心主義・地域協力の三つの柱が横並びとされていると認識しているが、自衛隊のイラク派遣や武器輸出三原則の見直し等の我が国の取組みは、まず、日米同盟ありきで進められてきているのではないか。

<松本委員に対して>

  • 憲法解釈が、行政の一機関である内閣法制局によってなされていることに問題があると考える。憲法裁判所の必要性について、見解を伺いたい。
  • テロ特措法やイラク特措法は、自衛隊の部隊等が実施する対応措置の国会承認が事後になされることから、説明責任が確保されていないと考える。シビリアン・コントロールの在り方についての見解を伺いたい。
  • 国連改革について、どのように考えるか。
  • 集団的自衛権の行使を憲法解釈で認めることについて、どのように考えるか。

>中谷元君(自民)

  • 我が国の防衛政策は、国連が機能するまで日米安保条約を基軸とすることとされてきた。我が国は、国連中心の体制を模索しつつ、現実には米国支援を行っている。しかし、国連中心主義は、今後、我が国が自立するための中心軸であると考える。

>松本剛明君(民主)

  • 憲法解釈は、内閣法制局ではなく、憲法裁判所が担うべきであり、憲法裁判所を憲法上明記すべきである。
  • 軍事的な力を行使する場合には、国民の代表である国会のコントロールが必要であることから、国会承認は事前承認とすべきである。
  • 我が国は、国連や国際社会において財政負担等に応じた発言権を確保して、自国及び国際社会のために国連改革を進めるべきである。安保理常任理事国入りについても、議論すべきである。
  • 集団的自衛権の行使を認める場合でも、我が国の自衛のための範囲内での行使とすべきである。


福島 豊君(公明)

  • 憲法問題を考えるに当たっては、今後の日本の安全保障を確保するためにはどうしたらいいかが問題である。
  • 日本には戦争の負の遺産があり、「特殊な国」といわれる政策にも理由があった。

<中谷委員に対して>

  • 9条は米国に押しつけられたものと考えるか、それとも日本がアジアに受け入れられるための条件であると当時の日本の国民、政治家自身が受け止めたと考えるか。また、その状況は現在でも変わらないのではないか。
  • 集団的自衛権を行使できるようにした方がよいと考えるか。

<松本委員に対して>

  • 東アジア中心の安全保障網を考えたときに集団的自衛権を行使できないことが外交上の足かせになるのではないかと主張するが、集団的自衛権の行使を認めた方がよいと考えるか。
  • 東アジアの中での安全保障といっても、日米、日中が基軸となるのであり、それほど選択肢が多いわけではないのではないか。東アジアにおける有事の際、日本は集団的自衛権を行使できるのか。

>中谷元君(自民)

  • 日本国民自身の厭戦感情や中国や朝鮮の日本に対する感情を考慮して、二度と戦争を起こさないことが、日本がアジアで生きていく条件であると当時の日本の国民、指導者が考えたものである。
  • 他国の戦争に協力することは必要ないが、我が国の防衛に必要なこと及び国連を中心とし、世界の平和・安定に必要な活動がしっかりできるように、明確な基準を設けるべきである。

>松本剛明君(民主)

  • 日本の安全保障にとって米国との関係は重要だが、アジアの中で近隣諸国とどのような条約により平和を確保するかも問題である。日米安保条約のような片務条約を締結することは考えられず、自衛のための集団的自衛権の行使を認めることが考えられる。
  • 確かに現在の情勢ではたくさんの選択肢があるわけではないが、将来の50〜100年の枠組みでは、さまざまな選択肢があってもよいのではないか。


山口 富男君(共産)

  • 占領状態にあるイラクに自衛隊を送ることは、9条及び国際法に違反するので、撤回すべきである。

<中谷委員に対して>

  • 中谷委員は、政府の解釈が憲法の形骸化を生み出したと述べたが、これは、これまでの政府の憲法解釈に誤りがあったということか。
  • 戦後の日本の再軍備に当たっての、米国による関与についてどう考えるか。
  • 中谷委員は、自衛隊のイラク派遣が「国際法上の交戦権」の行使に当たらないとするが、その「国際法」とはどのようなものを指すのか。
  • 国際人道法下では、占領行政に加わることは紛争当事国への仲間入りであり、この度のイラク派遣は、イラク占領行政への参加ではないか。

<松本委員に対して>

  • 集団的自衛権は、憲法上、認められないと考える。また、世界では軍事同盟への非参加国が多いが、この世界の流れをどう考えるか。

>中谷元君(自民)

  • 政府の解釈が誤りだったというつもりはない。
  • 冷戦の激化を背景に、米国は、日本が防衛の最前線として十分な体制をとることを考えた。
  • 「国際法の交戦権」の「国際法」とは、国連憲章及び国際慣習である。
  • 自衛隊のイラク派遣には、安保理決議678,687及び1441のほか、戦後復興に関する決議1483という国連の根拠がある。

>松本剛明君(民主)

  • 我が国が置かれている現状を考えたときには、集団的自衛権を持つことも選択肢として考えてよいのではないか。


土井 たか子君(社民)

  • 憲法自体は、「より良い憲法」に変えることを否定してはおらず、本来は不磨の大典ではない。しかし、事実が憲法と乖離したときには、いかに事実を「法の支配」に近づけるかが大切であるという前提が認識されていないと、「より良く」変えることは難しい。
  • 憲法改正については、96条が憲法改正において国民投票を要求している以上、国会が議論の場として国民の信頼を得ていることがまず大切である。

<中谷委員に対して>

  • 中谷委員の発言のうち、冒頭の9条の意義及び果たしてきた機能に対する評価からすると、新憲法で自衛権の存在及び役割を明記するという結論は矛盾するのではないか。
  • 9条があったからこそ、日本が平和主義と国連中心主義を行うことに意義があった。中谷委員は、これらを「9条の中心」にすべきと結論付けているが、私は、むしろ「9条を中心」とし、より多くの理念を実現していくべきと考えるが、いかがか。
  • 政府は「派遣」と「派兵」では意味が違うといったが、本来同じ行為である両者の区別に意味があるのか。

>中谷元君(自民)

  • 平和主義、国連中心主義という理念は重要であり、今までは9条の精神が生かされてきた。しかし、時代の変化もあり、国民の生活に不可欠な国際情勢の安定のため、日本が平和活動に参画することも必要である。
  • 人々が安心して暮らし、また、国際正義と国際の秩序を維持するためには、世界のルール作りへの参加が必要であると考える。
  • 「派兵」と「派遣」は、行為としては同じだが、送る側の意思として、他国を懲らしめるものであれば「派兵」、人道支援等を行うものは「派遣」と考える。

◎ 自由討議における委員の発言の概要(発言順)

河野 太郎君(自民)

  • 時代の変化に合わせて、9条の有り様、集団的自衛権、集団的安全保障問題等について議論を行い、これを憲法に反映すべきである。憲法改正のための手続法がない現状においては、こうした問題についての基本法を制定することにより対処すべきである。
  • 中近東における日本と米国の利益は、必ずしも合致しない。日本の国益の観点から、どちらに与するべきかを国民の前で具体的に議論すべきである。


渡海 紀三朗君(自民)

  • まず国の在り方を議論し、それに憲法が合わないのであれば、憲法を変えるべきである。立法府は、日本が何をなすべきかを議論して、憲法改正を含め国民に提案していく責任がある。
  • 国連憲章上、集団的自衛権が国に固有の権利として認められているのだから、日本が国際社会において役割を果たすため、これをどこまで行使できるのかを議論すべきである。
  • 自衛隊のイラク派遣については、人道支援、隊員の安全確保等が行えるよう武器使用基準を国際標準に揃えるべきである。今後どのように国際協調と平和主義とを両立させるかを検討した上で、最終的に憲法の在り方を議論すべきである。

 

伊藤 公介君(自民)

  • 2001年9月の米国へのテロ攻撃が「新しい戦争」と表現されたが、憲法はこうした新しい事態に対応しなければならない。
  • 自衛隊のイラク派遣について、派遣する以上、隊員の安全確保等のための十分な法整備が必要であることを実感する。
  • 日本が米国に対等にものを言い、他国と対等な安保条約を締結するためには、集団的自衛権を行使できるようにすべきである。


山口 富男君(共産)

  • 自衛隊のイラク派兵は、(a)国際法的には、アメリカの武力行使が国連憲章上認められていない違法な戦争であり、戦争の直接の理由とされた大量破壊兵器も見つからず、大義なき戦争であること、(b)憲法上は、9条の交戦権の否認や武力行使禁止規定に抵触することから、行うべきでない。
  • 集団的自衛権は、国連憲章51条において、国連が対処するまでの間にだけ認められている例外的なものである。日本は、9条の下、集団的自衛権を持つことはできない。
  • 9条はこれまで大きな力を発揮してきた。現実に9条を合わせるのではなく、現実を憲法に引き戻すべきである。


田中 眞紀子君(民主)

  • イラク復興は、国連中心で行うべきであって、一刻も早く日本が本当の人道復興支援ができるようにすべきである。
  • 日米安保条約及び日米地位協定は、極東の安全を図るものであるが、現在、それに基づく活動が中東にまで及んでおり、極東条項は空洞化している。憲法改正を議論する前に、これまで怠ってきた同条約や地位協定についての議論をすべきである。


土井 たか子君(社民)

  • 自衛隊のイラク派兵は、自民党内にも憲法違反ではないかとの認識を持つ議員がいることを認識すべきである。
  • 自衛隊についての政府解釈が二転三転し、また、小泉首相は、イラク特措法の基本計画について、前文の一部のみを引用して説明するなど、国民が理解し納得できる説明がなされていない。
  • 9条は「変えない」とする意見が半数を超える世論を踏まえ、歪んだ現実を正すべきである。憲法改正を強行するなら、立憲体制が崩壊する。


松本 剛明君(民主)

  • 集団的自衛権は、急迫不正の事態に対処するための権利であって、国連憲章によって初めて認められたものではなく、固有の権利である。ただ、この自衛権は抑制して行使されるべきである。
  • 日米安保条約は、自衛の範囲のものであるから極東条項が存在する。よって、それを理由にイラクに自衛隊を派遣することは妥当ではない。
  • 「法の支配」は、憲法の規範性を認めながら、一方で、その改正を認めている。ただ、憲法改正に当たっては、9条の持つ歯止めの要素を忘れてはならない。


河野 太郎君(自民)

<山口委員の発言に関連して>

  • 国連憲章51条に規定する集団的自衛権は、国の固有の権利であり、例外的権利ではない。

<発言>

  • 日本は石油のほとんどを中近東に依存しており、本土防衛だけでいいのかきちんと議論し、大多数の国民の理解を得る説明をすべきである。

>山口富男君(共産)

  • 国連憲章51条は、もともと国連憲章の原案になかったが、米国が後から軍事同盟の根拠として入れた歴史的経緯からも、例外として解釈すべきである。


武正 公一君(民主)

  • イラクの自衛隊派遣について、政府の説明責任が果たされていない。
  • 安保理非常任理事国入りの予算の削減にも、政府の国連軽視が表れている。
  • 集団安全保障については、9条に定める自衛のための必要最小限度の武力行使とは別枠で、前文の国際協調主義に基づき認められているという解釈をとることを考えている。


中谷 元君(自民)

  • 日米は、同盟国としての友情と信頼に基づいて、安保条約の範囲より広い協力を行っている。
  • 米国が恐れているのは、国際テロ組織とイラク、イラン等の連携である。米国の影響力が低下したときに世界が不安定な状況になることを考えれば、世界の安全保障の維持は日本の問題でもある。


松本 剛明君(民主)

  • 「法の支配」の観点から、日米安保条約を自衛隊のイラク派遣の根拠とするのは不適切であり、政策判断と法規範性の問題を整理すべきである。
  • 今回、自衛隊がオランダ軍の護衛を受けなかった理由が、その「自己完結能力」にこだわったことにあるならば不幸である。安全面の法整備を行ってから派遣すべきである。
  • 集団的自衛権は、国際司法裁判所でも国際慣習法上の権利として認められている。


大村 秀章君(自民)

  • 憲法上自衛隊を明記する方向が憲法調査会で出ることを期待している。集団的自衛権は、自然権であるから、行使できないのは適当ではなく、海外平和協力業務を機動的に行うためにも必要である。
  • 憲法改正に時間がかかるのであれば、改正作業と並行して、期限を定めて政府解釈を変更することや、解釈変更の証として「安全保障基本法」を制定することも一つの方法である。