平成16年3月11日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会(第2回)

◎会議に付した案件

統治機構のあり方に関する件(人権擁護委員会その他の準司法機関・オンブズマン制度)

上記の件について参考人宇都宮深志君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  東海大学政治経済学部教授    宇都宮 深志君

(宇都宮深志参考人に対する質疑者)

  杉浦 正健君(自民)

  鹿野 道彦君(民主)

  福島 豊君(公明)

  山口 富男君(共産)

  阿部 知子君(社民)

  杉浦 正健君(自民)

  辻 惠君(民主)

  衛藤 征士郎君(自民)


◎宇都宮深志参考人の意見陳述の概要

1.オンブズマン制度の沿革

(1)世界への普及と進展
  • オンブズマン制度は、スウェーデンにおいて発祥し、1950年代以降、議院内閣制をとるデンマーク、英連邦のニュージーランド等世界各国に普及してきた。
  • 注目される点としては、以下の4点が挙げられる。(a)オンブズマンは、導入後廃止された例はなく、国民から信頼される制度として定着・発展してきている。(b)世界のオンブズマンの多くは、議会が任命し、行政府から独立している議会型オンブズマンである。(c)オンブズマンに高い地位と独立性を与えるために憲法で規定することは重要であるが、憲法に規定せずに法律で導入することも可能である。(d)1950年代以降に普及した理由としては、(@)福祉国家化により大きな政府となったために情報公開制度とともに必要とされたこと、(A)巨大な力を持つに至った行政機構を統制するのに、19世紀的な行政統制装置には限界があること、(B)伝統的苦情処理機関である裁判所が弾力性を失い、時間、手続、費用の面で十分機能しなくなったことが挙げられる。


(2)我が国におけるオンブズマンの制度化の取組

  • 日本における取組としては、旧行政管理庁に設置された「オンブズマン制度研究会」や臨調等において検討されてきた。また、1997年には、行政監視のための委員会が衆参両院に設置された。
  • 我が国には、行政相談委員があり、「日本型オンブズマン」といわれている。ただ、これは、オンブズマンに代置しうるものではなく、両者が連携しながら国民の苦情に対応すべきである。
  • 地方自治体には、川崎市を始めとして、特殊オンブズマンを含めて40近いオンブズマンが導入されているが、地方自治法による制約から、行政府の長が任命する行政府型となっている。

2.オンブズマン制度の特色と機能

(1)オンブズマン制度の特色
  • (スウェーデン型)オンブズマンの特色は、以下の5点がある。(a)立法府の公職者であり、立法府に報告書を提出する。(b)公平な調査官であり、政治的に立法府からも独立している。その任命は、伝統的に超党派で行われる。(c)裁判所と異なり決定を破棄する権限や強制的な権限は有さず、勧告権限のみを有している。しかし、行政府は、オンブズマンの勧告にほとんど従っている。そのパワーの源泉は、事実を把握するための調査にある。そのために調査権限(会議出席権、資料要求・閲覧権等)を有する。調査の客観性等により影響力を保持している。立法府に報告し、報道機関に公表する権限を有する。(d)職権調査権限を有しており、これが行政統制に有効に機能している。(e)苦情の処理は、直接的で、迅速、無料である。


(2)オンブズマンの機能と役割

  • オンブズマンの機能としては、(a)行政統制・行政監視機能、(b)苦情の受理と処理機能、(c)行政改善機能が挙げられる。

3.オンブズマン制度導入の必要性と課題

(1)オンブズマン制度導入の必要性
  • オンブズマン制度の必要性は、現在の日本においてますます増大している。


(2)オンブズマン制度導入の可能性

  • オンブズマン制度の導入は、憲法によらず、法律によっても可能である。


(3)オンブズマン制度導入の課題

  • 議会型オンブズマンと行政府型オンブズマンのいずれの導入も可能であるが、行政監視機能が有効に働くことから、議会型が望ましいと考える。行政府型はあくまで内部統制であり、行政府からの独立性に問題があるものの、多くの案件を迅速・安価に処理できるという利点もある。他方、議会型は、外部統制であり、独立性を有するが、政治的影響力をどのように排除するか、調査スタッフをどのように整備するかという問題がある。
  • 国会の行政監視機能を強化し、護民官的機能を有するものとして、議会型が適している。また、請願権(16条)を具体化するものとして、現行憲法も議会型を認めている。

◎宇都宮深志参考人に対する質疑の概要

杉浦 正健君(自民)

  • 国会の国政調査権等を通じて行政のチェックが行われていることや行政の情報公開が進んでいることを踏まえると、国会にオンブズマンを設置することが必要だろうか。設置する場合でも、衆参にある決算行政監視委員会と行政監視委員会を十分活用し、これと連携させることが可能ではないか。


鹿野 道彦君(民主)

  • オンブズマン制度は、憲法上位置付けるべきと考えるが、憲法に根拠規定を置くことのメリット及びデメリットについて、参考人の見解を伺いたい。
  • 日本では、行政相談制度が「日本型オンブズマン」として長年役割を果たしてきたが、行政相談委員では果たし得ないオンブズマンの役割とは何か。両者の役割分担は可能か。
  • 地方自治法上、議会にオンブズマンを置くことが困難であることから、地方自治体では行政府型オンブズマンが導入されているが、議会にオンブズマンを置くことができると解釈することも可能ではないか。
  • 国民性の観点から、オンブズマン制度が我が国になじむと考えるか。


福島 豊君(公明)

  • 官僚機構が国民を統治するという戦前の残滓がある我が国の政治の在り方や歴史を踏まえ、果たして我が国でオンブズマン制度が受け入れられるかどうかという点について、参考人の見解を伺いたい。
  • オンブズマン制度を導入する場合は、議会型が望ましいと考えるが、オンブズマンの任命にあたって、参考人が主張する党派性を超越した中立的な任命を行うことは困難ではないか。
  • オンブズマン制度がうまく機能する前提として、国民のセルフ・ガバナンスの意識が必要であると考えるが、日本の国民の意識について、参考人はどのように考えるか。
  • これからの10年、増税や社会保障制度改革等、国民にとって大変なことが続くが、これらを進めるに当たっては政府への国民の信頼が必要であることを踏まえると、オンブズマン制度があった方がよいと考えるが、いかがか。


山口 富男君(共産)

  • 我々は、オンブズマン制度の導入を提案しており、行政監視院の法案も作成・提出した。オンブズマンの憲法上の位置付けは、62条の国政調査権と16条の請願権の両面からなされると考えるが、いかがか。
  • オンブズマン制度研究会の最終報告によるオンブズマンは、行政府の下に置かれるという点で、独立性について疑問を持つが、参考人が我が国のオンブズマン制度導入が立ち後れているとしていることと併せて、同報告の評価について伺いたい。
  • 民間オンブズマンの活動は、行政監視や苦情処理について大きな力を発揮しているが、参考人は、民間オンブズマンを、権能の分類の点においてはオンブズマンとして類型化しない方がよいとしている。民間オンブズマンをどのように位置付けるべきと考えるか。


阿部 知子君(社民)

  • 会計検査院は、真の意味で内閣から独立して機能すべきであると考える。米国では、会計検査院は議会の附属機関となっているが、会計検査院の在り方についてどのように考えるか。また、オンブズマンを国会に設置した場合に、国民にとってのメリットはいかなるものが考えられるか。
  • 行政監察計画に対する国政調査は十分なされているか。
  • 現在、情報公開制度は十分に活用されていない状況にあるが、情報公開制度とオンブズマンをリンケージさせることについて、どのように考えるか。


杉浦 正健君(自民)

  • 行政の可視化の観点から、オンブズマンの導入については、まず、住民と行政の距離が近い地方からなされるべきであると考えるが、いかがか。
  • 今般の司法制度改革において、全国に相談窓口を設ける「司法ネット」の整備や行政訴訟制度の改革等がなされることとなっている。このような時期に、国レベルでオンブズマンを置く必要性については検討する必要がある。現在の決算行政監視委員会等の機能強化によって、オンブズマン的機能をカバーできると考えられるが、いかがか。


辻 惠君(民主)

  • 行政国家化がますます加速化される中で、司法消極主義などから三権分立の原理原則が現実に機能していない。また、司法ネットについては、独立行政法人が運営するため、行政が強い影響力を持つことになるのではないかと危惧している。こうした中、国会の機能強化の中で、オンブズマンは大きな意味を持つと考えるが、具体的にどのようなオンブズマンを想定しうるのか。
  • 警察、刑務所、軍隊を調査対象とする特殊オンブズマンも必要であると考えるが、日本における具体的な制度としてはどのようなものを想定できるか。
  • 参考人は、オンブズマンの権限として行政に対する勧告が基本であるとしたが、行政の行為の是正のため、行政に対する直接的抑制として具体的にどのようなものを想定できるか。


衛藤 征士郎君(自民)

  • オンブズマンを世界で最初に導入したスウェーデンは一院制であるが、オンブズマン制度と一院制・二院制の在り方について、関連はあるのか。
  • 憲法において、オンブズマンを裁判所と並ぶ国民の人権救済機関として位置付けることについて、どのように考えるか。また、憲法上どのような事項を規定すべきか。独立性や関係機関の協力義務については、いかがか。
  • オンブズマンの組織は、国会の附属機関とすべきか、それとも会計検査院のような独立機関とすべきか。
  • 日本においてオンブズマンの導入を検討する場合、どの国をモデルとすることが適当であると考えるか。
  • 日本においては特殊オンブズマンを整備すべきであるとの意見もあるが、どのように考えるか。
  • 地方公共団体においても議会型オンブズマンを設置することができるよう、地方自治法を改正する必要があると考えるが、いかがか。
  • 国レベルのオンブズマン制度が導入された場合、それが今後日本に根付いていくために運用上気をつけるべき点としては、どのようなことが考えられるか。
  • 国際オンブズマンについて説明をお願いしたい。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

古屋 圭司君(自民)

  • オンブズマン制度に対する国民の認知度が高く、また、浸透している諸外国と異なり、日本では、私的オンブズマンが、ともすれば市民の権利保護だけではなく、イデオロギー的な活動をしていると思われるため、日本にオンブズマンを導入する際には、公的オンブズマンが望ましいと考える。
  • 日本には、行政相談制度や行政苦情救済推進会議があることから、まず、これらが十分に機能しているかを検証し、必要があればこれらを補完・充実させるべきである。


杉浦 正健君(自民)

  • 日本におけるオンブズマン的な役割は、衆参の行政監視に関する委員会等を強化して、これらに担わせればよい。その際、憲法改正が必要かについては、別途、憲法調査会で議論すべきと考える。


<辻委員に対して>

  • 司法ネットは、独立行政法人が担うことになっているが、与党案において、民間人の登用を盛り込むなど、絶対にお役所仕事にしないという決意で臨んだことを申し上げたい。


玄葉 光一郎君(民主)

  • オンブズマンについては、制度設計の検討は必要だが、基本的には導入の方向でよい。ただ、導入するのであれば、憲法上に規定を設けるべきである。
  • オンブズマン導入に際しては、税金の有効活用の観点から、オンブズマンと同種・類似の機能を持つ委員会等の再編・整理が前提となると考える。


辻 惠君(民主)

  • 司法は消極主義、地方分権は不徹底ななか、行政が肥大化しているという現状に対し、行政を統制・監視するための議会型オンブズマンの設置が、極めて喫緊の課題であると考える。


阿部 知子君(社民)

  • 議会型オンブズマンは、公平性・透明性が要求され、現在の政治において必要であり、参考人によると、憲法上規定することが望ましいが法律によっても設置できるということであり、引き続き議論していきたい。
  • 国民の医療被害に対しては、現行の行政相談制度では十分ではなく、カルテを見るなど、立入調査権を持った一般又は特殊オンブズマンが必要であり、それが実現してこそ、国民の安心・利益に応えられると考える。


鹿野 道彦君(民主)

  • 行政機関からの独立の確保及び行政が複雑化する中、行政相談では対応できない専門的な問題に対する専門的調査能力の確保の観点から、オンブズマン制度を現行の行政相談制度とは別に導入することが、より国民生活にとって資する。
  • 衆参の行政監視に関する委員会等から調査を要請できることを明記することにより、これらの委員会とオンブズマンの連携が図られる。その点からもオンブズマン制度の導入には意義がある。


鈴木 克昌君(民主)

  • 地方行政に携わってきた経験から、議会が本来の職務を全うしていれば、オンブズマンは必要ないと考えるが、導入に反対というわけではない。
  • 導入に当たっては、設置に伴うコストの問題や国民の認知の必要性のほか、オンブズマンの設置が、公務員のチャレンジ意識を損ない、かえって行政の停滞を招き、国民の期待を裏切ることのないよう、配慮する必要がある。


永岡 洋治君(自民)

  • 個人の権利救済を迅速に行うための装置を作ることは大切であるが、国レベルでは、本来、国会が国民の権利保護をチェックすべきである。他方、行政が肥大化する中、個人に対する権利救済の道を広げていくことも必要であるが、行政は個人の権利と公益のバランスの下で行われており、あまりに個人の権利を打ち出すことにも注意が必要である。
  • オンブズマン制度の導入については、憲法上の問題もあるため、衆参の既存の委員会の充実強化でカバーするのが先決であると同時に、この問題は国レベルと地方レベルとで分けて考える必要がある。