平成16年4月22日(木) 安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(第4回)

◎会議に付した案件

安全保障及び国際協力等に関する件(地域安全保障(憲法の視点からのFTA問題を含む))

上記の件について参考人菊池努君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

 青山学院大学国際政治経済学部教授  菊池 努君

(菊池努参考人に対する質疑者)

 伊藤 公介君(自民)

 篠原 孝君(民主)

 福島 豊君(公明)

 塩川 鉄也君(共産)

 土井 たか子君(社民)

 平井 卓也君(自民)

 楠田 大蔵君(民主)

 中谷 元君(自民)


◎菊池努参考人の意見陳述の概要

1.アジア太平洋の地域安全保障を考えるに当たっての前提

  • アジア太平洋の地域安全保障を考えるに当たっては、(a)日本の安全保障だけでなく、地域全体や国際社会との協力・協調関係の重視、(b)軍事力だけではなく経済活動等総合的な取組み、(c)テロ等非国家組織の脅威への対応が重要である。

2.アジア太平洋における多様な国家の存在とさまざまな安全保障関係の並存

  • アジア太平洋地域には、(a)日本、オーストラリアなど近代化を終えて安定した国家、(b)中国及び東南アジア諸国など近代化の途上にある国家、(c)ミャンマー、フィリピン、南太平洋諸国など国家体制が脆弱な国家という3種類の国家群が存在する。(a)については、紛争を解決する手段として武力の行使は考えられないが、(b)については、力の発露として武力行使の可能性が依然として高く、(c)については、法と秩序が動揺し、経済的にも混乱している。(b)及び(c)に属する国家が関わる問題への対処がアジア太平洋の地域安全保障上の課題となる。
  • (b)及び(c)に属する国家の課題としては、(A)統治体制の未成熟により政治、経済が混乱し、国際犯罪やテロリズムの温床となっていること、(B)朝鮮半島、台湾問題等北東アジアで深刻な国家間の対立があり、軍事力の行使を防ぐ抑止力が重要であること(一方でASEAN諸国では、ASEANが国家紛争の平和的解決のための規範の浸透に貢献し大規模紛争の可能性は減少している)、(C)テロや大量破壊兵器など「国境を越えた問題」や1997年の通貨危機等のような経済問題といった新しい安全保障問題があることが挙げられる。

3.地域諸国の対応

(1)同盟の機能強化

  • アジア太平洋では、米国を軸にスポーク状の同盟関係があるが、近年、地域安全保障の環境整備に関心が寄せられている。それらの同盟の機能として、脅威への対抗だけでなく、リスクを管理し不確実性に対処することが必要となる。
  • アジア諸国では、日米同盟がアジアの発展の過程において公共的役割を果たしてきたとの評価が近年なされている。

(2)地域安全保障対話の拡大

  • 政府間のフォーラム(ファースト・トラック)であるASEAN(東南アジア諸国連合)やARF(ASEAN地域フォーラム)、ASEAN+3(日中韓)では、対話を通じて信頼関係を醸成し、また海賊対策や人材の育成など政治的論争を呼ばない分野での共同作業を行っている。
  • 官民合同のフォーラム(セカンド・トラック)であるCSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)やシャングリラ・プロセス(国防担当大臣と専門家の会合)では、相互理解の促進が図られ、政府への政策提言等も行われている。

(3)内政への地域諸国による共同介入/共同関与

  • 内政不干渉を原則としてきたASEANにより、ミャンマー軍政への緩やかな介入が行われ、また、ソロモンの治安回復のためにオーストラリアを中心とした軍が派遣された。

4.経済と安全保障(FTAの問題)

  • 歴史的に見ると経済的依存を深めたからといって軍事力の行使が制御されるとは言えず、政治関係の改善がないと経済関係は深まらないということも言える。
  • FTAにはさまざまな内容のものがある。途上国を含むFTAは深い統合にならないことが多く、アジアでのFTAが国民経済に与える影響は限定的なものになると考える。
  • FTAのプラス面としては、(a)国際ルールに従った国内経済制度の構築を促すことにより、地域経済・国際経済が安定すること、(b)国際経済との結びつきを重視する政治勢力が増え、経済交流を妨げる政府の行動を抑制すること、(c)国境を越えた企業の提携が、国境を越えた利害を共有させること等が挙げられる。
  • FTAのマイナス面としては、(a)締結国間での利益の不均衡を生じさせ、国内の政治対立を惹起する可能性があること、(b)WTO交渉に対する熱意を低下させ、国際貿易体制における負の効果を生じさせること等が挙げられる。
  • 以上のように、FTAは安全保障上、多少の効果を期待することができるが、過剰な期待はできないと考える。

◎菊池努参考人に対する質疑の概要

伊藤 公介君(自民)

  • 2050年のGDPの推計試算を見ると、中国が米国を凌ぐなど、中国の台頭が予測される。こうした中で我が国の外交の方向が明確になっていない。我が国は、国連が機能するように積極的に働きかけ、また、ODAの在り方についても検討すべきである。我が国やアジア地域の安全保障の在り方について、見解を伺いたい。
  • アジアにおける地域安全保障の枠組みを考えるに当たって、集団的自衛権の行使を認めるかどうかが重要なポイントとなる。これを認める際に、地理的条件や自国の安全確保に密接な場合に限るなど何らかの条件を設けた場合、我が国が他国と同様の活動ができないことにより、何らかの支障が生じるのか。あるいは、予め条件を設けるのではなく、その時々の状況に従って、随時政策判断を行うべきか。


篠原 孝君(民主)

  • 我が国がアジアに進出していった過去の歴史を踏まえると、FTAを締結することにより我が国がアジアにおいて経済的なプレゼンスを高めることが、アジア諸国にとって脅威として受け止められるおそれはないか。
  • 各国間の相互依存関係が強すぎると、通貨危機に見られるような混乱が生じることもあるので、他国に過度に依存しないようにすることが大切なのではないか。


福島 豊君(公明)

  • 地域の安全保障については、予防的な取組みが大事であるが、同時にアジア地域の有事の際に我が国がどういう行動をとり得るかについても、議論すべきと考える。この場合、我が国は、過去の歴史も踏まえてどのような役割を担うべきか。
  • アジアの地域安全保障における米国との関係について、世界的な視野で考えると、我が国はどの程度まで米国と協調していくべきか。
  • 我が国が米国の行動に影響力を及ぼすためには、国連の機能強化が必要であると考えるが、国連の機能強化のための方策について伺いたい。
  • アジアにおけるFTAは、中国を中心とする流れと我が国を中心とする流れがあると考えるが、この点について参考人の見解を伺いたい。


塩川 鉄也君(共産)

  • 東南アジア友好協力条約は、東南アジアの安定に対してどのような役割及び機能を果たしてきたか。
  • 同条約の域外協力国となることに対し、我が国には躊躇があったと認識しているが、政府のアプローチについて参考人はどのように考えるか。
  • 日本とアジアの関係においては、我が国が引き起こした侵略戦争の清算がなされていないことが障害になっているという主張に対し、参考人はどのように考えるか。
  • アジア太平洋地域の安全保障を考える上で米国のプレゼンスは重要な問題であるが、イラクにおいて米国が国際人道法に反するような行動をとっていることについて、アジア諸国はどのように受け止めていると思うか。また、参考人自身はどのように考えるか。


土井 たか子君(社民)

  • 冷戦構造が崩壊して、二国間同盟関係から多国間の協調的安全保障が重視されるようになっており、軍事力よりお互いの信頼醸成をいかに具体化するかが世界的な流れになってきていると考えるが、いかがか。
  • 憲法は我が国のみならず世界の恒久平和を目指していることから、我が国の参加する地域安全保障は、地域のみならず世界の安全保障に資するものでなければならないと考える。同時に、安全保障を確保する手段として、憲法は軍事的手段を否定して人間の安全保障を希求していると考える。この点について、参考人の見解を伺いたい。
  • 参考人は、我が国の外交面における忍耐強い努力を評価し、地域の安全保障が世界の安全保障に結びついているとする。そのような参考人の考えを実現させるためには、憲法を遵守すればよく、憲法を改正する必要は全くないと考えるが、いかがか。
  • ミャンマーの民政移管のためのASEANの取組みについて、参考人は内政不干渉原則をいかに乗り越えるかという問題を提起しているが、これについてどのような方策があると考えるか。


平井 卓也君(自民)

  • 人間の安全保障、環境問題、軍縮等の「グローバル・ガバナンス」の分野においては、対米追随することなく独自外交を行うべきであり、そのことにより日本外交の信頼性が向上すると考える。一方、「パワー・ポリティクス」の分野においては、台頭する中国への対処が最も重要であり、日米同盟路線が現実的であるが、日米同盟はあくまで手段であって、目的ではないと考える。このような日本を取り巻く国際問題の二重構造について、参考人はどのように考えるか。
  • 北朝鮮問題をめぐる6ヵ国協議を発展させて安全保障の枠組みを構築することができるのではないかとの議論もあるが、必ずしも各国間の思惑が一致しているわけではないことも考慮しつつ、参考人の見解を伺いたい。


楠田 大蔵君(民主)

  • 参考人は、東アジアを機能的概念として捉えることを論文において述べているが、どのような国々による枠組みが考えられるか。
  • 安全保障の分野において、米国との距離感をどのようにとるべきか。
  • 参考人は、日本の国内事情を理由として、日本が地域的・国際的協力行動に消極的姿勢をとることは許されないとするが、その場合の「国内事情」とは、具体的に何か。また、それをどのように越えていくべきか。
  • アジアの中で共通の公益としては、具体的にどのようなものが考えられるか。


中谷 元君(自民)

  • 北朝鮮問題をめぐる6ヵ国協議を東アジアの地域安全保障機構に発展させることに賛成するが、これをASEANと結びつけて考えるべきか、切り離して考えるべきか。
  • 台湾の存在、経済力をどのように考えるか。国家として台湾をアジアの国際協調グループにどのように取り込むべきか。
  • 中国の自由化等の進展を促すために日本はどのようにアプローチすべきであると考えるか。
  • 戦後の我が国の自由貿易政策は、地方の農林水産業の犠牲の下に成り立っており、さらに自由化した場合には重大な影響が予想される。国内対策として規制を設けるべきか。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

大村 秀章君(自民)

  • 日本の経済的発展のためには、開放経済体制、FTAの推進が不可欠であり、今後は、中国を含めた東アジア自由経済圏を念頭に置きながら、その推進を図るべきである。また、中国に投資、貿易、知的財産等に関する当然守るべきルールを守らせることが重要であるという参考人の考えに賛成する。将来、北東アジアにおける地域安全保障を進めるためにも、経済的な結びつきが柱立てとなると考える。


土井 たか子君(社民)

  • 冷戦後の世界においては、地域における安全保障が、二国間関係から多国間の協調的安全保障の方向に進むなど、平和的な外交手段をどのように充実させていくかが課題となっている。
  • 憲法は軍事的手段を否定しており、戦争を未然に防ぎ、その理念の具体化に向けて努力することに憲法の真価がある。国連憲章は武力の行使を原則として禁止する一方、加盟国の共通利益のためにこれを認めているが、我が国においては、国連の旗の下であっても武力の行使が認められないということを、改めて認識すべきである。


篠原 孝君(民主)

  • 日本の安全保障を考える際には、平和外交や軍事、経済問題だけに偏るのではなく、環境や人の安全、食料安全保障等を含めてバランスよく取り組むべきである。


大出 彰君(民主)

  • 国際紛争においては外交を重視した解決が重要である。
  • 通貨危機に見舞われた経験のある東南アジアにおいて、米国の政治・経済分野における単独主義的な手法については違和感がもたれており、国際ルールの下に米国を引き戻す必要がある。
  • EU統合の過程をみるとき、日本は、東アジアにおける地域共同体の確立に向けた努力が足りない。紛争の平和的解決に向けて、さらに努力すべきである。