平成16年5月20日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会(第4回)

◎会議に付した案件

統治機構のあり方に関する件(中央政府と地方政府の権限のあり方(特に、課税自主権))

上記の件について参考人辻山幸宣君から意見を聴取した後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(参考人)

  (財)地方自治総合研究所理事・主任研究員  辻山 幸宣君

(辻山幸宣参考人に対する質疑者)

  野田 毅君(自民)

  玄葉 光一郎君(民主)

  斉藤 鉄夫君(公明)

  山口 富男君(共産)

  照屋 寛徳君(社民)

  二田 孝治君(自民)

  稲見 哲男君(民主)

  永岡 洋治君(自民)


辻山幸宣参考人の意見陳述の概要

1地方分権一括法の効果についての現状

  • 通達の廃止により、行政統制の廃止・緩和を目指したが、一部の自治体を除いて不十分であり、依然として助言・勧告による行政統制が行われている。
  • 法定受託事務について、各省大臣から政省令、告示の形式で処理基準が示されるが、これらの基準が自治体を拘束する状況を改めるため、地方自治法14条1項を憲法94条のように改めてはどうか。
  • 地方自治法96条2項の議決事項追加条項などの活用により、地方議会が活性化している例もある。
  • 地方分権ムードが、地方自治体の憲法ともいえる「自治基本条例」の制定につながっており、また、市民の積極的な参加による条例づくりの大きなうねりは、地方分権改革の間接的効果といえる。
  • 本来、合併は新しい地域づくりであるはずだが、現在、市町村合併は、地方自治体が財政的困難から脱することを主な目的として進められており、地方分権への努力が無にされることが懸念される。
  • 合併できない小規模自治体において、スリム化を図り「身の丈の自治」を考えるなど、本来の意味の「自立」の動きが出てきているのは皮肉である。
  • (a)現在の三位一体の改革で十分であるかを含めた税財源のあり方、(b) 政省令の規律密度について監視を行う機関の設置、(c)地方自治法の規定の簡素化等について、第2次分権改革に向けて検討すべきとともに、「地方自治基本法」の制定が必要である。

2権限配分のあり方について

  • 中央政府と地方政府の権限配分については、「自治権」を法律上及び憲法上、明確に位置付けていくべきである。この「自治権」は、(a)当該区域内における全権限制の原則が含まれるものとし、(b)第一義的には基礎自治体に付与され、(c)いずれの事務・権限を実施・執行するかの判断権が含まれるものとする。また、補完性の原理(市町村ができることはなるべく住民に身近な市町村が行い、市町村ができないことは都道府県が、都道府県ができないことは国が補完するという原理)に従って、実施・執行されないこととされた事務は、都道府県、国へと、より広域的政府の仕事として配分されるが、事務とその実施団体の対応が明確となる結果、「法定受託事務」の概念も消滅する。
  • 「地方自治基本法」に規定する「自治基本条例」の規定事項については、法令の適用除外を認めるという「権限特例法」を設けたいと考える。

3憲法規定について

  • 今日の地方自治には、法令の規律密度、行政統制、税財政制度の問題はあるが、原則的に憲法規定の不備が地方自治の発展を阻害しているとの認識はない。
  • あえて憲法改正を行うとすれば、憲法93条に関連して、首長・議会の二元制を地方自治体の選択制にすることも検討の余地がある。同時に、代表機構を含む組織構成、担任事務、課税等について、米国諸州のようなチャーターに規定し、国会で承認する制度を導入することにより、「自治権」の確立を図ることが考えられる。
  • 地方には十分な税源がなく、税財源移譲に限界があるので、連邦制を採用しない以上、ナショナル・ミニマムの保障のための財源は、中央政府が調整義務を負わざるを得ない。この点、現在の三位一体改革は、税財源移譲の額が補助金等の削減額に追い付いておらず、地方の財政格差を拡大させる点で不十分である。

4自治体の適正規模論について

  • 何が適正規模であるかについては、なお議論の余地があり、人口規模だけを基準とすることには疑問がある。どれだけの自治を実現できるかが問題であり、権限、財源、事務量との兼ね合いにおいて考えるべきである。
  • 第28次地方制度調査会で、「道州制」の検討が行われているが、「道州制」の概念も明確でない一方で、小規模自治体の市町村合併が推進されているという現状に対しては懸念を持っている。


◎辻山幸宣参考人に対する質疑の概要

野田 毅君(自民)

  • 地方分権一括法が成立した頃は、従前の人材や体制では行政の責任の拡大に対応できないので市町村合併が必要であるという問題意識であったものが、現在では、財政問題から市町村合併が必要であるという問題意識に変化してきてしまっていると考えるが、いかがか。
  • 課税自主権を含む税源移譲といっても、なかなか地方には税源がないのが問題である。国がナショナル・ミニマムを保障するために財政調整する必要があるというのも一つの考え方であるが、むしろ、現在、地方税法で原則一律に定められている地方税の税率を条例により地方自治体ごとにもっと自由に定められるようにしてはいかがか。
  • 地方自治体が課税自主権を主張する以上、地方自治体の自己責任で超過税率を適用すべきということになるのではないか。

玄葉 光一郎君(民主)

  • 現在のいわゆる三位一体改革は、「三位バラバラの改悪」、「国の財政赤字の押しつけ」とも言われており、額が1兆円レベルに止まっているなど全く評価できないと考えるが、参考人の三位一体改革に対する評価を伺いたい。
  • 連邦制とは、司法権もそれぞれの「邦」で有するものと理解するが、そのような意味での連邦制を採用するには、現行憲法の改正では不可能であり、新しい憲法の制定が必要と考えるが、いかがか。
  • シティ・マネージャー制の採用等、より多様な地方自治体の形態を認めるためには、憲法93条の改正が必要と考えるが、いかがか。
  • 憲法に地方税に関する規定や補完性の原理に関する規定を明記してはいかがか。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 義務教育費国庫負担制度の在り方に関連して、教育にかかる費用は、国が負担すべきであり、一般財源化して地方に負担させるべきではないと考えるが、いかがか。
  • 現在、学校図書費は交付税により措置されているが、交付税の計算の基礎になっているだけで、実際にそれだけの予算が学校図書費に回っていないという現状がある。図書費のようなものは、ナショナル・ミニマムとして国がしっかり保障すべきであると考えるが、いかがか。
  • 現在の首長選挙においては、首長に選出される者の経営者としての能力と選挙の能力が別のものであることが問題であると考えるが、シティ・マネージャー制について、参考人の見解を伺いたい。

山口 富男君(共産)

  • 参考人には、(a)政府の側に地方自治の位置付けの点で問題があるとの認識があり、また、(b)「まちづくり条例」、「身の丈の自治」といった住民自治の拡充の動きがあるということから、地方政治が、憲法に規定する「地方自治の本旨」を具体化する能力を持っているという認識があると理解したが、いかがか。
  • 参考人が携わった「地方自治基本法構想」の柱立てを伺いたい。
  • 地方分権一括法において、駐留軍用地特別措置法上の権限を機関委任事務から国の直轄事務にしたことは、憲法94条との関係で問題があると考えるが、いかがか。
  • 日本国憲法は、明治憲法に規定がなかった地方自治について新たに規定した点で画期的なものと考えるが、憲法の地方自治規定の果たしてきた役割、21世紀において、その規定が持つ意味について、参考人の見解を伺いたい。

照屋 寛徳君(社民)

  • 現在、地方分権一括法が施行され、地方分権が実践される段階となっている。参考人は「琉球諸島特別自治制構想」をまとめたことがあるが、沖縄の自治の現状について、どのように考えているか。
  • 参考人が携わった「地方自治基本法構想」を実現する上で、憲法改正は必要ないと考えるが、いかがか。
  • 地方分権一括法が施行されている現在、「地方自治基本法構想」の意義について、参考人の見解を伺いたい。
  • 復帰前と復帰後の沖縄の地方自治を比較した際の参考人の見解を伺いたい。

二田 孝治君(自民)

  • 参考人は、「地方自治基本法」の規定により定められる自治基本条例により一定の事項について法令の適用除外を認める提案をしているが、法令の適用除外が許される範囲、その具体的な手続について、参考人の見解を伺いたい。
  • 法令の適用除外の例として未成年者の選挙権を挙げるが、統治の側面から見たときに、重大な機構に関する問題が全国レベルでの整合性を持たないことになり、不都合であると考えるが、いかがか。
  • 参考人も指摘するように、市町村合併の進展により都道府県の空洞化が生じることが想定される。連邦制や道州制より、都道府県制の廃止を議論する方が効率的ではないか。将来的に都道府県も道州も不要となるのではないか。

稲見 哲男君(民主)

  • 一連の地方分権改革は不十分であり、「地方自治基本法」を制定した上で自治基本条例に基づく自治を行うべきである。「地方自治基本法」の基本部分を憲法に規定することについて、どのように考えるか。
  • 参考人の主張する「自治権」の内容と、「自治権」が基礎自治体に一義的に付与されることを憲法に規定することについて、参考人の見解を伺いたい。
  • 分権推進のために地方の課税自主権の拡大が必要である。地方の課税自主権の本格的拡大のためには、憲法上新たな規定が必要か。また、道州で徴税を行い、国の必要分と道州間の財源調整分を道州から国に納付するという仕組みを導入する場合、憲法の規定はどのようになるか。
  • 道州が課税権を持ったり、基礎自治体が独自の課税内容を持つためには、憲法上新たな規定が必要か。あるいは、国が認証すれば足りるか。

永岡 洋治君(自民)

  • 現在、中央に人材が集中し、地方の人材が不足するという逆ピラミッド型となっているが、地方分権を進めるに当たって、地方において、権限配分に応じた人材の確保が必要になる。この側面からも、人口20〜30万人規模の市町村合併を中央主導で進めざるを得ないと考えるが、いかがか。
  • 基礎的自治体を強化するために、道州制は通らなくてはならないプロセスか。また、道州制を導入するとした場合、道州にどのような権能を持たせるべきか。
  • 自治体の統治システムは、住民から直接選出される首長と議会との二元制となっているため、議会の権能が弱いと考える。地方の選択肢を増やすために、委員会制やシティ・マネージャー制を導入することについて、参考人の見解を伺いたい。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

照屋 寛徳君(社民)

  • 憲法と地方自治の在り方を考える上で、米軍基地問題は、避けて通れない。
  • 日米地位協定は、日本の国内法を尊重することを規定しているが、一例を挙げれば、米軍関係者が自動車税を負担していないことや、緊急車両が基地内を通過できない等の大きな問題がある。また、駐留軍用地特別措置法は、実質的には沖縄の土地所有者を対象としたものであるが、同法制定の際、憲法95条に定める住民投票が行われていない。
  • 今後、分権化を進める際には、憲法の枠内で、一国多制度ともいうべき多様な自治体の在り方を検討すべきである。

増子 輝彦君(民主)

  • 参考人も述べたように、地方分権が進められているにもかかわらず、実際には通達行政の弊害が残っている。今後、分権化が進むに従い、この問題が大きくなると考えられる。
  • 地方分権が進むに従い、地方の権限は増大するが、このとき首長の多選は、首長の権限の拡大により独裁の弊害が生じ、地方自治がゆがむ可能性がある。立候補の自由との兼ね合いも考えつつ、首長の多選禁止等の歯止めを検討すべきである。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 地方分権の推進に当たっては、権限や財源の移譲が重要であると改めて感じた。そして、分権を実質化させるためには、やはり東京に一極集中している経済の中心の分散が必要である。

中山 太郎会長

  • 明治の廃藩置県では、多くの場合、山脈や河川など自然の地形に基づいて境界が設定されたが、第二次世界大戦後、高速道路網や通信手段の発達により、都道府県を越えた生活圏が成立し、都道府県の範囲が小さくなっているという問題がある。
  • 将来、道州制を実施する際には、一方で、道路整備のように都道府県を越えて生活圏が広がることに対応するための事業が必要であるが、他方で、財政状況等他県の実情はよく分からないという矛盾の解決を、住民と中央政府が一緒に考える必要がある。

辻 惠君(民主)

  • 今国会で審議されている行政事件訴訟法改正案は、原告適格の厳格性等の行政訴訟の問題点を改善するものではなく、不十分である。機関訴訟や団体訴訟も広く認められるよう改善すべきである。
  • 行政の肥大化の中で、行政統制をいろいろな形で行う必要があるが、だからこそ、地方分権は行政統制のためにも重要であり、憲法に定める住民自治の意義をより発展させる必要がある。まちづくりにあたっては、身近な下からの合意が必要であって、「まちづくり条例」等の必要性についての参考人の指摘は、有益である。
  • 基礎自治体の代表機構の在り方については、二元制から選択制への移行やチャーター制の採用など、多様性を持ったものとすべきである。
  • 基礎自治体に対し、第一義的に事務の実施等の判断権を付与すべきである。それと同時に課税自主権や条例制定権も自治権確立の方向で捉え直すべきである。