平成16年5月27日(木) 統治機構のあり方に関する調査小委員会(第5回)

◎会議に付した案件

統治機構のあり方に関する件(二院制と会計検査制度)

上記の件について、会計検査院当局より説明聴取及び参考人只野雅人君より意見聴取の後、質疑を行った。その後、委員間で自由討議を行った。

(会計検査院当局)

 会計検査院長      森下 伸昭君

 会計検査院事務総局次長 重松 博之君

(参考人)

 一橋大学大学院法学研究科助教授 只野 雅人君

(只野雅人参考人及び会計検査院当局に対する質疑者)

 中山 太郎会長

 鹿野 道彦君(民主)

 斉藤 鉄夫君(公明)

 山口 富男君(共産)

 土井 たか子君(社民)

 岩永 峯一君(自民)

 馬淵 澄夫君(民主)

 古屋 圭司君(自民)


◎会計検査院当局の説明の概要

1.会計検査院の地位

  • 会計検査院が国の財政監督機関として、客観的、中立の立場に立って厳正、公平にその職務を遂行するためには、独立性が確保されることが何よりも重要であり、独立性を保障するための措置としては、(a)人事権の独立、(b)規則制定権の保持、(c)二重予算制度がある。

2.会計検査院と国会との関係

  • 会計検査院は独立機関であるが、(a)検査官の任命についての国会の同意、 (b)会計検査院の作成する決算検査報告の国会への提出、(c)会計検査院長の国会への出席・説明、(d)国会による検査要請、(e)各議院の調査室への説明という点で、国会と密接な関係を有している。なお、参議院から内閣に対して、平成15年度決算以降は、決算の提出時期を早め、会計年度の翌年度の11月20日前後に国会に提出するよう要請があった。

3.検査成果の反映

  • 会計検査結果を制度、予算等に反映させるため、(a)会計検査院の検査結果が決算検査報告により国会に報告され国会における決算審査の際の重要な資料とされ、(b)会計検査院が改善の処置を要求した事項及び意見を表示した事項の事後処置状況の把握・決算検査報告への掲記がなされ、(c)財務省主計局等との連絡会が開催されている。

4.主要諸外国における会計検査院の地位等

  • 米国の会計検査院(GAO)は実質的に連邦議会の付属機関、英国の会計検査院(NAO)は下院の官吏である院長を補佐する機関、ドイツの会計検査院(BRH)は独立機関、フランスの会計検査院(CDC)は司法機関としての性格を有する独立機関である。

◎只野雅人参考人の意見陳述の概要

1.はじめに

  • 単一国家の二院制の場合、第二院の独自性をどこに求めるのかということが問題となる。これはとりわけ、日本の参議院に当てはまる。

2.二院制の類型と意義

(1)第二院の類型―第二院の存在はどのように説明されうるか

  • 第二院の分類の方法として、(a) 国家類型・政治体制からみた類型、(b) 代表原理からみた類型、(c) 権限からみた類型があるが、実際には、これらの類型を組み合わせた分類が必要となる。

(2)二院制の機能―レープハルトによる分類

  • レープハルトによる権限と構成の観点からの二院制の分類において、日本は、中間的強度の二院制で、対等な権限・似通った議院構成を持つものに分類される。

(3)単一国家における二院制―独自性と〔民主的〕正当性

  • 世界全体では、一院制採用国が多数であるが、レープハルトによれば、人口が一定規模(1千万人)以上になると、二院制が採用される傾向にあるとされる。これは、一定規模以上の人口になると一院だけの代表では限界があり、経験的に二院制が採用されてきたものと考えられる。
  • 第二院が民主的正当性で劣ると、最終的には第一院が決定することとなるというシステムをとらざるを得ない。このとき、両院の対立が頻繁に生じるかもしれないが、こうした対立を繰り返すことが妥当であるかについては疑問がある。また、構成の類似が第二院の独自性を阻害するのかについても疑問がある。

3.二院制の原理と機能―フランス元老院

  • 日本と同様に単一国家で二院制を採用する国として、フランスがある。
  • フランスの元老院(第二院)は、独自性を出すために地域代表の原理を採用し、その具体化として人口比例を犠牲とした間接選挙をとっている。
  • フランスにおいても第二院の政党化は避けられないが、両院の構成が似通っている場合でも元老院が有益な役割を果たしていた。

4.日本国憲法の二院制と参議院

(1)日本国憲法における参議院

  • 「衆議院の優越」が一般に言われるが、法案の衆議院の再議決要件が3分の2であることから、参議院の権限は強く、対等型であると考える。

(2)独自性の模索

  • 参議院の選挙制度として、旧全国区等の選挙制度が採用されたが、結果的には衆参の構成は似通っていた。
  • 「理性の府」として非党派性を目指す議論もあるが、普通選挙を前提にすると現実的でなく、目指すべきは参議院らしい政党化である。具体的には、内閣を作る衆議院に対して、内閣の批判に徹する参議院を目指すという方向が考えられるが、その有効性についてはやや懐疑的である。
  • 1990年代以降、衆参の「ねじれ現象」が生じた時期があったが、参議院を含めた多数派工作が行われたため、必ずしも独自性は発揮されなかった。
  • 「強い参議院」のために、衆参の妥協が引き出され、法案の修正が行われることからすると、必ずしも参議院の権限を弱める必要はない。

(3)参議院の意味

  • 参議院の意味は、衆議院と異なる形で民意を反映することである。衆参の構成が異ならない場合、大きな対立がないとしても、参議院において法案の修正の可能性があり、これは多様な民意の反映とみなせる。
  • 参議院の独自性は発揮されてこなかったと考えられるが、衆参両方の選挙制度に政党本位が強調された制度が導入されている。これの見直しは検討に値する。また、現行では国会法により院の組織が詳細に定められているが、これは憲法が本来想定した姿ではない。議院規則により自らの組織に関する重要事項を決定できない院は、独自性を発揮できない。

(4)参議院の役割

  • 参議院には、多様な民意を反映し、長期的な視野に立った調査活動を行い、行政に対するコントロール機能を持つことが期待される。
  • 衆議院―予算審議、参議院―決算審査という役割分担は、弱い権限を持った参議院がどこまで有効な統制を行うことができるのかという点から好ましいものではない。

5.むすび―「両院制」の改正は必要か

  • 憲法政策的に見て、現行の二院制は是認できる。二院制がより機能しうる前提を整えることが必要である。

◎只野雅人参考人及び会計検査院当局に対する質疑の概要

中山 太郎会長

<会計検査院当局に対して>

  • かつては、参議院で決算を審査するまでに相当の時間を要し、国会による決算の承認が大きな意味を持たないという意識があったのに対し、現在はコンピュータの導入等により会計年度の翌年度の11月という予算編成前に決算を国会に提出できるようになったと考えるが、いかがか。
  • 会計検査院の職員に理工系の出身者は何%程度いるのか。

<只野参考人・会計検査院当局に対して>

  • 米国のGAOは、議会に付属して強い立場を持ち、その検査により、GAOの予算の80倍以上の大きな便益を生み出しているが、わが国においても、会計検査院が、政府から独立し、議会に密着した立場で検査をすることができないか。また、予算は衆議院先議であり、その間の参議院の空白期間を活用して決算審査をさせてはどうか。

<只野参考人に対して>

  • 戦後のドイツと日本の首相の数を比較した場合、日本はドイツの4倍である。このことは、不信任案を出すときに次の首相候補を掲げるというドイツの建設的不信任の制度に関係すると考えるが、いかがか。


鹿野 道彦君(民主)

<会計検査院当局に対して>

  • 米国議会の付属機関であるGAOが大きな成果を出していることから、日本においても会計検査院の国会の付属機関化について検討すべきであるとの意見もある一方、会計検査院の中立性が十分維持されない可能性があるとも指摘されている。このような会計検査院の国会の付属機関化について、どのように考えるか。また、我が国の統治機構が、議院内閣制ではなく、厳格な三権分立制をとる大統領制であれば、どうか。
  • 平成9年に導入された国会による検査要請の制度により会計検査院が報告したものは、未だに2件しかない。この制度をより有効に機能させるためには、どのような見直しが考えられるか。

<只野参考人に対して>

  • 上記の報告が2件しかないのは、与党が了解しないと検査要請ができないからである。そこで、一定数の議員からの要求があれば、検査要請をできるようにすればよいと考えるが、いかがか。
  • 二つの議院が別個に選挙される以上、それぞれ異なる形での代表機能が期待されるのは、ごく自然なことであると考えるが、両院の選挙制度の在り方について、どのように考えるか。
  • 日本国憲法は、選挙制度については、43条1項等に規定するのみであるのに対し、諸外国では選挙制度の重要な事項について憲法上明記している。選挙制度について、憲法により具体的な定めを置くべきか。また、その場合、いかなる規定を置くべきか。


斉藤 鉄夫君(公明)

<只野参考人に対して>

  • 自民党が参議院で過半数を占めていない現在、政治的安定のために連立政権が組まれており、ある意味、参議院が今の連立政権の基礎にあると考える。この点について、どのように考えるか。
  • 現在の衆議院の小選挙区比例代表並立制を前提にした場合、参議院の選挙制度としてはいかなる制度が考えられるか。また、被選挙権が衆議院25歳、参議院30歳であることについて、どのように考えるか。
  • 国会の委員会は各府省に対応するものとなっており、効率的ではある一方、国会の本来の機能が発揮できるのかとも感じるが、いかがか。

<会計検査院当局に対して>

  • 個人・組織の不正支出のチェックより、入札制度のように制度そのものに起因する無駄のチェックが必要と考えるが、そのいずれが主体で、どのような比率で行っているのか。


山口 富男君(共産)

<会計検査院当局に対して>

  • 客観的・中立的な立場で厳正・公平に検査を行うという視点から、会計検査院の現在の仕事の在り方として改善の必要があると感じる検討課題はあるか。
  • ここ数年、内閣官房や外務省における機密費等が大きな問題となっているが、この点につき、現在どのような問題があると認識しているか。

<只野参考人に対して>

  • 只野参考人は、二院制を規定する日本国憲法に問題があるのではなく、現実の政治や運用の在り方に問題があり、それを改善する方向で参議院の独自性の発揮を考えるべきとの認識と理解したが、いかがか。
  • また、41条は、国会を国権の最高機関、国民代表機関と位置付けているが、主権者国民の意思の貫徹の視点から二院制を論じる場合に重要だと思う点は何か。
  • 参議院の存在意義について、参考人の論文・陳述には「多様な民意を多元的に反映する」という表現が何度か出てくるが、その点について、もう少し詳しく伺いたい。
  • 決算審査を参議院に特化させることには疑問であるとのことであったが、憲法上の要請として、決算については国会の事後のコントロールが必要であり、そうであるとすると両院が予算と決算の十分な権限を持たなければ憲法上問題となると考えるが、いかがか。
  • 院の自律に関連して、憲法58条の趣旨から国会法と議院規則を見直すべきことについての発言があったが、その点について、もう少し詳しく伺いたい。


土井 たか子君(社民)

<会計検査院当局に対して>

  • 会計検査院は、会計検査院法上、「独立の地位を有する」とされるが、内閣の影響下にあって十分機能を果たしていないとの批判があることについて、どのように考えるか。
  • 会計検査院は、検査官の任命権が内閣にあり、また、財務省による予算の査定を受けるため、内閣から独立を保つのは困難ではないか。
  • 米国の会計検査院(GAO)は、有効性についての検査を重点的に行っていると聞くが、我が国の会計検査はどのような点を重視して検査を行っているか。
  • 検査官の定年は何歳か。優れた人材を得るために定年を延ばしてはどうか。

<只野参考人に対して>

  • 会計検査院の独立性を保つために、人事権や予算の査定の権限を内閣から切り離すことが大事なのではないか。


岩永 峯一君(自民)

<会計検査院当局に対して>

  • 英国の会計検査院(NAO)は、検査を外部委託しているが、我が国でも外部委託を検討すべきではないか。
  • 会計検査院では、公認会計士を任期付職員として採用していると聞くが、現在どのような面で活用しているか。また、採用による効果はどのようなものか。
  • 会計検査院は、GAOやNAO等との交流を通じてどのような改善を採り入れたか。

<只野参考人に対して>

  • 衆参両院の選挙制度が似通っているのは適当ではなく、衆議院は小選挙区選挙により選出された300人、参議院は比例区選挙により選出された100人で構成するのがよいと考えるが、いかがか。
  • 現在、各議員は、時間的にも経済的にも余裕なく仕事をしているが、議員が能力を十分に発揮できるように、秘書の増加等の待遇の改善を通じて環境を整えるべきである。そのためにも、前述のように選挙制度を変えて議員を減らすべきであると考えるが、いかがか。


馬淵 澄夫君(民主)

<只野参考人に対して>

  • 二院制の在り方を考えるに当たっては、院の構成や選挙制度のほかに、衆参を通じた慎重な審議により民意の変化が反映されるという側面も考慮する必要があると考えるが、いかがか。
  • 参議院は慎重審議の場であり、衆議院と異なり政権の製造者・保持者ではない。このような参議院の選挙におけるマニフェストの位置付けについての見解を伺いたい。
  • 衆参の各選挙を通じたその時々の民意の反映、両院での審議の民意へのフィードバックという理想的な姿が、現在、実現していると考えるか。
  • 参議院を「権力なき貴族院」として、チェック機能に特化するとの意見もあるが、いかがか。
  • 参考人は、政治レベルが進化した形として二院制を捉えているか。


古屋 圭司君(自民)

<只野参考人に対して>

  • 参考人と同様、一院制論には与しない。二院制の在り方を考えるに当たっては、院の構成や選挙制度よりも、むしろ権限の側面から参議院が独自性を発揮できるように考えるべきであると思うが、いかがか。また、両院の役割分担を変える場合には、それが院の構成や選挙制度の在り方にどのようにリンクすると考えるか。
  • 地方分権を実現するには、道州制を目指すべきである。その場合、道州を一つの単位として参議院の選挙制度を考えることが可能ではないか。また、このような選挙制度を考える際には、「全国民を代表する」と規定する43条1項を改正すべきか。
  • 内閣不信任決議権は衆議院にしか認められていないが、参議院の問責決議により閣僚が辞任に追い込まれる場合がある。そのため、参議院においても多数を確保するため、その政党化が不可避となっている。こうしたことを踏まえると、参議院はこのような決議を行うことを自制する慣行があってよいと考えるが、いかがか。
  • 会期制が採られていることから、参議院において、十分時間をかけて予算や法案を審議できない状況がある。このようなことから、会期制の廃止を検討すべきと考えるが、いかがか。

土井 たか子君(社民)

  • 定足数は衆議院憲法調査会規程11条によれば委員の半数以上と定められており、現在、この要件を充たしていない。

>鈴木克昌小委員長

  • 言われるとおりだが、理解していただきたい。

>船田 元君(自民)

  • 規程上は確かにそうだが、発言したい委員のことを考えるとこのまま続けさせていただきたい。

>鈴木克昌小委員長

  • 小委員長の判断によりこのような形でということで、ご理解いただきたい。

◎自由討議における委員の発言の概要(発言順)

辻 惠君(民主)

  • 現在の二院制は参議院の反対意見を見越して多数派形成がなされているという参考人の指摘があったが、参議院の対応を見越した連立政権により二院制が機能していない現状を残念に思う。
  • 私は二院制を維持して、多様な民意が反映される体制を作るべきと考える。
  • 二院が対等な権限を有していても両院は独自性を発揮できるとの参考人の発言は重要な視点である。
  • 多様な意見を反映する二院制をどのように形成するかについては、行政統制が中央集権的である現状を踏まえ、地方の意見を反映させることが大切である。地方分権を徹底させ、地方の意見を国政に反映させる観点から二院制のありようを考えるべきである。


山口 富男君(共産)

  • 小委員長の議事整理権に応じて発言はするが、出席に関して与党に猛省を求めたい。
  • 午前、午後の調査会を通じて両参考人から憲法改正が必要との発言はなく、憲法に反する現状の改革が必要であるとの発言があったことは重要である。今後の調査を進めていく上でも、憲法の規範に照らして現状を見ることが大切である。
  • 憲法が二院制を認めている以上、主権者たる国民の意思がどのように二院に反映されているかが重要な問題である。その上で選挙制度、審議の内容等を吟味する必要がある。


船田 元君(自民)

  • 特に与党側の出席者が少ないことは非常に残念であり、憲法を議論する大事な場であるから、今後十分気を付けたい。
  • 我が国は、連邦国家ではなく単一国家であること、両院の議員が選挙によって選ばれている政治代表であること等から、二院制のメリットや違いをどうやって発揮していくかが重要であり、戦後これまでの間、定着してきた二院制のメリットを活かして、その存続・充実を図るべきである。
  • 衆議院で小選挙区制を採用し、参議院で比例代表制を採用する等、両院の選挙制度を全く性格の異なるものとすることが両院の性格の違いを際立たせることに繋がるのではないか。
  • 二院制を考えるに当たっては、両院のどちらが優越するかという権限の強弱ではなく、両院の権能に違いを持たせることが妥当であると考える。例えば、衆議院は予算中心主義、参議院は決算中心主義とし、参議院に会計検査院を付置するという形も一つの方向としてありうるのではないか。
  • 二院制のメリットや知恵を大いに利用することが重要である。


土井 たか子君(社民)

  • 各委員は、今日のスケジュールを充分承知しているはずである。今日は、この時間まで出席を待ち続けたけれども、出席の様子がないということを確認しておきたい。