平成16年6月3日(木)(第7回)

◎会議に付した案件

1.幹事の補欠選任

  補欠選任  福田康夫君(自民)  小野晋也君(自民)委員辞任に伴いその補欠

  補欠選任  枝野幸男君(民主)  仙谷由人君(民主)委員辞任に伴いその補欠

2.会長代理の指名

  会長代理に枝野幸男君(民主)が指名された。

3.日本国憲法に関する件

  小委員会ごとに、小委員長から報告を聴取した後、自由討議を行った。


◎安保国際小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪地域安全保障(憲法の視点からのFTA問題を含む)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

近藤 基彦小委員長(自民)

  • 地域安全保障の在り方について、アジアにおける地域安全保障の枠組みを考える際には集団的自衛権の行使を認めるか否か、認めるに当たって、条件を設けるべきかどうか検討を要するとの発言、冷戦崩壊後、多国間の協調的安全保障が重視されてきており、憲法は軍事的手段を否定していることから、我が国は平和的な外交手段を充実させるべきとする発言等があった。
  • 我が国の外交や安全保障の在り方について、国連の機能が完全に発揮されていない中で米国との協調は不可欠であるが、国連に対する働きかけを積極的にしていくべきとの発言、FTAを締結することによる我が国の経済的なプレゼンスの高まりがアジア諸国の脅威となるのではないかとの発言等があった。
  • 不安定な要素を含むアジア地域全体を念頭においた安全保障の確保は、我が国にとって喫緊の課題であり、またそれを実現する手段として、防衛という側面のみならず経済的な結びつきを強めていくこと、各国間の対話を通じて信頼関係を築くことなど多様な取組が存するということを認識した。
  • 我が国の安全保障や国際協力の在り方について、9条や前文をめぐる争点に関する憲法上の問題の所在が次第に明らかになってきたと考える。今後もそうした問題に関して、引き続き調査会においてさらに議論が深まることを望む。

●自由討議

楠田 大蔵君(民主)

  • 菊池参考人は、アジア地域の脅威には軍事力、抑止力による対処が必要であり、この脅威に対して、日本が軍事的な役割を果たすために、集団的自衛権が行使できるように憲法を改正する必要があると述べたが、この発言はいささか危険ではないかと考える。
  • 米国のアフガニスタンやイラクに対する軍事的侵攻は、テロとの戦いであるとされるが、現在、泥沼化し、虐待も起きている。参考人は有志連合の必要性に触れたが、軍事的な行動は抑制的でなければならない。イラク攻撃のように、国際社会の支持がない軍事行動は誤りである可能性が高く、正当な国連決議が最低限必要であると考える。
  • 地域安全保障は、政治や経済、社会面における実質を伴った総合的な取組が重要である。日本が戦略的にFTAやEPAを締結することは、アジアにおいて極めて有効である。
  • EU拡大は、加盟にハードルを設けることで、途上国を先進国にキャッチアップさせる効果がある。アジアは様々な問題を抱えるが、全体の底上げを図り、経済の相互依存関係を構築するという内側からの取組が、アジアの地域安全保障につながると考える。
  • 政府間のみならず、官民合同のフォーラム、あるいは、民間主導での経済的、文化的な取組が重要である。

棚橋 泰文君(自民)

  • 地域安全保障を検討するに当たっては、前文や9条が持つ高邁な理想と、その下で我が国が平和であったという事実を深く認識するとともに、冷戦構造という憲法制定当初の前提条件がなくなり、地域紛争が起きやすくなっており、地政学的リスクを負う状況にある中で、国益をいかに守るかを考えるべきである。
  • 国家の安全は、軍事面のみならず、本来、政治、外交、経済を通じて、いわば運命共同体の枠組を構築するという観点からも考えられることであり、FTAはその一つである。
  • 我が国の安全保障のために、まず9条を柱に、平和主義を大原則に据えて、経済、外交、政治を含めた地域安全保障を考え、その上で、国際的状況が許さないのであれば、集団的自衛権の議論をすべきである。

船田 元君(自民)

  • アジア太平洋地域の安定や繁栄は我が国の国益に直結しており、日本がこの地域にいかに貢献するかが重要である。
  • アジアにおける日本の戦前の行為は反省すべきものがあるが、アジアの平和・安定に向けた政策の実行を躊躇すべきではなく、憲法の下で積極的な役割を演じるべきである。
  • アジア諸国は多様であるため、安全保障や危機管理、経済のための地域システムの構築は不可能であるとの固定観念があるが、今後我が国は、地域全体の公共財となりうる多国間システムをアジアにおいて構築することに貢献すべきである。
  • アジアにおける中国の存在は大きく、政治・経済の両面において、公正で開かれた国づくりがなされるよう、我が国は協力していくべきである。

山口 富男君(共産)

  • 地域安全保障を考えるに当たっては、21世紀におけるアジアの現状認識、日本の平和外交戦略の中身、その際に依拠すべき憲法原則が問題となっている。
  • アジア地域は、国の構成や宗教などの面において多面的特徴を持ち、また、現在、非同盟運動が起きており、注目すべき地域である。日本は平和外交戦略をきちんと持って、憲法の平和主義と過去の侵略戦争の反省の下で行動すべきである。また、集団的自衛権を憲法は認めていないと考える。
  • 東南アジアに比べ北東アジアは不安定な要因を抱えており、この問題の解決が北東アジアの平和と安定に欠かせない。5月の日朝首脳会談は一定の前進が見られ、六者協議を含め、北東アジアの平和と安定のために日本が重要な役割を果たすことができる。台湾問題については、50年にわたる植民地化などの歴史をみると、日本は独自の役割を果たす立場にあり、台湾住民の合意の下に中国との平和的統一を望む。
  • FTA問題については、我が国は、国連憲章上の主権国家の平等原則や憲法の国際協調主義等を踏まえた対処が求められている。通貨危機後、自主的経済圏をつくっているアジアにおけるFTAを考える際には、経済主権と平等互恵の立場に立って対処する必要がある。

中谷 元君(自民)

  • 集団的自衛権や集団安全保障の議論を悪いもの、危険なものと考える向きもあるが、欧州にはNATOがあり、また、EU軍が創設されている。地域安全保障のために各国が実力組織を提供し、ルールを定めて守ることとされている。集団的自衛権、集団安全保障、地域安全保障は、国連憲章において認められている。
  • 集団的自衛権は有するが行使できないと解釈されているが、これは憲法の持つ自己欺瞞、現実逃避である。有しているのであれば行使もできるとすべきである。
  • テロや海賊行為に対しては、一国ではコストもかかり不可能であるから、地域安全保障により対処するべきである。
  • 我が国が将来的に安保理常任理事国入りし、国際的な地位を確保するのであれば、国連の集団安全保障に参画するのは当然である。
  • 安全保障の軍事的な対処については、脅威に対する抑止のために必要であるとの高い見識に立って考えるべきである。我が国は、人任せではなく自らが脅威に対処すべきである。

赤松 正雄君(公明)

  • 現在は、時代の節目だから憲法も時代に適合したものが必要であるという論調が一部にあり、雰囲気的に憲法の転機が作り出されている感がある。時代の経過とは別に、国家と国家の関係には、意外と変化がないという面もあるのではないか。
  • 1945年に米軍がドイツの非軍事的都市であるドレスデンを破壊したことに対し、1995年に欧米間で「ドレスデンの和解」がなされた。日本とアジア諸国の関係においても、過去の戦争のけじめをつけるという意味で、和解の意思表明が必要ではないか。

土井 たか子君(社民)

  • 小委員長報告では、「9条や前文をめぐる争点に関する憲法上の問題の所在が次第に明らかになってきた」とされているが、何が具体的に明らかになってきたのか。端的にどういうことを言っているのか。

>近藤基彦君(自民)

  • 論議を積み重ねてきた結果、憲法そのものではなく現在の運用の仕方が悪いという意見や、憲法が時代に合わなくなっているのではないかという意見も出てきており、さらに、論議を深めていってはどうかということである。

>土井たか子君(社民)

  • 小委員長報告では、「9条や前文をめぐる争点に関する」が前提となっており、憲法全体ではなく、限定的に問題の所在についての認識を持っているのではないかと思ったのだが、どうか。

>近藤基彦君(自民)

  • 私の受け持つ小委員会は、安全保障や国際協力に関する小委員会であり、その中での議論で、争点がいくつかの部分で現れている。集団的自衛権、国連軍、多国籍軍に関する論戦がなされ、それをさらに深めてもらいたいという意味である。

>土井たか子君(社民)

  • 安全保障や国際協力は、9条や前文だけに限らず、憲法全体に関わる問題である。「9条や前文をめぐる」と述べることに、何か意味があるのではないか。

>中谷元君(自民)

  • 9条と前文の抱える問題は、国会においてもPKOやイラクへの自衛隊派遣等の都度、様々な議論が行われている。この問題について、国民が明確に理解できるような文章に改め、できることとできないことをきちんと示すことが国家の基本法の役目である。憲法の抱える問題を指摘したという点で、指摘の部分は正しい記述であると考える。

山口 富男君(共産)

<中谷委員の発言に関連して>

  • 私は、集団的自衛権について、悪者論という言葉は使っていない。しかし、集団的自衛権を自明のものとして扱う姿勢は正しくない。国連憲章51条の集団的自衛権は、憲章に盛り込まれた経緯からも、例外的規定であり、国家に固有の権利とは言えない。
  • また、歴史の事実からも、米国のベトナム戦争やソ連のアフガニスタン侵攻のように、集団的自衛権は、実際には集団的攻撃権として現れる。世界の多数の国々が非同盟となっている流れを見ても、集団的自衛権を自明であるかのように捉えることは正しくないと考える。

◎最高法規小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪憲法と国際法(特に、人権の国際的保障)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

保岡 興治小委員長(自民)

  • 憲法が定める人権保障をより充実させるための手段として、国際人権条約の考え方を憲法に取り込んでいくことが有用である。
  • 我が国の国際人権条約の批准状況及び国内適用の現状に対する評価については、意見の分かれるところであった。
  • 憲法と国際法の在り方を考えるに当たっては、憲法の国際法に対する尊重的態度をより具体的な形で実現するために、立法・行政・司法の幅広い視野からそれぞれの国際法への関与の在り方について、総合的に検討を行う必要がある。

●自由討議

大出 彰君(民主)

  • 私は、裁判所が法律の条約適合性審査に消極的な現状に疑問がある。
  • もし国際人権規約が自動執行条約(self-executing treaties)であるのであれば、国内に即座に適用すべきである。

下村 博文君(自民)

  • 憲法と条約の関係については、98条に「憲法の最高法規性」を定める1項と、「国際協調主義」を定める2項という、二つの規定が存することにより、歴史的に不明確な判断がなされてきた。このような現状を考えると、98条を改正し、憲法と条約の関係をより分かりやすくすることが求められていると考える。
  • 1993年に国連の市民的及び政治的権利に関する委員会から死刑廃止の取組が遅れているとの勧告を受けた。しかし、人権に対する考え方は民族ごとの文明観により異なり、死刑廃止問題についても、世論調査では死刑制度の存続を約9割が望んでいるなど、我が国の国民の死生観が反映されていると考える。死刑廃止の取組が遅れているとの指摘は決して当たらない。

武正 公一君(民主)

  • 政府は、国内法の整備を進めたいがために、条約の批准を調整しているようにみえる。そのような状況がILOの未批准条約などを発生させていると考える。
  • 現在、条約の一部に留保を付すか否かの判断は、政府の専権事項とされている。これを国会の判断に委ねた場合、二国間条約では相手国との再交渉にもつながりかねず、影響が大きいのに対し、多国間条約ではすでに国際機関で採択されている条約本体に影響を及ぼすことはないのであるから、多国間条約の場合には、政府による判断ではなく、国会の主導で条約の審議を進めていくことが可能であると考える。

山口 富男君(共産)

  • 日本は、さまざまな国際機関から人権や民主主義の現状について、改善するように繰り返し勧告を受けている。国際機関が数年おきに実情を調べ、政府からの報告を受けて委員会を開いて検討し、その上で改善が必要なら勧告するという動きは、20世紀から21世紀にかけての世界の一つの知恵であると考える。
  • 21世紀においては、各国ごとに憲法に基づいて人権や民主主義の状況を改善すると同時に、世界の眼で見ながら改革を促していくことが求められている。日本の場合、二つの世界大戦を経て、生存権をはじめとする社会権規定が豊かになる時期に生まれた憲法を持つ国として、国内における憲法に反する事態を改めていくことが、日本にとっても、世界の人権や民主主義の前進にとっても大きな意味を持つものと考える。

土井 たか子君(社民)

  • 憲法と条約の関係について、私は二元論の立場である。
  • 現在、73条3号に係る条約締結における「国会の承認の要否」の判断権は、政府が有している。しかし、条約は一旦締結されれば、国として遵守する義務が生じるため、条約に係る立法措置など国内法に与える影響も大きいことから、立法府の関与は不可欠である。したがって、「国会の承認の要否」の判断権は、政府ではなく国会が有するべきであり、それは憲法の趣旨に反するものではない。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪経済的・社会的・文化的自由(特に、職業選択の自由・財産権)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

山花 郁夫小委員長(民主)

  • 日本の景観は、経済性や効率性、機能性を重視したため雑然とし、無個性・画一的であるということは委員間の共通の認識であったと思われるが、景観や都市計画に関する規定を憲法に置くべきか否かについては意見が分かれた。
  • 日独の差異の背後にある問題として、ドイツの基礎的自治体には、ボン基本法により都市計画権限が自治権の一部として認められており、景観形成や都市計画においては、地方分権が重要であるという指摘もあった。
  • 参考人が紹介したドイツの包括的で精緻な都市計画・景観保護制度、そしてその制度を下支えする地方分権、特に、基礎的自治体重視の思想は、日本における景観保護・形成の推進にとっても参考になる。

●自由討議

船田 元君(自民)

  • 29条2項は、公共の福祉について他の条文と異なる書き方をしているが、これは、土地など限りがある財産については公共の福祉の概念をより強く意識せざるをえないことが憲法に反映されているからではないかと考える。
  • 財産権制約における「公共の福祉」の概念が、公共事業のように市民の関与が少なく行政が主体となっている制約から、まちづくりのように市民自らが選択する制約へと変化が見られる点に注目していかなければならない。また、景観法案にみられるように、公共の福祉が、市民の安全・利便性から快適さや美しさといったものを重視するものへと移っていることは画期的と考えられる。こうした点をどのように憲法に規定するかについて議論すべきである。
  • 日本とドイツの都市計画の在り方に関して、ドイツには「計画なくして開発なし」という目に見えないバックボーンがあることを感じた。これをどのように規定するかということも重要な問題と考える。

山口 富男君(共産)

  • 公共の福祉についていろいろな意見があるようだが、「公共の福祉」とは、人権相互間の調整機能を指す。
  • 憲法における「公共の福祉」は、まちづくりにおける業者と住民との対立のような例に対しても、裁判や立法等で対応ができる深みを持った規定である。
  • 都市計画の分野における地方自治については、野呂参考人の委託調査報告書『日本とドイツにおける都市計画・都市景観形成と財産権制限』にあるように、計画段階での住民参加が保障されているかどうかが大切であり、また、法律の運用という点での立法府による点検が欠かせないと考える。

岩永 峯一君(自民)

  • 私は、美しい景観を後世に残し伝えていくことが我々の使命であると考え、この問題について訴えてきた。しかし、財産権に対する考え方が日本と諸外国とでは異なり、景観保護のための私権制限を乗り越えることができないという壁があった。このたび景観緑三法案の国会提出までこぎつけることができ、衆議院を通過した。この法案を成立させ、また、自治体等の大きな運動によって、すばらしい景観を作っていかなければならないと考える。
  • 景観について憲法の中での位置付けを明確にすべきと考える。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 確かに、日本の景観は貧弱なものであると感じる。とはいえ、大規模ニュータウンのように、すばらしい都市計画に基づき建設され美しい景観を持つ街が、人間味のない街になってしまっている事例もある。まちづくりは、人工的に押し付けるのではなく、ドイツのように伝統・文化に基づいて行われる必要があると考える。
  • 建築家の間で、建築基準法による規制が厳しいため、作品表現にも支障があるので、これを緩和・撤廃してほしいという声があることは、私は賛成するものではないが、景観に関連する一つの動きとして紹介しておきたい。

古屋 圭司君(自民)

  • 景観に関しては、失われた景観を再生して将来の世代につないでいくことも、一つの重要な視点である。教育や歴史・伝統を大切にする精神を醸成していくことによって、景観保護がごく当たり前のものとして意識され、定着していくのではないか。また、この点について、憲法に規定していくことも考えられる。

渡海 紀三朗君(自民)

  • 建築家の間には、建築基準法が「創造権」を著しく制限しているなどの理由で憲法違反だとする意見があることは知っているが、安全を担保することが建築家自身にできるのかを考えなければならない。
  • 景観については、社会全体のコンセンサスを得られるようにしていくべきであり、伝統・文化の保存に当たって、法整備を行うのか、憲法改正まで必要なのかを考え、多くの人が利益を得られるように、国づくりを行っていくべきである。

山口 富男君(共産)

  • 日本の景観が壊されていることについては心を痛めているが、ここには、景観を壊してきた政治の姿があるのだから、その政治を改革することが先であり、憲法改正を問題にするのは話が違うのではないか。

◎基本的人権小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪刑事手続上の権利(行刑上の問題を含む)・被害者の人権≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

山花 郁夫小委員長(民主)

  • 被疑者の人権に関しては取調べにおける弁護人立会権、裁判員制度に関してはその導入に対する評価、死刑制度に関してはその存廃論、被害者の人権保障に関してはその議論を深めていく必要性等について議論が行われた。
  • 刑事手続規定が、諸外国に例を見ないほど詳細であるのは、旧憲法下において人身の自由が侵害されたことへの深い反省に基づくものである。折しも現在、司法制度改革・行刑改革が進行し、また、被害者の人権への関心が高まっているが、これらは人身の自由の規定を具体化する流れであり、人身の自由の分野では、国民の基本的人権の保障を主眼とした憲法の運用が大切であることを示したものといえるのではないか。

●自由討議

倉田 雅年君(自民)

  • 憲法の刑事手続規定は10箇条に及ぶ詳細な規定をもつが、運用面で戦前の職権主義が残っており、職権主義を全面的に当事者主義へ転換することが人権保障のために重要である。裁判員法や被疑者段階での公的弁護制度を導入した刑訴法改正等に、その転換をみることができるが、当事者主義の貫徹からは、参考人・被疑者段階での取調べにおける弁護人立会権を認めることが必要である。
  • 取調べにおける弁護人立会権は、31条や34条を根拠に認めることもできると思われるが、憲法を改正するならば、明確にこれを定めるべきである。
  • 裁判員制度については、被告人が「裁判員制度による裁判」と「職業裁判官のみによる裁判」を選択することができる制度も検討すべきである。

辻 惠君(民主)

  • 憲法の刑事手続規定に関して、問題はその制度運用にあって、憲法改正は必要ではない。
  • 司法制度改革の思想を端的に表すのは、司法制度改革審議会の会長である佐藤幸治教授の「国民を統治される客体から統治する主体に変える」という言葉であると考える。しかし、このことは、改革の名の下に、「国家からの自由」を国民に保障するという憲法の本質を変容させ、国家と国民を一体化させてしまうことを表しており、強い危惧を感じる。
  • 現代では、刑事司法をめぐる利害関係は複雑化しており、そのような現実に鑑みれば、統治客体から統治主体への転換という考え方は当てはまらず、むしろ、通信傍受法、裁判員法、公判前整理手続など、近年、本来憲法が保障している適正手続の要請、国民の裁判を受ける権利が脅かされている現状を認識することこそが重要である。

棚橋 泰文君(自民)

  • 憲法は、国家からの自由として成立したという歴史的経緯は認識しており、国家からの人権侵害から、国民の人権は守られるべきことは勿論であるが、現代では、私人間の人権侵害がときに国家による人権侵害以上に深刻である。
  • 憲法の刑事手続の規定は、大変詳細であり、評価できるが、我が国の刑事司法においては、大陸法系の実体法に、戦後、英米法系の手続法を制定したため、法制度上統一されていないこと、我が国には、犯罪者は自ら罪を認め、謝罪すべきであるとの国民感覚があることを認識すべきである。
  • 前述の議論を踏まえると、価値観が多様化し、犯罪が増え、検挙率が下がった現在では、国家からの人権侵害とともに、犯罪を始めとする私人間の人権侵害にも取り組まなければ、最終的に国民の人権保障を図ることはできないと考えられる。

下村 博文君(自民)

  • 裁判員制度は、裁判内容の守秘義務など国民に新たな義務を課すとして、その憲法適合性が問題となったが、三権分立という観点を踏まえた上で、主権在民の精神から期待される、司法への国民参加を目指すことが成熟した民主的国家のあるべき姿である。
  • 読売新聞の世論調査(2004年5月27日付紙面掲載)によると裁判員制度の導入には、過半数の国民は賛成しているが、約7割の国民が裁判員としての参加を望んでいないという結果がある。5年間の準備期間において、国民の理解を得る必要があり、また、裁判員制による国民の司法参加を憲法上保障すべきである。

山口 富男君(共産)

  • 憲法の刑事手続の歴史的経緯は単なる過去の遺産にとどめず、今後とも踏まえていく必要があるとの参考人の意見は重要である。
  • 憲法制定後60年たつが、憲法は、制定すればそれで終わりではなく、刑事司法上どのように運用されているかを、吟味することが重要である。当事者主義の貫徹からして、接見交通権の制限、被疑者段階の長期拘束は、戦前の治安維持法の下での人権弾圧の歴史に通じ、憲法上その運用の改善が求められる。
  • 参考人は、被害者の人権は、総括的に13条に組み込まれること、また、損害の救済や社会的連帯という点から25条によっても保障されるとしており、そのような観点から立法府に求められるのは、さまざまな事象に基づいて、被害を軽減・回復させる政策を行うことである。
  • 裁判員制度は、司法への国民参加をもたらす意味で積極的意義を有するが、施行までの5年間になすべき課題として、多くの国民が参加しやすい制度になるよう議論を積み重ねることが重要である。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪中央政府と地方政府の権限のあり方(特に、課税自主権)≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

鈴木 克昌小委員長(民主)

  • 多様な地方自治体の在り方、首長の多選禁止の是非、交通・通信手段の発達により都道府県を越えた生活圏が成立していること、行政を統制するためにも地方分権が重要であること等をめぐり、多様な見解が示された。
  • 地方分権の進展に伴い、我が国における中央政府と地方政府の権限の在り方に係る問題について、引き続き総合的見地から議論を深める必要がある。

●自由討議

永岡 洋治君(自民)

  • これまでの中央集権体制から、税財源や人材も地方中心とすべき時代となった。
  • 市町村の合併を進め、人口規模20〜30万の基礎的自治体を作ることを、当面は中央主導でやっていかなくてはならない。
  • 市町村合併が進めば都道府県という組織の必要性も薄れるため、地方自治体は市町村のみの一層制に移行していくべきと考える。
  • 日本では、州という単位が歴史的に存在せず、なじまないと思われることから、道州制は、恒久的な制度ではなく、あくまで市町村が力をつけるまでの間、それを広域的な見地からフォローする過渡的なプロセスとして捉えるべきである。
  • 多様な地方自治の統治システムを実現するためには、委員会制やシティ・マネージャー制等を含む選択肢を広げるなど、地方自治体の組織により自由裁量を与えることを検討すべきである。

大村 秀章君(自民)

  • 地方自治をさらに推し進めるためには、地方自治が国家の統治機構の中心であることや、地方が基本的な行政執行体として機能するよう税財源を確保することの必要性について、憲法に明記すべきである。
  • 道州制の導入に賛成であるが、都道府県を廃止して行うとすれば、憲法に明記すべきと考える。その上で、基礎的自治体である市町村の組織についても、自治体の裁量により決定しうることを含めて、憲法に明記すべきである。
  • 教育の分野こそ、地方自治・地方分権を進めていくべきである。国による学習指導要領を通じた一元的統制には限界があり、公立学校の教育については、すべて地方自治体に任せるべきである。

山口 富男君(共産)

  • 憲法92条の「地方自治の本旨」が明確でないとの指摘があるが、この分野は、この60年の積重ねの中で、憲法理論・判例解釈において豊かな発展が見られ、明確になっている。通説によると、「地方自治の本旨」とは、国から独立した地方団体を認め、この団体が住民の意思に基づき地方の実情に即して地方行政を行うことであるとされている。
  • 参考人からは、憲法の地方自治に問題はなく、地方分権一括法の効果と現状について、中央による政省令等の規律密度がむしろ強まっており、第二の地方分権が求められているとの厳しい指摘があった。地方分権には、本来的に住民の権利を擁護し、住民が住んでいる身近な場でそれを実現していくことが求められている。
  • 道州制については、その概念を明確にせずに市町村合併が進められていることを懸念するという参考人の指摘に同感であり、住民の権利が活かされるのかという観点からこの問題を見るべきである。

辻 惠君(民主)

  • 地方分権一括法により、機関委任事務が廃止され、法定受託事務等の制度が導入されたが、分権の前進は不十分であり、実際には、行政指導等による中央の影響が地方に及んでいる。例えば、大分県日田市の競輪の場外車券売場設置問題に見られるように、地方分権といいながら、地方が中央の統制下にある。人材、条例制定権、課税自主権についても、地方分権は限定的であり、基礎的自治体を充実させ、権限を移譲することが求められている。
  • 現在の地方分権に逆行するような中央主導による市町村合併は問題であり、地方のコミュニティの中で住民の合意が形成されていくようにすべきである。また、地方自治体を二層制、三層制として、基礎的自治体の下に住民の自治コミュニティを位置付けるべきである。

◎統治機構小委員会の経過の報告聴取及び自由討議
≪二院制と会計検査制度≫

●小委員長からの報告聴取(小委員長としての総括部分の要旨)

鈴木 克昌小委員長(民主)

  • 二院制維持の必要性、両院の選挙制度・役割分担、会計検査院の国会付属機関化等をめぐり、多様な見解が示された。
  • 両院制、特に、参議院の独自性の在り方や、会計検査院の位置付け等に係る問題について、引き続き総合的見地から議論を深める必要があると感じた。

●自由討議

船田 元君(自民)

  • 参議院の政党化が進み、参議院は衆議院の「カーボンコピー」であるとの批判がなされることもあるが、二院制には、ダブルチェック機能や一院の行き過ぎを抑えるといった長所がある。
  • こうした二院制の知恵を生かすため、衆参両院の選挙制度を根本から見直す必要がある。例えば、衆議院は単純小選挙区制とし、民意を集約し、政権を選ぶ院、参議院は比例代表制又は大選挙区制とし、民意を反映する院とすることにより、両院の違いを際立たせることが可能である。また、衆議院を予算審議中心、参議院を決算審査中心とすることも一つの方向性である。
  • 会計検査院については、その独立性を守りつつ、国会に付置するということも考えられる。

伊藤 公介君(自民)

  • 参議院の存在理由は希薄になっており、国民の間にも疑問の声が多い。一院制採用国が世界の6割以上であること、また、メディアにより情報が即時に国民に理解されるようになってきていること、政策決定の迅速さの確保、コストの問題から、一院制の採用を考えていくことが必要である。
  • 直ちに一院制を採用することが不可能であるならば、当面、選挙制度の見直しや参議院においては党議拘束をしない等の改革を行い、将来の憲法改正時に一院制とすべきである。

大村 秀章君(自民)

  • 世界の6割以上の国が一院制であること、二院制をとっている国は連邦制が中心であるのに対して、日本は単一国家であること、現在の衆参の選挙制度や権限が非常に似通っていること、また、時代の流れが速く、常に決断を迫られる社会となっていることなどから、一院制を導入すべきと考える。
  • 地方でも議員の定数が減っていることから、衆参両院を廃止して一院とし、定数を小選挙区250人、比例150人の合計400人などに削減すべきである。
  • 一院制が直ちに導入できないのであれば、せめて選挙制度の在り方について参議院はすべて比例代表にするなどとした上で、参議院を決算や外交に特化させるなど、両院の権能を変えていくべきと考える。

山口 富男君(共産)

  • 現行憲法の二院制の設計に賛成であり、両院の独自性を発揮するアプローチについて考えていきたい。その際、国家の主権者である国民の多様な意思の多元的反映が基本となる。
  • 選挙制度については、小選挙区制は大政党に有利な制度であり、民意の多元的な反映がなされないなど弊害が大きいことから、基本的には比例代表制が望ましいと考える。また、今国会において、参議院の定数是正が先延ばしにされたことは、批判を免れないのではないか。
  • 国民年金問題における保険料や給付水準の問題など、参議院の審議段階で分かったことも多く、参議院の独自性、存在意義が今国会においても示されたと考える。
  • 近代憲法の財政立憲主義の下、国会の財政に対するコントロールは、事後的に会計検査院の報告を受けて審議することとされるが、そうだとすると、両院の一方に決算を特化あるいは会計検査院を付置するという設計は、二院制をとる以上適切ではなく、両院がそれぞれ予算・決算の審議をきちんとすべきである。

辻 惠君(民主)

  • 参考人からは、一定規模の人口を有する国は、二院制をとる傾向にあるとの説明があり、私も多様な民意の多元的反映のために二院制を維持し、創意工夫をすべきであると考える。
  • 参議院においても多数を確保するために連立政権を組んでいることにより、参議院が独自の機能を発揮していないのであり、多様な民意を多元的に反映できるようにすべきである。
  • 地方分権を進めるために、地方の意向が反映される回路が必要である。フランスにおいては地方自治体の首長等が元老院議員になるが、そのような工夫が我が国でも必要である。

増子 輝彦君(民主)

  • 二院制が妥当であり、二院制の弊害として指摘されている点は、党利党略や議員の資質に起因するものである。
  • 衆議院は政権選択、参議院は民意の反映のための議院である。また、衆議院の審議が不十分な点について参議院で慎重に審議する必要がある。衆議院は小選挙区のみとすべきであり、参議院は比例代表部分について議論が必要である。また、一票の格差についても考えていく必要がある。
  • 道州制や連邦制をとった場合、首長の権限が強大化する可能性があり、多選の禁止を検討していく必要がある。