平成16年6月10日(木)(第8回)

◎ 会議に付した案件

日本国憲法に関する件

1.今国会の締めくくりとしての自由討議を行った。

2.会長から挨拶があった。


◎ 今国会の締めくくりとしての自由討議(発言順)

● 各会派一巡目の発言

保岡 興治君(自民)

  • 96条は時代の変化による憲法改正を想定して改正方法を明示しているが、国民投票を実施するための法律が制定されていない。これは、国民の信託を受けている国会が国民の主権行使の道筋の用意を怠っていると言える。憲法改正に関する手続法を早急に整備すべきである。
  • 平成13年に憲法調査推進議連が国会法一部改正案及び国民投票法案を提案した。両案についてはその後の議論で、(a)付託委員会の規定がないが、当憲法調査会の後継的機関として、常任委員会である憲法委員会を設置すべき、(b)憲法改正原案の提出要件が衆議院では100人以上、参議院では50人以上とされているが、各党が改正案を出し合って議論を深めることを可能にするため、この要件を緩和すべき、(c)発議があった場合には、発議の事実及びその内容を衆参両院議長が公示する、(d)国民投票の投票人名簿を国政選挙の選挙人名簿と同一にする、(e)投票用紙に改正案を記載することについては、実務上困難な場合がある、(f)国民投票と国政選挙の期日は別個に行われるべき、等の意見や問題点が出された。
  • 国内外の情勢が大きく変化する中で、国民が憲法について考えていることを問う機会を多くする意味においても、各議院の総議員の過半数の賛成によって憲法改正の発議ができることとすべきである。また、国民投票に要する「過半数の賛成」は、何の過半数であるかについて解釈が分かれているが、この点も憲法上明確にすべきである。

山花 郁夫君(民主)

  • 公聴会において、我が国の軍縮への取組やそれについての国際社会の評価について、公述人や委員から発言があったが、そのことが国内にもっと紹介されてよいと考える。
  • 国連軍縮大使を務めた猪口公述人の憲法観は、国連における取組を踏まえたものであり、非常に重みがあったと考える。
  • 人権小委員会では、出版物事前抑制や靖国神社参拝問題等様々なトピックについて議論がなされた。憲法に権利だけではなく義務も規定すべき等との発言には、第3章の人権宣言としての位置付けから違和感を抱く。
  • 人権問題に限らず、立法的解決によるべきか、それとも憲法的次元で解決させるべきかの区別がされないまま議論がなされてきたのが問題である。例えば、死刑制度について、我が国政府は刑事政策として捉えているが、他国では人権問題として捉えている。立法政策の問題か、憲法次元の普遍的課題かを区別した上で議論すべきである。
  • 人権保障の最後の砦が司法権であることから、司法手続の中でのみ憲法問題を提起できる現在の制度が妥当かどうか疑問である。人権と憲法裁判所等の統治制度を関連付けて考えていくべきである。

太田 昭宏君(公明)

  • 党としての憲法に対する姿勢は、憲法の三大原則や9条は堅持した上で、時代の大きな流れの中で提起されてきた環境権、プライバシー権等を加えるという「加憲」の立場である。
  • 96条2項の規定する「この憲法と一体を成すものとして」という部分には、米国憲法の改正のような従来のものに上乗せするという考え方が反映されており、「加憲」とも親和性を持つものと考える。
  • 現行憲法は、押し付けの問題よりも、その前提にある思想が欧米のものであるところが問題であり、我が国の哲学に基づいた憲法が必要となる。
  • 憲法の骨格として、13条において「個人の尊重」が謳われ、個人の権利は規定されているが義務は規定されていないため、「個人」が「利己的な個人」になっており、「公」がない。個人の尊重より、生命の尊重という概念に立脚した「人間の尊重」が時代の要請である。
  • 憲法の哲学的、思想的背景には、戦後当時の状況があるが、教育に関しては、当時とは状況が変わったので、生涯教育などを含む、より積極的な規定があってもよいものと考える。
  • 20〜30年後の我が国を想定するという「未来志向の憲法論議」が必要であり、その際、IT、ゲノム、環境、住民参加等が重要なキーワードとなる。
  • 「未来志向の憲法論」を踏まえ、国民主権をより確立するための「国民憲法」、人権をより明示する「人権憲法」、21世紀の我が国を環境立国にするという「環境憲法」の方向性が大切となる。

山口 富男君(共産)

  • 憲法は、恒久平和主義の点、主権者国民の人権保障の点などから、世界に誇るべきものである。日本共産党は、憲法の全条項を守り、平和、人権、民主主義という憲法の諸原則を活かしていくという立場に立っている。参考人等の指摘にもあったように、憲法改正ではなく、憲法を土台にして現実政治を改革することが必要である。
  • 我が国は、自衛隊の海外派兵ではなく、9条の堅持と世界とアジアの平和と安定のために積極的な役割を果たすことが求められている。
  • 健康で文化的な生活を保障し、社会保障の充実を求めた25条の実現、14条、24条、44条に定める男女平等の実現、国会への多様な民意の反映、違憲審査制の活性化、地方自治の本旨に基づいた地方分権の展開等についての国民主権に立った改革が必要である。
  • 9条を変えるということは、端的には、我が国を米軍とともに海外で戦争をする国に変えようとすることである。こうした憲法改正は国民の間から生まれたものではなく、米国の要求を背景にしたものである。
  • 集団的自衛権の明記を含む9条改正は、恒久平和主義や世界の平和に反する。また、イラクに駐留する多国籍軍への自衛隊の参加は、従来の政府見解からしても違憲であり、イラク特措法からも許されない。自衛隊のイラクからの撤退を求める。
  • 憲法は、人権保障のために国家権力を制限するという近代立憲主義の流れの中に位置するものである。この点は、99条の憲法尊重擁護義務に関わるが、本調査会において、この点を主題とした調査は行われていない。
  • 環境権、プライバシー権は、13条、25条を始めとする憲法規範から、生み出されたものであり、憲法が保障する基本的人権に含まれる。
  • 憲法改正が求められていないことから、その手続法は必要ない。また、本調査会は憲法についての調査を行うべきであって、後継の組織について議論すべきではなく、憲法改正を審議する常任委員会の設置については、憲法が不安定になることから反対である。

土井 たか子君(社民)

  • 憲法調査会の設置目的は、憲法について広範かつ総合的に調査を行うためであり、改憲に向けた議論のためではない。議案提出権がなく、常任委員会ではない調査会を設置したという経緯を重視すべきである。この経緯から、憲法尊重擁護義務の実施状況についても調査すべきである。
  • 専守防衛、文民統制、武器輸出禁止三原則等が形骸化させられ、日米安保共同宣言やガイドラインにより日米安保条約が変質したように憲法の空洞化が進みつつある現状の下、憲法を活かす努力を放棄して現状に憲法を合わせるのは本末転倒である。この点、改憲より憲法の実施に向けた制度・政策の充実を主張する各小委員会の参考人の意見は、示唆に富む。
  • 年金改正法案のように国民生活に直結する法案を審議不十分なまま強行採決するような国会の姿勢から、国会に憲法改正の発議の資格があるかが問われている。
  • 憲法調査会が50人とされたのは、小会派からも委員を選出するという趣旨であるから、最終報告書の編集方針についても小会派を含めて討議すべきである。
  • 公聴会等でも憲法調査会の議論が国民に知られていないとの指摘があった。憲法調査会についてさらに情報発信をすることに加えて、公聴会等の休日開催も検討すべきである。
  • 憲法調査会は、一度ならず開会中に定足数を満たしていない現状があり、最高法規の調査が不熱心との指摘がなされている。


● 各会派一巡後の発言

平沼 赳夫君(自民)

  • 憲法は定着した、あるいは憲法により平和を維持できたのであるから現行憲法でよいとの意見がある。しかし、法治国としての「けじめ」が必要であり、憲法の出自に関して瑕疵があったと考える。
  • 現行憲法が占領下において強権的に押し付けられたものであることは、何人も否定できないことである。
  • 日本の原点としての伝統、文化、歴史を踏まえ、英知を集めた新しい憲法を制定すべきである。

森山 眞弓君(自民)

  • 憲法は制定以来60年近く経過し、その間、国際情勢、国内情勢は変化しており、問題点解消のための憲法改正が必要であると考える。
  • 司法制度改革の一環としての裁判員制度が5年後から導入されることとなったが、イタリア憲法102条のように、憲法に司法への国民参加に関する規定を設けるべきである。
  • 裁判官報酬は、すべての国家公務員の給与の減額に伴い、減額された。このことに疑問はないが、念のため、裁判官の報酬に関し、その職権行使を侵すことがなく、かつ国会、内閣、司法の均衡を害することがない場合においては、法律による減額を可能とする旨の規定を79条・80条に加えるべきと考える。
  • 国会の組織について、二院制の価値を認めるものの、迅速な審議のためには一院制も具体的に検討すべきと考える。また、弾劾裁判所と訴追委員会の設置について、衆参で役割分担すべきである。

渡海 紀三朗君(自民)

  • 参考人質疑、公聴会、海外派遣等による調査により、改正に関する論点は整理されてきたと考える。
  • 憲法は国の最高法規であり重い意味を有することは否定しないが、憲法があって国家があるのではない。まず国家があり、国家のあるべき姿があって憲法が存在すると考える。
  • 憲法制定時の状況は特殊であったが、押し付け憲法とは言い切れず、戦後復興に大きな役割を果たしたと考える。しかしその制定から60年近く経ち、社会情勢や世界における日本の責任が変化した今日、国民のコンセンサスを得て、憲法を改正することが立法府の役割であると考える。
  • 国民主権の原則の下、国民に憲法についての意見表明をさせないことは立法府の責任を果たしていないことであり、速やかに国民投票に関するルールを作るべきである。
  • 国民の議論に資するために、今後、憲法調査会を発展させるべきである。

辻 惠君(民主)

  • 司法消極主義、地方分権・地方自治の在り方、自衛隊と9条の法文上の乖離は憲法上大きな問題であり、拙速な議論は避け、国民的議論を行うべきである。
  • マスコミが設定した課題での切り口だけでなく、拙速を避けつつ全般的に憲法を議論すべきである。
  • 公述人が調査会の存在が国民にそれほど知られていないと指摘したことは、憲法改正論議が国民の間で不十分であることを示している。
  • 自衛隊と9条の規定は乖離しており、何らかの措置を講じる必要がある。
  • 現在の日本は歴史的に見て過渡的な状況にあり、国民国家としての主権を強く主張する考え方には限界がある。日米同盟を基底に置くとしても、アジアの中での連携を重視すべきであり、集団的自衛権の行使については否定的に考える。

伊藤 忠治君(民主)

  • 憲法は国家の基本法であるが、制定から60年近く経過したことと内外情勢の変化から、一字一句変えないでそのままであることには疑問を感じる。
  • 今日の実態と憲法規定の乖離は、法治国家として放置できない問題であり、政治不信を解消するためにも、そのことを正面から捉えて議論を深めるべきである。
  • 憲法改正についての各党のスタンスは、絶対的に改憲に反対する立場と改正を必要とする立場に分かれるが、いずれの立場によっても、向こう50年を展望し、日本が国際社会、アジアにおいてどのように貢献するのかという国家戦略が必要である。
  • 政府は三位一体改革など構造改革を進めているが、これは憲法論議と一体として行うべきである。
  • (a)皇位継承問題について男子限定でよいのか、(b)集団的自衛権と安全保障問題について、イラクでの自衛隊活動に見るように現実と憲法との乖離が大きく、憲法でどう規定するか、(c)行政組織の在り方について、道州制の導入を含め国と地方の在り方をどうするのか、(d)実態と憲法規定との乖離の判断を裁判所は怠っており、憲法裁判所により法治国家としての判断を行うべきであるなどポイントを絞った議論をすべきである。
  • 96条を具体化し、国民が憲法改正の判断を下すことができる素地を作るべきである。

二田 孝治君(自民)

  • 憲法改正問題が国民的関心事になったことはよいことである。
  • 96条の問題について、現在の政治状況では、発議要件である各議院の総議員の3分の2以上の賛成は不可能である。まず国民投票により国民の意見を問うことが必要である。
  • 参議院においては、二院制の意義を失わないよう政党の制約にとらわれない議論が必要である。
  • 地方自治に関して、市町村合併の問題や三位一体の改革は、地方自治の本旨に合致しているのか考えて進めるべきであり、将来的には都道府県の廃止も視野に入れるべきである。

野田 毅君(自民)

  • 現憲法は暫定憲法的性格を有しており、本来、独立回復時に改正すべきであった。また、時代の推移に伴う現状との乖離が著しく、法治国家としての遵法精神に問題を生じている。憲法調査会は、具体的に国民に向けた発議をしていく段階に来ている。
  • 「集団的自衛権を有しているが使わない」というのは特異な議論であり、政治問題について内閣法制局の判断により方向が規定されているのは残念である。義務教育を修了すれば素直に理解できる条文に改正すべきである。
  • 個人の尊厳を規定しているのは結構であるが、家族の絆が崩壊しつつある中で、すぐに社会の責任にする風潮には疑問であり、憲法に家族間の支え合いをきちんと位置付けるべきである。
  • 年金制度は制度自体に無理があり、租税と社会保険料の在り方について憲法的判断をした上で、社会保障制度を位置付けるべきである。

枝野 幸男君(民主)

  • 9条の武力行使の例外については、自衛権の議論と、国際協調主義の下での国権の発動ではない武力行使の議論が混在している。
  • 憲法に歴史・伝統を盛り込むべきとの議論のいう歴史・伝統は明治維新以降第二次世界大戦までのものを指しているように思えるが、日本の歴史の中でその期間は異色の期間である。日本の歴史全体で見た場合、特徴としては(a)多神教の人が多いこと、(b)外来文化の移入に寛容であることといったリベラルなものであることが挙げられる。このような原点に立ち戻って議論すべきである。
  • 憲法にさらに義務を規定すべきとの議論もあるが、憲法は立法により国民に義務を課す限界を定めるものであることを考えれば、憲法に義務を規定する意味が不明である。
  • 未来志向で建設的な議論がなされる一方で、未だに古色蒼然たる制定過程論が述べられているのは残念である。

武正 公一君(民主)

  • 首相は日米同盟と国際協調主義の両立というが、後者のみ前文に規定されているように後者が前者の上位概念であり、我が国の地理的状況からも後者を重視すべきである。
  • 41条で国会は「国権の最高機関」とされているのに、実際は行政権が強く、裁量行政が行われていること等は問題である。政令改正により多国籍軍に参加することや、国連決議がイラク特措法を規定するということはおかしい。条約の締結については、国会がもっと意見を言えるようにすべきである。この点、国会承認を要しない条約があるとする政府見解(いわゆる「大平三原則」)は、正されるべきである。

永岡 洋治君(自民)

  • 憲法の制定経緯や制定後60年近く経過したことから、憲法を改正すべきであり、改正手続の具体化や憲法改正作業の体制整備を検討すべき時期である。
  • 諮問型国民投票制度のような直接民主制の導入は難しく、議会制民主主義を健全に機能するようにすべきである。そのためには、(a)投票率の低下に対して政治参加について義務としての憲法への明文化、政治参加についての教育、棄権防止への対策、(b)国会議員の国民への情報提供についての規制緩和・支援、(c)国会議員の活動をサポートするスタッフの強化を検討すべきである。
  • 地方自治体の課税自主権は、地方財政の効率化・合理化のために必要であり、国から地方への抜本的な税源移譲も必要である。また、徴税システムの効率化、公平性確保、徴税コストの軽減のために、徴税システムの国・地方の一本化が必要である。
  • 一般的な条約については署名後批准前に国会承認の手続がとられるが、実際に国会が不承認とすることは難しい。FTAのように重要な条約について署名前に国会が関与できるように憲法に明示することも検討すべきである。

下村 博文君(自民)

  • 憲法は女性天皇を否定しておらず、男系男子を原則としつつ、例外的に女性天皇を認めるべきである。
  • 教育基本法改正の議論の中で私学教育が挙げられているが、私学助成は89条に抵触するおそれがあり、同条を改正すべきである。
  • 20条3項の「宗教教育」は、制定当時と現在の我が国では意味が違うのではないか。特定の神を意識した「宗派教育」は禁止すべきであるとしても、特定の神を意識しない「宗教教育」により情操を育み、徳育につながる感性を高める必要があり、そのための憲法改正を行うべきである。
  • 以上のことを実現するために、憲法調査会から、憲法改正案の提案権を有する常任委員会に移行していくべきである。

河野 太郎君(自民)

  • 憲法が押し付けであったか否かは、意味のない議論である。憲法をどのように展開させて、我が国の将来の繁栄のために寄与させることができるのかを議論すべきである。
  • 憲法に国民の義務を定めることについては、政府から人権を守ることが憲法の骨格であることから必要ないとの意見に同意する。
  • 憲法改正の手続法を速やかに定めるとともに、憲法改正案を審議するための委員会を設置する必要がある。
  • 個別的・集団的自衛権と世界の平和のために我が国が果たす役割を9条に明記すべきである。解釈の変更によって既成事実を積み重ねていくということはすべきでない。
  • 議院内閣制が機能しているのかという点について疑問を持っている。国会の審議が形骸化しているとの指摘もあり、大統領制の導入についても議論すべきである。
  • 衆参でほぼ同じ権限を有する現行の二院制について、このまま維持すべきか否かについて検討する必要がある。参議院について、衆議院を補完する第二院にすることや、道州制を導入した場合に道州を代表する院とすることが考えられる。

園田 康博君(民主)

  • 憲法制定過程に基づく議論は後戻りの議論であり、仮に押し付けられた憲法であってもいいものはいいと考える。もっと前向きに国民にものごとを示していくことが、国会の仕事である。
  • 憲法改正の発議要件を緩和すべきであるとの意見があるが、その要件は、他国と比較してもそれほど厳格なものではなく、現行の改正要件を変える必要はない。
  • 国民主権、平和主義、基本的人権の尊重のうち、基本的人権の尊重が一番根幹の理念であり、それを守るため、残りの二つの原理があるのである。そして、よりよい状況を作るために、憲法改正を提起すべきである。

大村 秀章君(自民)

  • 戦後、憲法が果たしてきた役割は大きかったが、時代の流れに合わせて、国民の共通認識に基づき、憲法の思い切った見直しを行うべきである。
  • 国内問題の分野については、自立、自己責任を基本とし、厚みと活力がある、風通しのよい社会をつくるため、統治機構、基本的人権を見直すべきである。プライバシー権や環境権の追加、一院制の導入、道州制を含む地方自治の在り方を検討すべきである。
  • 平和と安全保障の分野については、北朝鮮問題等、国際社会の変化を直視し、我が国がどのような国際的な貢献を行っていくかについて世界が注目していることを踏まえる必要がある。9条を改正して、自衛隊を防衛と国際協力業務を行う組織として位置付け、人道復興支援を中心とする国際貢献を行うことを憲法上明確にすべきである。

伊藤 公介君(自民)

  • 憲法改正について各党様々な立場があるが、我が党は新しい憲法をつくるという立場である。第2次世界大戦の呪縛から離れ、自信と誇りを持てる憲法を制定すべきである。
  • 従来の安全保障議論は、我が国の平和と安全保障に重要な影響を与える事態についての議論が中心であったが、新憲法においては、我が国のみならず、世界の平和と安全保障を想定し、たとえ地球の裏側においても我が国は役割を果たすべきことを明らかにすべきである。
  • 多国籍軍への参加や集団的自衛権の行使はあまり限定的にすべきでないと考えるが、一定の歯止めとして、国連において発言権を確保すべきである。世界の平和と秩序の維持、人道支援のために世界が協力する場合には、我が国もあらゆる協力を行うことができる状況をつくるべきである。

保岡 興治君(自民)

  • 明治憲法と異なり、日本国憲法においてはGHQにより我が国の伝統・文化がほとんど無視されている。その結果、歴史的に培われたものが現在・未来につながれておらず、特に教育分野で個人主義思想が普及し、何をやってもよいという風潮となっている。そのことは、積極的に社会に貢献したり、他者に配慮する精神文化が廃れることにつながる。
  • 人間の本質である社会性は個人の尊厳を支える器であり、家族その他の共同体ひいては国際社会を公共の基本をなすものとして捉え直さなければならない。
  • 憲法の三大原則のような人類の普遍的価値を発展させつつ、我が国固有の価値、道徳心という歴史の中で培われた精神文化に基づいて憲法を論じていきたい。
  • 憲法には、近代立憲主義的な国家権力の民主的統制という法的側面のみならず、国民の行為規範としての側面があり、それが国民の精神や社会の形成に与える影響についても考慮して議論すべきである。
  • 道州制を含めた地方自治の在り方については、法律の範囲内で課税自主権の付与と自主財源の確保、自己決定権と自己責任の原則、補完性の原則等を憲法に規定すべきである。その際、究極の自治の原点であるコミュニティを重視し、その意義を憲法上明確に位置付けるべきである。

鈴木 克昌君(民主)

  • 憲法記念日の各党の談話を見ても、その主張には大きな隔たりがあり、今後、憲法調査会の議論をとりまとめていく作業は容易なものではないと感じる。その際、国民の目線に立って進めるべきであり、あまり党の立場に縛られない進め方が必要であると感じる。
  • 憲法の制定以来の現実との乖離を考えたとき、社会の基礎としての家族の重要性、生命倫理の問題、国会の役割、地方財政の基本原則については、憲法に明確に規定していくべきであると考える。

楠田 大蔵君(民主)

  • 投票率が低いことについて、国民自身が自分の権利の重みを考えていないためと批判する考えもあるが、棄権が多いことも政治の責任であると考える。
  • 重要法案でしばしば見られるような与党の数の力による強行採決が行われることのないよう、憲法改正発議のための「総議員の3分の2」という要件の緩和には慎重であるべきであると考える。
  • 改正案発議後の国民投票の「過半数の賛成」という要件も、全国民の過半数とするのは厳格すぎるかもしれないが、投票率が低い場合でもやはり有効投票の過半数でよいかについて慎重に検討する必要がある。

森岡 正宏君(自民)

  • 宮内庁や皇室の改革、女性天皇の問題については結論を急ぐべきと考えるが、日本人のアイデンティティ等を考えた場合、天皇制の果たしてきた役割は非常に大きく、歴史を踏まえたかたちで天皇制を維持すべきである。
  • 女性天皇に反対するものではないが、14条の両性の平等を理由に皇室典範1条を改正するというほど単純な問題ではなく、女性天皇を認めるとした場合も、例外的に男系女子に限るか、女系まで認めるべきかについての検討が必要である。
  • ヨーロッパの王室では男子優先や、第一子優先などの例があるが、「お世継ぎ問題」については、やはり日本独自の伝統を踏まえた解決策を講ずるべきである。女性天皇を認める場合、その配偶者をどうするか、帝王学をいつから学ばせるかなどの課題について早急に決着をつける必要がある。

岩永 峯一君(自民)

  • 諸外国と比べて、日本人の愛国心が揺らいできていることを大変憂えているが、国民は、国家に対する責任について、しっかりとした意識を持つ必要がある。
  • 憲法は、国民の目指すべき国家像を示すものであることから、新憲法に示される国家像は、誰もが誇りとし、国際社会からも尊敬される品格あるものであり、同時に愛国心が目覚めるようなものであるべきである。
  • 財産権は、社会生活を営む上で基本的権利であるが、他方、所有権の責任と義務について、公共の福祉に反する場合に所有権が制限される旨を憲法に明記すべきと考える。また、その際の「公共の福祉」の内容とは、「限られた資源の下に分かち合い、最大限、効果的に社会の利益のために使われる」と定義される。
  • 9条については、自衛のための戦力保持、個別的・集団的自衛権、首相のシビリアン・コントロール、非常事態、人間の安全保障、地域安全保障等について憲法に整理して明記すべきであり、その内容は国民に分かりやすいものとすべきである。
  • 食料及びエネルギーの安全保障も、国家が存続し、国民が生存する上で最重要の問題である。

赤松 正雄君(公明)

  • 憲法改正をめぐっては、憲法調査会の中でも、国民の間においても百家争鳴であり、今後、条文の改正ではなく、行政の改革や解釈で対応できる部分もあり、整理していく必要がある。
  • 憲法を全面的に変えることには国民の同意が得にくいと考えられることから、憲法の三大原則を一層深めつつ、同意を得やすいものから改革を行うという「段階的憲法改革論」を個人的には考えている。
  • 9条については、1項、2項をめぐり解釈が分かれていることから、我が党では、3項を新設し、2項の意味するところを確定するという議論を行っているが、他方、現行の9条の果たしてきた役割に対する肯定的評価もある。
  • 国際協調は、9条を超えたテーマであるので、「加憲」により国際協力に関する条項を加えていくべきである。

倉田 雅年君(自民)

  • 今回の司法制度改革で刑事訴訟手続上、被疑者に対する公的弁護制度と裁判員制度が導入されたことは評価できるが、参考人の段階での弁護人依頼権と弁護人立会権を憲法上明記すべきである。また、被告人に、職業裁判官のみによる裁判を受けることについての選択権を与えるべきである。
  • 国権の発動としての戦争放棄は堅持しつつ、集団的自衛権について、地域的な限定を設けて行使することを憲法上明記すべきである。集団安全保障の下での制裁措置は必要であり、統一的な安全保障機構の下でこれが可能となるよう、主権の一部を移譲できるように憲法上規定を設けるべきである。また、我が国は、平和主義を維持しつつ、国連警察軍等の創設に向けて努力すべきである。

中谷 元君(自民)

  • 安全保障について、我が国さえ平和であればよいと考える傾向があるが、新憲法には、自由や民主主義など価値を同じくする国家と共同して国際平和に積極的に貢献することを明確に示すべきである。その際、他者の生命・尊厳を尊重して公正な社会の形成に貢献するという公共の基本的な考え方を国際関係に広げて考えるべきである。
  • 専守防衛の下であっても、国際的なテロやゲリラについては、地域的な限定を付さずに対応できるようにすべきである。
  • 我が国は2001年9月の米国同時多発テロ後、インド洋やイラクに自衛隊を派遣し、既に多国籍軍とともに行動してきた実績がある。今回の小泉首相の多国籍軍への参加についての発言によって、日本の対応がこれまでと変わるものではない。しかし、現憲法の下における曖昧な説明では、現場に混乱が生じ、国民の理解を得ることに限界がある。自衛隊員が使命感を持って堂々と行動できるよう、人道支援活動や国際貢献活動についての我が国の役割と責任を憲法に規定すべきである。
  • 個別的・集団的自衛権、地域安全保障や集団安全保障の下での軍事的制裁措置への参加、国際的平和維持活動への参加について、その根拠を憲法に規定すべきである。

山口 富男君(共産)

  • 憲法制定過程について調査することは憲法の豊かな内容を把握する上で欠かせない作業である。主権在民、9条と国連憲章との関係、25条の生存権規定など、制定過程で豊かに議論されており、「押し付け」論には疑問を持つ。むしろ、戦後の再軍備の過程で米国から改憲論が起きてきたという「改憲論の押し付け」があったと考える。
  • 戦後、社会の変化や発展に応じて憲法原則に力を持たせるように立法措置等がなされてきた。他方、再軍備、自衛隊の創設、自衛隊の海外派遣などを通じて、政治の現状に憲法原則との乖離が生じており、憲法に現実を引き寄せるべきである。

松野 博一君(自民)

  • 前文には、(a)主権在民や基本的人権など、政府と国民の間に実現されるべき内容と、(b)平和の維持や専制・隷従の除去など、世界に対して日本が果たすべき役割とが述べられている。(a)は具現化する条文を持つが、(b)については具現化する規定がなく、9条の問題も整理されていないことから、具体的な行動が困難となっている。
  • 憲法には、国内レベルで実現されるべき人権と、世界レベルで達成されるべき人権が規定されているとする見解もある。独立国の主権、伝統、価値観を尊重しなくてはならないことは当然だが、例えば、地球環境に対する我が国の責任など、日本が果たすべき使命を具体的に前文に掲げるべきである。

平井 卓也君(自民)

  • 世の中が変わらないという閉塞感が国民の中にあり、憲法だけでなく、官僚機構や規制などを国民は甘受している。ものごとは変わるのだという方向に国民の認識を変え、主体性を持ってもらうことを念頭において、憲法改正議論をすべきである。
  • 我が国が二度と戦争をしないように9条や厳格な改正手続を持つ憲法が定められた。日本は戦後この憲法を使いこなし繁栄してきたが、現在でも自らが国家運営をすることに対する不信感や、個人の自由な活動を認めない国民不信が存在する。国民が憲法に夢を持つようにすべきである。
  • 我が国への信頼を持ってもらうためにも、憲法改正のプロセスを国民及び国際社会に示すべきである。憲法改正は、今の時代に合わないから行うというより、次の時代への責任として行うべきものと考える。

古屋 圭司君(自民)

  • 調査会の設置から4年が経過し、様々な議論をしてきたが、侵略戦争の放棄の堅持等ある程度合意ができる部分があると考える。そうした部分については、一つの方向性を見出す時期に来ているのではないか。
  • 調査会における議論の積み重ねを基にし、立法府の責任として、憲法調査会を新たに議案提出権のある機関に改組すべきであり、最終報告書にその旨を盛り込むべきである。
  • 96条を具体化する国民投票法等の法整備を早急に行うべきである。

柴山 昌彦君(自民)

  • 常任委員会を設置し、憲法改正が必要なものは何かについて議論し、合意できる部分については改正の俎上に載せるべきである。
  • 憲法改正の発議要件を、両議院の総議員の過半数に緩和すべきである。発議後、国民の過半数の賛成による承認が必要なことを考えると、強行採決を懸念する緩和慎重論の考えは当たらない。
  • 公共性や国民の義務を憲法上にさらに明記することについて検討すべきであり、併せて他者や社会への尊重規定についても内容を豊かにして盛り込むべきである。

増子 輝彦君(民主)

  • 憲法改正の論点のうち、各党間で十分に調整可能なものと9条のように調整できないものとを区別し、前者について段階的に改正することは可能ではないか。ただ、9条は堅持すべきであり、そのことは公述人の発言にも表れている。
  • 世論調査では国民の6、7割が改正に賛成しているというが、本当に国民の間に憲法についての認識が浸透しているか疑問である。
  • 小泉首相が自衛隊のイラクにおける多国籍軍への参加を表明したことに関して、国会において十分な議論もなされないまま決定してしまうことは、非常に危険性を感じる。

船田 元君(自民)

  • 憲法調査会での議論や活動が国民に広く周知されていないことは非常に残念であり、もっと広報を行うべきである。
  • 今までの調査会において議論しきれず補充すべき部分もあるが、最終報告書に向けて、論点整理をすべき時期にさしかかっており、最終報告書提出後は、現在の調査会を常任委員会とし、憲法改正へとステージを上げていくべきである。

土井 たか子君(社民)

  • 近代憲法は、個人の人権尊重の理念によって存在意義を見出してきたのであり、それは13条によって保障されている。しかし、最近の改憲論は、個人よりも国や公を優先するという考え方であり、これは、人権尊重の観点から誤りであることは明らかである。
  • 9条は、前文の平和的生存権を基礎としており、戦争の放棄が人権保障と生命の尊重へ繋がっていくということを表していると考える。
  • 世論調査において6、7割が憲法改正に賛成であっても、9条に関しては世論の過半数が改正に反対であるという事実をしっかりと認識すべきである。
  • 96条による正式な改正手続を経て手続的に合憲であっても、内容的に許されないものがある。つまり、憲法の歴史的経過及び存在意義に照らし、憲法の理念に反するように変えることは許されないと考える。
  • 憲法改正の発議要件を緩和することは、憲法の最高法規性を軽視しており、憲法の自殺行為であると考える。