憲法調査会公聴会 意見陳述者意見概要

「戦争の放棄」

安保 克也

東西冷戦の崩壊後、 今後の安全保障に関わる重要な問題は多々あるが、 私は最優先事項として、 時間と空間を越えた日常生活の利便性の中に潜んでいるサイバーテロ対策ではないか と考えている。

治安、防衛機関などを直接的に狙ったサイバーテロは、 人命などに直接関わる事項でもあるし、 間接的にもすべての国民生活に重大な被害を与えるのである。

日本では、 サイバーテロを「犯罪」という視点でしか認識しておらず、 国家間の「目に見えない戦争」という認識はないことを危惧している。 サイバーテロに対する万全の対策をとっておかなければ、 瞬時のうちに国家全体が麻痺してしまうことを認識する必要があると考えている。

すなわち、 空間・距離の概念がないサイバー空間では、 国境線はないので、 悪意をもった個人または勢力がすぐ目の前に存在しているということを認識するべき である。

このことは、 これまでの国防の意識をはるかに超える事態なのである。

現代社会において、 コンピュータとネットワークの役割が中心的な存在になっている現在では、 この事態に対しては徹底的に取り組まなくてはならないと考える。

日本の隣国である中国、北朝鮮、韓国などでもサイバー戦には力を入れている。 その目的は、 どうやって情報を操作し、 偽情報で相手国を混乱させ政府や防衛体制をズタズタにするために必要な専門部隊を 準備しているようである。 日本はこのような安全保障政策への対策は不十分であると考えている。

世の中は変化しており、 武力紛争法などでは適応できない「新しい戦争」への脅威に対しては、 憲法9条ではもはや対応ができない以上、 テクノロジーに関する進歩などを視野に入れた憲法改正の議論を望むのである。

以上


「前文」「戦争の放棄」

日高   明

第一に、前文及び9条【戦争の放棄】は、不戦条約(1928年)に始まる世界の戦争違 法化の流れの中で確立されたものであり、特に広島・長崎への原爆投下による教訓が 大きいと考える。

第二に、前文に、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永 遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。わ れらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権 利を有することを確認する」との明記があるが、それは今日的視点から見れば、単に 国際社会における紛争解決や、その紛争被害からの脱却のみに留まらず、人間の安全 に関わる広義な不安(飢餓・貧困・難民・環境破壊・HIV・テロ等)からの脱却を視 野に入れた「人間の安全保障」の必要性を定めたものと言えよう。前文では人間の安 全保障と明示はしなかったものの、根底にその在り方を根付かせていると読み取れ、 先見的要素を持っていることが伺える。

第三に、前文は今日の新たな国際関係を導く強力な理念となりつつあるが、それは前 文と9条の平和主義が5つの特質を持つと解釈されるからである。@戦争を起こす主 体の自覚化及び明確化。A戦争のみならず、武力の行使、武力による威嚇を含む国家 暴力行使の多様な形態が放棄されていること。B「戦争の用に供する」装置もすべて 保持を禁止するとともに、交戦権をも否認したこと。C国連憲章の定めた集団安全保 障体制を基本的に選択し、国連による平和への協力、日本国民の安全は、非武装・無 軍備の手段で行うことを採用していること。D憲法がより積極的に平和的生存権を保 障していることである。

第四に、9条【戦争の放棄】は、上記A及びBの特質を明文化したものである。9条の 存在する意味は、日本及びアジア地域にも平和をもたらし、国際社会に対する責任あ る立場の確立と、新しい安全保障の在り方の明示にある。この構造が9条の国際化を 促進させる力となると考える。

総括として、前文及び9条の存在は、軍事力の脅威が散漫する世界において、日本が 「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」、非武装に立脚した国際貢 献を行うことで、日本の外交成果を作り上げることのみに留まらず、最終的にはそれ が世界の平和と安定に大きく寄与するものであることを意味していると考えられる。

更に言及すれば、特に前文は、各国国内の社会構造の未整備・未発達と国家の統治力 の不足が、飢餓・貧困・紛争・難民・環境破壊・人権蹂躙・テロ等を生み出し、統治 能力を有さない政府下で、人々が自己の開発と人権意識を持つことができない現状に 警鐘を鳴らしている人間の安全保障の重要性を表明しているといえよう。

以上