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平成十二年九月二十六日提出
質問第三号

薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問主意書

提出者  中川智子




薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問主意書


 今月二十日の厚生委員会で津島雄二厚生大臣は、「行政の長としての立場から申しますと、医学の技術がどんどん進歩してまいります中で、新しい処方を始めるとき必ずリスクがある。これは人間の歴史で数々の経験を私どもはしているわけで・・・すべて先に起こるべきことを予見する事は不可能でございまして、そういうことがあるからそういう処方を認めるなということになると、新しい処置や処方や薬は採用することはできなくなる」また、「新しい薬なり処方について承認するときに、一〇〇%何も心配ありませんよということでなければできなくなってしまうのですね。そういう世界というのは、少なくとも私の理性からいうと、これはもうほとんど想像できない世界だ。」などと暴言を繰り返している。死因も不明の人の死体から採取して作った乾燥硬膜「ライオデュラ」を専門家の意見を聞くことなく事務方だけで杜撰に承認し、通常の業務で簡単に入手できる数々の危険性の指摘を見過ごしたために被害を拡大させたことが問題となっているのである。一九九六年の狂牛病事件に端を発した「クロイツフェルト・ヤコブ病に関する緊急全国調査研究班」の調査の過程で、厚生省の意図とは別に、硬膜移植による症例があることを知り、慌てて対応をしたにもかかわらず、承認当初から最善を尽くしてきたかのようなごまかしの答弁は、国民の健康や安全を守る厚生行政の最高責任者として極めて不適切であり、許されるべきではない。
 厚生省が承認したヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」が汚染していたために被害が発生した事件であることを踏まえ以下質問する。

一 厚生省は、B・ブラウン社製ヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」の輸入販売を一九七三年に承認している。人の死体から採取し製造した初めての医療用具であるにもかかわらず羊の腸線縫合糸が承認されており新規性がないという理由で、専門家の意見を聞くことなく、事務方だけで申請からわずか三カ月の速さで承認をしていた。
 ヒト組織を素材としているにもかかわらず、病原体付着の危険性評価がされなかったことも明らかとなった。専門家からの意見を聞いていれば、ドナーチェックの必要性や病原体付着の可能性についても検討されたと考えられる。事務方だけで承認しておき、誰も教えてくれなかったから分からなかったという言い逃れは通用しない。医薬品等を承認するということは本来危険等の理由で禁止されているものを特別に許可することであり、重大な責任があることは言うまでもない。

 1 事務方だけで判断したとされているが、承認にかかわった職員の専門性や人数及び審査の内容などすべて明らかにされたい。
 2 専門家の意見を聞いていれば、たとえ承認時に危険性を認識しなかったとしても、その後の国内外での危険性の報告を、ヒト乾燥硬膜と関連づけることは容易であったと考えられる。少なくとも一九九六年の狂牛病事件でたまたま知るということはなかったはずである。研究班の班長であった立石潤氏は「それを使った手術が、年間に一〜二万件行われていたことが、判っていれば当然厚生省および脳外科学会などに輸入使用の禁止を提言したと思います。」と回答しているのであるから、専門家の意見を聞かず事務方だけで判断したことに瑕疵があると考えるがどうか。
 3 津島厚生大臣は、「乾燥硬膜がこれまでにわが国だけで四十万〜五十万枚使われたという事実、これは我々にとって否定できない重みのある事実・・・」と有用性を強調した答弁をしている。専門家の意見を聞くことなく事務方だけで「ライオデュラ」を承認し、全体の約三十五%を日本が輸入し、世界の患者の半数以上を日本が占めているということこそ重みのある事実である。脳外科手術は日本が特別多い訳ではない。日本の輸入量が多いのは、危険性のある硬膜を安易に承認したためではないか。

二 厚生省が今年八月十一日に発表した調査報告書等について

 1 英国の状況について「米国FDAからの連絡に基づき、ライオデュラを介したCJD感染の可能性について国内の医療機関に情報提供したものの、引き続きライオデュラの供給は認めていた。一方で、アルカリ処理工程の導入について承認変更を要求したため、その承認が行われるまでの間はアルカリ未処理の製品のみが流通することとなった。」と対応の遅れが他国にもあることをことさら強調しているともとれる記述である。英国保健省とFDAの八九年の会話記録によると、CDCの第一症例報告後英国政府は調査を開始し情報提供をしている。さらに八九年三月十七日に警告を出している。患者数は日本の一割にも満たないことも大きな違いである。そもそも厚生省は、第一症例報告の患者に用いられていたヒト乾燥硬膜は、ドイツB・ブラウン社製造の「ライオデュラ」のロット番号二一〇五の製品であったことから、FDAは同一の製品が輸出されていた五か国に対して個別に連絡したが、わが国に対して同一のロット番号の製品が輸出されていなかったためFDAからの連絡はなく情報を把握し得なかったと主張している。二一〇五のロットはイギリスには輸出されておらず、FDAからの連絡もなかったのに情報を把握している。厚生省は、FDAが個別に連絡しないと情報を入手できないかのような答弁を繰り返しているが、FDAからの連絡もなくプリオン仮説も症例の積み重ねもない中、調査を開始したイギリスの対応についてどのように考えるか。
 2 旧予研と厚生省保健医療局エイズ結核感染症課が発行している『病原微生物検出情報』にCDCの第一症例を掲載しなかった理由は、「編集会議において、第一症例報告の掲載の適否が検討されたが、ヒトへの感染機構、病因論自体が極めて不明瞭な中で、当該MMWRの記事にも病原体や病原診断に係る情報が含まれていなかったことから掲載が見送られることとなった。」との記述があり、九七年五月六日の厚生委員会でも小林政府委員は、「第一症例の扱いというのはいろいろな考え方がありまして、当時、結果としては『病原微生物検出情報』には載っていなかったというのは事実としてはっきりしているわけでございまして、その当時の御議論はどうだったかわかりませんけれども、結果としては重要な情報としては考えられなかったということではないかと思っております。」と答弁している。であれば八九年に第二症例(及び第一症例)を掲載したことは、相当重要な情報であったと考えられるが、掲載した理由は何か。
 3 厚生省保健医療局エイズ結核感染症課は、自分たちが発行している月報に第二症例を掲載し、どのような対策を講じたか。
 4 厚生省は、「仮に、当時、厚生省が第一症例報告に関する情報を得ることができたとしても、輸入や使用を禁じる措置を講じる状況になかった」と述べているが、仮に第一症例を得ていたらどの程度の対策を講じる状況であったと考えられるか。

三 厚生省は九六年まで何ら対応をしなかったことの理由の一つにプリオン仮説が定説化されていなかったことをあげている。

 1 プルシナーがプリオン仮説を打ち立てたのは八二年である。八九年に九州大学のグループとプルシナーのグループがプリオン蛋白であることを同時期に発表し、プリオン仮説が見直されはじめ、九三年に定説化されているが、厚生省はプリオン仮説について八二年からどのように検討したか。
 2 「ライオデュラ」が汚染されていたのであれば、それを使用しないことで、とりあえず感染被害を防ぐことは可能である。そのあとに原因因子や感染メカニズムなどを考えればよいことは、誰にでも簡単に理解できる。厚生省が原因因子や感染メカニズムが不明だったことを理由として対応を遅らせたとは考えられないが、参考のためスローウイルスであるかプリオン蛋白であるかで対応にどのような違いがあったのか示されたい。
 3 厚生省は「CJDの原因因子も感染メカニズムも不明であったことを踏まえれば、ヒト乾燥硬膜とCJD発症との関係を結びつけるためには、症例数を集めた疫学的な分析が必要だった」と述べている。ヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」の承認からどのような調査を行なったのか明らかにされたい。
 4 FDAが警告をし、廃棄勧告を行なったのは、プリオン仮説が定説化されたからではなく、ヒト乾燥硬膜とCJD発症との関係を結びつけるための症例数を集めた疫学的な分析を行なったからでもない。国民の健康や命を守るために第二症例の発生を防ごうとする危機管理として行なったと考えられるが、見解を明らかにされたい。

四 厚生省が硬膜移植とクロイツフェルト・ヤコブ病の関係を認識したのは、九六年に英国で起きた狂牛病事件をきっかけに設置された「クロイツフェルト・ヤコブ病に関する緊急全国調査班」が調査を開始した後である。研究班の報告書には、「わが国では英国で報告されているような新変異型CJD患者と確定できる患者は確定できなかったものの、脳外科手術時にヒトの乾燥凍結硬膜の移植を受けた患者から四十三名に及ぶCJD患者の発症が明らかになった。この硬膜との関連は社会的にも大きな問題となり、これを契機にヒト硬膜移植の安全性が再検討されるに至った。(中略)さらに本調査を契機としてヒト硬膜移植の安全性の問題、近年におけるCJD患者数の増加傾向の確認、若年発症CJDの追跡調査等いくつかの今後の重大な課題も提起している。」との記述がある。要するに厚生省は、九六年の調査まで硬膜移植とクロイツフェルト・ヤコブ病との関係を認識していなかったことが理解できる。
 九六年に厚生省がFDAへ送った緊急ファックスで、「一九八〇年代に硬膜移植手術を受けたCJD患者がこれまで九人みつかっている。」と連絡しているが、その九人、さらに研究班の中間報告の二十八人、最終報告の四十三人は研究班が狂牛病事件をきっかけに調査した結果わかったものであり、厚生省がヒト乾燥硬膜移植とクロイツフェルト・ヤコブ病の問題を調査する目的で疫学的な分析を行なった結果でないことは明らかであると考えるがどうか。
五 医療用具による被害は、感染被害の危険性があるヒト由来製品であっても、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法の救済の対象にはなっていない。厚生省によると医薬品の副作用ではないから適用できないということである。
 そもそもこの法律は、薬害スモン事件を契機として、医薬品を適正に使用して発生した副作用被害であり、第三者に損害賠償ができないか追求が困難な場合に、被害者の迅速な救済を図るために制定されたものである。医薬品という危険を内在する物質を社会に供給する医薬品製造業者等のもつ社会的責任に基づき拠出されている。医療用具であっても、適正に使用したが、病原体が付着または混入し、重篤な疾病に罹患するという今回のようなケースは今後も危険性は否定できない。津島厚生大臣は「新しい処方を始めるとき必ずリスクがある。これは人間の歴史で数々の経験を私どもはしているわけで・・・すべて先に起こるべきことを予見する事は不可能」と断言している。であれば同様に医療用具による被害者の救済のための法整備をすべきと考えるがどうか。

 右質問する。



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