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平成十五年四月八日提出
質問第四九号

原子炉の健全性評価尺度(維持基準)に関する質問主意書

提出者  北川れん子




原子炉の健全性評価尺度(維持基準)に関する質問主意書


 昨年末の「電気事業法及び核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」により、事業者が運転中の原子炉の健全性を評価する尺度(以下「維持基準」という。)を導入することになり、経済産業省原子力安全・保安院は本年三月二十五日、日本機械学会の「発電用原子力設備規格・維持規格二〇〇〇」(以下「維持規格二〇〇〇」という。)をこの維持基準として採用することが「技術的に妥当」とする技術評価書をまとめた。しかし、この維持規格二〇〇〇と「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)との間の整合性に疑問があり、新設原発と老朽原発とで満たすべき耐震基準が異なり、ダブルスタンダードになるおそれがある。また、検査精度や検査体制にも疑問がある故に、次の通り質問する。

一 維持基準と耐震設計審査指針との整合性について
 (一) 経済産業大臣および経済産業省原子力安全・保安院は、導入される維持基準は「現行安全基準のレベルを引き下げるものではない。」「原子力発電所の新設時と老劣化時で安全基準が異なるようなダブルスタンダードを導入するものではない。」と国会等で主張している。新たに導入される維持基準では耐震設計審査指針で新設原発に要求される技術基準が満たされる、または、この技術基準を満たさない維持基準は導入しないとの主張に変更はないか答えられよ。
 (二) 原子力安全・保安院はとりまとめた技術評価書を三月二十五日の総合資源エネルギー調査会原子力安全保安部会原子炉安全小委員会で報告したが、この技術評価書をとりまとめるに当たり、耐震設計審査指針の専門家として誰が議論に参加していたのか、耐震設計審査指針との整合性についてどのように検討したのか、明らかにされたい。また、原子力安全委員会との協議は、いつ、どこで、どのように行われ、どのような議論がなされたのか、とりわけ、原子力安全委員会原子力安全基準専門部会耐震指針検討分科会施設ワーキンググループの昨年十月二十二日の第四回会合で「耐震設計技術指針と維持基準の関係」が検討され、安全裕度(マージン)を大きくとるべきとの問題提起が行われており、この問題提起に関する具体的な検討はいつ、どこで行われ、どのような結論になったのか、明らかにされたい。
 (三) 耐震設計審査指針におけるAsクラスの機器・配管系に関する許容限界は、基準地震動S1との組み合わせによって「発生する応力に対して、降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。」とし、基準地震動S2との組み合わせによって「発生する応力に対して、構造物の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも過大な変形、亀裂、破損等が生じ、その施設の機能に影響を及ぼすことがないこと。」と明記されている。ところが、維持規格二〇〇〇は「極限荷重評価法や破壊力学的評価法に基づく基準」であり、その許容状態は「評価期間末期において対象とする機器等に生じているき裂が、進展しても安全性を維持できる状態にあり、その機器が健全性を維持できる許容状態。」と定義されている。つまり、き裂が進展すれば、材料の実断面積が減って応力が高まる一方、材料の耐力が減るため、発生する応力がある値(流動応力)を超えると不安定破壊するが、維持基準では、応力がこの流動応力値を超えて破壊されないこと、つまり、「破壊されなければよい」と判断しており、現行の耐震設計審査指針等とは異なる判断基準が用いられている。そのため、き裂によって断面積が減った状態で、基準地震動S1との組み合わせに対し「原則として弾性状態にあるようにする」という許容限界を満たすようにはなっていないと考えられ、また、基準地震動S2との組み合わせに対しても「過大な変形を起こして必要な機能が損なわれない」という許容限界を満たすことができないと考えられるが、どうか。
 耐震設計審査指針における許容応力状態VASおよびWASの許容応力と維持規格二〇〇〇における許容状態CおよびDの許容基準との間にどのような整合性があるのか、具体的に明らかにされたい。
 (四) 耐震設計審査指針と維持規格二〇〇〇の不整合を示す端的な一例をあげる。維持規格二〇〇〇における整理番号十三「容器の破壊評価とその許容基準」の根拠3・2には「許容状態VA、WA、VASおよびWASの評価において適用する安全率は欠陥寸法(深さ)に関して二倍としている。これは応力に関して√2つまり一・四一倍となり、構造基準の運転状態V、Wでの一次一般膜応力強さに対する終局応力の安全率である一・五(注3)とほぼ整合させている。」と記され、その注3で、「一次一般膜応力の許容基準は2/3Suであり、Suは材料の引張強さを下回るよう設定された規格値であり、この許容基準は引張強さに対して3/2(=一・五)倍の安全率を持つよう定められている。」と記されている。しかし、耐震設計審査指針では一次一般膜応力の許容基準として2/3Suと設計降伏点Syの小さい方を許容応力とすると明記されている。用いられる材料にもよるが、多くの場合には設計降伏点Syのほうが設計引張強さSuの2/3の値より小さく、安全率としては一・五倍どころか、ステンレス鋼等では三倍以上に大きくとらなければならない場合もある。維持規格二〇〇〇に記載された「ほぼ整合させている」との評価はこの点で誤っており、耐震設計審査指針との整合性はないと考えられるがどうか。
 また原子力安全・保安院は、耐震設計審査指針と維持規格二〇〇〇との整合性について、右の点を含めて、使用される材料の特性を考慮して、具体的に、どこを、どのように検討し、どのような評価結果に基づいて整合性があると判断したのか、明らかにされたい。
 (五) 耐震設計審査指針における基準地震動は、材料に欠陥のない場合を想定し、質点系のモデル化によって動的解析を行い、各機器等の固有周期に基づいて応答応力を評価している。維持規格二〇〇〇ではこうして得られた地震力を欠陥の生じた機器等にそのまま適用するだけである。ところが、機器に欠陥があると、機器の固有周期が長くなり、また、振動モードに変化が生じる。とくに、剛構造の原子力発電所では、材料のき裂や機器の支持具の緩み等によって機器の固有周期が長くなると、地震動に対する応答速度が増し、それがさらにき裂や支持具の緩みを進展させ、機器や支持具等の破断に至るおそれがある。この危険性は現行耐震設計審査指針における応答スペクトルの提唱者である大崎順彦氏が著書で警告している。耐震設計審査指針では基準地震動によって発生する応力に対して許容基準を満たすことが求められており、供用中の原子炉についてもこの応答応力を正確に求める必要がある。しかし、機器等に欠陥等が入っている場合には、機器の応答応力を動的に厳密に評価する手法が現在存在しないと思われるが、それに相違ないか。
 欠陥のない状態を想定して求めた、機器等に発生する応答応力がそのまま欠陥のある機器等に発生すると仮定することは地震動による応答応力を過小評価することになると思われるが、それに相違ないか。原子力安全・保安院では、き裂の有無が応答応力の評価結果にほとんど影響しないと判断しているのであれば、そのように判断した実験データ等の根拠を明らかにされたい。
二 材料欠陥の検査精度について
 (一) 蒸気発生器細管等の過電流探傷検査装置では肉厚の二〇〜四〇%以上のひび割れでなければ検出できず、抜管による破壊検査を行う以外にき裂の状態を正確に把握することは困難である。超音波探傷検査装置では溶接部や複雑な構造の部位および材料によっては、き裂か否かの判別およびその大きさの確定が困難である。強い放射線環境下にあるという原発特有の条件がひび割れの測定を一層困難にしている。これらの結果、検査技術者の経験と勘によって判断されるグレーゾーンが広く、き裂の大きさが過小評価される可能性がある。維持規格二〇〇〇ではき裂等の大きさが正確にわかることが前提であり、検査装置および検査方法を厳格に指定し、き裂等の大きさの計測精度を考慮した許容基準を具体的に定めておく必要がある。維持規格二〇〇〇にはそのような規定はないと思われるが、どうか。
 もし、このような規定を維持規格二〇〇〇に追加的に定めたのであれば、その測定精度を測定装置、測定箇所、測定方法とともに具体的に示されたい。
 (二) 原子力安全・保安院は、技術評価書のなかで、@非破壊検査の検査精度確保、A欠陥が検出された場合の追加試験の実施、B継続運転が可能とされた場合の継続検査の実施、C評価の前提条件が変わった場合の再評価の実施などを「同規格を使用して健全性評価を適切に実施するうえで必要な事項」として事業者に求めたと報道されているが、これに相違ないか。原子力安全・保安院は、非破壊検査の検査精度としてどの程度の精度の確保を事業者に求め、それが確保されているかどうかをどのように確認するのか。Aの追加試験およびBの継続検査については、検査装置や検査精度は@の検査と同じと判断してよいか答えられよ。
三 定期自主検査の審査・評定について
 (一) 電気事業者が行う定期自主検査については、その実施体制(組織、体制、方法など)は審査・評定されるが、電気事業者がその検査体制に基づいて行った健全性評価の結果については経済産業大臣への報告だけで、審査・評定を受けない。このようなシステムでは、維持基準が運用面で厳格に守られるという制度的な保証がないと思われるが、どうか。
 (二) 東京電力が行っていたように、事業者内で書類に残らない検査ルールを作り、口述で引き継ぎ、一貫した不正を行えば、誰にも発見されないまま、ずさんな検査とずさんな「健全性評価」が事業者の中でまかり通ることになる。このような不正を制度的にどのように防ぐのか、具体的に示されたい。電気事業者の抜本的な体質改善がない限り、電気事業者まかせの健全性評価基準を導入することは、検査体制の一層の骨抜きにつながると思われるが、どうか。
 (三) 原子力安全・保安院は経済産業省管轄のままで、原子力推進行政と不可分一体であり、事業者の自主検査と健全性評価をチェックする体制もなく、立地自治体や原発周辺住民、さらには原発に批判的な国民の意見を反映させるシステムもない。四月に設立された独立行政法人原子力安全基盤機構は、電気事業者の定期自主検査体制を審査し、原子力安全・保安院が行うべき定期検査の一部を分担するが、この独立行政法人には、経済産業省役人が役員として天下りし、原子力メーカーなどの技術者が職員として派遣されている。電気事業者に対する検査や審査の大半がすべて原子力推進に利害のある身内だけで行われる体制がつくられるといえる。これでは、ずさんな検査体制に拍車がかかるのではないか。それを防ぐ手段の組み込まれていないシステムでは、たとえ維持基準が現行の安全基準と同等のものとして作成されたとしても、厳格に運用されない可能性がある。そうならないという制度上の保証はどこにあるのか明らかにされたい。

 右質問する。



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