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平成十五年七月十日提出
質問第一二五号

諫早湾干拓事業の進行に伴う漁業被害と環境破壊拡大への対応に関する質問主意書

 提出者
 小沢和秋    赤嶺政賢




諫早湾干拓事業の進行に伴う漁業被害と環境破壊拡大への対応に関する質問主意書


 昨年一月から、漁民の強い反対と世論の厳しい批判を押し切って、諫早湾干拓工事が再開された。その後の事態は、今年五月に有明海では大量の浮遊物が発生するなど、これまでよりさらに環境の悪化が進み、漁民の不安はいっそう強まっている。これに対応する政府の緊急の取組みが求められている。
 よって、次のとおり質問する。

(一)
 今回有明海に大量に発生した生物系由来の粘質浮遊物は、漁船の網が引けなくなったり、漁獲量が減少したりするなど沿岸漁業に深刻な被害を与えた。このような浮遊物はこれまで発生した記録がなく、諫早湾干拓事業による有明海の環境破壊が、より一層進んだことを示すものとして憂慮されている。この浮遊物は現在は消失していると聞くが、原因は今なお確定されていない。この浮遊物のために沿岸漁業は、例年に比べ漁獲量、金額でどの程度の被害を受けたと推定されるか。
(二)
 今回の大量の浮遊物がどういうものであり、どのような原因によって発生したかを明らかにすることは、今後の有明海の漁業を守り、これ以上の環境破壊を防止するために緊急の課題だと考えられる。その解明のための調査、研究はどのように行われているか。現在までに到達した知見を明らかにされたい。
(三)
 今回の大量の浮遊物は、まず諫早湾口で発見され、これにより漁業被害が出ているとの長崎県の通報を受け、五月七日には海上保安庁の巡視艇が出動し、湾口部に帯状に広がる浮遊物を確認している。次いで島原半島沖でも浮遊物が確認されており、潮の流れから考えて諫早湾から発生したのではないかと考えられる。浮遊物が発生する直前の本年四月二十七日から四月三十日までの四日間に、調整池から南北両排水門を合わせて合計千百八十万m2もの排水が行われている。この大量の排水が今回の浮遊物発生の引き金になったのではないか。この大量排水が、浮遊物発生と無関係であると断定する根拠があれば示されたい。
(四)
 わが国のノリ養殖技術の確立者として知られる太田扶桑男氏の調査によれば、浮遊物には石灰粒子が付着した海藻が多数混在していた。同氏によれば石灰粒子によって海藻の細胞内粘質物が溶かされ、薄い膜状になった海藻が有明海の浮泥に付着して浮遊物になったと考えられている。諫早湾干拓の工事現場では沿岸漁民による強い抗議の後、軟弱地盤の土壌改良材をセメントから生石灰に変えたが、この石灰が調整池に流れ込み、それが諫早湾、さらに有明海全体に流出しているのではないか。特に四月末の大量排水時に、粒子化した石灰が水に混入して大量に流出し、浮遊物発生の有力な一因となったことは十分に考えられるが、そうでないと断言できるか。
(五)
 生石灰も水に溶ければ、水中のpH値を上げる点ではセメントと同じである。ノリはpH九以上になると確実に悪影響を受けることが確かめられており、国も有明海の沿岸でノリの漁期にセメントを使う工事を控えていることを、二〇〇一年十一月九日付で我々が提出した質問主意書に対する同年十二月七日付の答弁書の中で明らかにしている。セメントと同様に生石灰も有害であるとすれば、その使用をただちにやめるべきではないか。
(六)
 これまで諫早湾干拓の土壌改良材として、生石灰をどれだけ使用してきたか。今後どの程度の量を使用する予定か。年度別総量と一m2当りの量を答えられたい。また、有明海の環境配慮のためどういう措置を講じているか。
(七)
 調整池からの日別の排水実績を見ると、二〇〇一年十月二十三日から翌年四月二十二日までの半年間、北部排水門からの排水を全く行わず、南部排水門からだけの排水を行っている。なぜこの期間だけ、このような排水門操作を行ったのか。調整池からの排水が前年の未曽有のノリ凶作の原因となったという漁民等の批判を考慮し、ノリ養殖期間の半年間、ノリ漁場に排水が直接影響を与えないように配慮したのではなかったか。他に理由があれば、それを示されたい。
(八)
 二〇〇二年の有明海のノリ養殖は、前年から一転し、福岡や佐賀では平年並みの生産を回復した。これは北部排水門からの排水を止めたことが一因となったのではないか。このようにノリ養殖によい影響を与えるのであれば、二〇〇二年十月以降も当然同じような排水門操作をすべきだったのではないか。なぜ今回は行わなかったのか。
(九)
 北部排水門からの排水をやめた排水門操作に呼応して、佐賀や福岡のノリ養殖が平年並みに回復したのは、調整池からの排水が有明海の漁業に悪影響を与えていることを、図らずも証明したのではないか。
(十)
 調整池からの排水と潮受堤防閉め切り前の河川水の水質を比較すると、その悪化はきわめて明瞭である。CODは三r/lが七・〇二r/lに、全窒素が〇・三r/lから一・四七r/lに、全燐が〇・〇五r/lから〇・二二r/lと二〜五倍も悪化している。調整池の水質保全目標値は、当時の河川水の水質に比べれば控えめなものだが、CODが五r/l以下、全窒素が一r/l以下、全隣が〇・一r/l以下となっている。しかし、国のモニタリングの結果を見ると、一九九七年の潮受堤防閉め切り後から二〇〇一年二月初めまで、いずれの項目もはるかに目標値を上回っている日がほとんどで、CODは約十倍、全窒素は約七倍、全燐は約十五倍と極端な汚染を示す日もある。なぜこのように著しい汚染結果になっているのか。
(十一)
 アセスメントでは、調整池からの排水は有明海全体の環境や漁業に軽微な影響しか与えないと結論づけていた。しかし、調整池の水質は前記したとおり、潮受堤防閉め切り直後から急激に汚染が進行し、これが有明海全体の深刻な汚染、漁獲量の減少の有力な原因の一つとなっている。結局アセスメントは、干拓事業を推進するために単なる手続きとして行われたにすぎなかったのではないか。アセスメントの結果と現況がこのように大きく違い、多大な被害を与えていることについて国はどう責任をとるのか。
(十二)
 調整池の第二期水質保全計画では、二〇〇七年度には水質保全目標値を達成することになっている。現在、これだけ著しく汚染が進んでいる状況のもとで、どのようにして水質を改善しようとしているのか。その方法を具体的に示されたい。
(十三)
 先日干拓工事現場の現地調査を行い、現場の担当者から説明を受けたところ、中央干拓地の農業用水取水口は本明川の現河口からわずか六百m下流であることが分かった。調整池の広大な部分の水質が、農業用水として改善する見通しがないために、こういう場所を取水口にしたのではないか。「調整池及びそこを水源とするかんがい用水が確保された優良農地」という宣伝は、すぐに取りやめるべきではないか。
(十四)
 計画では中央干拓地の揚水ポンプ能力は毎秒〇・五一トンだが、このまま本明川の河口から汲み上げれば、小雨期には調整池に河川水が行き渡らず、調整池の水質はいよいよ悪化することにつながるのではないか。
(十五)
 元・中央水産研究所研究室長佐々木克之氏は、最近農水大臣と開門総合調査運営会議に対し、短期開門調査報告書の結論に誤りがあると申し入れ書を送付し、回答を求めている。佐々木氏は「報告書は調整池の水質が改善した理由を海水導入による希釈効果等に伴う減少としているが、それは誤りで、調整池の水質の改善は導入された海水により調整池に漂う浮泥が凝集し、窒素や燐を吸着して沈降・堆積したことによる」と主張している。佐々木氏のこの主張をどう考えるか。誤っているというなら、そう判断する具体的根拠を示されたい。
(十六)
 短期間の海水導入でも調整池の水質が改善されることが明らかとなった。短期間の開門調査でも有明海の環境回復にとって大きな可能性が示された以上、中・長期調査は、いよいよ緊急の課題となっている。中・長期開門調査検討会議の論点取りまとめを待つまでもなく、ただちに中・長期調査に着手すべきではないか。この調査を事実上棚上げにしたまま、工事だけはごり押しするという姿勢は、断じて許されないと思うがどうか。
(十七)
 国は昨年の短期開門調査の際の排水によって、小長井町漁協など諫早湾内四漁協の漁業に被害を与えたとして、これらの漁協と補償交渉を進めているが、短期開門調査による影響で漁業被害が出たと判断した具体的根拠は何か。調整池からは日常的に汚染された水が排水されているが、短期開門中は国も認めているとおり、調整池の水質は改善されていたのであり、そのような排水で特別の被害が出るはずがないと思われる。これまで四漁協から短期開門調査の前に、調整池からの排水により漁業被害が出たと補償の申し出があったことがあるか。
(十八)
 四漁協は中・長期開門調査を実施すれば漁場が荒れるなどとして、長崎県知事らとともに強硬に中・長期調査に反対し続けている。国は開門調査前後で、湾内の漁獲量に減少が見られたというが、我々がその減少の程度について説明を求めたところ「補償額に影響する」ので、それは示せないと答えている。我々はそのような理由には納得できない。本当に被害が出ているのであれば、漁獲量の減少の状況を示すことはできるはずであり、補償交渉はその数字に基づいて進めればよいのではないか。改めて開門調査前後での漁獲量減少を示すよう求めるがどうか。
(十九)
 南北両排水門の外側に建設を予定している導流堤は、当初計画にはなかった。なぜ計画変更に当たって導流堤建設を追加したのか。国は「計画変更に伴い環境に配慮し、閉め切り以前のミオ筋に合わせるため」と説明しているが、当初計画どおりでは有明海の環境に悪影響があったということか。
(二十)
 調整池の水質が今のように悪化したままでは、導流堤によって放流方向を変えても、集中的に影響を受ける場所が変わるか拡散するだけで、有明海全体に与える負荷は変わらないと考えられるがどうか。
(二十一)
 導流堤建設については、各県漁連にのみ説明され、漁協や漁民等には全く説明をしていないと聞く。有明海沿岸の漁協や漁民等に十分な説明を行い、同意を得てからでなければ着工すべきでないと考えるがどうか。
(二十二)
 水産庁は本年四月十日、有明海のノリ養殖不作により影響を受けた漁民に対し、経営資金の円滑な融通や既貸付金の償還猶予について配慮するよう金融機関等に依頼している。我々が調査したところ、融資の窓口である漁協を通じ、漁民にこの指導内容が行き渡っていないことが判明した。改めて指導を徹底すべきでないか。
(二十三)
 有明海では潮受堤防閉め切り後漁獲量が減少し続け、沿岸の漁民は漁業では生活できないと窮状を訴えている。現地の漁業被害の実態調査をすみやかに行い、昨年成立した有明海・八代海再生特別措置法の第二十一条と第二十二条に定められているとおり、ノリ漁民だけでなく、干拓により漁業被害を受けている漁船漁業や採貝漁民などにも対象を広げ、救済を図る必要がある。借金返済と生活のため、出稼ぎをする漁民も増えていると聞く。有明海の漁業を維持していくためにも、これらの漁民に地元で働く場を緊急に創出すべきではないか。

 右質問する。



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