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平成二十一年六月十七日提出
質問第五五二号

極めて危険な消費税十二%への引き上げと、不可解な試算に関する質問主意書

提出者  滝  実




極めて危険な消費税十二%への引き上げと、不可解な試算に関する質問主意書


 六月九日に有識者議員から経済財政諮問会議に提出された『経済財政の中長期試算』(以下「試算」という)は、消費税を十二%に引き上げ二〇二〇年に基礎的財政収支を黒字化するというシナリオの試算であり、マスコミに大きく取り上げられ、それが骨太方針二〇〇九に盛り込まれようとしている。しかし、その内容は重要な部分が隠されており、重大な問題があると思われるので質問する。

一 試算は、二〇一一年から段階的に一%ずつ消費税率を引き上げ、現在五%の消費税を最終的に十二%にするという内容である。このことに対して、ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン氏は週刊現代(六月二十七日付)でのインタビューで次のように発言している。
 『実に危険な考えですね。消費税アップは、効果としては金融引き締めそのものです。これほど景気が悪い状況で実施するのは、バカげている。日本は '九七年にも同じことをして手痛い目に遭ったのに、まったく教訓を得ていないようですね。いまは断じて、消費税を引き上げるべき時ではありません。』
 クルーグマン氏のこの忠告をどのように考えるか。
二 一九九七年に消費税率が二%だけ引き上げられた後には消費が減り景気が悪化した。当時の首相であった橋本龍太郎氏は二〇〇一年の自民党総裁選において、消費税率引き上げは失敗であったとコメントしている。この元総理のコメントをどのように考えるか。
三 消費税を引き上げれば、当然のことながら、実質的に可処分所得が減り、消費が減り、実質GDPが減る。驚くべきことに試算では、その逆だ。消費税引き上げが無い場合に加え、三%、五%、七%の三種類の引き上げ幅のシナリオの試算が示されている。例えば、試算の九頁に示されているように二〇二〇年度の実質GDPは三%の場合が一.〇%、五%が一.一%、七%が一.三%というように、増税の幅を大きくすればするほど、実質成長率は高くなるとなっている。そのような試算が正しいと信じる経済学者は一人もいないのではないかと考えられ、これは意図的に国民を騙して、消費税増税を強行しようという政府の意図の現れではないかと疑っている。そのような信じ難い試算の根拠を示されたい。
四 この試算には、国民の前に明らかにしない裏がある。消費税を増税する分、社会保障関係費を増やしているから、逆に経済は成長するという論理のように思われる。しかし、実際に何をどれだけ増やしたのかを明らかにしていない。消費税率だけを明示し、社会保障関係費の額を隠したのは、国民を騙すのが目的というしかない。この試算で消費税増税と社会保障関係費の増額が同程度に重要だからである。九頁に書いてある以下のコメントを読むといい。この試算の最も重要な部分を隠している。
 【コメントの内容】
  社会保障の機能強化を『中期プログラム』の工程表を踏まえ一定の仮定に基づき実施(ただし、消費税率を据え置くケースでは、基礎年金国庫負担割合の二分の一への引上げ、高齢化の進展に伴い自然に増加する公費負担のみ対応。)
 試算においては社会保障関係費の増額分が示されていない以上、このコメントを読んで試算内容が分かる人などいないから、実はネット(正味)での歳出増により経済成長率が増加するという試算の最も重要で絶対に知られたくない部分を隠すことができ、完璧に国民を騙すことができるという結果になる。さらに驚くべきことは、消費税増税で公債残高がどんどん減っている。このような手品のようなことができるなら、一九九七年の消費税増税の際にもそうなっていたに違いないがそれは無かった。
 これが本当に実現するなら、どのようにして実現するのか、その内容を詳しく国民に明らかにすべきではないのか。明らかにできないのであれば、四月十日に「経済危機対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議が発表した「経済危機対策」の二頁及び三頁に示されている「基本方針一:国民一体となった対応」の@及びAに反するものではないか。
五 試算ではいくつかの場合が示されているが、その中で標準と思われるものとして八頁の「世界経済順調回復シナリオ、十四.三兆円歳出削減」のデータによって問題点を取り上げる。
 名目成長率は二〇〇八年度マイナス三.七%、二〇〇九年度マイナス三.〇%、二〇一〇年度マイナス〇.四%であり、これを基に名目GDPのグラフを図一に示した。
 二〇〇七年度に五一五兆円あったGDPだが、二〇〇八年度に四九六兆円、二〇〇九年度に四八一兆円、二〇一〇年度に四七九兆円と、断崖を滑り落ちるかのごとく日本経済は縮小していくとの予測である。二〇一一年度から消費税を増税ということは、二〇一〇年度には決断をしていなければならず、二〇一〇年度には経済状態はどん底というべきであり、とても消費税増税どころではないのではないか。
六 十年以上も前の一九九七年には日本のGDPは五一三兆円に達していた。二〇一〇年には四七九兆円にまで縮小するとの内閣府の予測である。政府の行うべきことは縮小した経済を元に戻す努力をすることであり、消費税増税で景気回復を妨げるべきではないと考えるがどうか。
七 庶民の暮らしという観点から考えても、図二で示したとおり、賃金は随分下がっている。消費税増税であれば、それだけ物を買えなくなるのは明らかである。さらに悪いことに、二〇〇九年度の補正による政府の景気対策は、家電・車・家などを買えば国が補助金を出すというもので、その景気対策が打ち切られ、そのうえ消費税増税となれば、ダブルパンチで家計を直撃し消費を減らすのは間違いない。また、雇用調整助成金が打ち切られれば首切りが激増、失業者が激増し、社会不安が起きる。名目GDPが下がるということは、賃金も同様に下がっていることを示し、そこで消費税増税で物価が上がれば、消費は減り消費減はGDP減に繋がるのではないか。
八 消費税増税による実質GDP押し下げ効果を、社会保障関係費を増やして補おうとするのであれば、結局、消費税増税による負のアナウンス効果だけが残るから何もやらないほうがましではないか。
九 「衆議院議員滝実君提出補正予算に関する政府の説明責任に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一七一第四三七号)等において、「「民間経済の自律的回復」とは、企業や家計といった民間部門が、財政支出に頼らず、生産・所得・支出の好循環によって成長する状態であり、民間活動がその主体をなす我が国経済の持続的成長には不可欠の条件であると考えている。」との答弁をいただいた。当該答弁を前提にすると、試算に示されている消費税の増税は、「民間活動がその主体をなす我が国経済」に対して政府の関与をより大きくするものであるが、それがどうして「民間経済の自律的回復」に繋がるのか。
 また、消費税増税分と社会保障関係費増額分を勘案した正味での歳出増が経済成長に繋がるのであれば、これは、「需要不足を財政支出で埋め合せることについては、過度に公需依存となり、民間経済の自律的回復をむしろ遅らせる」との答弁に反しているのではないか。
十 与謝野馨財務・金融・経済財政政策担当相は四月十一日、BS11デジタルの報道番組収録で、基礎的財政収支について「少しいいかげんな概念」との見解を示したうえで、「基礎的財政収支ではない、きちんとした目標を立てて、GDP比で国債残高が増え続けるのを抑制しなければいけない」と語った。与謝野大臣が「いいかげんな概念」であるとした基礎的財政収支をなぜ再び骨太方針二〇〇九で使うのか。
十一 骨太方針二〇〇六では内閣府の試算に基づき、二〇一一年度基礎的財政収支黒字化を国家目標として、二〇一一年度の基礎的財政収支はどうなるのかについての予想が毎年下方修正が繰り返されてきた経緯を掲げる。
 @ 二〇〇六年一月 黒字化可能と発表。
 A 二〇〇七年一月 黒字化は不可能、しかし十四.三兆円の歳出削減を行えば、〇.二%の黒字にできる。
 B 二〇〇八年一月 十四.三兆円の歳出削減を行っても、〇.一%の赤字になる。
 C 二〇〇九年一月 二〇一一年度の基礎的財政収支は二.九%の赤字。
  消費税を十二%にすれば、二〇二〇年度に黒字になる。
 このように、三年連続で予測がはずれ大幅下方修正となった。要するに試算は全く正しく予測できなかったということだ。それだけでなく、例えば名目成長率やGDPデフレーターは、二〇〇二年度の発表以来、毎年大幅な下方修正を続けており、内閣府の試算は全く予測能力を持たないことが完璧に証明されている。同じ経済モデルを使った今回の『試算』も予測は正しくなく、今後二〇二〇年まで毎年下方修正が続くと思われる。政府はこのような劣悪な試算を基に国家目標を立てても良いのか。
十二 日本の超低金利政策は、昨年表面化した米国の住宅バブルの崩壊の背景になったことが指摘されているし、超低金利政策によって個人所得が伸びず、消費も制約されているのであるから、政府の経済財政基本方針に超低金利政策をどうするかについて示すべきではないのか。

 右質問する。


図一 名目GDP


図二 平均給与


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