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平成二十二年十月二十九日提出
質問第一〇三号

労働基準監督機関の役割に関する質問主意書

提出者  村田吉隆




労働基準監督機関の役割に関する質問主意書


 労働基準法第十一章に監督機関が定められている。このうち、同法第百二条において、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。」と定められており、同じく第百一条第一項において「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。」とその職務権限が定められている。
 当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲につき、以下の点について質問する。

一 監督官が行う調査は、行政指導である。行政指導である以上、行政手続法第三十二条の行政指導の一般原則である、
  「行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
 2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。」
の適用を受けるものである。
 したがって、当該調査に関しては、労働者の生命身体の危険が今まさに迫っているなど、緊迫した事情(具体的には重大性、捜査の緊急性、必要性)がない限り、相手の任意の協力が大原則であり、謙抑的に行われなければならない性格を有するものと解されるが、この点につき見解を問う。
二 監督機関の基本的役割は、罰則の適用を背景として現に確認し得た法違反についてこれを将来に向かって是正させ、かつ、再び法違反を生じせしめないよう監督指導することにあるのではないか。この点に関する見解を問う。
三 遡及是正の勧告の対象とする事案は、賃金不払事件として立件するに足りる客観的な確証が得られたものに限るべきであり、不払いに係る労働日数、労働時間数、金額等を特定し得ないものについては、これを行うべきではないのではないか。この点に対して見解を示されたい。
四 タイムカードで、正確な労働時間が算定できるか否かの疑義がある。
 判例には、「就業開始前の出勤時刻については余裕をもって出勤することで始業後直ちに就業できるように考えた任意のものであったと推認するのが相当であるし、退勤時刻についても既に認定した営業係の社員に対する就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労とが一致していたと見做すことは無理があり、結局、原告についてもタイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ないと見るのが相当である」とされた三好屋商店事件(東京地判、昭和六十三年五月二十七日)、や「被告におけるタイムカードも従業員の遅刻・欠勤を知る趣旨で設置されているものであり、従業員の労働時間を算定するために設置されたものでないと認められる。したがって、同カードに打刻・記載された時刻をもって直ちに原告らの就労の始期・終期と認めることはできない」とされた北洋電機事件(大阪地判、平成元年四月二十日)など、タイムカードで直ちに労働時間を算定することができないと否定的な立場のものも少なくない。
 また、平成十六年三月二日受領の「衆議院議員長妻昭君提出国のタイムカード導入及び賃金不払い残業に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一五八第一五号)において、国は
 「厚生労働省における職員の勤務時間管理については、国の機関として国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)、人事院規則等に基づき勤務時間報告書等を適切に管理することにより特段の支障なく行っているところであり、また、タイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないことから、勤務時間管理の手法としてタイムカードの導入は必要でないと考える。
 (中略)タイムカード導入のメリット及びデメリットについては、その導入により職員の登庁及び退庁の時刻を把握することが可能になると考えられるが、一方、機械的に登庁及び退庁の時刻を記録するタイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないと考えられ、また、導入のための費用も必要になると考えられる。」
と答弁している。
 このように国が、国家公務員の勤務時間の把握につき、「職員の正確な勤務時間が把握できない」と認識しているタイムカードにつき、民間に対しては、その打刻時刻にもとづいて労働時間を算定すること、ならびに、これにより算出された労働時間から、賃金の支払いを強要することは、おかしいのではないか。
 この点につき、見解を明らかにされたい。
五 昭和六十二年五月二十二日の朝日新聞朝刊によれば、旧労働省の労働基準局監督課長松原東樹氏の話として、基発第一一〇号昭和五十七年二月十六日に関し、「指摘された通達は、監督官の業務指針として出した内部文書だ。三カ月という限度を設けたのは、割増賃金の対象となる労働時間の調査が大変手間どる作業で、一年も二年もさかのぼるのは不可能に近く、三カ月ぐらいなら何とか調べられると判断したからだ。それに、未払い分の支払いを命じる権限は、労基法上はない。しかし、何もしないのはまずいので、勧告している。」と、監督行政における遡及是正のコメントが示されている。
 ここで、課長は「監督官には、未払い分の支払いを命じる権限は、労基法上はない」と発言しているわけだが、当時と現在とで事情が異なっているのか。仮に異なっているとしたならば、その理由も明らかにされたい。
六 タイムカードの打刻時刻から算出された労働時間の中身につき、労使に争いがある場合、これは当事者間で解決すべき問題であり、紛争解決の最終手段として、民事訴訟が用意されている。
 しかし、是正行政の現場では、監督官の裁量により、「賃金請求権の時効にかからない、二年間の遡及是正」や「六ヶ月間の是正遡及」といった勧告がされている。しかしこれは民事の問題であり、たとえば、交通事故の現場に駆けつけた警察官が、加害者に対し「被害者の損害賠償金として〇〇万円、いつまでに支払いなさい」と命令することと同じである。こうした、民事に関する事案に支払命令を出す権限があるのは、三権分立の精神からして、裁判所に限定されるものであると解される。
 はたして、監督官には、民事に介入する、すなわち労働時間数、金額が確定していない残業代請求に関し、こうした遡及是正を勧告する権限があるのか、法的根拠を明らかにしお示しいただきたい。
七 労働基準法第百一条の調査権は、無制限にそれを行使することができないと解される。任意捜査の原則における最高裁判所(最判、昭和五十一年三月十六日)の判断では、「重大性、捜査の緊急性、必要性に比例した限度内で相当な方法によらなければならない」とされており、本調査権も例外ではないと解される。この点につき、明確な見解を示されたい。

 右質問する。



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