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平成二十六年六月十八日提出
質問第二七〇号

福島第一原子力発電所における「建屋の止水」工事における作業被曝等に関する質問主意書

提出者  辻元清美




福島第一原子力発電所における「建屋の止水」工事における作業被曝等に関する質問主意書


 六月二日に提出した「福島第一原子力発電所における「凍土壁」の解凍要件及び撤退要件に関する質問主意書」(六月二日質問主意書)について、六月十日に答弁書(六月十日答弁書)が閣議決定された。同答弁書で政府は「原子炉建屋等の隙間等を塞ぐこと」(以下建屋の止水)について「技術的に非常に難易度が高い」とした上で、「人による作業が可能な個所については、既に、防水剤や止水パネル等を用いた建屋の止水に着手しており、また、高線量等のため人による作業が困難な場所については、現在、ロボットによる除染を進めているところであり、今後、線量が下がらない場合に備え、例えば、ロボットによる遠隔作業に係る研究開発を経済産業省の補助事業により行うこととしている」とある。
 しかし、毎日四〇〇トンの漏えいというのがどれくらいの水量であるかを考えたとき、実は微小な亀裂からの流入である可能性が高い。例えばそれは、下記のような試算から推測できる。
 ・四〇万リットルを二四時間で割った時の流量は、毎秒四・六三リットル
 ・深さ二メートルのプールの底部に穴がある場合の噴出速度=毎秒六二六センチメートル
 これは、深さ二メートルのプールの底部にある断面積一五平方センチメートル(〇・〇〇一五平方メートル)の穴=直径四・三センチメートルの穴=五〇カ所の亀裂(各幅〇・一ミリメートル、長さ三〇センチメートル)から漏出する水量に相当する。
 一方、遮水壁は、周長一五〇〇メートル×深さ三〇メートルであるため、面積は四五〇〇〇平方メートルとなる。毎日四〇〇トンの流入を許す原因となる亀裂や破口の断面積(〇・〇〇一五平方メートル)に比べ、遮水壁の面積(四五〇〇〇平方メートル)は著しく大きい。微少の不完全な施工部分があるだけでも、当該部が透水路であった場合には、有効性が発揮されない可能性は大きい。したがって、凍土壁の完成度と遮水率が比例する可能性は低く、凍土壁で隣接する凍結管同士の間隔の八割が閉合したことで、汚染水の流入が八割減じることにはならない。
 また、止水対象建屋の寸法を「原子炉建屋:四十六メートル×五十六メートル」「タービン建屋:六十五メートル×一〇四メートル」「放射性廃棄物処理建屋:二十一メートル×七十二メートル」「その他サービス建屋、制御建屋」と把握した場合、これらが四ユニット(一〜四号機)存在することを考えると、建屋の止水バウンダリーの面積は広大である。さらに、建屋への流入の可能性のある部位としては、「亀裂(床面、壁面)」「建屋壁面と配管、電線管、トレンチの貫通部」「配管、電線管、トレンチ内部からのバイパス流入」「床ドレン、機器ドレンからの逆流」などが考えられる。このように、流入源の可能性としては、建屋の亀裂だけでなく、複雑な形状の貫通部や、亀裂、腐食、破断などによる貫通欠陥のある配管やトレンチなどを経由したバイパスも考えられる。したがって、広大かつ複雑な形状の建造物の表面に、幅〇・一ミリメートル、長さ三〇センチメートルの亀裂に換算したものが、どこに何本存在しているかを想像し、探しあてることは困難を極める。
 また、止水作業の障害として、下記の点があげられる。
 @ 劣悪な作業環境
 東京電力が発表しているデータによれば、原子炉建屋内は毎時一〇〜一〇〇ミリシーベルトとなっており、詳細データはなく、未知のホットスポットも存在する可能性が高い。またタービン建屋は毎時五〇〜一〇〇〇ミリシーベルト、放射性廃棄物処理建屋は毎時五〇〜五〇〇ミリシーベルトとなっている。作業者の年間許容被曝線量は一人当たり二〇ミリシーベルトとなっているため、毎時二〇ミリシーベルトの作業環境では一時間で、毎時二・五ミリシーベルトでも一日(八時間)で交替が余儀なくされる。しかもその作業者はその後一年は同じ仕事をすることができない。
 A 複雑な建屋内部のレイアウト
 建屋内部には壁、床、階段、グレーチングなどの構造物や、配管、ポンプ、弁、タンク、サポート材、電気パネル、消火パネル、ドレン・ファンネル、計器パネル等の機器が存在する。これらの複雑な形状の表面や隙間に付着・残留する放射性物質により作業環境が改善され難く、物理的な干渉となって作業性が極めて悪い。
 B 止水作業が困難である技術的理由の存在
 漏水の位置はあらかじめ分からず、遮水によって漏れを止めてしまうと、漏れの箇所が発見できなくなるという矛盾がある。また無造作に止水材を注入しても、漏水個所を外す可能性がある。何より、止水が効果的に実施されたかどうかは、遮水を解除するまで確認できない。
 さらに、水抜き、ドライアップ後に想定される建屋内の状況は、高濃度に汚染されたコンクリート粉塵、粘土、シルト、砂等が沈殿・付着し、油分(潤滑油)、鉄錆の沈殿・付着が想定される。こうした層や膜が付着した床・壁面を洗浄もしないでただセメントを流し込んだとしても、十分な接着が起こらない。したがって、床・壁面を洗浄してヘドロ等を除去しなければ、効果的なシールは確保できない。もちろん洗浄作業には、防護服の上からとはいえ、高圧ジェット水などでハツリしたヘドロが作業員に付着する危険性も高い。そのような場合には、予測されていた作業被曝量が増大する可能性もある。
 こうした劣悪な環境のなかでの止水作業工程は、下記のように推測される。
 まず、膨大な機械化されない人的作業が必要とされる。建屋内は複雑な三次元的アクセス路となっており、階段や干渉物が多数存在する。しかも単純なアクセスだけではなく、数十キログラム程度の資材の運搬、据付、運転などの作業があるため、ロボット化は現在の技術では不可能であり、ほとんどが人力作業に頼らざるを得ない。
 以下、政府が想定するようにドライアップが完了したとして、「一〇メートル×一〇メートル×四メートルのエリアが一〇〇カ所存在する」「線量は毎秒五ミリシーベルト」という仮想作業エリアを設定した際の止水作業工程について、必要な作業を「仮設照明の設置、換気設備の設置、除染(ジェット水洗浄、汚染水回収)、止水材の適用(注入、スプレー、刷毛、ローラーなどによる塗布作業)、準備、片付け等」とし、「一エリアの投入人員を一二〇人(平均作業被曝線量を一人当たり一五ミリシーベルト)」「全体で一〇〇エリア」と試算してみる。その場合は一二〇〇〇人の投入人員が必要となり、一人当たりの人件費(調達コストを含む)を五万円とすると、止水工事のみで六〇〇億円のコストが必要となる。
 これらは一つの試算であるが、止水作業には、膨大な人員確保とそれに伴うコスト、作業被曝が発生することに疑いはない。以下のとおり、質問する。

一 ドライアップが確立されるまでの問題について
 1 山側(原子炉建屋)の地下水レベルが、海側(タービン建屋)よりも顕著に高いため、原子炉建屋への汚染水の流入、タービン建屋からの流出が起こる可能性について、政府として検討したことはあるか。あるのであれば、何時、どの機関・委員会等で、どのように検討されたのか。検討結果とともに示されたい。また、作業の発注先から、原子炉建屋への汚染水の流入、タービン建屋からの流出が起こる可能性について、どのような説明を受けているか。
 2 遮蔽としての水がなくなることにより、建屋内の放射線レベルが上昇し、放射線管理上の危険性が増大することについて、政府として検討したことはあるか。あるのであれば、何時、どの機関・委員会等で、どのように検討されたのか。検討結果とともに示されたい。また、作業の発注先から、ドライアップによる建屋内の放射線レベルの上昇について、どのような説明を受けているか。
 3 放射性物質(α核種・β核種)のエアボーン(固体の表面に付着している放射性物質が、物理的な作用や気流などによって表面から剥離させられ、気中に浮遊して拡散する現象を指す。表面を水没、または湿潤な状態に保つことによって抑制できるが、排水または乾燥状態とすることによって著しく促進される)移行による環境悪化について、政府として検討したことはあるか。あるのであれば、何時、どの機関・委員会等で、どのように検討されたのか。検討結果とともに示されたい。また、作業の発注先から、放射性物質(α核種・β核種)のエアボーン移行による環境悪化について、どのような説明を受けているか。
二 止水作業の困難性について
 1 政府は、右記のような「劣悪な作業環境」「複雑な建屋内部のレイアウト」「洗浄作業の困難性」など、止水作業における障害について検討したことはあるか。あるのであれば、何時、どの機関・委員会等で、どのように検討されたのか。検討結果とともに示されたい。また、作業の発注先から、止水作業における障害について、どのような説明を受けているか。
 2 止水が効果的に実施されたかどうかについて、遮水を解除する以前に確認する方法を政府は想定しているか。想定していないのであれば、例え止水作業の工程が終了したとしても、凍土壁の解凍後に再び漏水が確認された場合は、凍土壁の凍結及びドライアップ、除染、止水といった再工程が必要になるのではないか。また、再工程が必要となった場合のコスト増について、政府は認識しているか。また、作業の発注先から、コスト増について、どのような説明を受けているか。
 3 止水作業において、どれくらいの人員確保が必要で、どれくらいの作業被曝が発生すると政府は認識しているか。また、そうした試算を政府として行っているか。そもそも、凍結解除のためには「建屋の止水」が必須となる「凍土壁による遮水」という選択が、膨大な作業被曝者を生むという認識は政府にあるか。また、作業の発注先から、人員確保の見通しや作業被曝者の発生について、どのような説明を受けているか。
 4 凍土壁は、その設置に技術的な困難を抱えた上、凍土壁自体が仮設構造物でいつかは解凍されることから,別途「建屋の内部からの止水」工事が必要になっている.作業者にこれだけの大きな「犠牲」を強い、さらに「止水」が完了しなければ再凍結を余儀なくされ、作業被曝者が延々と増えていく。政府は早急に凍土壁の工事を中止し、恒久構造物である「RC地中連続壁」などの導入による、建屋群全体の地下水流からの恒久的遮断について検討を開始するべきではないか。政府の見解を問う。

 右質問する。



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