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平成三十年十二月五日提出
質問第一三一号

刑法の性犯罪規定の見直しに関する質問主意書

提出者  井出庸生




刑法の性犯罪規定の見直しに関する質問主意書


 性犯罪の厳罰化等を内容として第百九十三回国会において成立した、刑法の一部を改正する法律(平成二十九年法律第七十二号。以下「同法」という。)は、平成二十九年七月十三日に施行された。同法の改正は、性犯罪が「魂の殺人」と言われるように、被害者に甚大な苦痛を与えるものであるにもかかわらず、被害当事者たちが勇気を持って、長年、改正を要望してきた背景がある。しかしながら、同法の審議においては、性犯罪被害者等から要望がありながら改正には至らなかった事項も数多く残される結果となった。こうしたことを踏まえて、同法は、修正により同法の附則第九条に検討条項が加えられ、「政府は、この法律の施行後三年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」とされるとともに、衆議院法務委員会及び参議院法務委員会において附帯決議が付された。また、法務省では、平成三十年四月二十日に、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を設置し、性犯罪に関する総合的な施策検討に資するための性犯罪の実態に関する各種調査・研究を着実に実施するとしている。同法の附則第九条に検討条項が加えられたことを踏まえ、目途とされる同法施行後三年より早期の段階から、性犯罪に関する施策検討に向けた各種調査や、研究を実施しようという法務省の姿勢は、同法の国会審議で出された声に真摯に向き合おうとするものとして、その姿勢を高く評価し、真の見直し議論に資する調査や研究が実施されることを強く期待するものである。これらを踏まえ、刑法の性犯罪規定の見直しに関する政府の対応状況等について、以下質問する。

一 政府は附則第九条に示された、法施行後三年を目途に行われる検討後に更なる法改正を行う意欲がどれだけあるか。現時点での決意を具体的に説明していただきたい。
二 法務省が設置した「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」のこれまでの活動の概要と、今後の予定、特に今後の予定については、現時点において最大限、具体的にお答えいただきたい。
三 附則第九条の検討条項にある「法律の施行後三年を目途」とは「二〇二〇年七月十三日を目途」ということになるが、刑法改正を行う場合、一般的に、有識者会議、法制審議会への諮問・答申、政府による国会への法案提出、国会における法案審議・成立、改正法施行という流れが想定される。そこで、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」が何かしらの結論を取りまとめた場合、その取りまとめを元に法制審議会への答申が行われるのか、それとも、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」の取りまとめは調査・研究結果とし、その調査研究結果をもとに議論を行い、法制審議会への諮問のたたき台となる見解を取りまとめる新たな有識者会議を更に設置するのか、政府の方針を伺う。
四 昨年の同法の国会審議では、強制性交等罪における「暴行・脅迫要件の緩和・撤廃」を被害当事者が強く望む一方で、捜査機関による立件、裁判所における司法判断に際し、立件の可否、犯罪事実の認定に資する客観的な要件が失われるのではないかとの懸念や当事者における犯罪成立の予測可能性が低くなるといった懸念もあったところであり、改正の対象にならなかったものである。「暴行・脅迫要件の緩和・撤廃」についての議論は、被害者側の要望と、法秩序のぶつかり合う、同法最大かつ最も根源的な論点であったと言っても過言ではない。このように「暴行・脅迫要件の緩和・撤廃」に関する議論が、性犯罪法制議論における最も根源的な議論であるという認識が政府にあるか。
五 昨年の法改正審議、平成二十九年六月七日、衆議院法務委員会における私の質疑に対し、当時の林眞琴刑事局長は「明治の時代での立法の出発点が今委員が御指摘になったところにあるかどうかということについては私が直ちにお答えすることは困難でありますけれども、今から振り返りまして、そのように、明治の時代の立案、立法の時点での強姦罪であるとか準強姦罪の本質は何であるのかということについて、それが同意のない性交であるということに本質を求めるという見解、これについては十分に考え得るところの見解であろうかと思います。歴史的に、立案当時にそれを出発点としたかどうかということについては私はお答えすることができませんけれども、そういったことに強姦罪あるいは準強姦罪の本質を求める、同意のない性交であるということに本質を求めるという見解は十分に成り立ち得る考え方かなと思います。」と答弁している。この答弁の中で林刑事局長は、「強姦罪であるとか準強姦罪の本質は何であるのかということについて、それが同意のない性交であるということに本質を求めるという見解は十分に考え得るところの見解であろうかと思います。」と繰り返して言及している。政府は、刑法第百七十七条及び第百七十八条の罪の本質は、「同意のない性交」であるということに、現時点でどの程度、具体的な見解を披瀝できるか、その考えを明らかにされたい。
六 暴行・脅迫要件の緩和・撤廃に関する議論や、刑法第百七十七条及び第百七十八条の罪の本質を、同意のない性交に求めるという議論は、同法の保護法益の問題に他ならない。刑法第百七十七条の保護法益は、「性的自由」又は「性的自己決定権」であることが通説となっている。昨年の法改正によって、刑法第百七十七条は以下の条文となった。「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」しかし、刑法第百七十七条の条文は昨年の法改正以前より、「性的自由」、「性的自己決定権」の二言が明記されていない。保護法益が明記されていない経緯と理由を政府はどのように考えているか。
七 保護法益が明記されていない現在の刑法第百七十七条前段では、十三歳以上の者に対しては、暴行・脅迫があれば、被疑者と被害者の間に同意があったとしても強制性交等罪が成立するのではないかと懸念するが、政府の見解を求める。
八 刑法第百七十七条に保護法益を明記する。「性的自由」や「性的自己決定権」を明記することは、二〇二〇年七月を目途とする検討において、極めて重要な課題であると考えるが政府の見解を問う。
九 イギリスの二〇〇三年性犯罪法第一条は「不同意」、同意のない性行為を犯罪と規定しているが、同法第七十四条は同意「consent」について、「For the purposes of this Part, a person consents if he agrees by choice, and has the freedom and capacity to make that choice.」と定義している。イギリスでは、同意とは、人の選択であり、その選択は、自由と能力によるものとされている。自由を阻害するものとしては日本の刑法第百七十七条に明記されている暴行・脅迫に加え、地位関係性の利用、家庭内の構成員などが挙げられる。また、能力を阻害する要因として、薬物に加え、年齢、障害が挙げられている。
 一方、刑法第百七十七条の保護法益とされる「性的自由」、「性的自己決定権」については、平成二十七年八月六日、法務省の「性犯罪の罰則に関する検討会」第十二回会議の中で、井田良氏が「刑法の専門家の方にも、かなり深刻な反省を要する部分があると感じたのも事実です。取り分けそれは性犯罪の保護法益の理解をめぐってです。性的自由とか性的自己決定権とかいう伝統的な法益理解は、重要な部分の検討をなおざりにしてきたと思うに至りました」と言及している。そこで、性犯罪の保護法益とされる「性的自由」、「性的自己決定権」の内容について、過去に政府が具体的な答弁をしているかどうか調べたところ、平成十六年三月十六日参議院法務委員会において、野沢太三法務大臣(当時)が「強姦罪等の構成要件を構成することについては、どのような行為をもって被害者の意思決定の自由を侵害するものとして規定するのが相当か、これは大変この立証の困難な問題もございますが、いずれにいたしましても、このような性的行為に関する意思決定の自由に対する過剰な干渉になることはないかということも含めまして、種々の観点から慎重に検討し対応していくべきもの」と答弁している程度で、井田氏の指摘は、刑法の専門家のみならず、政府にも当てはまることではないかと考える。刑法第百七十七条の保護法益、「性的自由」「性的自己決定権」について、イギリスにおける「同意」のように、より具体的な内容を明示するための検討が必要と考える。そこで最後に、政府は、「性的自由」、「性的自己決定権」について、現在どの程度具体的な考えを持ち合わせているか。例示したイギリスにおける「同意」のように、できるだけ具体的に示されたい。

 右質問する。



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