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平成三十一年四月二十五日提出
質問第一五三号

刑法における性犯罪規定並びに性的暴力及び児童虐待への対応に関する質問主意書

提出者  柚木道義




刑法における性犯罪規定並びに性的暴力及び児童虐待への対応に関する質問主意書


 本年三月二十六日、名古屋地方裁判所岡崎支部にて、娘に対する実父の性的虐待に関する「準強制性交等罪」が問われていた事件について、無罪の判決を下した(以下、この判決を「本判決」という)。報道によれば、検察は実父が娘の中学二年生の頃から性的虐待を行っていたと陳述し、実父もこの性交を認めていたにも関わらず、「準強制性交等罪」に関して無罪としたという本判決について、多くの人が驚きと怒りの声を上げている。
 本判決に関連し、刑法の性犯罪規定並びに性的暴力及び児童虐待の被害者に関する施策に関して以下質問する。

一 刑法第百七十七条の強制性交等罪では、「暴行又は脅迫」を用いて「性交、肛門性交又は口腔性交」(以下「性交等」という)を行ったことが構成要件となっている。しかしながら「暴行又は脅迫」の要件が厳格であるため、たとえば加害者から暴言や圧迫を受けて被害者が深刻な生命の危機を感じ身体が動かなくなる「凍りつき」(フリーズ)に至る例もあり、このようにして性交等を強制されたと被害者が感じたとしても、「暴行又は脅迫」の物理的な証拠がないなどの理由で警察が捜査に入らない例があり、捜査に入ったとしても合理的な疑いを超えないとして検察が加害者を起訴しない例もある。
 二〇一七年(平成二十九年)内閣府の「男女間における暴力に関する調査」では女性の七・八パーセント、男性の一・五パーセントが無理やりに性交等をされた経験があると答えているが、警察庁によると、二〇一六年(平成二十八年)の強姦罪の認知件数は九百八十九件にとどまり、被害の一握りにすぎない。
 右のように、現状では性的暴力の被害者の多くが事実上「泣き寝入り」となっており、また強制性交等罪が定められていても「加害者」を罰することができず、また、これを知って新たな「加害者」が出るおそれもあり、性的暴力に対する刑法の抑止効果は不十分である。
 従って、諸外国の例にならい、(冤罪がないように制度検討を加えた上で)「同意なく」性交等を行った者を強制性交等罪に問うように法改正を検討すべきだ。同意なき性的暴力を罪に問うことで、婚姻関係や交際状態などにある全ての人々にパートナーとの関係について意識変革をもたらしうることになり、性的自由または性的自己決定権を社会的に認め、性的暴力を減らすために有効な法改正だと考える。そこで質問するが、政府において、刑法第百七十七条の強制性交等罪における「暴行又は脅迫」の要件を「同意がない」要件へと改める検討を進める考えはあるか。
二 刑法第百七十八条第二項の準強制性交等罪では「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした」ことが構成要件となっている。
 報道によれば、本判決に関する裁判では「抗拒不能」であったかどうかが争点となった。「被害者」が中学校二年生のときから無理矢理性交されていたこと、専門学校に進学してからは学費を払ってもらっているという負い目から性交を拒めなかったこと、弟たちを犯罪者の息子にしたくないことから「被害者」が通報をためらったことが明らかになった。また、「被害者」が抵抗した際には、こめかみを殴られたり、背中を踏みつけられたり、激しい暴力を受けたりしたことも明らかになっている。「被害者」の精神鑑定を行った精神科医は、性的虐待などが積み重なった結果、「抵抗できないのではないか、抵抗してもムリなのではないか」といった抑圧された心理状態になっていたと診断。これに対し、実父側は「性交は同意の上だった」などと主張したが、裁判所はこうした実父の主張をすべて退け、実父は「被害者」を「精神的に支配していた」、「被害者」は「同意はしていなかった」と結論付けた。にもかかわらず「被害者」が「性交を拒めないほどの暴力は受けていなかった」「両親の反対を押し切って専門学校に入学できるほどだった」などという理由で「抵抗できないほどの精神状態に陥っていたとは判断できない」として、「抗拒不能」が否定され、実父に無罪判決が下ったのである。
 このように刑法第百七十八条第二項の準強制性交等罪の構成要件のうち「心神喪失若しくは抗拒不能」の要件が狭いため罪に問えない例があることから、諸外国の例にならい、この要件を広めて「同意ができない状態」へと改めるよう検討すべきだと考えるが、政府においてこの検討を進める考えはあるか。
三 刑法第百七十七条後段では「十三歳未満の者に対し、性交等をした者」は暴行・脅迫の有無にかかわらず強制性交等罪となると規定し、性交同意年齢(その年齢未満であれば同意の有無に関わらず性交を犯罪とする年齢)を十三歳としている。
 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが二〇一八年(平成三十年)に米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、韓国、台湾を対象として行った調査によれば、性交同意年齢を十三歳とするのは日本の他に韓国くらいであり、ドイツ・台湾は十四歳、フランス・スウェーデンは十五歳、カナダ・英国・フィンランドでは十六歳と規定している。
 わが国も未成年の保護の観点から性交同意年齢を十三歳から十六歳に引き上げるべきであり、その検討を行うべきだと考えるが、政府において刑法第百七十七条後段に定める性交同意年齢を十六歳へと引き上げる検討を進める考えはあるか。
四 児童に対する性的虐待では、被害を受けた児童が捜査・保護等を行う大人に被害を証言するなどの際に、(一)性的被害を秘密にしようとする、(二)自分は無力で状況を変えられないと思っている、(三)加害者を含めた周りの大人の期待・要請に合わせよう、順応しようとする、(四)暴行を受けたことを認めたがらない、または事実関係が矛盾した証言をする、(五)暴行されたと認めた後でその事実を取り消す、と報告されている(米国の精神科医ローランド・サミットによる)。
 また性的暴力や虐待を受けている被害者が、心に耐えられない被害を受けた場合に、感覚や感情を遮断して、通常は統合されている意識、記憶、同一性、周囲の知覚などの機能が失われる「解離」に至る例も多い。自分が自分でないような感覚、ここにいるのに周囲から切り離されているという感覚を覚え、虐待や性的虐待の状況を詳しく思い出せないケースもある(山本潤『十三歳、「私」をなくした私』)。
 性犯罪の成人の被害者は警察の複数の捜査官や検察官から、何度も同じように重いトラウマとなっている性的被害の状況をこと細かく尋ねられて、それぞれに対して何度も何度も詳細に的確に答えなければならず、このことが被害者の大きな精神的苦痛を引き起こしている。裁判で被害者として証人尋問を受ける場合にも、ついたてによって加害者と視線を合わさないようにするなどの一定の配慮はされてはいるが、「性犯罪マニア」とでも言うべき傍聴人から好奇の視点で見られることで精神的なダメージを受けるケースもある。
 一方、米国では一九八〇年代中頃より性的な児童虐待事件にあたって「司法面接」という制度をスタートさせており、この「司法面接」では、鉄筋のビルではなく子どもが親しみやすい小さな家で、壁に動物の絵が描かれるなどした「話を聴く部屋」で、面接の訓練を受けた多言語・多文化のスタッフが被害についてインタビューを行い、心理学的な観点を加えながら同時に裁判における虐待の立証のため面接が一度だけ行われている。この「司法面接」の目的は、(一)性的虐待が虚偽の訴えではなく実際に起きたと認定するため、(二)被害児の証言が誘導されたものでないことを明らかにするため、(三)性的虐待の事実を何度も違う人に語ることで起きる被害児の二次被害を最小限にするためである。面接はビデオテープで録画されると共に、それを別室のモニターで児童保護局、医療関係者、警察、検察、子どもの権利擁護団体、セラピストなど、そのケースにとって必要と思われる専門家たちが見て、それぞれの立場から虐待があったかどうか事実確認に必要な事柄を話しあう。これら専門家の指摘を受けてインタビューを再開させ、必要な事柄について児童から話を聞くことになるが虐待を受けた児童による証言はこの一回だけとなる。そして、この「司法面接」のビデオテープは厳重に保管され、裁判所から要請があれば用いられることがある(森田ゆり『子どもへの性的虐待』)。
 わが国でも法務省、警察庁、厚生労働省などが協力して、児童虐待に関して被害児との面接の回数を減らすよう努力しているが、それをさらに進めて、各機関協議のうえ児童虐待や性犯罪の被害者に関する面接を一度で済ませる「司法面接」の制度を検討して実施すべきだと考える。政府は児童虐待及び性犯罪に関する「司法面接」について検討を進める考えはあるか。
五 確かに児童相談所には児童心理司が配置され、虐待に関する精神的なトラウマなどに専門的見地から対応するようになっているが、本判決における「被害者」のように、中学二年生から性的虐待を受けていても児童相談所に通報できず、児童心理司によるカウンセリングを受けることができない被害児もいる。
 性暴力被害は児童も大人も影響が大きく、レイプ被害者の五割から六割がPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、睡眠障害、摂食障害などの精神疾患を発症し、慢性的な頭痛や腹痛などの痛みの訴えが常態化することもあると言われる。米国の統計では、性暴力を受けた人は受けていない人たちと比較して十倍、自死に至るという(山本潤『十三歳、「私」をなくした私』)。
 性暴力被害から長い時間がたっても、何かのきっかけで突然フラッシュバックが起こり、動悸や息切れで動けなくなる、急に涙が止まらなくなる、激しい怒りがしずまらないなどの変調を来たす被害者も複数いる。
 虐待や性的暴力の被害者は全く悪くない。政府が「一億総活躍」というのであれば「一人でも救う」という被害者中心主義に立って、精神的な深いダメージから被害者を救う手立てを積極的に行うべきだ。具体的には、性暴力について理解と知識がある精神科医師やカウンセラー・セラピストに低廉な費用で必要なケアを受けられる取り組みを進め、また自助グループや虐待・性犯罪に専門的な取り組みを進めるNPO法人などへの支援を拡充するなどにより虐待や性暴力の被害者のケアを充実させるべきだと考えるが、政府の考え如何。
六 右の質問項目五とも関連するが、児童相談所では児童虐待の認知件数も増えているため、多くの職員が多忙を極めている。児童相談所の職員が退職にいたってしまう例が複数あることも無視できない。確かに二〇一九年度(平成三十一年度)政府予算でも児童福祉司の増員や児童相談所の新設について増額を図っており政府としても支援している。しかし児童相談所の現場では、事務職員など児童福祉の専門ではない職員も人事異動の結果、児童相談所に配置されており、研修などを経て児童福祉司となるもののその専門性に疑問が持たれるケースもある。また一定の経験を経て信頼される児童福祉司になった職員が人事異動で全く別の部署に異動してしまうケースもある。
 厚生労働省では児童相談所を設置している各自治体に対して、定期人事異動における児童福祉司への配慮を求めている。確かに児童相談所の業務は自治事務であるが、児童福祉司の異動への配慮を法制化し、あわせて児童福祉司には福祉職を充てるなど専門性を高めるように政府として促すべきだと考える。児童福祉司への異動の配慮と専門性に関する政府の見解如何。

 右質問する。



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