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令和五年十一月九日提出
質問第二二号

東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に係る農林水産省の対応等に関する質問主意書

提出者  原口一博




東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に係る農林水産省の対応等に関する質問主意書


 東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分について、漁業者や漁業団体から反対の声がある中、令和五年八月二十二日の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議・ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議において、東京電力株式会社に対して速やかに海洋放出開始に向けた準備を進めるよう求めることが決定され、同月二十四日から海洋放出が行われた。
 これを受けて、中国は日本産水産物の輸入を全面的に暫定的に停止し、香港は十都県の水産物等を輸入禁止とするなど、輸入規制の強化が行われた。令和四年の日本から中国又は香港への水産物(食用)の輸出額は、水産物輸出額全体の三割強を占めている実態から、今般の各国・地域の輸入規制の強化により、輸出額の大きなホタテガイ、ナマコはもとより、有明海で水揚され中国に輸出されているビゼンクラゲ等も含め、国内において水産物の輸出に取り組む漁業者・加工業者をはじめとする関係者は深刻な影響を受けている。
 このような状況に対し、政府は、「『水産業を守る』政策パッケージ」(以下「政策パッケージ」という。)を示し、ALPS処理水の海洋放出以降の一部の国・地域の輸入規制強化等を踏まえ、その即時撤廃を求めていくとともに、全国の水産業支援に万全を期すべく、既に用意した八百億円の基金による支援や東京電力による賠償に加え、特定国・地域依存を分散するための緊急支援として令和五年度予備費から二百七億円を措置し、総額一千七億円の支援策を実施するとしている。
 このような状況を踏まえ、ALPS処理水の処分に係る農林水産省の対応等について、以下、質問する。

一 ALPS処理水の海洋放出を決定した八月二十二日の関係閣僚会議において、その議事録によれば、当時の野村農林水産大臣は「今回決定される方針に沿って関係省庁とも連携し、農林漁業者に寄り添いながら、対策の実施に万全を尽くしていく」と述べている。また、西村経済産業大臣は、漁業者等の声を踏まえて「関係者の一定の理解を得たと判断」したと述べている。
 一方、その前後において、決定に対する反対や懸念が示されていた。具体的には、政府・東京電力と福島県漁業協同組合連合会の間に、「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」という約束がある中で、福島県漁業協同組合連合会及び全国漁業協同組合連合会からは、明確に「ALPS処理水の海洋放出には反対である」との会長コメント等が示されていた。
 このような状況を踏まえれば、海洋放出の決定プロセスにおいて、関係閣僚会議等の場で、農林水産大臣又は経済産業大臣から、漁業者や漁業団体による理解がまだ十分ではない状況についての発言等があって然るべきと考えるが、その有無について明らかにされたい。また、そのような発言等がない場合、両大臣が当該発言等に至らなかった理由について明らかにされたい。
二 今般のALPS処理水の海洋放出を受けて日本産水産物の全面的な輸入禁止を行った中国は、その一か月以上前の七月中旬から、日本産輸入食品に対する検査を厳しくし、通関日数が大幅に伸び、流通に甚大な影響が生じていた。これにより事実上、生鮮食品の輸出が停止していた。この措置があった時点で、実際にALPS処理水の海洋放出が開始されれば、更に措置が強化されることは容易に予測できたと考えられる。
 しかしながら、当時の野村農林水産大臣は、八月二十五日の大臣記者会見において、ALPS処理水の海洋放出を受けた中国による日本産水産物の全面的な輸入禁止について、「全く想定していませんでした」と述べている。これについては、九月八日に開催された衆議院経済産業委員会農林水産委員会連合審査会等において、政府としてはあらゆる可能性も想定していた一方で、農林水産大臣が個人的に想定していなかったということが判明し、農林水産省における危機管理体制について大きな疑念が生じたところである。
 1 農林水産大臣は関係閣僚会議の正規のメンバーであり、当事者として、ALPS処理水の処分の決定に至るプロセス、海洋放出後に想定される影響・その後の対応の検討等に関わっている。それにもかかわらず、大臣記者会見という場でこのような発言に至ったことに関連して、政府において中国による全面禁輸という事態を想定していた具体的な場、その場に参加していた組織・部局等について明らかにされたい。
 2 その中国による全面禁輸を想定していた場に農林水産省が参加していなかった場合、その理由について明らかにされたい。一方、農林水産省が参加していたにもかかわらず、農林水産大臣が当該発言に至っていた場合、農林水産省内における情報共有・危機管理体制の在り方等を踏まえ、その要因を明らかにされたい。また、この農林水産大臣の発言の後、農林水産省において改善を図った組織体制等があれば、併せて明らかにされたい。
 3 中国による全面禁輸という事態の想定について、海洋放出の決定プロセスにおいて、農林水産大臣以外の関係閣僚会議のメンバーの間では認識が共有されていたのか。それとも、農林水産大臣を含め複数のメンバーが中国による全面禁輸を想定しないまま海洋放出の決定が行われたのか。いずれにしても、海洋放出に係る関係閣僚会議の決定自体が重要な前提を欠いたものであったと考えるが、事実関係を明らかにされたい。
 4 七月中旬から海洋放出までの一か月以上の期間、政府としてはあらゆる可能性も想定していたと述べているが、現実のものとなった中国による全面禁輸の場合も含めて、想定した具体的なケースとそれぞれへの対応策・支援策について明らかにされたい。
 5 さらに、十月中旬には、ロシアが中国の措置に追随する方向で、日本産水産物の輸入規制措置を強化することを決定した。このロシアによる措置を受けて、今後、同様に輸入規制措置を強化する国が世界各国に広がっていくことが強く懸念されるが、政府の見解を示されたい。
三 政府は、総額一千七億円の政策パッケージにより、国内消費拡大・生産持続対策、風評影響に対する内外での対応、輸出先の転換対策、国内加工体制の強化対策、東京電力による迅速かつ丁寧な賠償の五本柱で支援を進めていくとしている。一方、令和四年の水産物の輸出額は三千八百七十三億円であり、そのうち全面的な禁輸を行っている中国向け(食用)が八百三十六億円、十都県からの禁輸を行っている香港向け(食用)が四百九十八億円という状況である。
 1 政策パッケージの一千七億円について、対策事業別の内訳及び積算根拠について明らかにされたい。
 2 農林水産省は、「#食べるぜニッポン」キャンペーン等に取り組んでおり、宮下農林水産大臣は、九月二十九日の大臣記者会見において、例えばホタテガイについて、令和四年の国民一人当たりの国内消費量が約七粒であり、追加で五粒、年間合計十二粒を食べることで、中国向けの輸出をそっくり国内消費できると発言している。これについて、「国民一人当たり」の具体的な対象範囲を含め、詳細な積算根拠を明らかにされたい。
 3 今般の中国、香港をはじめとする各国・地域の輸入規制の強化により想定される全体的な影響及び被害額について、食用クラゲ等国内消費が限られる水産物も含め、具体的な試算を基に明らかにされたい。併せて、それぞれの影響・被害に対し、政策パッケージのどの事業によって支援すると想定しているのか、明らかにされたい。
 4 政策パッケージの総額一千七億円は、既に用意していた八百億円の基金に、単年度事業となる予備費二百七億円を加えたものである。政策パッケージにおいては、「必要に応じて機動的に予算の確保を行い、全国の水産業支援に万全を期す」と示されているが、中国等による輸入規制措置が長期化する場合等を想定して、機動的に予算を確保する手法、時期、規模等について、政府の見解を示されたい。
四 ALPS処理水の海洋放出を開始した後、十月中旬には、ロシアが中国の措置に追随する方向で、日本産水産物の輸入規制措置を強化することを決定した。結果として、中国の全面的な禁輸措置等により、一番の被害を受け、将来に対する不安を抱えているのは日本全国の漁業関係者である。
 このように、国内外において十分な理解が得られていない状況の中で、今般、政府が海洋放出を決定したことは、国益を損なう判断であったと考えるが、政府の見解を示されたい。また、現状を打開するため、海洋放出を一時停止し、漁業関係者の理解を大前提として国内外の諸課題を解決した上で、海洋放出の再開時期等について改めて検討すべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

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