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令和五年十二月七日提出
質問第一一三号

荒川河川区域における治水工事と環境保全に関する質問主意書

提出者  大河原まさこ




荒川河川区域における治水工事と環境保全に関する質問主意書


 我が国では、「生物多様性基本法」(平成二十年施行)を始め、「改正河川法」(平成九年施行)「流域治水関連法」(令和三年施行)「多自然川づくり基本方針」(平成十八年策定)「美しい山河を守る災害復旧基本方針」(平成二十六年改定)「グリーンインフラ推進戦略」(令和五年改定)等々において、河川を対象に実施される全ての治水工事で河川環境の保全整備を図ることが規定されている。これをもとに、「荒川水系河川整備基本方針」(平成十九年)及び「荒川水系河川整備計画」(平成二十八年)が策定されている。
 国土交通省関東地方整備局荒川上流河川事務所及び荒川調節池工事事務所管内の荒川河川区域は、全国最大規模の河川敷を有し、良好な自然環境が現存する場所として知られている。
 これらの地域において、近年「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」(令和二年公表)や「荒川水系流域治水プロジェクト」(令和三年公表)等による重点的な治水工事が各所で多数実施されている現状にある。
 荒川上流河川事務所では、「改正河川法」において河川環境の保全整備と住民意見の反映が位置づけられたことを踏まえ、『河川管理者及び市民団体等が行う河川環境の適切な保全について、情報の共有を図り意見調整や合意形成を図る』ことを目的とした「荒川上流環境保全連絡会」(以下、連絡会と称す)を平成二十二年十二月十三日に設置し、直近では令和五年八月三十一日開催まで十三年以上にわたり計三十一回が開催されてきた。
 荒川調節池工事事務所では、「荒川水系河川整備計画」に位置づけられた「荒川第二・三調節池(計七百六十ヘクタール)」の整備に際し、『自然環境の保全・創出とそれに伴う維持管理の観点から、調節池の将来像についての意見交換を行う』ことを目的とした「荒川第二・三調節池環境保全懇談会」を平成三十一年二月二十八日に設置し、令和二年八月二十一日に第二回が開催されている。
 近年における洪水被害の増大に伴う治水対策の推進は望まれるものであるが、その実施に際しては右に記した環境との調和・整合を全ての工事において図ることと、その意見調整や合意形成は、河川管理者が自ら設置した協議の場を最大限に活用し、円滑な事業推進を図る必要がある。
 荒川河川区域で現在取り組まれている各種治水事業においては、「治水」と「環境」のバランスを著しく欠いた環境破壊を伴う工事が実施され、しかも合意形成の点からも国の取組としてふさわしくないとの疑念が生じているため、以下に質問する。

一 治水工事における環境配慮を検討するうえで、対象地区の希少動植物や自然環境に関する環境情報の共有は、合意形成のための不可欠な基盤的要件と言える。河川整備基本方針には、情報の共有化や代償措置が入っているのは勿論のことである。しかしながら、荒川上流河川事務所による当該連絡会では、希少動植物情報の扱いに関する取り決めが無かったことから一時混乱が生じ、令和五年一月十六日開催の第二十七回連絡会で設置要綱を改正し、「四 守秘義務 参加者は本連絡会で知り得た情報について、守秘義務を負うものとする。この守秘義務は、連絡会を離れた後も同様の扱いとする。」が加えられた。しかし、これ以降四回にわたって開催されている連絡会では、設置要綱が守られておらず、その目的に「情報の共有を図る」場であると明記され、構成者も特定され、さらに守秘義務が加えられたにもかかわらず、オオタカ情報の資料は当日配布・回収され、河川環境図面情報資料は後日回収の扱いのままとなっており、加盟団体の対策検討に支障が生じている。
 国土交通省では、同様の民間団体が参加する協議検討の場において、守秘義務を遵守するという理由で希少動植物情報が回収されている事例は無いものと承知している。他事例との比較において、当該連絡会ではなぜ情報制限をするのか、その明確な判断基準の要件を示していただきたい。
 また、連絡会の場においては市民団体が自主的に行っている自然環境調査による希少動植物データが提供されて議論が行われているが、公金を用いて実施された荒川上流河川事務所による公的な自然環境調査であるにもかかわらず、これのみが一方的に情報制限されていることは、どのような根拠に基づく対応であるのか、併せて明らかにしていただきたい。
二 荒川は広大な河川敷を有することから、オオタカの繁殖が河川区域内で確認されており、繁殖地での治水工事に際しては環境省による「猛禽類保護の進め方」及び埼玉県による「埼玉県オオタカ等保護指針」に基づく対応が求められる。これらの行政指針では、開発事業者がオオタカの生態調査を行い、工事等による悪影響の回避が必要な「営巣中心域」等の範囲を特定して、保全対策等を検討すべきことが示されている。
 「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」における治水工事箇所でも、複数のオオタカ「営巣中心域」内での樹林伐採工事が計画されており、その望ましい保全対策については、連絡会でも度々議論され注目してきたところである。ところが、令和四年度、越辺川紺屋地区の樹林伐採工事が治水事業として秋・冬期に実施され、「営巣中心域」内のしかも巣の直近十メートル程まで樹木が伐採され、裸地になる環境破壊が行われた。結果として、オオタカへの決定的な悪影響が生じ、令和五年の春・夏に繁殖地放棄に至ったことが、地元環境団体の調査により確認されている。
 公共工事によって繁殖地が消失した事例は、平成十一年の「埼玉県オオタカ等保護指針」策定後、埼玉県内では初めてとのことである。これに対して、荒川上流河川事務所は「営巣中心域」内における工事であることを十分認識しており、学識者による「オオタカは(伐採した)環境を受け入れることもある」との見解に基づき巣から直近十メートルまでの工事を着工した旨を、令和五年八月一日開催の第三十回連絡会で説明している。
 しかしながら、荒川上流河川事務所に助言・指導を行った当該学識者に加盟団体が直接問い合わせたところ、「巣の直近位置までの伐採工事を指導・了解した事実はなく、オオタカが繁殖地を放棄したことは非常にショックである」との証言が得られ、令和五年八月三十一日開催の第三十一回連絡会で取り上げられた。荒川上流河川事務所による説明と学識者の証言には明らかな齟齬があるため、その事実関係の有無や行政指針を逸脱する学識者の指導についての可否等、様々な疑問に対して議論が行われたが、明確な回答は得られなかった。
 その結果、一連の詳細な経緯の事実検証と荒川上流河川事務所によるオオタカ保護対策失敗の責任及び今後の対応を、文書にて問い合わせをしたことは、第三十一回連絡会議事録に明記されているとおりである。
 その後、十月二十四日に荒川上流河川事務所から「紺屋地区樹林伐採について」の回答文書が加盟団体等へ郵送されたが、オオタカ営巣林の保全のため竹林除去の助言を受け伐採を行ったとの、「営巣中心域」内の樹林伐採問題を竹の除去へと矮小化し、議論をすり替えた回答として、関係団体の反発を招いている。
 このままでは、学識者自らが否定したことの事実関係やオオタカへの悪影響の対策検証すら明らかにされないままに、国や県のオオタカ保護指針は蔑ろにされたままである。また、他の「営巣中心域」内でもオオタカへの決定的な悪影響が及ぶ工事が進められる懸念が高まっている。
 以上の背景から、オオタカ繁殖地における治水工事の進め方に関して、次の事項について政府としての見解を求める。
 1 荒川上流河川事務所がオオタカ専門家として助言・指導を仰いだ葉山喜一・柳沢紀夫の両氏を選任した理由と行政上の根拠、公金支出の詳細を報告いただき、委嘱内容がいかなるものか、明らかにされたい。
 2 越辺川紺屋地区の現地視察日(令和四年五月十九日)の際、上記二名の学識者に対して荒川上流河川事務所が案内した際の、視察ルート及び巣への確認位置等を提示した資料はいかなるものか、その際の資料と議事録を公表すべきではないか。
 3 オオタカが繁殖放棄をした事実についてその原因を詳らかに把握すべきと考えるが、第三十一回連絡会において、オオタカ繁殖放棄以降は学識者との現地視察は行っていないと荒川上流河川事務所は回答している。その真偽は如何。また、今年度における現地調査の実施状況と今後の予定について確認したい。
 4 結果として、国や県のオオタカ保護指針に明確に抵触する工事の実施により、オオタカ繁殖地の消失を招いたことに対し、国土交通省の責任とまた有識者の責任の有無を伺いたい。また、これらの環境破壊に対する今後の代償措置及び対策をどうしていくのか。
 5 越辺川角泉地区や早俣地区等の他のオオタカ繁殖地における今後の治水工事においても、同様な手法をとるのか、同じ学識者に継続的に助言・指導を求めていくのか否かについての見解を求める。
三 荒川上流河川事務所では、全国に先駆け平成六年に越辺川河川敷へのビオトープを整備し、ホームページやパンフレット等を通じて河川環境の保全整備の先進事例としてアピールして来た経緯がある。この「越辺川ビオトープ」(平成六年)のうち、天神橋下流ビオトープと早俣ビオトープの二地区については、「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」による河道掘削工事により、現在までに樹林伐採が実施された。その結果、平坦な裸地が広がると共に、オオブタクサ等の外来植物が繁茂する場所へと変貌している。
 「越辺川ビオトープ」は、平成二十六年に、当時の環境団体との度重なる協議と協力のもとに整備された。その経緯を含め、荒川上流河川事務所の河川環境の取組を象徴する場所となっていた。しかし、このビオトープは、樹林伐採による環境破壊がすでに行われてしまった。維持保全と治水工事の進め方など、連絡会に報告、説明がされず、工事終了後に、今後のさらなる「工事における配慮事項」のみが連絡会に示された。
 「入間川流域緊急治水対策プロジェクト」では、治水工事の実施に際しては「グリーンインフラとしての多重防御治水」によって河道掘削と併せてウェットランドの創出を行うことが、関東地方整備局のホームページ等の資料によって公表されている。こうした環境対策のシンボルとしての「越辺川ビオトープ」の存在や、河道掘削工事に際して自ら示したグリーンインフラ整備方針と、現在実施されている治水工事の実態とはあまりにも乖離している。
 上記の観点から、「越辺川ビオトープ」への治水工事着手に際し、なぜ連絡会の場でビオトープの維持保全と河道掘削工事の内容を説明せず、協議を全く行うことなく、樹林伐採工事を進めたのか、明らかにされたい。また、この問題は第二十九〜三十一回の連絡会の場でも度々意見が出ているにもかかわらず、「越辺川ビオトープ」の再生を目指した今後の工事が議論されていない。今もって今後の掘削「工事における配慮事項」を提示するのみで、ビオトープ再生に向けた議論に対応しないのかも、明らかにされたい。
 これらの課題は、冒頭で示した治水と環境の真の調和を図るうえでの本質的なテーマでもあるため、政府としての今後の進め方に関する基本的な見解をお示しいただきたい。
四 荒川第二・三調節池は、令和三年三月に「荒川第二・三調節池事業環境影響評価書」が提出されて建設工事が着手されるに至り、令和五年十二月現在、囲繞堤新設工事等が各所で進められている状況にある。
 荒川調節池工事事務所が実施した令和三年三月の環境影響評価書においては、当該地区の現地調査で保全すべき重要動植物が計百七十六種確認され、埼玉県平野部では特筆される良好な水辺環境が現存する場所として評価されている。これらの背景から、前記した「荒川第二・三調節池環境保全懇談会」を河川管理者自らが設置したところであるが、同懇談会は環境影響評価の「準備書」が提出される以前の令和二年八月二十一日に第二回が開催されて以来、工事着手後の現在に至るまで丸三年半にわたり全く開催されていない。
 環境影響評価ではオオタカを始めとする重要動植物等の保全すべき自然環境に対しては、様々な環境保全措置を講じると共に、その結果についてはモニタリング調査を通じて影響評価を行うことが記されている。荒川調節池工事事務所のホームページには、「環境保全措置状況報告書」なるものが八回にわたって掲載されているものの、保全措置やモニタリングの実施状況が簡単に触れられているのみであり、調査結果やそれに基づく影響評価の現状については一切公表されていない。
 当該調節池は、七百六十ヘクタールにわたり十年間に及んで継続される大規模公共事業であるにもかかわらず、上記の実態は荒川調節池工事事務所が環境への取組をあまりにも軽視しているものと考えざるを得ない。
 政府が取り組む大規模開発においては通常、学識者や関係団体等で構成された協議機関を開発事業者が自ら設置した場合、その場において環境保全措置やモニタリングの取組経過とその影響の分析評価を、議論していくことが一般的であると承知している。
 当該開発事業においては、「荒川第二・三調節池環境保全懇談会」がまさにそれにふさわしい場と言えるが、なぜ令和二年八月の第二回以降これまで、同環境保全懇談会は三年半にわたり一度も開催されなかったのか、見解を求める。
 また、この間の環境保全措置及びモニタリングの実施結果とそれに基づく影響評価は、誰が又はどの機関が行っていたのか。

 右質問する。

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