衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
令和五年十二月八日提出
質問第一三八号

いわゆる人質司法に関する質問主意書

提出者  中谷一馬




いわゆる人質司法に関する質問主意書


 我が国の刑事司法制度については、長年「人質司法」という言葉で、捜査当局・裁判所が否認又は黙秘する被疑者・被告人に対し、接見等禁止や保釈を許さないなど長期にわたって拘禁し、それを自白させる圧力として利用しているとの批判がある。最近では、二〇二〇年十一月、日本弁護士連合会から「『人質司法』の解消を求める意見書」が出されているほか、二〇二二年十一月、国連に設けられた自由権規約委員会から「第七回日本定期報告審査に係る総括所見」などにより、我が国の未決拘禁の在り方について、国内外から様々な問題点が指摘されている。また、二〇二三年五月、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチから出された「日本の『人質司法』」と題する報告書では、我が国の刑事司法制度における人権侵害を指摘し、内閣総理大臣・政府に対して、「法の適正手続きと公正な裁判に関するすべての人の権利を、弁護人へのアクセスの問題や保釈を含めて、完全に尊重するための刑事司法制度改革を行うことを公に約束すること」などが提言されている。
 以下、「日本の『人質司法』」を踏まえ、質問する。

一 国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の第二選択議定書及び「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」の選択議定書を署名、批准し、国際法に基づく個人通報制度へのアクセスを日本法の下でも保障することを求める意見があるが、我が国が両選択議定書を署名、批准していない理由は何か。また、国際法に基づく個人通報制度を我が国へ導入することについて政府の見解を示されたい。
二 「日本の『人質司法』」には、「保釈申請への対応を、無罪の推定と個人の自由に関する国際基準に沿った運用に改善すること。」との提言があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
三 「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と規定する刑事訴訟法第八十九条第四号は必要的保釈の例外を定めるものであるにもかかわらず、そのような証拠がない場合にも日常的に使用されているとの批判があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
四 刑事訴訟法では、一つの事件について、起訴前の被疑者を勾留延長により最長で二十三日間、逮捕・勾留することを認めているが、警察や検察は、被疑者から自白を引き出すため、例えば、殺人事件について、死体遺棄罪で逮捕・勾留したのち、殺人罪でも逮捕・勾留する実務や、一つの経済事件について、一定の期間ごとに逮捕・勾留するなど、実質的に同じ事件を分割して逮捕・勾留を繰り返し、長期間被疑者を拘禁しているとの批判がある。これに対する政府の見解を示されたい。
五 憲法第三十四条では「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」とされており、判例によれば同条は弁護人依頼権及び防御権保障のための接見交通権を含むものと解釈されていること、及び我が国も批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第十四条第3項(b)では「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。」と定められていることを踏まえ、逮捕後直ちに被疑者に対し弁護人選任権について告知し、法テラスや当番弁護士制度について教示し連絡をする機会を与えるとともに、特に弁護人と連絡する必要性の高い取調べ中を含め、全身体拘束期間を通して秘密を保持しながら弁護人に速やかにアクセスできるようにするべきと考えるが、この点について政府の見解を示されたい。
六 現行法においても、取調べへの弁護人立会いが否定されていないこと、また、前述のように取調べ中も含め被疑者が弁護人と連絡をできること(弁護人の立会い)を確保することが政府の義務と考えられることなどから、取調べにおける被疑者の黙秘権を実質的に保障するなどのために、全被疑者が取調べにおける全過程で弁護人立会いを受けられるように、政府は捜査当局に対し指示を発するべきとの意見がある。法務・検察行政刷新会議報告書(令和二年十二月)では、「被疑者取調べへの弁護人の立会いについての様々な意見が示されたところであり、令和元年六月までに施行された平成二十八年改正刑事訴訟法の三年後検討が予定されていることから、法務大臣において、前記各意見の趣旨も十分に斟酌し、検討のために必要十分な資料を収集・分析した上で、三年後検討の場を含む適切な場において、弁護人立会いの是非も含めた刑事司法制度全体の在り方について、社会の変化に留意しつつ、刑事手続の専門家以外の多様な視点も含めた幅広い観点からの検討がなされるよう適切に対応すること。」とされているが、取調べへの弁護人立会いについて、現在までにどのような検討が行われているのか。
七 被疑者・被告人が逃亡や証拠の隠滅を計画していることを示す十分な証拠がある限られた場合にのみ接見等禁止を請求すべきとの意見があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
八 国連の被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ・ルールズ)が「被拘禁者は、必要な監督のもと、定期的に家族および友人と」「文通、利用可能な場合は遠距離通信、電子、デジタル及び他の手段」により「連絡を取ることを許されなければならない」と定めていることなどを受けて、被拘禁者が、必要な監督のもと、定期的に家族及び友人と電話や電子メール、ビデオ通話などの手段により連絡を取ることを許す制度とすべきという声がある。この点について、政府の見解を示されたい。また弁護人との接見について、先日公表された、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の試案では、被疑者・被告人がオンラインで弁護人等との接見については制度の導入が見送られたと聞いている。しかし、オンライン接見に関しては、全国五十六の弁護士会及び弁護士会連合会から、その実現及び法制化を求める会長声明等が公表されており、被疑者・被告人の立場に置かれた国民が迅速かつ十分な弁護人の援助を受けることができるようにするために、その必要性は明白であると考えるが、この点についても、政府の見解を示されたい。
九 「日本の『人質司法』」では、被疑者が黙秘権を行使しても取調べは止まらず、捜査官が被疑者に対し、質問に答え、容疑とされた犯罪を自白するよう迫り続けるといった捜査・取調べが行われていると指摘されており、被疑者が黙秘権を行使した場合には取調べを終了し、被疑者の黙秘権を保障するべきとの提言がある。被疑者が黙秘権を行使した場合に捜査当局はどのような対応をとっているのか、また、被疑者が黙秘権を行使した場合の取調べについて、犯罪捜査規範に規定はあるのか否かについて示されたい。
十 「日本の『人質司法』」には、「すべての被疑者・被告人と弁護人が、検察が被告人に対して裁判で提出予定か、または被告人に有利な証拠や無実を証明する捜査証拠や資料など、すべてにアクセスできるようにすること。」との提言があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
十一 刑事訴訟法が録音・録画を義務付けている取調べ以外の任意取調べや参考人の取調べ等について、その適正さを疑われる事例も指摘されていることから、全刑事事件の取調べ全過程について、すべての被疑者や参考人等への取調べも含めて、電子的に記録するなどの保護措置を実施し、その記録を被告人に提供し、裁判で使用できるようにすべきとの声もある。取調べの録音・録画制度を導入した「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(平成二十八年法律第五十四号)の附則に基づく検討を行うために設けられた「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」において、全面的な取調べの録音・録画に関する意見はあったのか。あった場合には、その内容及び課題を示されたい。
十二 国連の「あらゆる形態の抑留・拘禁下にある人々を保護するための原則」は、判断や決定の能力を損なう「暴力や脅迫、取調べ方法には、いかなる被拘禁者もさらされてはいけない」としており、この原則に則り、取調べ全過程に弁護人が立ち会う権利を定めること、及び取調べの時間や方法に厳しい制限を設けることを含む、自白強制的な取調べをなくす措置を採用すべきとの意見があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
十三 第五次日本政府報告書に対して、国連自由権規約委員会が二〇一八年に示した総括所見が、代用刑事施設制度(代用監獄)の廃止を勧告し、代用監獄が自白を得ることを目的とした長期間に及ぶ人権侵害を伴う取調べの危険性を高めることに懸念を表明していることから、この総括所見に沿って、捜査、勾留、訴追の機能を分離させる措置をとることとの意見があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
十四 法務省から独立した資格のある医療者が、拘禁中の被拘禁者の心身の状態を定期的にモニタリングし、評価する体制を確立し、その医療記録を被拘禁者と弁護人に開示し、かかりつけ医を受診できるようにすることとの意見があるが、これに対する政府の見解を示されたい。
十五 病気等に罹患している者の勾留に際し、捜査機関が刑事収容施設に対して「留置に耐えられるか否か」という照会を行うことが実務上確立されているが、留置に耐えられるという基準について定めた根拠規定は何か。また、「留置に耐えられる」という基準の定義ないし意味内容について、政府の見解を示されたい。

 右質問する。

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.