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答弁本文情報

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平成十六年八月十日受領
答弁第一八号

  内閣衆質一六〇第一八号
  平成十六年八月十日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員仙谷由人君提出イラク問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員仙谷由人君提出イラク問題に関する質問に対する答弁書



一の@について

 国際連合安全保障理事会(以下「安保理」という。)の決議第千五百四十六号(以下「決議第一五四六号」という。)の採択後に新たにイラクに軍隊の部隊等を派遣することを表明した国に係るお尋ねについては、マレーシアが軍隊の医療チームをイラクに派遣する方向で検討を開始し、また、ボスニア・ヘルツェゴビナが大統領評議会において地雷処理部隊のイラクへの派遣を決定したが、両国とも、部隊の派遣規模、時期等については検討中であると承知している。
 また、お尋ねの「対応措置等」とは、決議第一五四六号の採択後の各国等のイラクへの軍隊の部隊等の派遣に係る対応を指すものと考えるが、北大西洋条約機構(NATO)は、イラク治安部隊に対する訓練を実施することを既に決定し、具体的な計画を策定するための使節を本年八月にイラクに派遣することとしているものと承知している。フランス、ドイツ、中国、ロシア及び欧州連合(EU)については、現時点でイラクへの部隊等の派遣を具体的に検討しているとの事実があるとは承知していない。
 政府としては、統治権限を回復したイラクの国家の再建のために、国際社会がイラク人の努力を引き続き支援していくことが重要であると考えており、こうした観点から、北大西洋条約機構(NATO)の動向を歓迎している。

一のAについて

 イラクに軍隊の部隊等を派遣した国のうち、当該部隊等をイラクから既に撤退させた国としては、サウジアラビア、ニカラグア、スペイン、ドミニカ共和国、ホンジュラス及びフィリピンがあり、当該部隊のイラクからの撤退を表明している国としてはタイがあると承知している。各国が、それぞれにふさわしいイラク支援の在り方について主体的に判断すべきものと考えており、これら各国の動向について、政府として評価を申し上げることは差し控えたいが、政府としては、統治権限を回復したイラクの国家の再建のために、国際社会がイラク人の努力を引き続き支援していくことが重要であると考えている。
 なお、御指摘のポーランド及びオランダについては、両国が軍隊の部隊等のイラクからの撤退又は派遣規模の縮小を表明したとの事実があるとは承知していない。

二の@について

 「イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について」(平成十六年六月十八日閣議了解。以下「閣議了解」という。)にいう「統合された司令部」とは、決議第一五四六号にいう「統合された司令部」を指すものであり、「イラク多国籍軍司令部」(MNF─I)及びその下にある「イラク多国籍部隊司令部」(MNC─I)がこれに当たると承知している。
 自衛隊は、一貫して、我が国の主体的判断の下に、我が国の指揮に従い、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(平成十五年法律第百三十七号。以下「法」という。)及び法第四条第一項に規定する基本計画に基づき活動しているのであり、その任務及び業務内容についても、イラクが連合暫定施政当局(CPA)によって統治されていた当時から変更されていない。また、自衛隊はイラクに派遣されている他国の軍隊の指揮下にあるわけではなく、その点について、変化はない。

二のAについて

 お尋ねにおいて、「「統合された司令部」に参加する」ということがどのような状態を指すのか必ずしも明らかではないが、イラクに派遣された自衛隊の部隊と決議第一五四六号において言及される多国籍軍(以下「イラク多国籍軍」という。)の統合された司令部との関係についてお答えすれば、当該部隊は、その活動を行うに当たって、イラク多国籍軍の中で、統合された司令部の下にあって、統合された司令部との間で連絡・調整を行うものの、その指揮下に入るわけではなく、我が国の主体的な判断の下に、我が国の指揮に従い、法及び法第四条第一項に規定する基本計画に基づき活動を実施するものである。

二のBについて

 決議第一五四六号において、米国が、イラク多国籍軍を代表して安保理に対しイラク多国籍軍の活動について報告することが要請されていることから明らかであるように、米国は、イラク多国籍軍及びその統合された司令部を代表する立場にある。また、英国は、自衛隊が活動するサマーワを含むイラク南東部に派遣されている各国の軍隊の部隊の活動を調整する立場にある。さらに、両国は、決議第一五四六号の提案国であり、イラク多国籍軍の主要な構成国である。このようなことから、イラクに派遣された自衛隊がイラク多国籍軍の統合された司令部の指揮下で活動することはないということについては、米国及び英国の了解を得ることが必要であり、かつ、それで十分であったと考えている。
 また、右に述べたように、かかる了解をオランダから得る必要はないと考えているが、サマーワにおいて自衛隊がオランダの軍隊と協力関係にあることを踏まえ、オランダに対し閣議了解の内容を説明し、その理解を得ているところである。

二のCについて

 現在のところ、政府として、オランダ政府が同国の軍隊の撤退を決定したとは承知しておらず、仮定の事実を前提としてのお尋ねに対してお答えすることは差し控えたい。
 なお、イラク南東部のムサンナー県を中心とする地域において活動する自衛隊の部隊は、同地域の治安の維持に当たっているイラク当局、オランダの軍隊等と連絡調整を行いつつ、法及び「イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画」(平成十五年十二月九日閣議決定)に基づき、人道復興支援活動を中心とする対応措置を実施しており、万一、不測の事態が生じた場合には、自衛隊の部隊の自衛官は法第十七条に基づき武器を使用し自己等の生命又は身体を防衛するなどするとともに、自衛隊の部隊は危険を回避する行動をとることとなる。

二のD及びKについて

 お尋ねは、法第十七条又は自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第九十五条の規定による武器の使用と憲法の禁じる「武力の行使」との関係を問うものと考えるが、これらの規定は、武器の使用が許される場合とその態様を明確に限定して規定しているところ、累次の政府答弁で述べているとおり、法第十七条による武器の使用は、対応措置の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等の自衛官が自己等の生命又は身体を防衛するために必要な最小限の範囲で認められるいわば自己保存のための自然権的権利というべきものであり、また、自衛隊法第九十五条による武器の使用は、我が国の防衛力を構成する重要な物的手段を破壊、奪取しようとする行為からこれらを防護するための極めて受動的かつ限定的な必要最小限の行為であって、これらの武器の使用は、我が国領域外で行われたとしても、国家の人的・物的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為である「武力の行使」に当たらない。また、いわゆる「他国の武力の行使との一体化」の考え方とは、我が国の活動の具体的な内容や、これと他国の行う「武力の行使」に係る活動との関係の密接性等の諸般の事情を総合的に勘案すると、仮に我が国自らは直接「武力の行使」をしていないとしても、我が国も「武力の行使」をしたとの法的評価を受ける場合があり得るとするものであるが、前記の各規定による武器の使用は、専ら、自衛官が自己等の生命又は身体を防衛するなどのためにこれらの規定の定める要件に従ってのみ行われるものであって、右に述べた考え方に照らしても、他国の武力の行使と一体化するものには当たらないと考える。

二のE及びLについて

 イラクの主権の回復後に自衛隊が法に基づき人道復興支援を中心とする活動を継続するに当たっては、その能力を十分に発揮できる環境を整備する一環として、御指摘のようにいわゆる特権免除等の自衛隊に係る法的地位をしかるべく確保する必要があったほか、法第二条第三項第一号の規定に従いイラク暫定政府の同意を得ることが不可欠であったが、当時、我が国が独自にこれらを確保することは、イラク暫定政府に関わる様々な不確定要素の存在により、現実問題として不可能であった。他方、イラク多国籍軍については、連合暫定施政当局(CPA)の命令第十七号の改正等により、イラクにおいてその法的地位がしかるべく確保されることが見込まれており、また、決議第一五四六号で言及されているとおり、イラク暫定政府のアッラーウィー首相から国際連合安全保障理事会議長にあてた書簡において、その駐留の維持が要請されていたことから、自衛隊がイラク多国籍軍の中で活動する場合には、所要の法的地位及びイラク暫定政府の同意が得られることとなると考えられた。また、決議第一五四六号において、イラク暫定政府の要請に基づき駐留するものとされているイラク多国籍軍の活動は、国際社会の総意を反映しているものと考えられる。以上のような観点から、政府として十分な検討を行った結果、国際社会の責任ある一員として引き続きイラクの復興支援活動を続けるためには、イラク多国籍軍の中で活動することが適切であると判断したものであり、「対米追随のための政治判断に基づいて決定した」との御指摘は当たらない。
 自衛隊は、イラク多国籍軍の中にあっても、引き続き、我が国の主体的な判断の下に、我が国の指揮に従い、法及び法第四条第一項に規定する基本計画に基づき活動を行うものであり、その任務等に変更はない。
 また、法は、第一条において、「イラクの国家の再建を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする」としていることに加えて、第二条第三項第一号においては、イラクを含め、外国の領域において対応措置を行うことについては、原則として当該外国の同意があることが必要であるとした上で、ただし、イラクにあっては、その例外として、「安全保障理事会の決議に従ってイラクにおいて施政を行う機関」の同意によることができるとしていることから、法は、立法時点から、イラクの主権の回復後もその適用があることを当然の前提としていたものと考えている。
 なお、御指摘のイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令(平成十六年政令第二百十三号)は、法第三条第一項第一号及び第二号に定める我が国が人道復興支援活動及び安全確保支援活動を実施するに当たり指定すべき安保理決議を追加する内容のものである。

二のFについて

 イラク多国籍軍がイラクで活動することへの同意については、決議第一五四六号において言及されているイラク暫定政府のアッラーウィー首相から国際連合安全保障理事会議長にあてた書簡において、イラク多国籍軍の駐留の維持が要請されていることをもって、イラク暫定政府の同意が得られている。
 イラクの完全な主権が回復された後のイラク多国籍軍に係るしかるべき法的地位の確保については、改正された連合暫定施政当局(CPA)の命令第十七号により、所要の法的地位が確保されることが確認されていることから、各国について個別に手続が行われる必要はない。

二のGについて

 イラクにおける安全及び安定の維持、人道復興支援等に貢献するイラク多国籍軍の活動は、イラク暫定政府の要請を踏まえて採択された決議第一五四六号に基づくものであり、イラク多国籍軍の活動は、国際社会の総意を反映しているものと考えられ、我が国が国際社会の責任ある一員として引き続きイラクの復興支援活動を続けるためには、自衛隊がイラク多国籍軍の中で活動することが適切であると判断したものである。

二のHについて

 自衛隊のイラクへの派遣をいつ終了させるかについては、イラク人による国家の再建の進展状況を踏まえ、現地の政治・治安等の情勢を総合的に考慮して、適切に判断してまいりたい。

二のI及びJについて

 御指摘の平成十六年六月十四日の参議院イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会における秋山内閣法制局長官の答弁については、平成二年十月二十六日の衆議院国際連合平和協力に関する特別委員会における中山外務大臣(当時)の答弁(以下「平成二年答弁」という。)の趣旨に関する平野達男委員の質疑に対するものを指すと考えるが、その中においては、平成二年答弁に述べられているところに従って、いわゆる多国籍軍への「参加」については、当該多国籍軍の「司令官の指揮下に入り、その一員として行動する」ことを意味し、また、これへの「協力」については、「右の「参加」を含む広い意味での関与形態を表すもの」であり、当該多国籍軍の「組織の外にあって行う「参加」に至らない各種の支援をも含む」ものとして述べたところである。その上で、いわゆる多国籍軍への「広い意味での参加」については、右に述べた「参加」以外の形態において当該多国籍軍の中で活動することを表すものとして述べており、これは、論理的には、右に述べた「協力」の一態様に含まれるものとの説明を行っている。
 いわゆる多国籍軍の目的・任務が武力の行使を伴うものである場合については、政府は、従来より、自衛隊が当該多国籍軍に右に述べたような形態において「参加」することは許されないと述べてきたが、これは、右のような多国籍軍にこのように「参加」すると、自衛隊の活動が武力の行使に及んだり他国の武力の行使と一体化することがないという前提を確保することが困難であると考えてきたためである。これに対し、右の「参加」に至らない「協力」である場合については、自衛隊の活動が武力の行使に及んだり他国の武力の行使と一体化することがないという前提を確保することが可能であれば、自衛隊がそのような形態で当該多国籍軍に関与することも、許されないわけではないと考えている。
 他方、当該多国籍軍の目的・任務が武力の行使を伴わないものである場合には、自衛隊がどのような形態で関与することについても、憲法上許されないわけではないと考えている。
 本年六月二十八日よりも前における自衛隊の米国、英国等のいわゆる連合軍に対する関与については、前記の秋山内閣法制局長官の答弁の内容に即して申し上げれば、「参加」又は「広い意味での参加」には当たらず、これら以外の形態による「協力」に当たると考える。他方、同日以降の自衛隊のイラク多国籍軍に対する関与については、「協力」の一態様である「広い意味での参加」に当たると考えるが、平成十六年六月十八日の衆議院国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会において細田内閣官房長官が答弁しているように、一般的な意味の言葉においては、単に参加と言ってもよいと考える。
 自衛隊がイラク多国籍軍の中で活動するものとするとの決定を行った理由は、二のE及びLについてで述べたとおりである。

三について

 国際連合監視検証査察委員会(UNMOVIC)等の査察報告等でも明らかになっているとおり、イラクについては、かつて実際に大量破壊兵器を使用していたほか、多くの大量破壊兵器に関する疑惑が存在したところである。イラクについては、査察への非協力を始め関連する安保理の決議につき重大な違反を継続的に犯してきたものであり、米国等によるイラクに対する武力の行使は、累次の関連する安保理の決議に合致し、国際連合憲章にのっとったものであって、我が国がこれを支持したことは正しかったと考える。

四の@について

 政府としては、イラクの治安情勢については、全般として予断を許さない状況が継続しており、また、サマーワについては、依然としてイラクの他の地域と比べれば比較的安定しているものの、今後も不測の事態が発生する可能性を否定することはできないと考えている。
 陸上自衛隊及び航空自衛隊の部隊が、法に基づく基本計画において定められている人道復興支援活動及び安全確保支援活動として、本年八月三日までに実施している活動は、以下のとおりである(なお、特に述べたもののほかは、人道復興支援活動として実施しているものである。)。
 1 医療に係る活動については、現地の医師等に対し、症例の診断、治療方針、医療器材の使用方法、当該医療器材を用いた治療方法等について、助言及び指導を行っている。
 2 学校等の公共施設の復旧・整備に係る活動については、学校校舎の扉等建具の修繕、壁等の補修及び電気配線の修繕等並びに道路の整地等を実施している。
 3 給水に係る活動については、ムサンナー県水道局が所有する給水車に対して、運河から取水し浄水した水の供給を実施している。また、安全確保支援活動として、本年五月から七月にかけて、オランダの軍隊への給水を行ったところである。
 4 輸送に係る活動については、陸上自衛隊の車両により、我が国からの人道復興関連物資の輸送を行っている。また、航空自衛隊の輸送機により、人道復興支援活動及び安全確保支援活動として、我が国からの人道復興関連物資、お尋ねの米国を含む関係国及び関係国際機関の物資及び人員等の輸送を実施している。他国の軍隊の物資及び人員の輸送に当たっては、現地において、関係国の軍隊等との間で調整を行っており、このような調整は今後とも同様に行われるものと考えているが、具体的な調整の手続等については、部隊や自衛隊員の安全確保及び関係各国との信頼関係等の維持に影響を及ぼすおそれがあることから、お答えを差し控えたい。
 政府としては、このような自衛隊の活動については、現地の住民の生活の安定及び向上並びにイラク国内における安全及び安定を回復するために国際連合加盟国が行う活動等に寄与してきたものと認識しており、今後とも、現地における治安情勢等に留意しつつ、適切に活動を実施してまいりたい。

四のAについて

 本年五月までに順次帰国した第一次イラク復興支援群の自衛隊員に対しては、帰国後速やかに臨時健康診断を実施するとともに、適切な健康管理のための措置をとっているところであるが、その心身の健康状態について特段の問題は生じていないと認識している。
 したがって、イラクにおける自衛隊の今後の活動内容や部隊運用等について、自衛隊員の健康管理上の観点から特段の変更を行う必要はないものと考えているが、いずれにせよ、今後とも、自衛隊員の健康管理については万全を期してまいりたい。

四のBについて

 御指摘のような現地の過酷な気候下において、健康を維持しつつ、自衛隊員がその能力を十分に発揮して活動することができるよう、第二次イラク復興支援群として現地に派遣されている陸上自衛隊の部隊においては、防暑用の被服等を着用させたり、宿営地の施設や車両にクーラーを設置するなどの措置を講じているほか、サマーワへの移動前に、クウェートにおいて、現地の気候に慣れるための訓練を実施するなどしている。
 また、自衛隊員の安全確保のための措置として、これまでも、不測の事態への対処に必要となる武器を携行させているほか、適切な監視態勢の構築を含め、宿営地の警備及び宿営地外での部隊行動時における警備に万全を期すとともに、必要な訓練を実施するなどの種々の措置を講じているところである。なお、これらの詳細については、自衛隊員の安全確保に支障を及ぼすおそれがあることから、お答えを差し控えたい。



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