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平成十四年七月二十五日提出
質問第一五四号

年齢の計算に関する質問主意書

提出者  平野博文




年齢の計算に関する質問主意書


 わが国では、「年齢のとなえ方に関する法律」に基づき、昭和二十五年以降数え年による年齢計算を止め、満年齢によって年齢を計算している。しかし、この満年齢の考え方について、国民の常識と法律上の取扱いとの間、さらには各法令相互の間において、齟齬や混乱が見られるように思う。
 従って、次の事項について質問する。

一 一般常識と法律上の年齢計算の乖離について
 1 学校教育法上、今年度より小学校への入学義務のある子どもは、一九九五年四月一日生まれまでが対象となる。「年齢計算ニ関スル法律」に基づき、法律上の満年齢計算では誕生日の前日に年齢を加算するため、このような取扱いになっていることは承知している。
 しかし一般常識からすれば、学年や年度は四月一日にはじまり、翌年三月三十一日に終わるものである。文部科学省は、なぜ、数十年間に渡り一般常識と異なった取扱いを維持しているのか。また、この点についての国民からの苦情や疑問に、どのように回答してきたのか。
 2 厚生労働省管轄になる保育園の場合、運営費国庫負担金の年次分けが四月二日と四月三日の間で行われている関係上、年少組と年長組の年次分けも、おおむねこの日付で行われており、結果として、保育園と幼稚園や小学校の年次・学年分けとが食い違う事態が生じる。教育機関との接続上の問題はもちろん、国民の一般常識とも乖離しているが、政府には問題があるとの認識はないのか。
 3 選挙権については、投票日の翌日に満二十歳の誕生日を迎える者まで、選挙権が認められる取扱いになっている。例えば、今年七月二十五日投票の国政選挙があると仮定した場合、一九八二年七月二十六日生まれの者まで選挙権がある。
 しかし、社会の一般常識からすれば、一九八二年七月二十六日生まれの者は、今年七月二十五日においては、満二十歳に到達していない。すなわち、選挙権を有しているにもかかわらず、選挙権がないと誤信して、選挙権を行使しそこなう恐れがある。投票券が郵送されるとはいえ、住所地を離れて遠隔地に所在する場合など、何らかの理由で手元に届かない、あるいは単純に見落としてしまう事態は、容易に想像しうる。
 この満年齢の取扱いが、判例に基づくものであることは承知している。だが、国民の最も基本的な権利である参政権・選挙権に関わる以上、問題があれば政府は責任を持って法改正等の対処をなすべきである。政府は、国民の常識に照らし、現在の選挙権にかかる満年齢の取扱いには、なんら問題はないと考えているのか、お答えいただきたい。
 4 国民年金法によれば、老齢基礎年金の受給権は、六十五歳に達した日すなわち誕生日の属する月の翌月分から発生するが、一日生まれの人に限っては、法律上の年齢加算が前月末日であることから、誕生日の属する月当月分から、受給権が発生する。同様のことは、児童手当における受給権の発生、あるいは老人保健法における老人医療制度の適用開始時期などについても生じている。これは場合により一日生まれの人間だけが、期間的な利益を受け、あるいは不利益をこうむる事態が生じ得る。さらには、本人からの申請を要件とする場合に、本人が申請を失念する恐れも含んでいるが、このような特異な取扱いを行っていることについて、改善の必要性の認識はないか。
 5 以上のような問題が生じるのは、それぞれの制度の根拠法の決め方の問題もあるが、それ以前に、「年齢計算ニ関スル法律」が、年齢は出生の日から起算し、誕生日の前日に満了するなどとし、「誕生日を迎えるごとに一歳を加える」という一般常識と異なる決め方をしていることに大きな原因がある。
 そこで問う。「年齢計算ニ関スル法律」は一般法であるので、多くの法律がこの影響を受けている。これにより法律上の年齢加算が誕生日の前後にずれるなど、結果として一般人を混乱させかねない制度がどの程度あるか。また、小学校と保育園の年度の切り方の違いのように、同じような種類の制度でありながら、それぞれの根拠規定の定め方の違いのために期間などに違いを生じているケースがどれほどあるか。お示しいただきたい。
二 高齢者雇用と年齢計算について
 1 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」等に基づき、厚生労働省は、事業主に対し高齢者の定年を引き上げ、「六十五歳まで働きつづけることができる環境整備」を求める広報活動を行ってきたことと思う。では、こうした一連の広報活動において述べられている「六十五歳まで」とは、厳密にはいかなる時点までの者を指し示しているのか。
 2 1の定義は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」にいう「六十五歳まで」と同趣旨であると思うが、社会常識から考えれば、六十五歳いっぱい(六十六歳未満)まで雇用してください、という趣旨に理解するのではないか。仮に、採用条件に六十五歳まで応募できます、と書いてあったとして、それは実は六十五歳の誕生日の前日までで、社会常識上の六十五歳は条件から外れるなどと一般人が考えると思うか。
 3 いずれにせよ、厚生労働省としては、六十五歳に達する時点すなわち誕生日の前日午後十二時までは、現役世代と扱うべきだと考えているわけである。雇用保険法において、六十五歳で一般求職者給付と高齢者継続給付を区分しているのも同趣旨であるものと思う。しかし現実には、「六十五歳に到達する以前」である、誕生日前日の日中に退職し、雇用保険を請求しても、「六十五歳以上」とされ、一般求職者給付とならない。この理由をご説明いただきたい。
三 各制度間の年齢計算の基準の違いについて
 1 満年齢の計算において、同じく「年齢計算ニ関スル法律」等に基づきながら、満年齢を満たすか満たさないか、結論を異にするケースがある。例えば、労働基準法では十五歳を基準に使用してはならない児童を定めているが、一九八七年七月二十六日生まれの方は、二〇〇二年七月二十五日午後六時時点において満十五歳に達しているとされる。一方、民法九六一条は遺言をすることができる年齢として、やはり満十五歳と定めるが、同じく一九八七年七月二十六日生まれの方の場合、二〇〇二年七月二十五日午後六時時点において、満十五歳に達していないとされ、遺言能力は認められない。
 これらの齟齬は、各法律間に、満年齢の考え方の違いがあるために生じている。すなわち、高齢者雇用安定法や児童福祉法、あるいは民法や少年法などは、「時点」を基準として年齢を計算しており、誕生日前日の午後十二時時点で満年齢に達すると考えているのに対し、雇用保険法や労働基準法あるいは公職選挙法などは「暦日」を基準に年齢を計算し、誕生日前日という日をもって満年齢に達すると考えているために、同じ誕生日前日でも、満年齢に到達していたり、していなかったりする。
 そこで問う。これらの年齢計算における時点と日という基準の違いは、それぞれいかなる考え方で分けられているのか。統一的にお答えいただきたい。
 2 実質的に考えれば、日を基準にした場合は、誕生日前々日から前日に変わる瞬間に満年齢要件を満たす。一方、時点を基準にした場合、誕生日前日から当日に日付の変わる瞬間に年齢を加算することになる。これが、同じ「年齢計算ニ関スル法律」の原則に基づきながら、時点を基準にするか、日を基準にするかにより、実質的にはちょうど丸一日の違いが生じている背景である。思うに、各法律の性質上、時点を基準にする場合と日を基準にする場合とがあるのは仕方がない。しかし、時点を基準にする場合だろうと、日を基準にする場合だろうと、結論は異ならないようにすべきではないのか。
四 制度改正の必要性について
 1 小学校の入学年齢にしても、選挙権にしても、あるいはその他の制度にしても、それぞれの取扱いは定着し、各行政担当者が取扱いを誤るようなことはよもやないと思う。しかし行政サービスは、法的に取扱いが安定していれば、世間の常識とかけ離れていてもいいというものではないはずである。
 あるいは、法律に社会規範性がある以上、一般常識のほうが法律に合わせるべきであり、国民は今後、誕生日の前日に成長を祝うべきだ、ということなのか。法律と社会常識を一致させる必要性をどう考えているのか、改めてうかがいたい。
 2 政府が年齢計算に関する根拠とするものに、昭和五十三年の最高裁判例である静岡県教育委員会事件がある。しかし、この裁判は、「年齢計算ニ関スル法律」の解釈の妥当性についてのものであり、法律そのものの妥当性を問うものではなかった。もし一般常識にそって年齢計算の法律が定められていれば、そもそもこのような争いは生じなかったはずである。政府が最高裁判例に従い既存の法を解釈すべきことは当然としても、漫然と判例に沿って処理して事足れりとしつづけてきたことは、あまりに安易に過ぎないか。二度とこのような不幸な事案が生じないよう、市民の常識に合わせて制度を改革することこそ、政府のなすべきことではないか。政府の見解をお示しいただきたい。
 3 政府は、一般人が常識で判断して様々な手続きを取ったり、権利を行使したりできるように、法律の訂正を提起していく義務があり、年齢計算に関わる法令を抜本的に改めるべきである。例えば、期間計算の原則と一般常識にのっとって、日を基準にする場合は誕生日の翌日から期間を起算して誕生日当日に満了することとし、時点を基準にする場合は誕生日の午前零時の到来をもって満了する事とすれば、様々な問題を整合的に解決できるのではないか。また、省庁の管轄の違いや、根拠規定の違いによる年齢の取扱いのばらつきもなくすべく、関係各省の調整を図っていく必要があるのではないか。

 右質問する。



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