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平成十八年二月二十二日提出
質問第九四号

水俣病問題における被害者救済の抜本的解決に関する質問主意書

提出者  赤嶺政賢




水俣病問題における被害者救済の抜本的解決に関する質問主意書


 公害の原点といわれる水俣病は、本年五月で、公式確認から五〇年の節目を迎える。
 政府は、水俣病問題について、公害健康被害の補償等に関する法律(以下「公健法」という。)、「九五年の政治解決」等に基づき対策を講じてきた。しかし、未認定をはじめとする患者、家族、患者団体は、長年にわたり、国の救済策は、極めて不十分だとして、水俣病被害の抜本的な解決を求めて、訴訟を提起するなど運動を継続してきた。
 二〇〇四年十月十五日、チッソ水俣病関西訴訟の最高裁判決(以下「最高裁判決」という。)は、水俣病の被害の拡大を防止できなかった国及び熊本県に対して、不作為の不法行為の責任を認め、国がチッソと連帯して賠償責任があると認めた。
 また、判決は、水俣病の認定基準について、一九七七年の国の「後天性水俣病の判断条件について(環境庁企画調整局環境保健部長通知)」(以下「国の判断条件」という。)とは、異なり、有機水銀中毒に特有の感覚異常があれば患者と認めると判示した。
 そのため、現在、水俣病の認定については、行政と司法の判断が異なる、いわゆる「二重基準」が存在する状態になっているため、水俣病被害者は困惑した状況に置かれている。
 最高裁判決後、熊本県、鹿児島県、新潟県において、国の判断条件の緩和と被害者の救済拡大を期待して、三千五百人を超える方が、公健法に基づく認定申請をしている。
 さらに熊本県の調査では、未申請の潜在的被害者は、二万五千人との推計もなされている。
 環境省は、二〇〇五年四月、「今後の水俣病対策について」(以下「政府解決策」という。)に基づく総合医療対策事業等による対策を打ち出してはいるが、国の判断条件の見直しはしないとの考えを表明している。
 患者をはじめ家族、患者団体は、政府解決策と国の判断条件については、極めて問題点が多いと指摘し、国の判断条件の見直しをはじめとする被害者救済の抜本的な解決を強く求めている。
 従って、以下の事項について質問する。

一 水俣病被害者に対する国の責任について
 1 最高裁判決で、水俣病被害者に対する国及び熊本県の責任がはっきりと認められた。政府は、水俣病被害者に対する謝罪と責任について、改めて表明すべきであると思うがどうか。
 2 最高裁判決を踏まえて、政府は、水俣病被害者の救済のために現行制度の枠組みにとらわれることなく、患者、家族、患者団体等の切実な意見、要望も尊重して、国の判断条件の再検討を含めて、政府解決策に止まらない新たな救済策の枠組みを検討すべきと考えるがどうか。
二 政府の水俣病被害者の救済対策について
 1 政府解決策の中には、「国として、ここにすべての水俣病被害者に対し謝罪の意を表する」とある。環境大臣は、すべての水俣病被害者とは、公健法の認定を受けた方、総合対策医療事業の対象者、最高裁判決などの確定判決で損害賠償請求が認められた方、今後再開する保健手帳の対象となる方等であると答弁している。
 水俣病による被害者でありながら、政府の対策等は、今回の保健手帳の交付を含めて区分されることになるが、そのことについて、政府の見解を伺いたい。
 2 前記区分の被認定者水俣病被害者は、どのような国の判断条件等によって分けられるのか。
 3 公健法の認定を受けた以外の方は、水俣病患者ではなく水俣病による被害者ということか。水俣病患者と水俣病による被害者は、どう違うのか説明されたい。
 4 最高裁判決で損害賠償を認められた患者をはじめとする方々は、すべて水俣病による被害者であるにもかかわらず、救済措置がそれぞれ異なるというのでは、被害者間の公平性は保たれていないと考えるがどうか。
 5 この際、公健法に基づく対策を含めて、それぞれの対策の内容と要件及び国の判断条件等の概要を改めて詳細に明らかにしていただきたい。
三 水俣病の認定及び判断について
 1 最高裁判決は、水俣病の病像論につき踏み込んだ判断を示さなかったものの、大阪高裁判決における水俣認定基準についての判断を「是認することができる」として、国の判断条件とは異なる判断を示した。
 この判決は、国の判断条件によって却下された水俣病被害者が、司法によって水俣病の患者であるということを認められたということではないのか。
 2 環境省は、最高裁判決によって「(昭和)五十二年の判断条件が否定されたものではない。(基準の見直しについて)再検討する必要もない」と答えている。
 この環境省の姿勢に対して、多年にわたり筆舌に尽くしがたい苦痛と苦悩を強いられてこられた水俣病の被害者の方々が、憤りを覚えるのは当然のことである。
 最高裁判決によって、国の判断条件と異なる判断が示された以上、司法の判断に基づいて、国の判断条件について再検討するというのが、政府に求められる最小限の責任ではないのか。
 環境省の答弁は、全く道理がないばかりか、水俣病被害者の感情を逆撫でする冷酷非情なものである。国の判断条件の見直しを即刻検討すべきだと考えるがどうか。
 3 最高裁判決後、公健法に基づく認定申請者は三千人を超えているが、熊本県知事は、いわゆる「二重基準」について異を唱えており、また、同県の公害健康被害認定審査会の委員も「二重基準」が存在するままでは審査はできないとして、審査会の機能が停止した状態が続いている。これに関し、政府は、平成十七年四月二十二日付け答弁第五一号において、「熊本県及び鹿児島県における現時点の検診及び認定審査の体制については、最高裁判決後に急増している認定申請者に対して十分なものではないと認識している。このため、国としては、医療機関に対する検診の協力依頼及び認定審査会の円滑な運営に向けた取組を関係県市と協力して行ってきたところであり、引き続き検診及び認定審査の体制の整備に向けた取組を進めていくこととしている。」と答弁しているが、その後、一向に事態の進展が見られない。認定申請者の高齢化が進んでいる現状を考えれば、一刻も早く認定審査を再開し、被害者の救済を進めていく必要があるが、政府は、どのようなスケジュールで、どのように認定審査を進めていこうと考えているのか、具体的に明らかにしていただきたい。
 4 国の判断条件は、水俣病は「魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起こる神経系疾患」であり、「感覚障害があり、かつ、運動失調が認められること」等各種の症候の組み合わせを要件としている。
 水俣病の病像は極めて広範囲にわたるのに、この判断条件は、公健法の趣旨に照らして、水俣病患者を「網羅的」に認定するための要件としてはあまりにも厳しすぎないか。また政府は、この判断条件が水俣病の判断の最低基準だとしているが相当とは到底思われない。
 併せて政府の見解を伺いたい。
 5 そもそも、一九七一年の「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法の認定について(環境庁事務次官通知)」(以下「七一年救済法の認定」という。)は、水俣病の認定の要件について、「水俣病は、魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起る神経系疾患」として、「四肢末端、口囲のしびれ感にはじまり、言語障害」等の症状のうち、「いずれかの症状がある場合」、そして、「有機水銀の影響によるものであることを否定し得ない場合においては、法の趣旨に照らし」て、水俣病として認めていた。最高裁判決の判断に照らして、この七一年救済法の認定自体厳しいものであるが、しかし、少なくとも国の判断条件よりも緩やかである。
 環境省は、国の判断条件は、七一年救済法の認定を変更したものではなく「内容的に同じであり、別な言葉で明確にした」といっているが、両者を比較してみれば、誰がみても認定基準を変更したことは明らかであると思われるが、「内容的に同じ」とする合理的かつ明確な説明をしていただきたい。
 6 内情は、当時、被認定者が急増したために、チッソが患者に支払う補償金額が膨らみ、国と熊本県が金融支援を行う必要に迫られるという状況の中で、より厳しい国の判断条件に変更したというのが事実ではないのか。
 現に、それ以降、被認定患者が激減していった状況をみれば、そのことは明白ではないか、このことをどう説明するのか。改めて明快かつ詳細に回答されたい。
四 水俣病被害者の被害実態の解明と全面的健康調査について
 1 熊本県の調査によれば、水俣病の潜在的被害者は、二万五千人という推計がなされている。政府は、水俣病被害者や患者団体等の要求を真摯に受けとめて、水俣病問題の抜本的な解決に向け、水俣病の被害実態の解明のための水俣病被害者及び被害地域の総合調査を、国の責任において、熊本県など関係地方自治体等の協力を得ながら実施すべきと考えるがどうか。
 2 環境省は、これまで環境調査、健康調査、すなわち公共用水の常時監視、地域住民の健康事業を実施してきたというが、それらの対策で水俣病被害者の被害実態の解明はもちろんのこと、水俣病被害者の病状や症状の把握ができると本当に考えているのか。もしそうだとするならば、その科学的・疫学的根拠を示した上で、回答されたい。
 3 水俣病の公式確認から五〇年というこの節目の時期に、国の責務として、水俣病の被害実態の解明、全面的な健康調査に着手すべきである。政府の見解を重ねて伺いたい。

 右質問する。



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