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平成十九年十一月十五日提出
質問第二二四号

裁判員制度を前提とする国連拷問等禁止委員会勧告に関する質問主意書

提出者  保坂展人




裁判員制度を前提とする国連拷問等禁止委員会勧告に関する質問主意書


 裁判員制度導入の準備が進められる中、その具体的な問題点が専門家、有識者から多数指摘されている。これらを踏まえ、二〇〇七年五月に「拷問等禁止条約」締結国である日本政府に対して国連拷問等禁止委員会が行った勧告に関連して、以下の点を質問する。

一 裁判員制度下での代用監獄制度について
 1 司法研修所は、裁判員制度の導入を前提とした模擬裁判などの統計資料から、司法の素人である市民裁判員が量刑を含む判決に加わる場合、裁判官だけによる審理と比較して明らかに重い量刑を選択する傾向があることを指摘している(*1)。これらは直ちに、量刑不当や誤判の危険性を示唆するものであるが、政府はこの事実を認識しているか。
 2 代用監獄制度の問題は、とりわけ逮捕直後、調書作成の時点で行き過ぎた取調べが行われ、結果的に「冤罪の温床」となっていることが「拷問等禁止条約」に抵触すると国連から指摘されているものである。政府はこれを正しく認識しているか。
 3 専門裁判官はこうした取調べの傾向を認識した上で、法廷に提出される証拠を評価するが、証明力の評価には司法研修所での修習など専門的なトレーニングが必要不可欠であるとされる。間違いないか。一般にどの程度の訓練が必要であるとされているか。
 4 前項のような司法の専門トレーニングを受けていない市民裁判員には、法廷に提出される検面調書などの証拠評価能力はないと考えられる。間違いないか。
 5 かねてより、取調べの行き過ぎと、それによる不当な調書作成によって「拷問性」が国連から指摘される代用監獄制度を現状のまま存続する状況で司法の素人である裁判員を審理に参加させることは、右の各点から考えて、誤審、誤判、冤罪などの危険性を著しく増大させると考えられ、すでに専門家の指摘もなされている(*2)。政府は正しく認識しているか。
 6 誤審や誤判の危険性が明らかに増大することが内外専門家から指摘されるなかで、政府は三権分立の大原則を堅持するべく、適切な立法措置を講じて、裁判員制度の下で公正な裁判が実施されるよう、現実的な準備を進めているか。とりわけ裁判員制度を前提として、代用監獄制度は即刻停止あるいは廃止されるべきと思われるが、政府の見解はどうか。
 7 裁判員制度実施を念頭に、政府は国連勧告を満たす代替措置の準備、検討をしているか。
二 未決勾留者に対する長期昼夜独居が裁判員裁判に与える影響について
 1 未決勾留者の拘禁症状について質問する。一般に重罪被告人は、より軽い罪に問われる一般被告人と比較して「拘禁反応」の発生率が高いとされる。二〇〇七年十一月現在で、「拘禁反応」の診断を受けている未決勾留者は何名か。
 2 1の人数が、未決勾留者数全体に占める割合はどれだけか。別添【表1】を参照の上、一般被告人と重罪被告人各々について回答されたい。
 3 現在導入が準備されている裁判員制度では、死刑、無期懲役などに問われる重い犯罪が審理される法廷に限って、裁判員が審理に加わることになっている。右に見るように高い割合で発生する被告人の拘禁反応を見て、トレーニングを受けていない司法の素人である市民裁判員が誤った心証を持つ危険性は一切ない、と政府は考えるか。
 4 市民裁判員が審理に参加する、重罪を裁く法廷で、被告人がとる奇矯な態度が「不真面目」「被害者や法廷をバカにしている」などと誤解されることは決して少なくない。もっともよく知られているのはオウム真理教教祖麻原彰晃こと松本智津夫被告のケースである。松本被告の裁判では、傍聴席の報道陣など、司法のトレーニングを受けていない者が抱く先入観とは一切無関係に、専門裁判官により遵法的な手続きをもって審理が行われたが、裁判員制度の導入は、傍聴席、マスコミの推断を、そのまま判決に直結させる危険性があると考えられる。政府の見解はどうか。
 5 市民裁判員が抱く心証が、量刑まで直接影響を与える裁判員裁判で、判決が公正に下されるためには、未決勾留者の拘禁反応発症は絶対的に回避されなければならない。拘禁症状を呈した被告人は直ちに治療されるべきである。また拘禁反応を未然に防止するため、長期にわたる昼夜隔離独居には、明確な制限を導入することの必要性が、国連からも勧告されている。長期昼夜独居に制限を加える立法措置を講じる必要があると考えるが、政府の見解はどうか。
三 受刑者に長期昼夜独居が与える影響について
 1 刑が確定した者の拘禁症状について質問する。一般に長期囚ないし死刑囚は、より短い刑期の一般囚と比較して「拘禁反応」の発生率が高いとされる。二〇〇七年十一月現在で、「拘禁反応」の診断を受けている受刑者は何名か。
 2 1の人数が、受刑者全体に占める割合はどれだけか。別添【表2】を参照の上、一般囚、無期囚と死刑囚、各々について回答されたい。
 3 現行の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(いわゆる「新監獄法」)では、原則的に未決勾留者と既決囚、死刑確定者を等しく取り扱うものとなっている。拘禁症状には、爆発的な反応を見せる「陽性」の症状と、感覚が鈍重になり神経症的反応を見せる「陰性」の症状の二つがあるとされるが、いずれの場合も受刑者は事件や被害者のことを極力思い出さず、意識的に、又は無意識に忘れて生活しようとしていることがよく知られている(*3)。政府はこの認識が間違いないと考えているか。
 4 長期の昼夜独居拘禁など、顕著に拘禁症状を引き起こす措置は、受刑者がより効果的に犯罪事実を反省せず、かえって忘却を促進する働きを持つことが専門家によって長らく指摘されてきた。さらに最近の研究では、脳機能可視化技術などを用いて、こうした反応が人間の脳の分別に相当する部分を選択的に鈍麻させ、感情の爆発を抑えることができない(陽性反応)あるいは抑圧して神経症を発生する(陰性反応)メカニズムも示唆している(*4)。
  人工的に恐怖の情動を喚起された被験者の脳血流を見ると、血中の酸素濃度(酸化ヘモグロビン濃度)が低下し、通常に思考することができなくなる。長期昼夜独居など、国連によって「拷問等」に相当すると認定される処置によって、受刑者は反省するための「分別の能力」と「事件の記憶」を奪われ、実効的な矯正効果のない、単なる「拷問」となっているケースが極めて多いことがわかる。
  こうした科学的知見は、前近代的な長期昼夜独居が、犯罪者の矯正になんら役に立つものではなく、かえって有害であり、さらには、再び社会に出た元受刑者が累犯を繰り返す事実を脳生理学的な観点から、新たに傍証するものとなっている。先の国連拷問等禁止委員会はこうした状況を踏まえ「これを解除するとの観点をもって、専門的な心理学的、精神医学的評価によって、組織的に再調査することを考慮すべきである」と勧告したが、安倍内閣の二〇〇七年六月十五日の答弁書(内閣衆質一六六第三六八号)では、一切の科学的根拠を示すことなく「施設内の保安状況等を総合的に勘案して行う必要があり」「行刑実務に精通した豊富な経験に基づく専門的・技術的な判断が求められる」とした上で「刑事施設の長により適切に行われているものと認識している」と答弁するに留まっている。こうした新たな科学的根拠を踏まえて、政府の見解はどうか。
 5 確定受刑者の長期昼夜独居拘禁は、連続に関する制限がない。これを制限する立法措置を検討する必要があると思われる。政府の見解はどうか。

 右質問する。

  (注)
  (*1) 司法研修所『量刑に関する国民と裁判官の意識についての研究−殺人罪の事案を素材として』 法曹会 2007/03 出版ほか。
  (*2) 團藤重光『反骨のコツ』朝日新聞社 2007 pp.138 ほか。
  (*3) 小木貞孝『拘禁状況の精神病理』異常心理学講座第X巻みすず書房 1974
  加賀乙彦『ある死刑囚との対話』弘文堂 1990 ほか多数。
  (*4) 伊東 乾『東大式絶対情報学』講談社 2006 ほか。

表1、表2


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