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平成二十一年六月二十五日提出
質問第五九四号

原爆症認定却下処分の取消を求める訴訟に関する質問主意書

提出者  阿部知子




原爆症認定却下処分の取消を求める訴訟に関する質問主意書


 政府は、一九六九年の桑原原爆訴訟を発端とし、本年五月二十八日の東京高裁判決までの原爆症認定却下処分取消訴訟において二勝二十六敗である。
 このような状況を踏まえ、以下の質問をする。

1 原爆症認定却下が違法とされ続けていることについて
 (1) 憲法第十一条で「国民の基本的人権の享有」、第十三条で「個人の尊重と生命・自由・幸福追求の権利」を定めている。原爆を投下されてからすでに六十三年を経ているが、病を抱えた高齢の原爆被爆者らによる認定却下取り消しを求める訴訟が続いていることは、政府が、憲法が保障する国民の侵すことのできない権利を軽視あるいは無視していることの現れと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
 (2) 一九五五年に提訴された東京原爆裁判では、一九六三年の東京地方裁判所の判決で原告らの訴えは退けたものの、立法府と行政府に対して原爆被爆者の十分な救済を求めている。以来四十五年、政府はどのような考えに立って原爆被爆者の救済を行ってきたのか、明らかにされたい。
 (3) 原爆被爆者の救済は、一九五七年の原爆医療法に始まり、一九六八年の被爆者特別措置法、並びに一九九四年の原爆被爆者援護法によって、放射能災害の特殊性から、他の戦災者よりも手厚い援護対策がとられてきた。「被爆者援護法」は前文において「国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」ることを宣言している。
  政府が、原爆症認定を求める訴訟において、一九七六年以来十八連敗を喫しながらも、さらに裁判を継続しているということは、行政による司法の軽視ないしは無視の現れと考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。
2 各裁判における被告・厚生労働省の敗訴理由と認定の根拠について
 (1) 二〇〇〇年七月の長崎原爆松谷訴訟最高裁判決で、政府の原爆症認定却下が違法であると判断された。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (2) 二〇〇〇年十一月の小西京都訴訟大阪高裁判決で、政府の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (3) 二〇〇五年三月の東数男東京訴訟東京高裁判決で、原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (4) 二〇〇八年五月の原爆症認定集団訴訟仙台高裁判決で、原告二名の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (5) 二〇〇八年五月の原爆症認定集団訴訟大阪高裁判決で、原告九名の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
  なお、X1からX9までの九名の原告らの爆心地からの距離と推定最大被曝線量は、それぞれ約一・五キロ−〇・九九グレイ、約三・三キロ−ほとんどゼロ、二〜三キロ−〇・〇二グレイ、一・八〜一・九キロ−〇・一五グレイ、約二キロ弱−〇・〇七グレイ、約一・九キロ−〇・〇七グレイ、入市被爆者−〇・〇八グレイ、入市被爆者−〇・〇三グレイ、約二・一キロ−〇・〇六三グレイであるとしていた。また、政府は、敗訴後、九名の原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (6) 二〇〇九年一月の原爆症認定集団訴訟鹿児島地裁判決で、原告二名の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は控訴しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、二名の原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (7) 二〇〇九年五月の原爆症認定集団訴訟大阪二次訴訟大阪高裁判決で、原告五名のうち四名の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、四名の原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
 (8) 二〇〇九年五月の原爆症認定集団訴訟東京訴訟東京高裁判決で、原告十名のうち九名の原爆症認定却下が違法であると判断されたが、政府は上告しなかった。判決が違法とした根拠についての政府の見解を明らかにされたい。また、政府は、敗訴後、九名の原告を原爆症と認定したが、その際の疾病とその根拠を明らかにされたい。
3 原爆について
 政府は、原爆症認定集団訴訟大阪裁判において、原爆について、以下のように主張した。
 「広島・長崎の原爆とも、上空で爆発したものであり、原爆の核分裂直後に形成された火球の温度は、最高で摂氏数百万度に達し、原爆の爆発とともに爆発点に数十万気圧という超高圧が作られ、周りの空気が大膨脹して爆風となったことから、未分裂の核物質があったとしても、これらは気化(蒸発)し、放射性降下物として爆心地の近辺にとどまることなく、原爆の激しい爆風で大気中に拡散し希釈されて流れ去っており、発生した放射性降下物は比較的少なかった。」
 (1) 「未分裂の核物質があったとしても、爆風で拡散し希釈され流れ去った」とする学説について、その論者とその論拠を明らかにされたい。
 (2) 「発生した放射性降下物は比較的少なかった」とする学説について、その論者とその論拠を明らかにされたい。
 (3) 一九四五年九月六日、アメリカのファーレル准将が、東京での記者会見で、「広島・長崎では死ぬべきものは死んでしまい、九月上旬現在原爆放射能のために苦しんでいるものはいない」と声明した。その声明の根拠は政府が提出した「広島破滅の報告(放射能に関して)」にあるとする学説がある。政府は同報告書の内容を明らかにするとともに、声明を正しいと判断するのか、あるいは間違いと判断するのか、科学的な根拠によって明らかにされたい。
4 被曝線量評価方式DS八六・DS〇二の正当性について
 政府は、原爆症認定集団訴訟大阪裁判で、DS八六並びにDS〇二の正当性について、「現在では世界的にも信頼される放射線防護の基礎データとなり、各国もこれを前提として放射線の有効利用をしているが、その前提となる原爆の被曝線量が誤っているなどと批判されたことはない。」と主張した。
 しかし、政府が敗訴を受け入れた判決において、各裁判所は、いずれもDS八六の問題点を指摘している。
 政府は裁判所のDS八六に対する批判的判断をどのように受け止めたのか、明らかにされたい。
5 内部被曝について
 政府は、原爆症認定集団訴訟大阪裁判で、内部被曝について、「広島・長崎の原爆による放射性降下物及び残留放射線による放射線量は極めて低く、これらに起因する内部被曝の影響の程度も無視しうる程度の線量であることは、実測値等によって客観的に明らかにされている。」と主張し、さらに、原告らの「低線量内部被曝の健康影響をことさらに過大視しようとする考え方は、今日の放射線学の常識に明らかに反している」と主張した。
 (1) 政府は、上記訴訟での内部被曝についての主張が「今日の放射線学の常識」であるとする学説について、その論者とその学説が正当であるとした根拠を明らかにされたい。
 (2) 政府は、上記訴訟の「内部被曝による被曝線量の推定値」の項で、概略、「DS八六開発時に、放射性降下物の最も多く堆積した長崎・西山地区の住民に対するセシウム一三七からの内部被曝線量を推定し、四〇年間の総計を算出したが、最大限に見積もったとしても極微量であった」などと主張した。
  これに対して、沢田昭二・名古屋大学名誉教授は、「第二回原爆症認定の在り方に関する検討会」で、「西山地区住民のセシウム一三七は、環境から摂取したセシウム一三七からの被曝量である。被爆後二十四年も経てから放射性降下物から取り込んだセシウム一三七が測定できるはずがない」と指摘した。沢田教授の陳述について、政府はどのように受け止めたのか、明らかにされたい。
 (3) 政府は、上記訴訟の「内部被曝による被曝線量推定値」の項で、「個々の申請者ごとの内部被曝線量を科学的に推定することが困難である」と主張した。現在、政府が考える内部被曝線量を算出する科学的方法とは、どのようなものか。その内容を明らかにされたい。
 (4) 政府は、上記訴訟の「内部被曝による被曝線量の推定値」の項で、西山地区住民の「四十年間の総計が極微量であり、自然放射線による内部被曝線量年間二・四ミリシーベルトにも満たないため、認定審査で考慮を要しないと判断した」と主張した。自然放射線による内部被曝線量が二・四ミリシーベルトである根拠を明らかにされたい。
 (5) 政府は、原爆症認定集団訴訟大阪裁判で、ホットパーティクル理論について、「国際放射線防護委員会(ICRP)は、明確に否定しており、一般的な放射線学の常識としても、このような理論による人体影響の可能性は認められない」と主張した。「ICRPが明確に否定している」とする具体的根拠を明らかにされたい。
 (6) 政府は、上記ホットパーティクル理論について、「実際の人体影響を説明することはできないし、それを実証する知見は存在しない」と主張した。大阪高裁判決を受け入れ敗訴が確定した現在も、この主張は正しいと考えているのか。もし正しいと判断しているのであれば、その根拠を科学的な知見に基づいて明らかにされたい。
 (7) 政府が、長崎原爆松谷訴訟の最高裁判決の後も、「内部被曝による影響を格別考慮しないで、放射線起因性の判断をすることにしている審査の方針には何ら不合理な点はない」と主張し続けて、内部被曝を無視した認定審査を継続している。政府が「内部被曝を無視することは科学的に合理的である」とする根拠を明らかにされたい。

 右質問する。



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