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平成二十一年六月三十日提出
質問第六一九号

原爆症認定訴訟に関する質問主意書

提出者  阿部知子




原爆症認定訴訟に関する質問主意書


 政府は、これまでの原爆症認定却下処分取消訴訟において、二十六回も敗訴している。これに対して勝訴はわずか二回に過ぎない。明らかに政府の主張は、破綻しているのである。
 このような状況を踏まえ、以下の質問をする。

1 原因確率について
 厚生労働省が設置した「原爆症認定在り方検討会」の第二回検討会(二〇〇七年十月四日)において、齋藤紀医師は、原因確率について次のように陳述している。
 「すべての判決で、原因確率に基づく認定審査を是正するよう行政に求めている。なぜ、そうなのか臨床医として考えたい。原因確率とは疫学調査における寄与リスクを意味している。一定の被爆者集団に百人のがんが発症し、同時に非被爆者集団に九十人のがんが発症した場合、被爆者集団の過剰発症は十人であり、集団の寄与リスクは一〇%となる。これは集団での一定の傾向性を示すものであって、被爆者ががんを発症した場合には、その被爆者にとっては放射線のリスクを受けた結果であること以外のなにものでもないはずだ。しかし、認定審査では、集団の寄与リスクを被爆者個人に当てはめ、放射線の影響はわずか一〇%の確率でしかないから、原因は放射線以外にあり、放射線起因性は否定できるとして認定却下をしている。DS八六の初期放射線を被曝量の基本とし、残留放射線被曝を軽視する原因確率では、被爆者の実相を十分把握することは困難である。」
 (1) 政府は、齋藤紀医師の陳述をどのように受け止めたのか、明らかにされたい。
 (2) 政府は、二〇〇八年四月から実施している新審査の方針でも、原因確率を使用している。原因確率を使用し続ける理由を明らかにされたい。
 (3) 厚生労働省が設置した「原爆症認定在り方検討会」の第二回検討会(二〇〇七年十月四日)で、沢田昭二名古屋大学名誉教授は「残留放射線被曝と内部被曝」について、「放影研の寿命調査を基にした線量評価の結果、残留放射線量は大幅に増加することが分かった。残留放射線は遠距離被爆者や入市被爆者に深刻な影響を与えているし、内部被曝の影響はもっと深刻に考えなければならない」と陳述された。
  丹羽太貫検討会座長代理は、沢田教授の陳述に対して、「先生の線量評価が本当であれば、これは今の防護体系はまったく成り立たないということになってしまう」と発言されている。丹羽氏の発言は、沢田教授の陳述が重大であることを意味している。
  政府は、沢田教授の陳述をどのように受け止めたのか、明らかにされたい。
 (4) 厚生労働省が設置した「原爆症認定在り方検討会」の第二回検討会(二〇〇七年十月四日)で、沢田昭二名古屋大学名誉教授は「残留放射線被曝と内部被曝」についての陳述において、放射線防護の一番基礎的なデータである「放影研のデータを、残留放射線の影響をきちんととらえた形で、もう一遍きちんととらえ直して、ICRPなどに送ることはすごく大事な仕事ではないか」と述べている。
  政府は、沢田教授の指摘をどのように判断し、また今後、どのような行動に移すのか明らかにされたい。
2 急性症状のしきい値と被曝実態について
 原爆症認定集団訴訟大阪裁判で、原告は急性症状のしきい値について、次のように主張した。
 「一審被告らが主張する脱毛や下痢のしきい値線量は、放射線取扱い施設における臨界事故や原子力発電所事故などの経験から得られたいわゆる「急性放射線症候群」において理解されているしきい値線量とみられるが、これらの被曝態様は、短時間の高エネルギー放射線照射によるとみられる。これに対して、原爆被曝は、数キロメートルにわたる市域全体が瞬時に一大照射域となり、引き続き放射性物質に満ちた一大線源域となり、個々の被爆者は照射瞬間から持続的に短・長半減期の放射性同位元素にとらわれ、しかも、外部のみならず、複雑な内部被曝にさらされたものであり、被曝実態が異なるのである。」
 (1) これまでの裁判で原告は「厚労省が主張する急性症状のしきい値線量は、臨界事故や原発の事故などの経験から得られたものである」と主張してきた。この点についての政府の所見を明らかにされたい。
 (2) 厚生労働省が設置した「原爆症認定在り方検討会」の第二回検討会(二〇〇七年十月四日)において、原爆被爆者医療分科会会長佐々木康人氏は、急性症状しきい値線量について、「DS八六による線量評価にも不確実性はあると思うが、被爆者の急性症状の記憶の不確実性よりも小さい。DS八六の推定線量で〇・一グレイ以下の低線量であった被爆者の急性症状は、分科会としては放射線起因性は認めることはできない」と発言されている。これは被爆者に対して残酷な考え方と考える。政府の考え方を明らかにされたい。
 (3) 同検討会において、原爆被爆者医療分科会会長代理の草間朋子氏は、二〇〇一年にはじめて認定審査の基準を定めるために文献調査を行い、欧米が取り入れていた原因確率を参考にして導入したことを述べておられる。アメリカでは一九八四年に、「退役軍人のためのダイオキシン・放射線被曝補償法」が制定されて、日本のいわゆる入市被爆者に相当する広島・長崎駐留兵士への救済制度が始まっている。このような良い先例を知りながら、被爆国日本が制定した認定審査の方針では、入市被爆者はまったく認定されることはなく、二〇〇八年五月の大阪高裁に敗訴した後、アメリカに遅れること二十数年後にして、はじめて二名の入市被爆者が認定された。二名とも勝訴確定の前年に死去していた。
  政府は、原爆投下国アメリカの駐留兵士への救済制度と、投下された被爆国の遅れた入市被爆者の認定についてどのようにとらえるのか、明らかにされたい。
 (4) 現在、アメリカをはじめ欧米各国で実施されている「被爆者救済制度」の内容を、国名、実施年月日、法律名、制度名、被爆線量の基準、算定方法、救済内容、など具体的に明らかにされたい。
 (5) 厚生労働省が設置した「原爆症認定在り方検討会」の第五回検討会(二〇〇七年十一月二十八日)で、座長代理の丹羽太貫氏は、「被曝のリスク評価は経験則の積み重ねであり、科学的な不確かな部分をいかに小さくするかについて、過去五十年間放影研は研究をしてきたと思うが、難しい問題である」と発言されている。これは政府が被爆者の救済よりも、被曝の科学的な確実さの解明を優先させていることの現れと考えられる。政府の所見を明らかにされたい。
 (6) 財団法人放射線影響研究所の大久保利晃理事長は、放影研の成果について、「被曝の晩発影響で分かっているのは、まだ五%程度かもしれない」(読売新聞二〇〇六・八・六)としている。その程度の後障害の理解で、原爆被爆者の認定を行おうとするのは、科学の誤用に当たると考えられる。政府の見解を明らかにされたい。
3 大阪高裁が引用した科学文献について
 原爆症認定集団訴訟大阪裁判では、「低線量放射線による継続的な内部被曝が高線量放射線の短時間被曝よりも深刻な障害を引き起こす可能性について指摘する科学文献」として、アメリカで出版された二冊の文献――@ドネル・W・ボードマン著『放射線の衝撃』−低線量放射線の人間への影響−(被曝者医療の手引き)(肥田舜太郎翻訳)と、Aジェイ・M・グールドとベンジャミン・A・ゴルドマン共著『死にいたる虚構』−国家による低線量放射線の隠蔽−(肥田舜太郎と齋藤紀翻訳)――を引用している。
 (1) 二冊の科学文献が述べているペトカウ理論は、提唱されてからすでに三十年以上経過している。
  政府は、放射線影響研究所、放射線医学総合研究所、広島大学、長崎大学において、ペトカウ理論についてどのように検証したのか、具体的に明らかにされたい。
 (2) 大阪高裁は『死にいたる虚構』から「チェルノブイリの経験から言えば、この過程は最も感受性のある人々に対する低線量被曝の影響を一〇〇〇分の一に過小評価していることを示している。」ことを引用している。
  政府は、この指摘に対してどのように評価するのか、具体的に明らかにされたい。
 (3) 大阪高裁が引用した『放射線の衝撃』において、放射線起因性が認められる疾病に特有の症状は「非定形性症候群」であり、これこそが国際疾病分類にも認められていない被曝後遺症の目印である、としている。「非定形性症候群」の有無による症例判断例は、原爆症認定制度における放射線起因性の判断にとって有効と考えるがどうか、政府の考えを明らかにされたい。

 右質問する。



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