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平成二十四年二月六日提出質問第四九号
原子力損害賠償紛争審査会指針の賠償対象区域に関する質問主意書
原子力損害賠償紛争審査会指針の賠償対象区域に関する質問主意書
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(以下、「紛争審査会」と記す。)は、平成二十三年十二月六日、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る区域について)」を定めたが、自主的避難等対象者が受けた損害(精神的被害を含む)を賠償する区域(以下、「賠償対象区域」と記す。)を福島県内の二十三市町村に限定するものであった。賠償対象区域の判断に際し、紛争審査会は、「発電所からの距離、避難指示等対象区域との近接性、政府等から公表された放射線量に関する情報、自主的避難の状況等を総合的に勘案して」決めたとしている。
福島第一原発事故による高い放射線量が検出されている宮城県南部の伊具郡丸森町、亘理郡山元町、亘理郡亘理町、角田市、白石市等の自治体はいずれも、賠償対象区域にならなかった。賠償対象区域にならなかった宮城県、福島県の関係者から、「判断基準に照らせば賠償対象区域とされるべきである」、「取り急ぎ定めた指針の内容は不十分なままである」等、様々な指摘等がみられたことは周知の通りである。賠償対象区域の決定において、紛争審査会は、当該二十三市町村以外の地域をどのように検証したのかが、不明確なままである。
具体的に言えば、宮城県南部の伊具郡丸森町について、同町は東側には福島県相馬市、相馬郡新地町、宮城県亘理郡山元町が、また西側には福島県伊達市が隣接する位置にあり、事故が起こった福島第一原子力発電所から、距離および方角において、いずれの自治体も同一視でき得る。福島第一原子力発電所から西南西に約一〇〇キロメートル離れている福島県岩瀬郡天栄村は、中間指針追補で定められた賠償対象区域に入っている一方で、北西約四十五キロメートル、町全体でもほぼ六十キロメートル圏内に位置する宮城県伊具郡丸森町は賠償対象区域に入っていないのは、不合理であると解さざるを得ない。
宮城県の伊具郡丸森町と亘理郡山元町の住民に対する原子力損害賠償については、福島県相馬市等の住民に比べ、東京電力等による説明時期が遅く、相馬市等の市民には送付された賠償請求書が、右宮城県内の二つの町に住む住民には送付されなかった等、県という行政区域の違いを基準として、住民の賠償を得る機会が不当に制限されている。
紛争審査会は、中間指針追補において、「中間指針追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。」とはしているが、現実には、賠償対象区域に入っていない地域の住民が賠償を求める際は、住民側が「個別具体的な事情に応じた相当因果関係のある損害」であることを証明しなければならない。これまでの東京電力の消極的な賠償姿勢に鑑みると、指針において具体的に賠償対象であることが明記されなければ、迅速、公平かつ適切な救済を受けることは極めて困難である。
即ち、紛争審査会の指針において賠償対象として具体的に明記されるか否かは、原子力被害の適切な賠償を受ける上で極めて重大な違いが生じる。被害者が迅速、公平かつ適切に賠償を受けるためには、指針によって自動的に賠償手続が進む必要がある。現時点では、指針の賠償対象区域に入らなかった多くの被害者が、原子力被害に加えて、賠償請求を巡って苦労するという「二重の被害」に遭っている。政府は紛争審査会に指針の作成を委任しているが、最終的な責任は政府にあり、具体的には文部科学大臣が状況に応じて賠償対象区域を大局的に判断すべきである。以下、宮城県伊具郡丸森町と亘理郡山元町を賠償対象区域に入れなかったことの問題点について質問する。
二 紛争審査会の指針において賠償対象であることが具体的に明記されなければ、被害者が東京電力から原子力被害の適切な賠償を受けることは極めて困難である。紛争審査会には、福島県以外の地域における自主的避難者などの原子力被害者に対する賠償が迅速、公平かつ適正に行われるよう、常に賠償対象区域の見直しを行う責務があると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
三 紛争審査会は、原子力損害の賠償に関する法律第十八条に基づき、「原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため」に文部科学省に置かれているものであるが、現在の指針は、宮城県伊具郡丸森町と亘理郡山元町の原子力被害者にとっては自主的な解決に資する指針とはなっておらず、宮城県、福島県の多くの関係者から、「判断基準に照らせば賠償対象区域とされるべきである」など、様々な指摘、批判が顕在化している。原子力損害賠償制度を所管する文部科学大臣は自ら考え方を示すなどして、紛争審査会に対し賠償対象区域の追加を行わせるなど、然るべき対応をとるべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
右質問する。