質問本文情報
平成二十四年三月十五日提出質問第一三九号
緊急事態に対する現行憲法の問題に関する質問主意書
提出者 近藤三津枝
緊急事態に対する現行憲法の問題に関する質問主意書
緊急事態に対する現行憲法の問題については、昨年十一月二日、十一月二十九日の二回にわたり、質問主意書により政府の答弁を求めてきたところである。
これらの質問主意書とこれに対する政府の答弁書などをもとに、私は、本年二月二十八日の予算委員会、そして三月五日の予算委員会第一分科会の二度にわたり、「緊急事態時に衆議院が解散されていたならば、現行憲法の下で被災地の総選挙はどのように対処されるか。その場合の選挙は憲法第十五条第三項の参政権を保障する選挙と言えるのか」について質問した。
これに対し、内閣法制局長官は、「東日本大震災のような緊急事態発生時に、たとえ衆議院が解散されていたとしても、公職選挙法に基づく不在者投票と繰延投票によって、現行憲法の下では、有権者の参政権は保障されている」と答弁された。
その際、選挙期日に投票を行うことができない場合は、公職選挙法第五十七条に基づき、「繰延投票」を行うことになるとの見解が示された。
以上の内閣法制局長官が憲法第十五条第三項の参政権が保障されているとの根拠とした「不在者投票」及び「繰延投票」について、次の点を質問する。
したがって、「不在者投票」の制度は、緊急事態によって定められた選挙期日に投票ができなくなったすべての有権者に対して、投票の機会を保障することができるものではないと考えるが、政府の見解如何。
二 次に、内閣法制局長官は、公職選挙法第五十七条の繰延投票について、「憲法第五十四条第一項では解散の日から四十日以内に選挙を行うことになっているが、これに関わらず、四十日を超えて、適正な選挙が実施できる状態になってから繰延投票を実施することができる」と明言された。これに対し、私が「解散後、四十日を超えた繰延投票はそもそも憲法第五十四条第一項に違反するのではないか」と更なる質問をしたところ、内閣法制局長官は「憲法に違反するものではない」と答弁された。
この件に関し、次の二点について質問する。
(1) 内閣法制局長官の答弁は、選挙とは「公示から始まって、選挙運動期間を経て、投票・開票・当選人の決定に至る一連の手続」を指すものであることを前提として、被災地などで行われる繰延投票が解散の日からたとえ四十日を超えて行われた場合でも、その一連の手続の一部である被災地などの「投票(これ以降の手続を含む。)」のみが四十日を超えて行われたに過ぎず、国政選挙の「(全体としての)選挙」は四十日以内に行われたといえる、という趣旨と理解してよいか。
すなわち、憲法第五十四条第一項にいう「(総)選挙」は、この「一連の手続」を指すものと理解してよいか。その場合、「解散の日から四十日以内に・・・総選挙を行ひ」や「その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない」という「(総)選挙の日」とは、いつの日のことか。
(2) その上で、選挙という「一連の手続」の中でも、「投票」はまさにその中核と考えられるが、被災地などにおいてこの投票が四十日以内に終了しない場合でもなお、「(全体としての)選挙」は四十日以内に行われ、憲法第五十四条には違反しないといえるのか、政府の見解如何。
三 今回の東日本大震災では「東日本大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」によって、被災地の岩手県、宮城県、福島県、茨城県の四県で、およそ二百六十万人もの有権者が、事前に定められた選挙期日に投票できず、最長二百四日もの投票日の延期がなされた。内閣法制局長官の「繰延投票の実施」の答弁に基づけば、昨年三月十一日に衆議院が解散の状態にあり、その後に総選挙が行われていたとするならば、最大でおよそ二百六十万票の得票が確定していなかったこととなり、被災地の小選挙区のみならず、東北ブロック等の比例代表の議席がかなり長い間、決まらない事態となっていたのではないかとの疑いが生ずる。
そこで、次の二点について質問する。
(1) 比例代表選挙において、一部の投票区で投票が繰り延べられた場合は、当選人はどのように決まるのか。選挙期日に投票を行うことができた地域の得票のみで比例代表選挙の繰延投票が行われたブロックの全部又は一部の当選人を決めることができるのか、あるいは繰延投票が終わるまで当選人を決めることはできないのか、政府の見解如何。
(2) 今回の震災では二百四日もの投票日の延期がなされたところであるが、繰延投票が選挙期日から長期にわたって延期される場合、いつまで延期することができるのか、政府の見解如何。
四 以上のことを前提とした上で、最後に、次の点について、政府の見解を伺いたい。
衆議院の解散中に大災害が発生した場合、解散から四十日以内に選挙が行われるということから、被災地を含めて、全国一律に総選挙が公示され、十二日間に及ぶ選挙運動が行われることになる。しかし、被災地において、公示日における立候補の受付け手続や、選挙運動はもちろん、選挙そのものが実施できない事態は容易に考えられる。この場合、最も被害を受けた地域の小選挙区から衆議院議員は選出されず、また仮にこの比例代表選挙で選出された衆議院議員がいたとしても、この選挙にこの地域の選挙民の票は投じられていない。そして、このように被災地の住民の民意を全く反映せずに構成された衆議院が、選挙の日から三十日以内に召集される特別国会において、内閣総理大臣を指名し、解散中に参議院の緊急集会で採られた措置について同意を与えてしまうことになる。
緊急事態が発生し、これによって大きな被害を受けた被災地の代表が最も求められている時に、その被災地から繰延投票が行われるまで衆議院議員が選出されないという事態は、まさに被災地の国民の参政権、憲法第十五条第三項で保障されるべき参政権が侵害されている事態であって、憲法上きわめて大きな問題であると考える。
これらを踏まえてもなお、緊急事態時に衆議院が解散されている場合、現行の規定の下で、憲法第十五条第三項に規定されている参政権は保障されていると言えると考えているのか。改めて、政府の見解如何。
右質問する。