質問本文情報
平成二十四年三月二十九日提出質問第一五八号
原子力防災の見直し、強化等に関する質問主意書
提出者 服部良一
原子力防災の見直し、強化等に関する質問主意書
原子力安全委員会は三月二二日に「「原子力施設等の防災対策について」の見直しに関する考え方について(中間とりまとめ)」(以下、「中間とりまとめ」という)をまとめた。福島第一原発事故の反省を踏まえて原子力防災を抜本的に見直し、強化することは当然の要請であり、政府及び関係地方自治体においても必要な取り組みに着手していると承知しているが、様々な混乱や不安が生じていることも事実である。そこで、原子力防災の見直し、強化等に係る取り組みの現状及び見通し等について質問する。
二 EPZ(原子力災害対策重点区域)の見直しを受け、PAZ(予防的防護措置準備区域)及びUPZ(緊急防護措置準備区域)が導入されると承知しているが、以下の点を明らかにされたい。
1 各原発立地点毎のPAZ及びUPZの線引きについては、どのような手順により、いつ頃設定されることとなるのか。
2 防護措置の発動に必要となるEAL(緊急時活動レベル)及びOIL(運用上の介入レベル)などの事項、手順等については、いつ頃に、一に掲げた文書及び政省令の改定が行われることとなるのか。
3 モニタリング、通信をはじめ、防護措置発動を実効的に裏付けるインフラの整備はいつ頃までに完了するのか。
4 1及び2の事項等の決定以前に、防護措置の発動が必要となり得る事態が生じた場合には、いかなる基準及び手続きにより、いかなる防護措置が発動されることとなるのか。また、その際に、移行期であることによる混乱を回避することは可能であるのか。
5 「中間とりまとめ」においては、「プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置」(PPA(プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域)の参考値は概ね五〇km)が検討課題として挙げられているが、一の改定においてどのような取扱いとなるのかを含め、今後、どのように具体化していくのかを示されたい。
三 関係地方自治体は、改正が予定されている原子力災害対策特別措置法(以下、「改正原災法」という)の公布後六月以内に、地域防災計画を改定することを求められていると承知しているが、以下の点を明らかにされたい。
1 政府は地域防災計画改定のガイドライン、マニュアル等を準備中であるが、いつ頃関係自治体に提示するのか。
2 現実問題として、改正原災法の施行時期に地域防災計画改定が間に合う見通しが立っているのか。把握できている範囲内で、各自治体の状況を示されたい。
3 地域防災計画の実施に必要となる資機材の整備の見通し、及び財政措置、技術支援その他の政府としての対応策を明らかにされたい。
4 避難等の措置を有効に、混乱なく実行するためには、避難道の整備など、原子力防災の範疇だけでは対応できない施策が必要となると思われる。「中間とりまとめ」も指摘しているように、一般災害対応と重なる部分もあり、原子力防災の枠組みを超えた対応が求められる。政府としては財政措置を含めどのように対応していく方針であるのか。
四 「中間とりまとめ」で提起された以下の課題については、どのように具体化していく予定であり、各地域において対応がいつ完了する見通しであるのか。
1 緊急時対応拠点と対策実行拠点の設置など、オフサイトセンターに係る事項。
2 関連法制度の検討を含む、安定ヨウ素剤の予防的服用に係る事項。
3 スクリーニングに係る事項。
4 緊急被ばく医療体制に係る事項。
五 原子力発電所の再稼働問題の要件たる「地元の理解」について、未だ政府は「地元」の範囲を明らかにしていない。一方で、地元の範囲を矮小化し、同意を求めるのは立地自治体あるいは現行EPZ程度の範囲に止めようとしているのではないかとも疑われている。そこで、以下の点につき、政府の認識を問う。
1 現行の防災指針では、EPZについて「十分に安全対策が講じられている原子力施設を対象に、あえて技術的に起こり得ないような事態までを仮定して、さらに、十分な余裕を持って示しているもの」と説明しており、二〇一一年七月二〇日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で班目春樹原子力安全委員会委員長は「原子力安全委員会としては真摯に反省」していると答弁した。これに対して、「中間とりまとめ」では「過酷事故が起これば、深刻な事故を招くと言う潜在的危険性がある」と言明した。改めて、政府として、EPZの過小設定について反省を示されたい。
2 本年三月二七日に原子力安全委員会事務局が公表した資料においては、EPZの目安の見直しに係り、同委員会環境管理課都筑課長が「10km超では対策を要する水準にならないことについて、従来のロジックを踏襲したい」と述べ、同委員会樋口技術参与は「日本では[チェルノブイリ事故]のようなことはあり得ないと言っており、従来のスタンスを踏襲して、これからも基本的に同じスタンスで行く」と述べたことが明らかになった(以上、平成二二年一〇月一二日打合せメモに記載)。同じく、電気事業連合会は平成二三年一月一三日付文書において、「UPZを10km以上で設定した場合、その領域内に入る新たな自治体は、現状枠組みの自治体と同等程度の取扱い(交付金・補助金)を要求する可能性がある」「現状枠組み自治体と事業者と同等程度の関係構築(たとえば、安全協定、要員派遣などの緊急時対応他。)を望む可能性がある」等の「推定」を示している。三月一五日に同委員会事務局が公表した資料では原子力安全・保安院が圧力をかけたことが明らかになっており、一連の経緯により、PAZ及びUPZの導入は見送られ、原子力防災を改善する機会が失われた。福島第一原発事故時の防護措置を巡る混乱及び被害拡大に対する政府及び電事連の責任は極めて大きいと考えるが、いかなる認識か。
3 さらに、原子力安全・保安院が公表した「我が国のシビアアクシデント対応の規制上の取扱いについて」では「SA[=シビアアクシデント]を法令により規制することは……既に許認可を受けた原子炉(既存炉)の安全性の優劣に疑義が生じ、基本設計の妥当性が争われる行政訴訟上の問題が生じる可能性がある」と記されている。ようやくシビアアクシデント対策が法定化される見込みとなっているが、政府として、シビアアクシデント対策法定化を先送りしてきたことなどをどのように反省しているか。
4 一連の経緯からは、過酷事故の影響を試算し、それに照らして防護措置が必要となる範囲を設定するというロジックが顛倒し、財政負担や原発運営への影響を限定的にするためにEPZを限定し、それを正当化するために事故想定を過少にしたのではないかとの強い疑義が生じる。シビアアクシデント対策でも同様のロジックの顛倒が強く疑われる。そうであれば従来の延長線上で「地元」の範囲を考える正当性は全く失われていると考えるべきであり、原子力安全委員会が福島第一原発事故を踏まえて、事故想定を見直し、試算を行ってPAZ、UPZ、PPAの目安を提示したように、白紙から「地元」の範囲を検討する必要がある。さらに、福島事故の教訓を踏まえれば、過酷事故のシミュレーションを行って、立地点毎に事故影響の及ぶ範囲を検討し、それを「地元」とすべきである。当該範囲の自治体は事故時に、放射能被害はもちろん、生活や経済活動の制約など甚大な影響を被る可能性がある。一方的に防災対策を講じることを求められながら、再稼働を含め原発に係る重要事項に関与できないのは不当である。政府は「地元」がどこであるのかは、一義的に決められないと言うが、最低限UPZは含めるべきであり、PPAや過酷事故想定で影響が及び得る範囲の自治体も排除すべきでないと考える。以上を踏まえて、原発再稼働判断に係る「地元」の範囲又はそれを判断する基準若しくは要素に関する政府の見解を示されたい。
六 現行の原子力防災についてはその前提を含めて瑕疵があり、福島第一原発事故時には混乱と被害の拡大を招いたことに鑑みると、使用済み燃料等のリスクを踏まえ順次対応を進めることは当然としても、原子力防災の見直し、強化が文書上だけでなく、実地に完了することが原発再稼働の最低条件の一つではないか。政府の見解を求める。
右質問する。