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平成二十六年十一月十三日提出
質問第七七号

独立行政法人水資源機構法及び同法施行令のいわゆる「撤退ルール」に関する質問主意書

提出者  近藤昭一




独立行政法人水資源機構法及び同法施行令のいわゆる「撤退ルール」に関する質問主意書


 昨年春、厚生労働省は「新水道ビジョン」を発表し、その中で、「事業規模を段階的に縮小する場合の水道計画論の確立が必要」と明確に述べた。水道用水需要は、一九九〇年代末にピークを超え、ここ十数年減り続けている。今後の人口減を考慮すれば、各自治体(水道事業者)は、その限られた財源を、従来の経緯に引きずられて、漫然と「需要増に対応するため」の事業に投じている余裕はない。
 二〇〇三年一〇月に独立行政法人水資源機構法(以下、「水機構法」という。)が施行されるのを前にして、同年七月二四日、独立行政法人水資源機構法施行令が制定された。
 これについて報じた二〇〇三年七月一日付「官庁速報」の見出しは「自治体、企業のダム撤退で新ルール=費用分担を明文化、過大投資防止−政府」とあり、本文では「事業計画を作った時に比べ、水需要が落ち込んでも、関係者間で計画変更後の事業費をどう分担するかが決まっておらず、計画を変更しづらかった。そのため、実態に合わない過大な投資が続き、確保したダム容量よりも水の利用量が大幅に下回ったり、水道料金や工業用水の料金が必要以上に高くなったりする可能性があった。」という経緯を述べ、続いて「政府は、ダムの水を上水や工業用水に使う地方自治体、民間企業などがダム事業から撤退する際の費用分担ルールを新たに策定する。撤退する事業者に対し、不要になった過去の投資分を負担させたり、引き続きダム事業に参加する事業者の負担額を抑制したりして、費用分担のルールを明文化。計画時よりも需要が落ち込んだ事業者が撤退しやすい環境を整え、過大な投資を防ぐ」と、「撤退(新)ルール」を設ける意義を述べている。
 こうした問題意識に基づき、「撤退する際の…費用分担のルールを明文化」するものとして規定されたのが右記水機構法施行令及び翌年に条文を追加した特定多目的ダム法施行令のいわゆる「撤退ルール」であると理解している。この「撤退ルール」を設けたことにより、自治体等の利水者は、事業に参画し続ける場合の費用負担と撤退した場合の費用負担を比較検討することが可能となり、自らの責任と判断で健全で持続可能な水道行政を展望する条件の一つができたものと積極的に受け止めている。
 ところが、水機構法及び同施行令には、撤退の意思を伝える手続き及び「撤退ルール」による精算の起算日が必ずしも明確でない。明解な規定がないことをもって、「撤退には予め関係者全員の了解が必要である」「『残った者』が負担増に同意する保証がないからには、従来の事業実施計画の通りの負担をする覚悟でなければ、撤退意思を正式に通知することなどできない」「撤退意思を正式に通知しても、事業実施計画変更に至るまでは長期間を要するから、相当期間にわたり、水機構からの請求に応じて従来通りの支払いを続けなければならない」「結局のところ、撤退しても負担は変わらず、ただ施設の使用権を失うだけであるから、撤退は真剣に検討するに値しない」等の誤解あるいは無理解に基づく無責任な言説がまき散らされ、自治体の長及び担当部局の真摯な撤退の検討を阻害している事例がみられる。こうした言説を放置し続けることは「撤退ルール」を設けた本来の趣旨が損われることになる。
 今や「水資源開発促進」の時代ではない。人口減と財政難の重なる自治体には自律的かつ大胆な発想の転換が求められている。需要増を前提にした水源施設計画や導水施設計画を見直し、事業からの撤退も真剣に選択肢に入れて検討されるべきところ、水機構法施行令の「撤退ルール」の理解と活用が進んでいない現状を踏まえて、以下、質問する。
 なお、質問に対しては「独立行政法人水資源機構法(同法施行令)に規定されている通りである」「独立行政法人水資源機構法(同法施行令)規定の手続きを踏むべきものである」等の抽象的答弁ではなく、具体的でわかりやすい答弁をお願いしたい。

一 「撤退ルール」の意義について
 「独立行政法人水資源機構法案 法制局第二部長説明資料 平成一四年九月二四日 厚生労働省 農林水産省 経済産業省 国土交通省」では「旧水公団法は、昭和三十六年、わが国の経済成長期における水需給の逼迫した水資源開発水系において緊急に用水対策を実施するために、水資源開発促進法と併せて制定された法律である。したがって、事業途中で利水者が撤退し、計画規模を縮小することは基本的に想定しておらず、事業から撤退する者の負担方法、また、事業廃止の場合の負担方法についての規定が措置されていない」として、旧水公団法には撤退の規定が存在しなかった旨の事実とその事情を述べ、新たに制定される水資源機構法においては、事業からの撤退に関する規定を設ける必要があることを、次のように述べている。
 「現下の水需要の伸び悩みを踏まえ、利水者の中には事業から撤退したいという声もあるが、旧水公団法では撤退に関する手続き、負担方法等の制度が整備されておらず、実務レベルで対応に支障、混乱が生じている。」「利水者全てが事業から撤退すれば、事業は廃止せざるを得ないのであるが、事業廃止の手続き、費用負担等の制度についても未整備である。」「こうした旧水公団法における制度上の不備を補うため、@ 事業から撤退又は廃止する場合の手続き(事業実施計画の変更手続きを踏襲) A 事業から撤退又は廃止する場合の費用負担 に関する規定を設ける必要がある。」
 水機構法施行令三〇条「撤退ルール」は、この考え方に基づいて作られたものと解して良いか。
二 国土交通省による「撤退ルール」説明資料について
 「水資源機構法施行令の『撤退ルール』について国交省が説明した資料」という市民団体メンバーによる情報公開請求に対して、「特定多目的ダム法施行令第一条の二第二項に基づき事業から撤退した者が負担する負担金の額及び独立行政法人水資源機構法施行令第三〇条第二項に基づき事業から撤退した者が負担する負担金の額を説明した資料」という文書名で開示された図(資料)がある(開示決定文書「国広情第三一四号 平成二四年三月一日付」)。
 (1) この図(資料)は、いつ、どういう目的でどの部署が作成したのか。どういう場面で(日時、場所、説明対象等)用いられたのか。
 (2) この図(資料)は、
  ア そもそも水機構事業の費用負担は分離費用身替り妥当支出法に基づき算出されている(水機構法施行令一八条、二一条)ところ、「撤退ルール」においてもまた分離費用身替り妥当支出法の考え方に基づいて「撤退」があった場合の事業実施計画変更後の費用負担を算出するという、合理的な原則を表している。
  イ 右記アの理からして、利水(者)Aが撤退する場合、利水(者)Bの新たな(事業実施計画変更後の)費用負担は、変更前の負担額より増加するのが通例であること、また図の「治水」負担もまた増加する(従前計画より投資可能限度額に近づいていく)可能性があること、を示している。
  ウ 二の利水(者)A及びBが存在する事業において一の利水(者)Aが撤退した場合の撤退負担金は、利水(者)Aは、「不要支出額」と「(「残った(者)」の)投資可能限度額を超える額」を合算した額であること、言い換えれば、利水(者)Aが撤退する場合、「不要支出額」が存在せず、「(「残った者」の)投資可能限度額を超える額」が生じない場合は、撤退負担金がないことを表している
  と考えるがいかがか。
 (3) この図(資料)は水資源機構法施行令第三〇条の条文を理解しやすく図にしたものであり、撤退負担金を巡る争いによる事業実施計画変更(廃止)の遅滞を防ぐものと理解しているが、いかがか。
三 二〇〇九年に作成された「名古屋市が導水路から撤退した場合の撤退負担金試算」資料について
 二〇〇九年五月一五日の中日新聞朝刊一面トップに「名古屋市が導水路撤退」という見出しが躍った。これを受けて、同年七月一〇日、「木曽川水系連絡導水路に係る三県−市副知事・副市長会議」(出席者−三県(岐阜・愛知・三重)副知事、名古屋市副市長、中部地方整備局長・同河川部長・水資源機構中部支社長。以下「副・副会議」という。)が非公開で開催され、同年八月二日、名古屋市公館において、名古屋市主催で、名古屋市民を対象に「木曽川水系連絡導水路事業公開討論会」が開催された。
 (1) 「副・副会議」資料について
  二〇〇九年七月一〇日の「副・副会議」に出された中部地方整備局及び水資源機構中部支社が作成による資料に「名古屋市が撤退した場合の概算の事業費等の試算」がある。水機構法施行令の「撤退ルール」に基づく試算は全く示さず、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として計算」という法令を逸脱した試算を行った上で「負担者未定=一一一億円」なる数字を示している。これについて開示(二〇一二年)後に中部地方整備局の担当者が市民団体のメンバーにした説明では、「三県から、新たな負担が生じないことを前提にした試算を資料にして欲しいと言われたから、そういう資料を作りました、『撤退ルール』に基づく試算はしていません」ということであった。
  まずは法令(「撤退ルール」)に基づいた試算による数字を示し、しかる後に関係者の要望で「仮定の/国・三県の新たな負担が生じないことを前提とし」た試算を示したのであれば、一応理解できないでもない。しかし、中部地方整備局及び水資源機構中部支社は法令(「撤退ルール」)に則った試算を示さずに「負担者未定=一一一億円」なる数字を示すことで、あたかもこの金額が、法令上名古屋市が撤退にあたって負担すべき金額であるかのように誤解を与えることになってしまった。もしそうではない(法令上の根拠はないことは「国」も「三県」も承知の上である)というのであるなら、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として計算」ということは、事業者側(水資源機構及び中部地方整備局)が、「撤退ルールによる試算はしない。『撤退ルール』に基づいて事業実施計画変更(費用負担同意を得る)を行う努力をするつもりはない」と宣言したことになってしまうのではないか。いずれにしても、「撤退ルール」を規定した趣旨を没却し、法令を逸脱する問題のある行為であったと考える。
  @ 中部地方整備局及び水資源機構中部支社は、法令(「撤退ルール」)の説明もせず、法令に基づいた試算を示すこともせずに、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として」という「仮定の」計算のみ示した。このことは、水機構法・同法施行令の定めを無視した、甚だ不適切な行為であると考えるがいかがか。
  A この「仮定の/国・三県の新たな負担が生じないことを前提とし」た試算の提示ないし「撤退ルール」に則った試算の不提示により、以下(2)に述べるような「誤解」を生じさせたことを、現時点ではどのように考えるか。
 (2) 名古屋市上下水道局資料に与えた影響について
  二〇〇九年八月二日に名古屋市が開催した「木曽川水系連絡導水路事業公開討論会」の資料として、名古屋市上下水道局が作成したものである。現在も名古屋市上下水道局のホームページに載っている。
  名古屋市上下水道局HPトップページ≫上下水道局のご紹介≫上下水道局の情報≫上下水道局レポート≫「木曽川水系連絡導水路事業公開討論会」を開催しました
  「木曽川水系連絡導水路事業公開討論会 平成二一年八月二日 名古屋市上下水道局」
  http://www.water.city.nagoya.jp/file/15148.pdf/$File/15148.pdf   三五ページ目
  この資料では、「(名古屋市が)【撤退した場合】最大一一一億円 導水路撤退負担金」と朱色で大きく強調されている。右記(1)でも述べたように、「国・三県の新たな負担が生じないことを前提として」という全くの架空・仮定の計算のみが示されたことにより、名古屋市上下水道局は「徳山ダム・導水路 名古屋市の負担」として、名古屋市が撤退した場合の撤退負担金が一一一億円であるかのような資料を作成し、市民に提示することになってしまった。
  @ 「(二〇〇九年当時)名古屋市が木曽川水系連絡導水路事業から撤退した場合の撤退負担金は一一一億円である」という認識は誤りであると考えるがいかがか。(確かに「最大」という限定表現を用いているが、これは「従来の事業実施計画の際に名古屋市が同意した負担金の額を超えることはない」という当然のことを述べているにすぎず、「限定」の意味をもっていない。その後、市民団体メンバーが名古屋市上下水道局の担当者に訊いたところでも「一一一億円、あるいはそれに近い額になってしまうと認識している」旨を回答している。)
  A このような資料が作成されたことにより、「撤退負担金は一一一億円である」との誤解が蔓延した。この「誤解」に関しては、右記(1)で述べた通り、中部地方整備局及び水資源機構中部支社の責任が重大であると考えるが、いかがか。
 (3) 名古屋市が木曽川水系連絡導水路事業から撤退した場合の撤退負担金を、「撤退ルール」に則って試算するといくらになるのか。二〇〇九年の場合と現在の場合が異なる場合は、両方の場合についての試算(概算)を示されたい。右記(1)で述べた通り、二〇〇九年には、中部地方整備局は「名古屋市が撤退した場合の概算の事業費等の試算」として具体的な数字を挙げた資料を作成していることを踏まえ、具体的な数字を示されたい。
四 事業実施計画変更(廃止)が遅滞した場合の問題性について
 一の利水者が撤退を表明した後、事業実施計画変更(他の利水者も全て撤退意思を表明した場合は「廃止」となるが、ここでは少なくとも一の利水者が残る場合とする)が遅滞した場合、「事業実施計画が変更(廃止)されるまでは、従来の事業実施計画が維持される」という解釈に立つと、さまざまな「実務レベルで対応に支障、混乱が生じ」ることになる可能性がある。以下、「一の利水者が撤退を表明した場合」について、「実務レベルで対応に支障、混乱が生じ」ないようにするという水機構法及び同法施行令の規定の趣旨に則って、答えられたい。
 (1) 撤退による事業の縮小変更では不要になる部分の工事が進められてしまった場合、その部分の費用は誰が負担することになるのか。「事業実施計画が変更されるまでは従来通り」としてしまうと、撤退意思表明時点で速やかに清算すれば生じなかった「不要支出額」が発生してしまうのではないか。これを撤退者が負担するのは極めて不当であり、また「残った者」が縮小変更後には不要となる部分の費用負担をするいわれはない。このような場合には水資源機構が自ら「空いた穴を埋める」ことになるのか。いずれにしても「実務レベルで対応に支障、混乱が生じ」ることになるが、いかがか。
 (2) 事業実施計画変更(廃止)が、年度をまたがってしまう場合の次年度以降の予算措置請求について、質問する。
  @ 「毎年度の予算措置請求は事業参画者の意向を踏まえてなされる」ことになっている、というが、事業参画者の意向が分かれる一方、「事業実施計画の変更がなされるまでは従来の事業実施計画が維持される」となると、「撤退した者」が負担すべきでない工事も進むことになってしまい、負担に「穴を空ける(負担者がいない支出が生じる)」ことにならないか。
  A 仮に従来の行程表に対応した予算措置請求が行われ、すでに撤退を表明した利水者にも、水資源機構から従来通りの請求がなされるとすると、「撤退ルール」に従って事業実施計画を変更した場合には、撤退者に返金しなければならなくなる可能性は極めて大きい。こうしたことは「実務レベルで対応に支障、混乱が生じ」ることになるので、「従来の行程表に対応した予算措置請求」ではなく、「撤退」を考慮した最低限の予算措置請求のみがなされるものと解して良いか。
 (3) 「実務レベルで対応に支障、混乱が生じ」ないようにするためには、正式に撤退意思が通知された場合は、「いったん工事(入札等の実施)を止めて、『撤退ルール』を原則として、速やかな事業実施計画変更を行う」旨のルールを明文化すべきと考えるが、いかがか。
五 「撤退ルール」の規定の明確化について
 水機構法施行令に「撤退(負担金)ルール」を設けたにもかかわらず、撤退意思の通知の方法が明記されていないこと、その後の手続き(事業実施計画変更・廃止)による負担の確定の時間的スパンが見えないことが、利水者による真剣な「撤退」の検討を逡巡させ、「撤退」の規定を設けた(資料参照)趣旨が没却される現状となっている。
 水資源機構に係る諸法令を改訂し、
 ア 撤退の意思表示の方法を明文化し、「撤退ルール」による計算(精算)の起算点を明確にする
 イ 撤退の意思表示があった場合には、水資源機構は、いったん工事を止めて、速やかな事業実施計画変更を行う旨をルール化する
 ウ 事業実施計画変更(廃止)の際に費用負担同意すべき者は、「撤退(負担金算出)ルール」を尊重する
  という原則を明記することが必要と考えるが、いかがか。

 右質問する。



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