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平成二十七年六月二十二日提出
質問第二八八号

イラク派遣自衛隊員の自殺率の算出及び比較等に関する質問主意書

提出者  阿部知子




イラク派遣自衛隊員の自殺率の算出及び比較等に関する質問主意書


 平成二十七年六月十八日の衆議院予算委員会において中谷元防衛大臣は小野寺五典委員の質問に答えて、イラク特措法に基づき派遣された自衛官の自殺率について「平成十七年度から二十六年度までの十年間に自殺した自衛官二十九名につきまして、一般的な自殺率の算出方法であります、十万人当たりの人数を一年間の自殺率に換算いたしますと、約三十三人でございます」と答弁をした。その上で、「同時期の、自衛官の約九十五%を占める男性自衛官と、一般成人男性、これは二十から五十九歳でございますが、この自殺率は、一般自衛官が平均約三十五・九人であり、また、一般成人男性が平均約四十・八人でございます」とした。
 さらに、中谷大臣は防衛省が実施している全隊員に対するメンタルヘルスチェックについて、「平成二十六年度のチェックの結果、高得点者、これはうつの傾向、これが全体の七・七%となっております」とした上で、「WHO調査によりますと、一般社会における一定時期に何らかの精神障害と診断された割合は、日本は八・八%となっておりまして、これと比較しても、メンタルヘルスチェックによる七・七%という数字は低く、心の病を抱える隊員というのは、一般社会と比較して、決して高いとは言えないわけでございます」と答弁した。
 以上の答弁を受けて、小野寺委員は「一般社会人と比べて自衛隊員の自殺率が高いわけでもないし、そして、派遣された隊員が高いわけでもない。また、心の病の隊員も、一般の成人男性から比べて高いわけではないということでありました」と応じ、中谷防衛大臣も異議を差し挟んでいない。
 同時に、同日開かれた自民党国防部会には防衛省人事教育局より「自衛官の自殺について」と題する資料が配布されたが、ここでは「一般成人男性>男性自衛官>イラク派遣自衛官」と大々的に掲げられ、中谷大臣が答弁した数値が説明されている。自民党国会議員の中にはツイッター、ブログ等に同資料を「事実」として掲載している者もいると承知している。
 先に私は「自衛隊員の自殺、殉職等に関する質問主意書」(平成二十七年五月二十八日付)を提出し、内閣は同六月五日に答弁書を閣議決定した。同答弁書については多くの報道があり、このことが予算委員会での質疑や自民党国防部会での資料配布の背景にあるものと推察している。私は自衛官の自殺やメンタルヘルスについて適切な現状把握をし効果的な対策を講じる上で、定量的な基礎データが必要であると考え、質問主意書提出以前からデータの提供を求めてきた。もとより、定量的データは現状把握のための重要な資料ではあるが、その分析・評価には慎重さが求められ、かつ個別事例の分析を含む定性的な調査研究とあわせて多角的な検討がなされなければ実効性ある対策につながる現状把握はなしえないと考えるものである。
 しかるに、統計学的な妥当性が疑わしい形でイラク派遣自衛隊員の自殺率が算出され、データの前提条件や制約を示すことなく安易な比較がなされて、国会答弁において公式に紹介されたことは、適切な現状把握と対策を阻害するものであり、極めて問題である。
 よって、以下質問する。

一 @ イラク特措法に基づき派遣された経験のある自衛隊員の自殺率の算出方法について防衛省に説明を求めたところ、派遣実員数八千七百九十人に対する自殺隊員数二十九人の比率を十万人当たりに換算したものを十年で除し約三十三人との数字を得たとの回答を得ているが、単純に十年で除すのが適当であるのか、そもそも退職者の発生による人数変化を勘案せず八千七百九十人を母数とするのが適当であるのか等疑問は尽きない。改めてイラク派遣自衛隊員の自殺率の算出方法を説明した上で、この方法が統計学的に妥当であるとの根拠を明確に示されたい。
  A イラク派遣自衛隊員の自殺率を男性自衛官及び一般成人男性の自殺率と比較することはそもそもの母数の違いを考慮しない等の算出方法をはじめ前提条件に違いがあり有意であるとは言えないと考えるが、いかなる根拠で比較が妥当であるとするのか明確に示されたい。
二 @ 防衛省が示すイラク派遣自衛隊員及び男性自衛官の自殺者数は在職中の自殺に限られると理解しているが、その通りであるのか確認されたい。
  A その場合、退職後の自殺について網羅的に把握し分析・評価することは困難である一方で、少なくとも、在職中という制約に照らして自殺者数や自殺率が過少に算出されている可能性を踏まえて分析・評価をする必要があると考えるが、政府の見解は如何か。
  B 在職中という制約のあるイラク派遣自衛隊員及び男性自衛官の自殺率を一般成人男性の自殺率と比較することにいかなる意味があると考えるのか、その根拠とあわせ明確に示されたい。
三 @ イラク派遣自衛隊員又は男性自衛官と比較対照する集団として一般成人男性を用いることにいかなる妥当性があるのか、その根拠を示されたい。
  A 例えば、一般職国家公務員又は警察官若しくは消防隊員、あるいは一般成人であっても有職者又は正社員など、様々な対照集団が考えられ、かつ単一の対照集団を用いるよりも様々な集団との比較による分析の方が有意義であると思われるが、中谷大臣答弁及び防衛省人事教育局資料で断定的な提示をした理由を明確に答えられたい。
四 @ 中谷大臣が紹介した「平成二十六年度のチェックの結果、高得点者、これはうつの傾向」及び「WHO調査によりますと、一般社会における一定時期に何らかの精神障害と診断された割合」のそれぞれについて、WHO(世界保健機関)の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD‐10」の分類を用いて正確な定義を示されたい。
  A 防衛省から説明を聴取した限りでは、両数値を比較することが有意であるとは認められなかったが、政府は如何なる根拠によりこの両数値の比較を提示し、かつ「心の病を抱える隊員というのは、一般社会と比較して、決して高いとは言えない」との見解を明らかにしたのか、その理由を明確に示されたい。
五 @ 防衛省の説明によると、中谷大臣の答弁及び防衛省人事教育局資料の作成に当たって、統計学や医学の専門家の意見を求めていないとのことであったが、その通りであるのか確認されたい。
  A 慎重さが求められる統計処理について専門家の意見を求めることなく一面的かつ断定的な所見を国会答弁において示したことについて、政府としていかなる認識であるのか明らかにされたい。
六 中谷大臣答弁及び防衛省人事教育局資料は撤回に相当すると考えるが、政府としていかなる対応をするのか、明確に答えられたい。
七 防衛省は、自衛官のいじめ自殺事件等の頻発を受け「防衛省におけるいじめ等の防止に関する検討委員会」を昨年九月に設置したが、委員が防衛省・自衛隊内部の者に限られている上に、その幹事会、作業部会を含め、資料が一切公開されず、検討委員会の議事要旨がわずかに公にされているのみである。このような閉鎖性をも俎上に乗せなければ本質的な問題解決にはつながらず、第三者委員を入れる又は第三者のみで構成される委員会を設置する、資料及び議事録を公開する等の方策が必要であると考えるが、政府はいかなる認識であるか明確に答えられたい。
八 政府がこれまでに公表している自衛隊員の自殺に関する統計はプライバシーを理由に限定されており、また自殺原因が「人事担当者等の推定」とされかつ単一回答となっている等、分析を広く防衛省外部と共有できるものとはなっていない。他方で、私の質問主意書に対する答弁でも同様であるが、「自殺は、様々な要因が複合的に影響し合って発生するものである」との一般論が繰り返されており、防衛省が自殺防止やメンタルヘルス対策について重要課題として取り組んでいることは認めるとしても、その有効性について検証をする術がないのが現状である。公表方法については慎重な検討を要するにしても、第三者の有識者を入れて分析を行うことが必要ではないか。また、その際には、退職者を含む個別の自殺事例の分析を行うことも、対策の有効性につながると考える。以上について、政府の見解と方針を示されたい。

 右質問する。



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