質問本文情報
令和元年六月二十一日提出質問第二七六号
鹿児島県大島郡瀬戸内町嘉徳海岸侵食対策事業に関する質問主意書
鹿児島県大島郡瀬戸内町嘉徳海岸侵食対策事業に関する質問主意書
奄美大島南部に位置する瀬戸内町嘉徳は山と川と里と海が自然のままの繋がりで残る、大変貴重な集落と海岸である。嘉徳海岸は、奄美大島・琉球列島でも珍しい、人工物のない自然のままの砂浜海岸であり、環境省によれば奄美大島で唯一の非サンゴ礁性砂浜である。入江になっており、ポケットビーチと呼ばれる形状の嘉徳海岸は、常緑照葉樹林に囲まれており、ほぼ手付かずの海辺が川から海までひとまとまりに残されているところ、これが集落(嘉徳集落)と一体となって美しい景観を織りなしている。なお、奄美大島は、世界自然遺産の候補地として正式に推薦されたが、嘉徳海岸は、保護地域と近接する場所にある。
嘉徳海岸は、生物環境としても貴重な海岸であり、嘉徳海岸には、アオウミガメとアカウミガメが産卵のために上陸しているほか、また二〇〇二年、絶滅危惧種のウミガメであるオサガメがここで産卵している(日本での産卵は、同所でしか確認されていない)。また、文化財保護法に基づく天然記念物であるオカヤドカリをはじめとするヤドカリ類も海と砂浜を行き来しており、絶滅が危惧される希少な貝類も六種確認されている。同海岸に流れ込む嘉徳川には同じく絶滅危惧種であるリュウキュウアユが棲んでいる。嘉徳海岸は、日本のジュラシックパーク、あるいはジュラシックビーチとも言われている。
このような貴重な自然環境・生物環境が残る嘉徳海岸に、現在、高波浪による海岸侵食に対しての対策事業として、高さ六メートル、幅百八十メートルにわたるコンクリート護岸の建設工事が進められている。しかし、嘉徳海岸においては、平成二十六年の台風により一時的に砂浜の侵食が生じたものの、その後は砂浜の回復が確認されているほか、その後の調査及び侵食対策事業検討委員会での検討によっても、侵食の原因は必ずしも明確に特定されておらず、護岸工事が有効であるとは言えない。また、侵食対策の方法としても、コンクリート護岸の設置以外の方法も有効であるとして検討されてきたほか、昔から防風・防潮・砂防林として植えられている「アダン」を植える活動も行われてきた。加えて、生物への影響に関しては、ウミガメは嘉徳海岸に来ないものとして、護岸工事がウミガメに与える影響が全く検討されていないなどの問題がある。
これらのことから、国立公園にも指定されている風景の保全上最も重要な嘉徳海岸を、自然のまま残す事は急務である。以上に鑑み、以下質問する。
具体的に名称を示して、回答を求める。その中には嘉徳海岸も含まれるのか。
二 嘉徳海岸は、平成二十六年に砂浜が削り取られて以降、嘉徳川から砂が供給されて砂浜は順調に回復している、ということでよいか。回答を求める。
三 平成二十六年に嘉徳海岸においてこれまでにない規模で海岸の侵食が生じたことは事実であるところ、本件護岸工事については、侵食への対策として実施されようとしているものである。この点、平成二十六年の台風十八号・台風十九号の襲来時に高波浪により大きな侵食が生じた原因については、台風による潮位の上昇と満潮が重なったことや、台風の進行する向きだけでなく、嘉徳海岸周辺の砂の量などが影響している可能性が考えられている。ところが、鹿児島県においても、検討委員会においても、当時なぜここまでの侵食が発生したのか、原因について十分な調査検討を行っておらず、単に、侵食が生じたという事実のみに基づき、高波浪による被害の防止の目的でコンクリート護岸を設置することを決定してしまっているのが実情である。
県の検討委員会はどのような専門家が参加して、どのような議論がされたのか、原因について十分な調査が行われていないのは何故か、砂の回復について調査されていたか、政府が承知しているところを明らかにされたい。
四 コンクリート護岸の設置については、これに波浪がぶつかり、前面にある砂が流出することによって、逆に侵食を加速させるケースが数多く見られ、奄美大島においても、そのような事例が散見されている(この問題については、検討委員会でも指摘がなされている)本件護岸についても、かなり海側にせり出した位置に設置される予定であるところ、そのような位置にコンクリート護岸を設置すれば、前面に砂を盛ったところですぐにこれが流出し、逆に陸側からの連続性が断絶されることで土砂の均一性が失われ、結局は砂浜の流出を生じることにつながりかねない。日本には、どこにどのような事業を行ったか記録があると思うが、護岸の前に盛土と植栽を施したその後の調査はされているか、明確な回答を求める。
五 集落の住民を災害から守ることは、極めて重要であることは、当然のことである。政府は、平成三十年四月に閣議決定された環境基本計画において、「災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を評価し、積極的に保全・再生することで、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)を推進する」としているが、具体的には、どのようにしてEco-DRR(Ecosystembased-Disaster Risk Reduction)を進めていくのか、説明を求める。また、現在のコンクリート護岸による嘉徳海岸浸食対策事業は、Eco-DRRと言えるのか、明確な回答を求める。
六 護岸の設置工事等、海岸保全施設の設置が環境に大きな影響を与える場合、海岸侵食対策は、生態系を生かした防災対策、Eco-DRRで行うべきである。Eco-DRRは、閣議決定された環境基本計画において政府が推進する自然の生態系を生かした防災対策である。この代替案については、砂丘自体を復活させ、砂丘と海岸との一体性を維持するものであるから、侵食を生じさせるものにはならない。
砂浜は貴重な自然環境や景観で構成しており、地域の環境に重要であるならば、海岸侵食対策は、生態系を生かした防災対策、Eco-DRRで環境の保全と住民の安全確保をすべきと考えるが、政府の見解は如何か、回答を求める。嘉徳海岸こそ、政府のEco-DRRのモデルケースとすべきであると思うが、政府の見解は如何か。
七 嘉徳の砂丘には約三千〜四千年前の縄文後期時代の土器が出土している。このような縄文時代から残る砂丘で文化遺産にもなり得る嘉徳の砂丘に人工物を設置しても良いのか疑問である。また、生きた化石とも言われるオサガメは絶滅危惧TA類であり、日本で唯一、嘉徳だけに上陸しており、そこで生まれたオサガメはその地に戻ると言われている。縄文後期時代の土器が残る砂丘は貴重である。また、生きた化石と言われるオサガメはIUCN(国際自然保護連合)も最も貴重だと述べていて、砂丘と砂浜は自然のままで残すべきと考えるが、政府の見解は如何か、回答を求める。
八 かつて、奄美では豊かな自然と調和して人々が住み、豊かな文化を発展させ、島唄を通して語り継がれてきた。今、この文化の大部分は消されようとしている。昔は自然に対する畏敬の念を持った奄美の人々が数多く存在した。嘉徳は自然に流れる川と河口があり、広大な砂浜がある日本で奇跡的に残った特別で唯一な場所である。
ユネスコは顕著な普遍的価値があることが世界遺産には必要な条件だとしている。自然と文化が残る嘉徳は世界遺産にもなれる場所であり、世界自然遺産を目指している今、自然的にも文化的にも価値がある嘉徳を残す事が日本の誇りではないか、政府の見解を求める。
九 豊かな自然が残っている嘉徳に魅力を感じている住民の中には護岸計画が決まった後に、自然が壊されていくのを見ながら生きていくのは辛すぎるとして四人の家族が嘉徳から引っ越した現実がある。他にも護岸が設置された場合は引っ越しを考えている住民もおり、人口は減る一方である。嘉徳は集落があり護岸がない残された特別な海辺の集落である。この地に魅了されたサーファーや写真家、音楽家などは数えきれないほどいる。この自然を残す事により人気のあるエコツーリズムの目的地になる可能性は高い。文化的視点からも遺跡調査や自然のまま残る川や河口や海において専門的な学びの場としても大変貴重であり、嘉徳は様々な分野において、モデルケースとなれる特別な場所である。嘉徳を残す事により、観光やあらゆる専門的な学習や研究の地として訪れる人は増え、住民も増える可能性が大いにあると思われるが、政府はこれらの嘉徳海岸の魅力・可能性についての認識はないのか。回答を求める。また、豊かな自然や文化を生かしたこの国の観光産業についての考えや、それらの可能性を持つ限界集落についてどのような対策があるか、回答を求める。
右質問する。