質問本文情報
令和五年六月十三日提出質問第九七号
再審請求審における審理決定が適正かつ公正に行われるための制度改正の議論の迅速化等に関する質問主意書
提出者 大石あきこ
再審請求審における審理決定が適正かつ公正に行われるための制度改正の議論の迅速化等に関する質問主意書
本年三月十三日、一九六六年に静岡県の一家四人が殺害された「袴田事件」について、東京高等裁判所は袴田巌さんの再審開始を認めた。一方、去る六月五日には、一九七九年に起きた「大崎事件」において再審を求めていた原口アヤ子さんに対し、福岡高等裁判所宮崎支部は再審を認めない決定を行った。また、一九六三年に発生した「狭山事件」では、三十二年間もの獄中生活を強いられた石川一雄さんもまた再審を求めている状況だ。冤罪を訴え、再審を求めている人たちが、約半世紀前後の長い間、再審を求め続けている現状は極めて異常である。
二〇一六年成立の刑事訴訟法等改正法附則第九条第三項においては、政府は、同法の公布後、必要に応じ、速やかに、再審請求審における証拠の開示、起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置、証人等の刑事手続外における保護に係る措置等について検討を行うものとする、としている。
本年五月二十九日の決算行政監視委員会において、私、大石あきこは、齋藤健法務大臣に対して、この再審請求審における証拠開示について、いつ頃協議が開始されるかどうかを質問した。その際の政府答弁は、「その他いろいろな項目がある中で、協議会でまずご判断をいただかなくちゃいけないので、私が何月というふうにここで申し上げることはできないんです」というものであった。
そこで、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の議事録を見てみると、二〇二二年七月二十八日に開催された第一回目の議事録に、議論の進め方が述べられていた。
この中では、協議会の小林構成員からは、再審請求審における証拠開示問題について「国民の関心が非常に高い」と述べたうえで、「当事者の方が高齢化していることもありますし、検討のスピードアップと併せて、最後にちょっとやりましたという形ではなくて、九項目について一巡目の協議が終わった後、二巡目に入る前に入れていただいて、このテーマについてもきちんと二回議論する」という議論の順序を変更する提案がなされている。
しかし、最終的には、法務省の事務方の提案どおりに、二巡目の後に議論するという進め方が決定されたことが記録されている。この進め方の決定に基づき、現在は一巡目の議論が行われていることを法務省に当方は確認済みである。
また、再審制度を巡っては、日本弁護士連合会から、本年二月十七日に、「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」(以下、「日弁連意見書」)が公表されており、「再審法改正の必要性と緊急性」の考え方のもとに、「再審における証拠開示については、全ての裁判所において統一的な運用が行われるよう、その法制化」と「再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止」の法制化を求めている。
そして、元々は日本の刑事訴訟法を手本に刑事司法制度を構築した、台湾や韓国においても、近年、次のように法律や運用の改正がされている。
台湾では、二〇一五年と二〇一九年に相次いで再審に関する法改正が行われ、このうち、二〇一九年十二月の改正では、再審請求人の証拠情報獲得権、意見陳述権、証拠調べ請求権等が明記され、再審の審理手続を原則公開とするなどの手続規定も盛り込まれた。
韓国では、二〇一九年六月、日本の最高検察庁に当たる大検察庁が再審開始決定に明白な誤りがない限り即時抗告をしないことなどを盛り込んだマニュアルを作成し、日本の法務省に当たる法務部では検察官抗告を慎重に行うよう検察庁を指揮している。
このように、元々、日本の制度を手本にしたとされるアジア近隣諸国・地域にさえ肩越しに追い抜かれた日本の再審制度を、日弁連の「再審法改正実現本部」本部長代行の弁護士は、岩波書店の『世界』への二〇二二年の寄稿において誤判冤罪の教訓を制度改革に繋げるという世界の潮流から孤立し、「ガラパゴス化」していると述べている。
以上の点を踏まえ、政府の認識を問うべく、以下の点を質問する。
一 日弁連意見書では「えん罪被害者を救済するまでには、気が遠くなるほど長い時間がかかっているのが実情」であると述べられている。その点を踏まえれば、「協議会」における小林構成員の提案するように、再審請求における証拠開示についての議論を優先すべきと考えるが、政府・法務省はなぜ小林構成員の提案を採用しなかったのか。理由を述べられたい。
二 現在、再審請求手続の長期化と再審請求人と親族の高齢化が進んでいる中で、再審開始決定に対する検察官の不服申立てが、冤罪被害者の速やかな救済を阻害している、という意見がある。この意見について、政府はどのように考えているか。
三 いわゆる「白鳥決定」、すなわち「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判における鉄則が再審における新証拠の明白性判断でも適用されることを宣明した、最高裁白鳥決定(一九七五年五月二十日最高裁第一小法廷)の趣旨を法的に明文化すべきという意見がある。政府はどのように考えるか。
四 現行刑事訴訟法第百八十八条の二では、再審請求の費用補償について、無罪の判決が確定したときは国は当該事件の被告人であった者に対しその裁判に要した費用の補償をする旨を規定しているものの、再審請求手続において要した費用は補償の対象にならないとする判例がある。
日弁連意見書では、「再審における無罪判決の確定に至る一連の手続の中において、最も重要な位置づけを持つ再審請求手続の費用を含まないとする合理的理由は存在しない」と述べている。政府はこの再審請求手続に関する日弁連意見書の認識についてどのように考えているか。
右質問する。