質問本文情報
令和七年十月二十四日提出質問第一九号
SORA2と著作権法第三十条の四に関する質問主意書
提出者 八幡 愛
SORA2と著作権法第三十条の四に関する質問主意書
近年、動画生成AI「SORA2」の登場により、既存のアニメーションや映像作品に酷似した表現が容易に生成されるようになっている。こうした技術の出現は、著作権法第三十条の四が平成三十年改正により導入された時点で、ある程度予見可能であったと考える。
同条は、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」であれば、「情報解析」を行うための複製その他の利用を権利者の許諾なく行うことを認めるものである。すなわち、AIによる機械学習やディープラーニング等を想定した規定であり、その運用に際しては、著作物の学習利用と、生成物による権利侵害の可能性との境界を精緻に整理することが不可欠であったと考える。
さらに、令和七年に施行されたいわゆるAI法第三条第四項においては、「人工知能関連技術の研究開発及び活用は、不正な目的又は不適切な方法で行われた場合には、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害その他の国民生活の平穏及び国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、その適正な実施を図るため、人工知能関連技術の研究開発及び活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策が講じられなければならない」とされており、AI法第十六条においては、「国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。」と規定されている。したがって、政府はSORA2のような技術的展開を予見しつつ、制度的に適切な監視と対応を準備する責務を有していたと考える。
SORA2の発表以降、政府関係者からも問題意識を示す発言が相次いでいる。当時の平将明デジタル大臣は、令和七年十月七日の記者会見において「政府としても、私自身としても問題意識を持っている。OpenAI社には日本のルールに合うよう調整してもらう必要がある」旨を述べ、また「オプトイン方式をとるよう要請する」旨も明らかにしている。さらに、当時の城内実内閣府特命担当大臣は、同月十日の記者会見においてSORA2について「既存の作品に酷似した作品が生成されることなどに対して、知的財産権の侵害であるとの懸念の声があることは承知しております。アニメ・漫画は、世界の人を魅了し続ける我が国が世界に誇るかけがえのない宝であります。政府としても、御懸念の声に配意しつつ、適切に対応してまいりたいと思います。私、知的財産戦略、クールジャパン戦略担当大臣ですので、この点については適切に対応していく考えです。現在までの政府の対応についてでありますけれども、政府としては、OpenAI社に対し、著作権侵害となるような行為を行わないよう要請したところであります。今後の政府の対応につきましては、今後とも、政府といたしましては、AIを活用する事業者の状況も踏まえ、知的財産権に対する御懸念の声にも配意しつつ、適切に対応してまいる考えであります。」と発言している。
これらの発言は、政府自身がSORA2のような生成AI技術が著作権制度の想定を超える水準に到達したことを認識している証左といえると考える。
にもかかわらず、同月二十四日に行われた高市早苗内閣総理大臣の所信表明演説においては、「「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指して、データ連携等を通じ、AIをはじめとする新しいデジタル技術の研究開発及び産業化を加速させます。」との発信がなされた一方で、著作権を守る、あるいは創作者の権利を尊重するという言葉は一切含まれなかった。政府内でAI政策を推進するにあたり、知的財産権の尊重が国家方針として同時に明示されなかったことは極めて重大であり、コンテンツ産業を基幹産業のひとつと位置付ける政府の政策一貫性に疑義を生じさせるものであると考える。
日本の基幹産業であるコンテンツ産業を守るため、以下、政府に質問する。
一 著作権法第三十条の四を立案及び運用する段階において、政府は、著作物を学習して、ユーザーのプロンプトに従い、新たな映像・画像・音声等を自動生成するAI技術の出現を予見していたか。
二 著作権者の利益を保護しつつ生成AIの発展を阻害しないための制度設計について、政府はどのような検討を行ってきたのか、可能な限り具体的に示されたい。
三 なぜ著作権法第三十条の四に関し、技術進展に応じた見直しを行わず、今日まで現行の運用を維持してきたのか。その理由及び責任の所在を明らかにされたい。
四 SORA2発表後における平デジタル大臣及び城内内閣府特命担当大臣の発言は、政府の制度上の予見義務又は監督義務を認めたものと考えてよいか。政府の見解を明らかにされたい。
五 平デジタル大臣が言及した「オプトイン方式」とは、著作物の学習段階における利用許諾の仕組みを指すのか、それとも生成・出力段階における利用制御を指すのか、政府の見解を明らかにされたい。
六 城内内閣府特命担当大臣の記者会見で触れられたSORA2に対する問合せは、日本のAI法第三条及び第十六条に基づいて行われたものと理解してよいか。仮にそれ以外の法的根拠に基づく場合は、その条文及び手続根拠を具体的に示されたい。
右質問する。

