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令和七年十月二十四日提出
質問第二〇号

AI導入による実質的生産性低下の懸念に関する質問主意書

提出者  八幡 愛




AI導入による実質的生産性低下の懸念に関する質問主意書


 近年、生成AIや大規模言語モデルを中心とした人工知能技術の社会実装が急速に進む中で、政府・自治体・民間企業を問わず、AI導入が生産性向上の切り札として喧伝されている。しかしながら、その経済的成果や投資効果については必ずしも明らかでない。
 米国では二〇二五年八月、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの調査報告「The GenAI Divide」において、AIを導入した企業のうち九十五%が六か月以内に投資回収を達成できていないとの分析が示された。報告書は、AI導入が短期的には利益創出に結びつきにくく、運用・人材育成を伴わない導入ではROI(投資利益率)が極めて低いと指摘している。また、スタンフォード大学の「AI Index 2025」によれば、企業の七十八%が何らかの形でAIを業務に利用しているが、収益増加を実感した企業は四十七%にとどまり、その増収幅も五%未満が多数派とされるなど、投資と成果の乖離が明確に示されている。
 一方で、ハーバード大学ビジネススクールの研究では、生成AIを適切に活用すれば創造的業務の効率化が可能であることも明らかにされている。大手コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループと共同で実施された実験では、生成AIを活用したチームが未使用チームに比べてタスク処理件数が十二%増加し、作業時間が二十五%短縮、成果品質も四十%向上するという顕著な効果が確認された。しかし同研究は同時に、AIを過信すると誤答率が上昇する傾向も報告しており、AIを補助的に使うリテラシー教育の重要性を強調している。
 さらに、生成AIがもたらす「見かけ倒しの成果物」の問題も国際的に指摘されている。ハーバード大学とスタンフォード大学の研究者らは、従業員がAIを用いて一見完成度は高いが中身を欠く成果物を大量に生み出す現象を分析し、これが企業全体の実質的な生産性を低下させている可能性を指摘し、形式的な資料作成の増加が意思決定を形骸化させ、「AI導入そのものが目的化している」と警鐘を鳴らしている。
 こうした懸念は、実務の現場においても現実化している。たとえば、オーストラリアでは二〇二五年、監査大手デロイト社がAI生成文書を含む政府報告書を提出し、架空の参考文献や誤情報を多数含んでいたことが発覚して契約金を返還する事態に至った。また米国では、ChatGPTを用いて作成した訴状に存在しない判例を引用した弁護士が裁判所から制裁を受け、韓国ではサムスン電子の社員がChatGPTに機密ソースコードを入力して情報漏洩を招くなど、生成AIの誤用による被害が相次いでいる。
 我が国においても、官民を問わず、AI導入が本質的な効率化よりも形式的な導入実績や補助金獲得を目的としたものとなっている懸念がある。
 よって、政府はこの現状をどのように把握し、どのような改善策を講じているのかを明らかにするため、以下質問する。

一 政府は、我が国においてAIを導入した企業や自治体のうち、投資回収または業務効率化が実際に達成された事例の割合を把握しているか。また、把握している場合は、その統計的根拠及び年度別推移を示されたい。
二 政府が支援するAI導入補助金・実証事業のうち、導入後に実質的な効果検証(生産性向上率、コスト削減率、職員作業時間短縮率等)を行ったものの件数及び結果を可能な限り明らかにされたい。
三 行政機関や自治体において、AIを用いて生成された文書・報告書等が、一次情報の裏付けを欠いたまま意思決定資料として用いられた事例の有無を政府は把握しているか。ある場合は、再発防止策をあわせて示されたい。
四 企業・自治体におけるAI人材育成研修の多くが操作説明等に偏重し、統計的理解や倫理的判断、業務設計の能力育成に至っていないとの指摘がある。政府はこの点をどのように評価し、実効性のある研修体系をどのように構築する方針か。政府の見解を示されたい。
五 AIの導入により、文書作成や資料作成のスピードは向上したが、内容確認や再修正に時間を要し、全体として生産性が低下しているとの指摘がある。政府はこの「生産性のパラドックス」についてどのように分析しているか。また、政策立案においても同様の傾向が生じていないかを検証しているか。
六 AI導入が、見かけ上の成果や報告書の充実を演出する一方で、職員・従業員の判断力低下や検証力の喪失をもたらすおそれがあるとの懸念について、政府はどのような認識を有しているか。

 右質問する。

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