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令和七年十一月七日提出質問第五三号
アフリカのマルミミゾウの象牙取引に関する質問主意書
提出者 上村英明
アフリカのマルミミゾウの象牙取引に関する質問主意書
本質問主意書において、以下「マルミミゾウ」とはアフリカの森林地帯に主に生息するゾウの一種を指す。マルミミゾウは、資源開発などに伴う森林破壊や象牙採取目的の殺害などにより頭数が激減しており、現在絶滅危惧種となっている。しかし、植林の難しいアフリカの熱帯森林において種子散布を通じた森林再生メカニズムに果たす役割は大きく、その生存は森林生態系の維持に必要不可欠である。一方、一九八九年のワシントン条約会議決議以来、象牙の国際商取引は原則禁止されている。地球上の野生のゾウの保存のために、各国とも象牙在庫や象牙製品の償却・破棄などを実施、また象牙市場を閉鎖してきた。しかし、現在象牙在庫処分をせずかつ象牙市場を閉鎖していないのはG7諸国のなかで日本のみである。また、象牙目的の密猟や象牙の違法国際取引は現在も継続する。
日本では古くから象牙利用が見られるが、マルミミゾウの象牙はハード材と呼ばれ、より固く、割れにくくかつシャープに彫れるだけでなく吸湿性が高いというアジアゾウと同様の特徴がある。五百年ほどの歴史を誇る三味線など日本の伝統楽器の一部(三味線の撥や箏の爪等)にはこの象牙が重宝され、また高度経済成長期以降には印鑑も主要製品となった。一方、アフリカの草原地帯に生息するサバンナゾウ由来のソフト材の象牙は印鑑や三味線の撥等には適さない。
印鑑は現在、代替素材での製品が安価に多く出回り、かつ署名文化に移行しつつあるのでかつてほどはハード材象牙へのこだわりは見られないが、三味線業界を始めとする邦楽業界では、演奏のしやすさや音色の質から長年使い慣れてきたハード材象牙への需要は今後も継続しうる。ただし、人間国宝を含むプロの演奏家からはマルミミゾウの象牙と同じ性質の材から撥が作られれば象牙に拘る理由はないとの見解があり、それに基づき十年ほど前から素材科学の研究者とプロの演奏家との間で、新素材開発が進められている。このハード材の象牙の新素材開発は二〇二一年度から二〇二四年度まで文化庁からの補助金のもと進められ、現在新素材は完成に近づきつつある。しかし、文化庁からの補助金支援は打ち切られてしまっている。今後も新素材撥を使用した実践的な試奏会やそれに基づく素材を改良し、かつそれを安価で広く提供していくことの他、長唄以外の地歌等の三味線の撥にも対応していくことなど課題が残っている。
右状況を踏まえて、マルミミゾウの象牙に関する現状について政府の見解を質したい。
以下、質問する。
一 日本において厳格な象牙管理を担保するのは「外国為替及び外国貿易法(外為法)」や「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」によるが、違法な象牙の取引に関する不透明性やロンダリングの可能性、またネット販売での象牙製品に関する厳格な規制がないことから違法象牙の混在を免れ得ない。この状況について政府は把握しているか。把握している場合、その対応について検討しているか。今後の具体的な行動計画等についても説明されたい。
二 継続するハード材象牙の需要に対してその在庫が少ない状況があるが、いまだに具体的な在庫状況は把握されていない。象牙をハード材とソフト材に分けながら前者の在庫重量が提示されるべきだが、政府として調査を実施する意思はあるか。ある場合、その調査に関する詳細を示されたい。
三 絶滅危惧種であり生態学的な意義を持つマルミミゾウという地球規模の希少種の保全、また日本の伝統芸能という文化遺産の維持継承の現状と今後について、政府としてどのような見解を持っているか。また、両者の問題解決に貢献するハード材象牙に代わる新素材開発に対しては如何か。補助金等がなぜ打ち切られたのか、再開する予定があるのかも含めて説明されたい。
右質問する。

