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令和七年十一月十八日提出質問第八〇号
日米政府の戦略的投資イニシアティブにおけるキャッシュフロー分配に関する質問主意書
提出者 大石あきこ
日米政府の戦略的投資イニシアティブにおけるキャッシュフロー分配に関する質問主意書
令和七年(二〇二五年)九月四日、日米政府は、日本国政府及びアメリカ合衆国政府の戦略的投資に関する了解覚書(以下「覚書」という。)に署名した。この日米政府の戦略的投資イニシアティブ(以下「戦略的投資イニシアティブ」という。)には、「日本が・・・五千五百億米ドルを米国に投資すること」が明記されているが、当該五千五百億米ドルから生じるキャッシュフローの分配方式は、国際金融慣行上も極めて異例であり、日本側のみが実質的なリスクを負う片務的な構造になっているとの指摘がある。
以下、その異例の片務性に関し質問する。
一 覚書パラグラフ十三は、投資から生ずる利用可能なキャッシュフローを次の優先順位で分配すると規定する。
(a) まず、みなし配分額に等しい合計額がそれぞれに分配されるまで、米国に五十%、日本に五十%(米国における税の控除後)。
(b) その後、米国に九十%、日本に十%。
ここでいう「みなし配分額」とは、日本側が拠出した投資金額に対するその年の元利返済分等を指すものとされている。
仮に、五千五百億米ドルのプロジェクトが組成され、毎年のキャッシュフローがみなし配分額と同額であった場合、覚書の分配方式に基づけば、最終的に日米それぞれが受け取る金額は次のようになる。
日本 五千五百億米ドル+日本側金利分
米国 五千五百億米ドル+米国側金利分
すなわち、日本側が提供した元利返済相当額と完全に同額を、米国側も同時に取得する仕組みとなっている。これは国際的に通常行われるプロジェクトファイナンス(出資者・貸付人への優先返済が原則)とは根本的に異なる。
この算定が覚書の規定を忠実に反映したものか、政府の認識を示されたい。
二 これまで国会での質疑や報道では、戦略的投資イニシアティブにおいては、日本側が元利返済相当分を確保した後のキャッシュフローを米国が九十%を取得し、日本は十%しか得られない点の片務性が指摘されてきた。
しかし、さらに深刻なのは、日本側が提供した元利返済相当分とまったく同額を米国側が取得するという、二重に片務的なスキームとなっている点である。
覚書上、米国側が行うとされる「土地・水・電力・エネルギー供給・オフテイク契約・規制対応等の便宜供与」は、いずれも通常の投資誘致の範囲であり、金銭的価値、リスク負担として日本側の五千五百億米ドルとは到底同列に扱えるものではない。にもかかわらず、米国側が日本の元利返済相当額と同額を取得できるのは、いかなる経済合理性及び政策目的に基づくものなのか、政府の見解を示されたい。
三 一般的なプロジェクトファイナンスでは、当該事業から生じるキャッシュフローは、まず、経費等の控除の後、最優先で融資した側への元利返済がなされ、その後に初めて残余が当該事業主に分配される、という順序をとるのが世界的な慣行である。ところが、覚書では、日本側のみなし配分額、すなわち、日本側が負担する元利返済相当分を回収する前に、あるいは回収と同時に、米国側が日本と完全同額を受け取ることが制度化されている。
これは、日本側が実質的なファイナンスリスクを単独負担し、米国側は出資も融資も行わないにもかかわらず、出資者ないし融資者と同額のキャッシュフローを取得するという、通常の金融工学では説明困難な構造である。
米国が日本と同時に、同額のみなし配分額を取得できる法的・経済的根拠は何か、政府の見解を示されたい。
右質問する。

