答弁本文情報
平成十三年五月二十九日受領答弁第六〇号
内閣衆質一五一第六〇号
平成十三年五月二十九日
衆議院議長 綿貫民輔 殿
衆議院議員小沢和秋君外一名提出有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員小沢和秋君外一名提出有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策に関する質問に対する答弁書
(一)について
本年二月に農林水産省に設置された有識者及び漁業者から構成される有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(以下「委員会」という。)において、三月二十七日に、第一回から第三回までの委員会の議論の結果を踏まえ、「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第一〜三回)の委員長まとめ」(以下「委員長まとめ」という。)が取りまとめられたところである。
委員長まとめにおいて、平成十二年度の有明海におけるノリ不作等の原因究明に係る調査(以下「本調査」という。)については、「ノリ不作が生じた環境について検討するのであるから、その環境ができるだけ変化しない条件でまず行うことに留意すべきであろう。このことを考えれば諫早干拓地の排水門の常時開門には技術的に克服すべき問題もあり、まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。」とされている。
農林水産省においては、委員長まとめを最大限尊重し、本年度から、関係省庁及び有明海沿岸各県等の関係機関と共同で有明海の水質、底質及び生態系の現況把握と環境変動の要因分析に着手したところであり、あわせて、海象メカニズムの分析・解明等を行うこととしている。
御指摘の「第三者委員会の委員が一人でも水門を開けると言えば開けざるをえない」との発言は、本年三月二日に記者の質問に対して前農林水産大臣が答えたものであるが、翌三日の記者会見において前農林水産大臣は、前日の発言の趣旨は、そのような意見があれば委員会で取り上げるということである旨述べているところであり、政府としては、本調査の実施に当たっては、委員会の議論の結果を最大限尊重するというのが、これまでの一貫した考え方である。
なお、本年四月十七日に開催された第四回の委員会においては、委員長が「まずは現況の把握が必要であるということで、それには四季の変化も押さえなければいけないから、少なくとも一年間、とりあえずの現状で調査をしていただく」とまとめており、これを踏まえ、本調査を進めていく考えである。
委員長まとめにおいて、本調査については、「まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。」とされているが、それに関連して国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)の潮受堤防の排水門を開門して行う調査(以下「開門調査」という。)については、「将来、比較のため、また、干拓地の機能を知るために排水門を開門する必要が生じると思われるが、排水門を開けることによって被害を生ずるようなことがあってはならないので、開門前に環境影響評価を行うとともに、影響対策を十分に施すことが求められる。」とされたところである。
御指摘の第四回の委員会における農林水産省の提案は、開門調査の方法として、排水門における海水の流入出速度を排水門周辺の環境に急激な影響を与えないような、また、構造物の安全に影響のない範囲とし、防災機能にできるだけ影響を与えないよう調整池の水位を標高マイナス一メートル以下に保つものであるが、これは、委員長まとめを踏まえつつ、できるだけ早期に開門調査に着手できるように、そのために必要な最小限の対策を早急に行い、できる範囲で海水を出入りさせる案として提案したものである。
開門調査の方法については、この提案を基に委員会において議論されているところである。
本事業の工事については、委員長まとめにおいて、「現地調査に関しては、ノリ不作が生じた環境について検討するのであるから、その環境ができるだけ変化しない条件でまず行うことに留意すべきであろう。このことを考えれば諫早干拓地の排水門の常時開門には技術的に克服すべき問題もあり、まず閉めたままで、十分な調査を行って現状把握を行うことが必要である。これに関連して、干拓現場においても、堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい。」とされており、これを踏まえ実施する方針である。
なお、御指摘の「有明海異変の原因究明」については、委員長まとめにおいて、「有明海の環境悪化がどのようにして起きたかは今後解明しなければならない課題」とされており、(一)についてで述べたとおり、委員長まとめを最大限尊重し、開門調査の方法の検討も行いつつ、本調査を進めていく考えである。
お尋ねの「漁場調査委員会」とは、本事業の工事施工に伴うタイラギ等漁場への影響に関する調査方法や調査結果(以下「漁場調査結果等」という。)について、専門的な立場から助言及び指導を行うために農林水産省九州農政局諫早湾干拓事務所に設置された「諫早湾漁場調査委員会」(以下「調査委員会」という。)であると考えられるが、調査委員会における検討の中で、タイラギの生息環境について更に十分調査することが必要であるとの結論に達したため、調査委員会に設置された学識経験者から構成される専門部会において、議論を重ねてきている。調査委員会及び専門部会のこれまでの開催実績は、別表一のとおりである。
専門部会においては、タイラギの生態について、なお未解明な部分があり、収集したデータの評価及び検討に時間を要しているところである。
また、委員会の今後の検討見通しについては、次期ノリ漁期への対策に向けた中間取りまとめを本年九月中に行うべく、本年の八月及び九月に各一回ずつの委員会の開催を予定している。さらに、現状把握を含め、本調査の進ちょく状況の確認及び来年度の調査の検討のために、本年度末に委員会の開催を予定しているが、本調査の進ちょく状況や対策の検討状況等に応じ、それ以前に委員会を開催することも考えられる。
委員長まとめにおいては、今回のノリの色落ちの原因となる珪藻赤潮については、「十一月の異常な降水、十二月に入ってからの例年より非常に長い日照時間、このところ続いている高水温・高塩分、などのいわば異常気象・海象が引き金になって生じた。もちろん珪藻の大発生には有明海の富栄養化が素因としてあることは事実であり、珪藻増殖の抑制に寄与すると考えられる二枚貝等の減少も関係している可能性がある。」とあり、また、有明海全体について、「漁業生産の落ち込み、各種生物の衰退・消滅も顕著で、明らかに有明海の環境は悪化していると見られる。まだ知見が十分ではないが、潮汐等海洋の流動にも変化が見られるようである。」とまとめられたところであり、この取りまとめを受け、有明海の環境悪化がどのようにして起きたかを解明するため、本調査を開始したところである。
本事業に係る環境影響評価は、事業実施主体である農林水産省九州農政局が長崎県環境影響評価事務指導要綱(昭和五十五年七月一日付け長崎県副知事通知)に基づき、環境への影響を予測するために必要な各種資料の収集及び現地調査を行い、その結果を学識経験者から構成される環境影響評価検討委員会で検討した上で成案を作成し、関係住民への公告、縦覧、説明会の開催等の手続を経て評価書として取りまとめており、当時の知見やデータ等に照らし、適切に実施したものである。
また、干潟の消失については、委員長まとめの付属資料において、「有明海では、古くから土砂の堆積により干潟が発達する一方で、沿岸各地での干拓等により干潟の喪失が進んできた。しかしながら、最近では干拓事業による諫早湾内の干潟の喪失が最も大規模なものであり、それによる環境浄化能力の直接的低下、さらには、調整池内に溜まった富栄養化した水や浮泥の定期的排出による周辺環境の悪化や夏季の有毒赤潮の誘発との関係が懸念されており、具体的な因果関係を明らかにするための調査・研究が必要である。一方、諫早湾のみでなく、近年の有明海全体での自然の海岸線の減少が、本来、自然の感潮域が持つ、環境浄化や生物生産などの生態系維持における多面的機能を大きく減退させたとの指摘もあり、あわせて定量的な評価が必要であろう。」とされているところであり、干潟の有する有明海全体の浄化機能と稚仔魚を育成する機能の評価も含め、有明海の環境変化がどのようにして起きたかを解明するため、本調査を開始したところである。
本事業は、昭和六十一年着工に際して、「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和六十年七月一日付け農林水産省構造改善局長通知。以下「構造改善局長通知」という。)に基づき適正に費用対効果分析を行い、経済的妥当性を確認した上で事業に着手しているところであり、平成十一年事業計画変更時においても、同様の検証を行っている。
平成十一年十二月に決定した国営諫早湾土地改良事業変更計画において、事業施行後に見込まれる年増加見込効果額は百六十二億七千二百万円であり、これに基づく妥当投資額は二千五百八十七億七千九百万円である。一方、本事業の計画上の総事業費は二千四百九十億円であり、これについて過年度の投資額を変更計画作成時点(平成十年度)の投資額に換算した総事業費は二千五百五十九億八千万円である。この結果、本事業の費用対効果は一・〇一となり、効果が費用を上回っているものである。
本事業の実施により見込まれる効果としては、作物生産効果、維持管理費節減効果、災害防止効果、一般交通等経費節減効果及び国土造成効果があり、その基礎データは事業計画変更時に用いたもので別表二のとおりであり、現時点ではこれが最新の数値である。
また、本事業については、「国営土地改良事業等再評価実施要領」(平成十年三月二十七日付け農林水産省構造改善局長、畜産局長通知)に基づき、本年度、再評価を行う予定であり、その中で事業の進ちょく状況、関係団体の意向、営農及び事業効果を取り巻く情勢の変化等を評価し、適切に対処してまいりたい。
なお、干潟の有する浄化能力の喪失などの外部不経済については、食料自給率の向上、淡水系の生態系が生まれることによる新たな環境資源の創出等の効果と同様に、現時点では貨幣評価する手法が確立されていないことから、土地改良事業では測定方法を定めていない。
本事業の効果は、(八)についてで述べたとおり、作物生産効果、維持管理費節減効果、災害防止効果、一般交通等経費節減効果及び国土造成効果について算定しているが、このうち農業効果として明確に区分されるものは、作物生産効果及び維持管理費節減効果の全部と災害防止効果の中の農業用の堤防、農地及び農業用施設等に対する効果であり、これらの農業効果の年効果額の合計は農業外の年効果額の合計を上回っていることから、本事業は土地改良事業として妥当なものと考えている。なお、一般交通等経費節減効果の中にも、農業関係の交通に係る効果が含まれている。
また、国土造成効果は、本事業により干拓地が造成されることに伴い、他の地域の農地において農業以外の利用を行ったとした場合に得られる間接的な効果であり、構造改善局長通知に基づき適正に算定したものである。
なお、本事業は、平坦な農地が乏しい長崎県において、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、主として農地である諫早湾周辺低平地の高潮、洪水及び常時の排水不良等に対する防災機能の強化を図ることを目的としており、農林水産省が土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)の定める手続に従って適正に実施しているものである。
本事業により造成される干拓地の土地配分を行うに当たり、農林水産省九州農政局及び長崎県においては、配分を希望する者の募集に関する資料の作成を進めつつ現地説明会の開催を検討してきたところであるが、最近における本事業をめぐる諸情勢から、説明会開催の条件が整っておらず、説明会の開催に至っていないものである。
また、営農者の見込みについては、農林水産省九州農政局において、平成九年度から三年間にわたって諫早湾周辺地域の農家及び九州各県の農業生産法人に対して意向調査を行っている。この意向調査結果では、営農意欲の高い畑作や畜産の農家等から干拓地の農地面積を上回る農地利用の要望があるほか、関係行政機関へも直接干拓地利用の希望が寄せられていることから、干拓地は農地として有効に利用されるものと考えている。
本事業の効果算定に当たっての高潮による被害想定地域は、平成十一年の事業計画の変更の際に、平成九年から平成十年にかけて行った現地調査を踏まえ、関係省庁で策定され昭和六十二年に改訂された「海岸保全施設築造基準解説」に基づき新たに設定されたものであり、その結果、諫早市内の八町が被害想定地域とはならないことが明らかになったところであり、御指摘のように昭和六十二年に被害想定地域の変更を行った事実はない。
諫早市街地の一部を含む諫早湾周辺地域は、極めて低平地であることから、これまで幾度となく高潮・洪水の被害を受け、また潮汐の影響及び既存堤防の排水樋門の前面におけるガタ土の堆積によるミオ筋(流路)の埋没によって円滑な排水に支障が生じていた。
本事業では、潮受堤防を設置し高潮を防止するとともに、その内側に設けた調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるように管理する結果、潮汐の直接的な影響を受けなくなること、既存堤防の排水樋門の前面におけるガタ土の堆積が解消され、ミオ筋の確保が容易となることから、河川、排水路等から調整池への排水が速やかに行われ、大雨時でも洪水被害の軽減が図られることとなり、本事業の防災効果は諫早湾周辺低平地に広く及ぶものである。
なお、これまでの大雨においても、調整池の背後地の一部で湛水が生じたものの、その程度や湛水時間は大きく改善されたと地元から高い評価を得ているところである。
干拓方式には、海面を直接堤防で囲み、内部を排水して干陸化する「単式干拓」と海湾を潮受堤防で締め切って調整池を造り、その中に内部堤防をめぐらして干拓する「複式干拓」とがある。
諫早湾周辺低平地では、これまで幾度となく高潮・洪水の被害を受け、また潮汐の影響等による円滑な排水に支障が生じていたことに加え、諫早湾が狭あいな地形を有していることから、本事業の計画策定時において、潮受堤防で諫早湾の一部を締め切り、内部堤防との間に調整池を設けることによって高潮の防止と洪水時の円滑な排水を可能とする「複式干拓」によることが、「単式干拓」と併せて既存堤防の強化や排水ポンプの整備等を行うことと比較し、有効かつ効率的であると判断したものである。
また、既に平成九年四月に潮受堤防で締め切り、調整池の水位を標高マイナス一メートルとなるように管理して防災機能を発揮させており、地元から高い評価を得ている中で、干拓方式を御指摘のような海岸堤防の強化、排水ポンプ場の増設等に切り替えることは現実的でないと考えられる。
今回のノリ不作をもたらした珪藻赤潮の発生等の原因は現時点では明らかではないが、まずは、予断を持たずに本調査を行うことが重要であると考えており、今回のノリ不作が本事業に起因するとの前提で対応することはできない。
次期の有明海のノリ養殖に係る対策については、第四回の委員会での取りまとめ等を受け、漁業共済制度において、臨時特例的に、加入促進を図るため、大規模な不作に対応した新てん補方式を試験的に実施するとともに、漁業者負担の軽減を目的として、国及び県が協力して掛金の助成を行うこととしたところであり、これらの措置を講ずることにより、十分な対応に努めてまいりたい。
農林水産省九州農政局は、昭和六十二年七月二十日に長崎県の十一の漁業協同組合との間で、本事業に起因し漁業補償契約書締結時に予測し得なかった新たな被害が生じた場合に、誠意をもって協議し解決するよう努める旨の「確認書」を、また、同年九月二十六日に佐賀県有明海漁業協同組合連合会、福岡県有明海漁業協同組合連合会及び熊本県漁業協同組合連合会との間で、本事業に起因し有明海水産業に予測し得なかった新たな被害又は支障が万一生じた場合に、誠意をもって協議し解決するよう努める旨の「諫早湾干拓事業に関する確認書」を取り交わしている。
委員長まとめによると、ノリ不作の直接の原因は、例年と異なる気象、海象の変化による珪藻赤潮の早期かつ持続的な発生によるとされているが、これが本事業に起因するかどうかは、現時点では判明しておらず、農林水産省においては、まずは、予断を持たずに本調査を推進することが重要と考えている。
工事が中断されていることにより失業を余儀なくされている者に対しては、公共職業安定所において早期に再就職ができるようきめ細かな職業指導、職業相談、職業紹介等を行っているところである。また、地方公共団体が各地の実情に応じて創意工夫に基づいた事業を実施することにより臨時的な就業の機会を創出することを目的とした緊急地域雇用特別交付金事業が実施されているところであり、その活用に関し関係県と連携を図ってまいりたい。
有明海の漁業就業者及び漁業関連企業における就業者の就業の安定を図るための対策を検討するため、本年二月十三日に関係四県の労働局による「有明海沿岸関係労働局連絡会議」を設置し、情報収集に努めており、本年五月一日の調査時点では、ノリ養殖業者及びノリ関係事業所等の従業員で公共職業安定所に求職登録されている者は、三十三名と把握している。これらの者を含め失業を余儀なくされている者に対しては、(十七)についてで述べたとおり、公共職業安定所において職業紹介等を行っているところである。また、地方公共団体が臨時的な就業の機会を創出することを目的とした緊急地域雇用特別交付金事業が実施されているところであり、その活用に関し関係県と連携を図ってまいりたい。
また、今回のノリ不作により大きな被害を受けたノリ養殖業者に対しては、農林漁業金融公庫の沿岸漁業経営安定資金について、地元自治体との協力による貸付利率の無利子化、貸付限度額の引上げ等、災害時における金融対策としては最大限の措置を講じているところであり、さらに、漁業共済制度において、(十五)についてで述べたとおり、臨時特例措置を実施することとしたところである。なお、ノリ養殖以外の漁業者についても、一般の沿岸漁業経営安定資金の利用が可能であり、また、関係県において独自の資金を措置しており、これらの措置も含め、被害漁業者の支援に適切に対応してまいりたい。
さらに、有明海のノリ不作により悪影響を受けた関連中小商工業者の経営安定のため、政府系金融機関、関係県の信用保証協会等に対し、特別の相談窓口の設置、返済猶予等既往債務の条件変更、担保徴求の弾力化等について個別企業の実情に応じて十分対応するよう指示するとともに、信用保証協会におけるノリ製造業者等に対する保証を促進するため、本年四月十日に、中小企業信用保険法(昭和二十五年法律第二百六十四号)第二条第三項第三号の規定に基づき、経済産業省告示を制定し、有明海のノリ不作を同号の災害その他の突発的事由として定めるとともに、対象地域及び業種の指定を行い、保険限度額の別枠化や保険料率の引下げ等の経営安定関連保証の特例措置を講じたところである。