答弁本文情報
平成十五年四月十一日受領答弁第三六号
内閣衆質一五六第三六号
平成十五年四月十一日
衆議院議長 綿貫民輔 殿
衆議院議員城島正光君提出第一五六国会に政府が提出した労働基準法の一部を改正する法律案に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員城島正光君提出第一五六国会に政府が提出した労働基準法の一部を改正する法律案に関する質問に対する答弁書
一について
民法(明治二十九年法律第八十九号)第六百二十七条第一項においては、「当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス」と規定されており、民法上は、使用者が二週間の予告期間を置けばいつでも労働者を解雇できることとなっている。
労働基準法の一部を改正する法律案中の労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十八条の二(以下「第十八条の二」という。)におけるお尋ねの部分については、「この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き」という点を含め、民法第六百二十七条第一項の規定の内容を確認的に規定したものであって、使用者が労働者を解雇する権利の発生、創設又は付与を新たに定めるものではなく、また、このように理解されるものと考えている。
最高裁判所昭和五十年四月二十五日第二小法廷判決(民集二十九巻四号四百五十六頁。以下「最高裁判決」という。)においては、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが適当である」ことが示されている。
すなわち、最高裁判決においては、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないことを基礎付ける事実は、解雇の法律効果の発生を障害する法律効果を発生させるものであるとされている。
第十八条の二におけるお尋ねの部分については、最高裁判決の判旨を踏まえ、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にその解雇を無効とするという内容を規定したものであり、解雇権の消滅又は解雇権の一時的な行使の阻止を規定したものではなく、解雇の法律効果の発生を障害する法律効果を有する規定として立案したものであることはその文言上明らかであると考える。
二についてで述べたとおり、第十八条の二におけるお尋ねの部分は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にその解雇を無効とするという解雇の法律効果の発生を障害する法律効果を有するものとして規定したものである。したがって、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを基礎付ける事実については、労働者側に主張立証責任があるものと考えられる。
もっとも、現行法下においても、解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないことを基礎付ける事実の主張立証責任は労働者側にあるものと解されてきたのであるから、最高裁判決の判旨を踏まえて第十八条の二を規定したことによって、主張立証責任の所在が変わることはないものと考えている。
また、政府としては、解雇の効力が争われ、労働契約上の地位の確認を求める訴訟において、現実に、当事者にどのような主張立証活動を行わせるかは、裁判実務上の取扱いであると認識しているが、第十八条の二は、これまで判例法理として裁判実務に定着していたものを法律上規定するものであり、現在の取扱いを変更することを意図したものではない。
法務省が所管し、かつ、民事上の権利義務を定める法令中の「権利の確認だけを定める条項であって、かつ、権利の発生、創設、又は、付与を定めるものではないと解される条項」の例としては、民法第百九十八条及び第三百九十条がある。
政府としては、現行法の下で、使用者の行った解雇が労働基準法又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合に該当することを基礎付ける事実は、解雇の法律効果の発生を障害する法律効果を発生させるものと位置付けられており、このような事実の存在については、労働者側に主張立証責任があるものと考えている。
第十八条の二におけるお尋ねの部分は、このような現行法の下における民法第六百二十七条第一項と労働基準法第十九条等及び他の法律との関係を規定するものであるため、政府としては、使用者の行った解雇が労働基準法又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合に該当することを基礎付ける事実の存在についての主張立証責任の所在については、現在と変わらないものと考えている。
第十八条の二は、解雇に関する基本的なルールを明確にすることを目的として規定するものであるから、民法第六百二十七条第一項に規定されている内容とその解雇に関する権利の行使が権利濫用となる場合とを一体として規定することが適当であると考えたものである。