答弁本文情報
平成二十五年五月七日受領答弁第六六号
内閣衆質一八三第六六号
平成二十五年五月七日
衆議院議長 伊吹文明 殿
衆議院議員長妻昭君提出憲法と超法規的措置等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員長妻昭君提出憲法と超法規的措置等に関する質問に対する答弁書
一及び二について
お尋ねの「超実定法的措置」及び「超法規的措置」という用語について確立した定義はないが、いずれも、一般に、法令が想定していない緊急事態等において、他に手段がなくやむを得ずとられる具体の法令に定めのない非常の措置であって、当該措置を必要とする具体的状況、当該措置の内容等に照らし、実定法を支える法秩序全体を流れる法の理念からして許容されるものをいうと承知している。なお、政府としては、実定法に定めはないものの法秩序全体の枠組みを超えるものではないとの観点から、「超法規的措置」という用語よりも「超実定法的措置」という用語の方がより適切であると考えている。
このような「超実定法的措置」又は「超法規的措置」として説明されたものは、政府として把握している限りでは、いわゆる「ダッカ日航機ハイジャック事件」及びいわゆる「在マレーシア・アメリカ合衆国大使館等占拠事件」に関連してとられた措置がある。
いわゆる「ダッカ日航機ハイジャック事件」に関連してとられた措置は、昭和五十二年九月二十八日(日本時間)、パリ発東京行きの日本航空機がハイジャックされてバングラデシュ人民共和国のダッカ空港に着陸させられ、犯人が、同機の乗務員及び乗客合計百五十一名を人質とし、身の代金六百万米ドルの交付並びに日本国内において勾留中の被告人等九名の釈放及び引渡しを要求した事件において、人命尊重の観点から、やむなく、犯人の要求に応じることとし、当該九名のうち、犯人の意向に応じて釈放及び引渡しを望む旨の意思を表示した六名について、航空機で同空港まで護送した上、同空港において釈放し、身の代金六百万米ドルとともに犯人に引き渡したというものである。
いわゆる「在マレーシア・アメリカ合衆国大使館等占拠事件」に関連してとられた措置は、昭和五十年八月四日(日本時間)、在マレーシア・アメリカ合衆国大使館等が占拠され、犯人が、同国領事等合計五十三名を人質とし、日本国内において勾留中の被告人等七名の釈放及び引渡しを要求した事件において、人命尊重の観点から、やむなく、犯人の要求に応じることとし、当該七名のうち、犯人の意向に応じて釈放及び引渡しを望む旨の意思を表示した五名について、航空機でマレーシアのクアラルンプール空港まで護送した上、同空港において釈放したというものである。
お尋ねの「憲法を超える行政権の行使あるいは措置、または憲法に反する行政権の行使あるいは措置」の意味するところが必ずしも明らかでないが、一及び二についてで述べた「超実定法的措置」又は「超法規的措置」としてとられる措置は、実定法を支える法秩序全体を流れる法の理念からして許容されるものであり、その意味で、違憲ではなく、また、内閣が違憲の措置を行うことはあり得ない。
お尋ねの「緊急事態に際して、法律制定と同様の効果を閣議決定などで内閣が生じさせることができる法律」が具体的に何を意味するのか必ずしも明らかではないが、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときに、内閣が必要な措置をとるため、政令を制定することができる旨規定している法律の規定は、次のとおりである。
災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第百九条第一項においては、「災害緊急事態に際し国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないときは、内閣は、次の各号に掲げる事項について必要な措置をとるため、政令を制定することができる」としており、当該「次の各号に掲げる事項」として、「一 その供給が特に不足している生活必需物資の配給又は譲渡若しくは引渡しの制限若しくは禁止」、「二 災害応急対策若しくは災害復旧又は国民生活の安定のため必要な物の価格又は役務その他の給付の対価の最高額の決定」及び「三 金銭債務の支払(賃金、災害補償の給付金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長」を挙げている。
同法第百九条の二第一項においては、「災害緊急事態に際し法律の規定によつては被災者の救助に係る海外からの支援を緊急かつ円滑に受け入れることができない場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、内閣は、当該受入れについて必要な措置をとるため、政令を制定することができる」としている。
武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第九十三条第一項においては、「内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、法律の規定によっては避難住民等の救援に係る海外からの支援を緊急かつ円滑に受け入れることができない場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、当該支援の受入れについて必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる」としている。
同法第百三十条第一項においては、「内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる」としている。
新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)第五十八条第一項においては、「内閣は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の急速かつ広範囲なまん延により経済活動が著しく停滞し、かつ、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる」としている。