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平成十六年一月二十日提出
質問第二号

諫早湾干拓事業の中・長期開門調査と調整池の水質悪化に関する質問主意書

提出者  赤嶺政賢




諫早湾干拓事業の中・長期開門調査と調整池の水質悪化に関する質問主意書


 昨年十二月二十五日、すべて官僚経験者からなる「中・長期開門調査検討会議」(以下、検討会議)は、農水省が諫早湾干拓事業の中・長期開門調査を実施すべきかどうかを判断するための論点を整理した報告書をとりまとめた。一方、二〇〇一年十二月に「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」(以下、第三者委員会)は、「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる」、「調査に当たって、開門はできるだけ長く、大きいことが望ましい」と、干拓事業によって諫早湾を閉め切ったことが有明海へ悪影響を与えているかどうかを検証するため中・長期開門調査を求める見解を発表している。検討会議報告書は、開門調査に対し両論併記の形をとっているものの、全体を通してみると調査実施に否定的な意見が強くにじみ出ている。これは干拓事業着手後、ノリ不作のみならず有明海全域で起こっている漁獲量の激減に対し、工事中止と排水門開放を求める沿岸漁業者の要求に背を向け、前記の第三者委員会の見解からも大きく後退するものである。
 よって、次のとおり質問する。

(一) 昨年四月十五日に小沢和秋前議員と連名で提出した質問主意書(衆質一五六第五三号)において、諫早湾干拓事業を担当した農水省元構造改善局長や同局元次長などの元官僚からなる検討会議委員の人選は、中・長期開門調査を実施すれば工事が大きく遅れ、結果によっては干拓事業中断ということもありうるので、それを防ぐために行ったものではないかと質問した。今回の検討会議報告書は、我々が指摘したとおりのものになったのではないか。
(二) 農水省は検討会議の報告書とりまとめの最終段階になって、中・長期開門調査を実施する場合の様々な対策工事のために、約六百三十億円の費用と約三年の工期が必要という数字を突然公にした。検討会議では、このことについて何ら議論もされなかったのにもかかわらず、報告書の中にはしっかりと記載されている。農水省は開門調査ができない理由とするため、この工事費用と期間を公にしたのか。約六百三十億円の工費と約三年の期間とを算出した詳細な積算根拠を明らかにされたい。
(三) 対策工事の完了までに約三年を要するとすれば、今から工事を始めたとしても二〇〇七年の前半までかかる。干拓事業は二〇〇六年度末を目標に完了という計画だから、工事を強行している現在の状況下では、開門調査の対策工事が終了した時点ですでに干拓事業も完了していることになる。また、排水門のすぐ外側に二ヶ所の導流堤建設工事、調整池内に潜堤建設工事を予定しており、これらと対策工事を並行して施工することは困難と考えられる。この日程から考えると中・長期調査の実施は事業完了後ということになるが、これは中・長期開門調査を行わないことを意味するものではないか。
(四) 農水省は二度目の計画変更の際、事業が予定どおりに進んでも四百三十億円もの赤字になることを明らかにした。元中央水産研究所室長・佐々木克之氏らは、諫早湾の閉め切りによって失われた干潟と浅海域の水質浄化力は、約一千億円規模の下水処理施設に匹敵することを科学的に解明した。調整池の水質の改善は一向に進まず、児島湖の二の舞になることが懸念される。事業をこのまま進めれば有明海の環境はますます悪化し、それによる経済的損失は計り知れない。中・長期開門調査により万一漁業被害が生じることがあっても、その補償額は六百三十億円の対策工事費よりはるかに低いと考えられる。費用対効果に照らしても有明海の環境回復のためには、いったん事業を中止しすみやかに中・長期開門調査を実施すべきではないか。
(五) 潮受堤防閉め切り後も背後地ではしばしば湛水が起こり、被害も生じていた。堤防閉め切りだけで湛水防除は不完全なことを認め、長崎県は現在も国の補助を受け背後地で大規模なかんがい排水事業を実施中で、排水路拡幅工事を進め排水機も増強している。これによって背後地の排水不良は大幅に改善しているのではないか。
(六) 農水省は中・長期調査実施の際には防災機能を確保するため、新たに二百億円を投じて排水機を設置しなければならないと主張しているが、これは長崎県による排水事業の効果を十分に考慮したものなのか。
(七) 福岡・佐賀・熊本各県議会をはじめ、佐賀県内の合計二十四の市町村議会は、「検討会議の審議や報告書は、中・長期開門調査の意義と目的を逸脱した感がある」などとして、沿岸漁業者の切実な要望をくみ取り、中・長期開門調査実施を求める意見書を昨年十二月に採択し国に提出している。この要求を重く受け止め、中・長期開門調査を実施すべきではないか。
(八) 東幹夫・長崎大学教授をはじめとする九名の研究者は、連名で開門調査を求める共同声明を二度にわたり発表している。その主旨は、「検討会議および同専門委員会の論点整理は、現在得られているさまざまな知見のうち開門調査が必要であるという情報を無視した非科学的なものであり、得られるすべての情報を用いて科学的に検討すべきである」ということであった。また第三者委員会の元委員長・清水誠氏は「有明海全体の環境に干拓事業が何らかの影響を及ぼしているという状況、第三者委員会の見解は今も何ら変わっていない」(二〇〇三年十二月二十六日付、西日本新聞)と、中・長期調査の実施を求めている。これら研究者の声明や第三者委員会の見解を真摯に受け止め、科学的な見地に立ってすみやかに開門調査の実施を決定すべきではないか。
(九) 小沢前議員との連名による昨年七月十日に提出した質問主意書(衆質一五六第一二五号)において、調整池の汚染について質問したが、国は答弁書(八月二十九日閣議決定)で、「潮受堤防の締切り後の調整池の水質は、基本的には流入河川の水質を反映しており、最大の流入河川である本明川下流の水質と比較して、特段汚染しているものではない」と答えた。同じく九月二十六日に提出した質問主意書(衆質一五七第九号)においてその根拠について質問した。これに対し、答弁書(十月七日閣議決定・以下前回答弁書という)は別表一に本明川の水質と調整池中央(環境モニタリング測点S11)の水質を掲げ、調整池の水質は特段汚染していないという根拠としている。
 長崎県の公共用水域水質測定結果を基に、潮受堤防閉め切り後の一九九七年度から二〇〇二年度まで、本明川下流(不知火橋)の水質を年度ごとに平均すると、COD(r/l)は「六・〇」→「五・〇」→「四・三」→「四・九」→「五・〇」→「四・四」に、全窒素(r/l)は「二・〇〇」→「一・六八」→「一・五三」→「一・七三」→「一・六八」→「一・五五」に、全燐(r/l)は「〇・二七三」→「〇・二六三」→「〇・一四五」→「〇・二五五」→「〇・二一五」→「〇・一三五」と、三項目とも改善している。これに対し、農水省の環境モニタリングによる調整池中央の水質を一九九七年度から二〇〇二年度まで年度ごとに平均すると、CODは「六・八」→「六・九」→「六・一」→「七・四」→「六・六」→「七・〇」に、全窒素は「一・一〇」→「一・二七」→「一・四三」→「一・三九」→「一・〇〇」→「一・三九」に、全燐は「〇・一五九」→「〇・二二六」→「〇・二二二」→「〇・二四九」→「〇・一七六」→「〇・一九四」と、三項目とも悪化している。このように本明川と調整池の水質変化の傾向は全く反対で、二〇〇二年度の平均値で全窒素以外は調整池の水質の方が悪いのに、なぜ調整池の水質は本明川の河川の水質を反映し、特段汚染していないと断言できるのか。
(十) このように調整池の水質が悪化し続け、本明川の水質より改善しない理由は、潮受堤防によって諫早湾奥が閉め切られ、かつての干潟と浅海域の浄化機能が全く失われたからではないのか。
(十一) 前回答弁書の別表一で示された「本明川河口」の位置は、農水省の環境モニタリング測点「P1」である。農水省はこの場所はこれまで調整池と答弁していたが、いつからどういう理由で本明川河口に変更したのか。
(十二) モニタリング測点「P1」は、中央干拓地の農業用水の取水口とほぼ同じ場所である。ここが本明川の河口ならば、「中央干拓地の農業用水については、調整池から取水する」という農水省のこれまでの答弁は誤りで、農業用水は調整池の水でなく直接本明川の水を取り入れて使うのではないか。
(十三) 有明海での漁獲量減少やノリの不作により沿岸漁業者の生活は困窮し、将来の展望を失うところまで追いつめられている。有明海異変により被害を受けている漁業者に対し、既往借入制度資金の据置期間延長、償還猶予、利子免除、新たな無利子貸与など積極的な財政的支援を行うべきではないか。

 右質問する。



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