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令和五年六月十六日提出
質問第一二三号

住民訴訟制度に関する質問主意書

提出者  前川清成




住民訴訟制度に関する質問主意書


 地方自治法第二百四十二条の二第一項第四号に基づく住民訴訟(以下「住民訴訟」という。)については、平成十四年の地方自治法改正によって、従前の代位訴訟から義務付け訴訟へ変更された。したがって、住民訴訟の判決が確定した後、首長等は確定した判決(以下「第一段目の判決」という。)に基づいて、違法な公金の支出等を行った職員等に対して損害賠償金の支払いを請求し、当該損害賠償金が支払われないときには損害賠償請求訴訟を起こして、給付判決を求めることになった(以下「第二段目の訴訟」という。)。
 平成十四年の地方自治法改正時の衆議院総務委員会の審査(平成十三年十二月四日)では、第二段目の訴訟において首長等が第一段目の判決どおり損害賠償を求めるのか、首長等が職員等に対して忖度するなどして第一段目の判決どおり損害賠償を求めず、減額した和解をすることはないかといった点が議論された。
 これに対し、政府は、第二段目の訴訟に関して、「事実上は一発の訴訟で終わっちゃうのですよ。訴訟を告知しまして、効力が即及ぶのですから。」(総務大臣)、「ほとんどの場合が一回目の判決で終わりということになると思います。」(総務副大臣)、「これは専門家にもお聞きしましたけれども、二番目の訴訟は基本的にはほとんど起こらないというぐあいに考えております。」(総務省自治行政局長)、「実際に第二段目の訴訟が提起される事態は想定されない」(同自治行政局長)などと述べて、第二段目の訴訟が提起されることは「基本的にはほとんど起こらない」、「想定されない」と答弁していた。
 さらに第二段目の訴訟における和解に関して、政府は「和解はないと思います。」(同自治行政局長)と述べて、第二段目の訴訟における和解は「ない」と答弁していた。
 ところが、実際には、第二段目の訴訟が提起され、その訴訟において和解が成立した事例が散見される。
 例えば奈良市の事例では、平成三十年三月二十三日、奈良市が火葬場建設用地として土地を購入したところ(以下「本件土地購入」という。)、その購入価格が鑑定価格の約三倍であったことから、住民監査請求を経て、同年五月二十四日、奈良地裁に奈良市を被告として、奈良市長及び元地権者らに対し損害賠償の請求をすることを求める住民訴訟が提起された。その後、令和二年七月二十一日の奈良地裁判決、令和三年二月二十六日の大阪高裁判決を経て、同年十月七日、最高裁が奈良市の上告受理申立を不受理としたため、奈良市は、奈良市長らに対して、一億千六百四十三万七百五円及びこれに対する平成三十年四月十日から支払い済みに至るまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを請求することを命じる判決が確定した(以下「本件第一段目の判決」という。)。
 これに対して、令和三年十月二十八日、奈良市長は本件第一段目の判決に基づく自らの債務を免除する議案を奈良市議会に提案したものの、同年十一月九日、奈良市議会はこの提案を否決した。よって、奈良市は、奈良市長らに対して、本件第一段目の判決に基づく上記賠償金の支払いを求めたが、奈良市長らはこれを支払わなかった。そのため、奈良市は奈良市長らに対し、令和四年二月十四日、第二段目の訴訟を提起した(以下「本件第二段目の訴訟」という。)。すなわち、平成十四年の地方自治法改正時に政府が「想定されない」と答弁していた第二段目の訴訟が実際に提起された。
 さらには、令和五年三月二十九日、奈良地裁は、本件第二段目の訴訟において、奈良市長と元地権者らが各三千万円を支払う和解案を提示したところ、奈良市長はこれを議案として議会に提案し、令和五年五月十日、奈良市議会はこの和解案を可決・承認した。その結果、同月三十一日、奈良地裁において奈良市長と元地権者らは各三千万円を支払い、奈良市はその余の請求を放棄する和解が成立した。すなわち、平成十四年の地方自治法改正時に政府が「ない」と答弁していた第二段目の訴訟における和解が成立した(以下「本件和解」という。)。しかも、本件和解は本件第一段目の判決の認容額から大きく減額された。
 よって、以下の質問について政府の把握するところを答えられたい。

一 平成十四年の地方自治法改正以降、第二段目の訴訟が提起された件数、第二段目の訴訟における和解が成立した件数を示されたい。また、和解が成立した各事例について、原告である自治体名、和解が成立した年月日、第一段目の判決における認容額、第二段目の訴訟における和解額を示されたい。
二 何故、奈良市に限らず、平成十四年の地方自治法改正時には政府が「基本的にはほとんど起こらない」、「想定されない」と答弁していた第二段目の訴訟が各地で提起されるのか。
三 何故、奈良市に限らず、平成十四年の地方自治法改正時に、政府が「ない」と答弁していた第二段目の訴訟における和解が成立するのか。
 しかも、今回の奈良市や、平成二十四年の兵庫県高砂市、令和二年の沖縄県の事例のように第二段目の訴訟において大幅な減額を認める和解が成立するのは何故か。
四 前記奈良市の事例における第一段目の訴訟において、被告となった奈良市は、奈良市長と元地権者らに対して訴訟告知を行った。よって、当時の総務大臣の前記答弁のとおり「訴訟を告知しまして、効力が即及ぶ」はずである(民事訴訟法第五十三条第四項、同法第四十六条)。それにもかかわらず、本件第二段目の訴訟において奈良市長らは本件第一段目の判決に基づく賠償責任を争った。その結果、前記のとおり本件第二段目の訴訟が提起されたのは令和四年二月十四日であり、奈良地裁が和解を勧試したのは令和五年三月二十九日であって、この間、約一年間にわたって実質的な弁論が続いていた。したがって、訴訟告知による「効力が即及ぶ」も実際は機能していない。
 ついては、第一段目の判決が第二段目の訴訟を拘束する方策についても検討を要するのではないか。
五 本件和解に先立って、奈良地裁は、本件土地購入が奈良市に与える便益額を計算した上で、これらを考慮して、大阪高裁が本件第一段目の判決において認定したところの奈良市の損害額の五割程度である六千万円を和解案として提示している。しかし、かかる計算は奈良地裁自ら訴訟告知の効力を否定することにならないか。
 この意味でも、第一段目の判決が第二段目の訴訟を確実に拘束する方策について検討を要するのではないか。
六 前記地方自治法改正時の政府答弁に先立って、平成十三年十月二十五日、最高裁は行政事件担当裁判官協議会を開催した。同協議会では、政府答弁とは異なり、地方自治法には第二段目の訴訟において地方公共団体の処分権を制限する明文の規定が設けられていないことを理由に、和解や請求権の放棄について制限はないとの意見が述べられていた。奈良地裁もこの意見と同様の理由から本件和解を成立させたものと考えられる。
 政府は、前記答弁に先立ち、前記最高裁における議論を確認していなかったのか。
 また当時の自治行政局長は「これは専門家にもお聞きしました」と述べているが、同局長が言う「専門家」とは誰か。
七 第一段目の判決どおり首長等が職員等に対して請求しなければ、住民訴訟を義務付け訴訟とした趣旨が没却されてしまう。それ故、当時の総務大臣も「事実上は一発の訴訟で終わっちゃうのですよ。訴訟を告知しまして、効力が即及ぶのですから。」と答弁していたはずである。
 ところが、本件第一段目の判決における認容額は前記のとおりであり、奈良市長の支払期限である令和五年六月三十日までの遅延損害金は三千四十三万円に達する。したがって、元本と併せて、奈良市長は一億四千六百八十六万円の支払い義務を負っていたから、本件和解は八千六百八十六万円の減額であり、奈良市は奈良市長に対して八千六百八十六万円の債権を放棄したことになる。
 このように第二段目の訴訟において、本件和解のような大幅な減額がまかり通るのであれば、義務付け訴訟はその存在意義を失うのではないか。そうであれば、住民訴訟制度の見直しが必要ではないか。
八 奈良市長を被告とする本件第二段目の訴訟においては、地方自治法第二百四十二条の三第五項に基づき、代表監査委員が奈良市を代表したが、監査委員を選任したのは被告である奈良市長である。しかも、代表監査委員は単独で、独立して本件第二段目の訴訟を遂行する訳でもなく、訴訟遂行を奈良市役所職員が補助し、訴訟自体は奈良市から委託を受け、奈良市から費用の支払いを受ける弁護士が担当している。したがって、奈良市長を被告とする本件第二段目の訴訟において、形式的には原告と被告とは「自己代理」とは言えないものの、代表監査委員や奈良市役所職員、奈良市の担当弁護士は、奈良市長とは無関係で、利害関係のない、客観的な第三者とは言えない。むしろ奈良市長にとって「身内」の人たちではないのか。しかも、監査委員らは住民訴訟に先立つ住民監査請求を棄却した者らであるから、代表監査委員は本件第二段目の訴訟についても積極的ではないはずである。だからこそ、本件和解においては、本件第一段目の判決に比して八千六百八十六万円も奈良市長にとって有利な和解が成立したと言える。
 かたや、もしも本件土地購入後、奈良市長が交代し、本件土地購入時の市長にとっては「政敵」と言うべき者が新市長に就任したならば、新市長は八千六百八十六万円もの減額を認める和解案を奈良市議会に提案していたであろうか。
 このように第二段目の訴訟において、住民訴訟の対象となった事実が発生した当時の首長が現役の首長のまま被告になった場合、和解や債権放棄などによって第一段目の判決は尊重されない可能性が高い。
 他方、住民訴訟の対象となった事実が発生した後、首長が交代した場合、意趣返しとして住民訴訟や第二段目の訴訟が利用されるおそれも否定できない。
 この意味でも、住民訴訟制度の当事者(訴訟遂行者)については見直す必要があるのではないか。

 右質問する。

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